亜種聖杯闘争 〜極夜之星〜   作:ジグソウ

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第1話 運命の夜〜英霊の欠片〜

彼の名前は原川航一(はらかわこういち)、高校生三年生であり、部活も引退した受験生だ。

自分で良くないこととは頭で分かりつつも、周りに流されるようにこれまで生きてきた。

しかし、この夏休みの期間において、大きな流れから外れた貴重な経験をすることになる。

ではまず彼の視点で物語を紐解いていくとしよう。

 

ここは都市に隣接する阿魏斗(あぎと)県阿魏斗市。

都市への通過地点、住居地域として多くの人が行き交う活発な場所だ。

そこに住む17歳の少年、即ち僕、原川航一は駅前の本屋で参考書を探しに来ていた。

将棋同好会で和気藹々と活動していた僕だが、進学校で底辺レベルの頭でも、大学進学の為にはそろそろ動かなければならない事は分かっていた。

なので、市の大会でそこそこ健闘して4位を取ったのをきっかけに、部活も引退して、勉強に精を出そうと、端から参考書を片付けていた。

しかし、元から勉強にやる気のない僕の部屋の参考書はかなり偏っていた。

化学、世界史の問題集ばかりだったのだ。

これには浅い理由がある。

単に親からあまりにも勉強しないのをあきられて、三年生の春に無理矢理参考書を買わされそうになったことがあった。

当然拒否したものの、今回は引き下がらなそうな2人の様子を見て、

僕は得意な化学と世界史の2冊だけを購入したのだった。

 

そんな訳でそろそろ国数英の参考書も買わなければと、ある程度カゴに本を放り込んだ後のことだった。

ついでで受験に必要な科目ではないが、興味本意で哲学の参考書を漁り、私がとあるページを開いた時だった。

本が突然光出し、身体が熱くなり、目眩が起こり始めた。

急激な体調不良と異常事態からか、僕は前後不覚に陥り、

その本を床に落としてしまった。

その衝撃の所為だったのだろうか、更に輝きを増したその本からは

風が迸り、遂には立っていられなってしまった。

「はあ、はあ、何が、はあ、起ころうとして、いるんだ……。」

目を細めながら、吹き飛びそうな眼鏡を抑えつつ、確かにはっきりと

本を中心に、例えるならば「魔法陣のようなもの」がじわじわと、広がり始めた。

「……!!!」

そして、遂に光の奔流はピークに至り、僕の全身を強く打ちつけ、

辺りの空間に拡散した。

ほぼうつ伏せだったにも関わらず、打ち上げられて、

僕は仰向けに転がされた。

薄れゆく意識の中、確かに聞こえた男性の声を最後に、

僕の意識は途切れた。

「私の名はキャスター。契約は完璧に成された。貴方が私のマスター…、おや、これはハズレを互いに引いたようだ……。」

 

「はっ。」

気がつくと僕の目の前には自分の部屋の天井が見えていた。

「なんだ、夢か……。けど、どこから夢だったんだ、ろ、う?」

後半は寝返り、仰向けから横向きになった時の景色が異様だったからか、角ついた言葉になってしまった。

いつから僕の部屋は近代にタイムスリップしたのだろう……。

眼に映るは僕の机。テーブルクロスが掛けられていて、その上には簡素ではあるがティーセットが並べられていた。

そして、椅子にはこの現状の特異点が足を組みながら髪を撫で、カップ片手に新聞を読んでいた。

その姿は一昔前の外国の貴族そのものだった。巻き毛の白髪、高めの鼻、コスプレの様な飾った衣装。

やや熱っぽい頭だったからか、ついぞ言わずじまいだったが、

彼は現代に降り立った不審者だった。

「やあ、ご機嫌麗しゅう。体調は万全か、マスター。」

新聞からは目を離さず、彼は話しかけてきた。

当然、僕は何ことやら分からず、

「まだ、熱っぽいです……。」

正直に自身の状態を答えるのが精一杯だった。

「体調管理は受験生には大事なこと……、だそうだ。それと、現状の整理がしたい。そろそろ覚醒してくれないかね。恐らくもう始まっているからね。」

「?」

疑問符を顔に浮かべ、緩やかに体を起こして、僕は彼と向かい合った。

その時、眼鏡をかけようと右手を伸ばし、2つの異常に気がついた。

1つ目は視力だ。眼鏡をかけていないのに、視界はいつものそれより良好だった。

2つ目は右手の甲に浮かぶマークだった。それは赤い十字架の形に酷似していて、刺青に近い質感だった。

断っておくと、キリスト教徒でも、刺青好きな不良でもない。第1こんなものを入れて登校したら、間違いなく退学だ。

一縷の希望を抱いて、近くのティッシュで拭いたが、全く取れる気配は無かった。

「その様子だと、君は魔術師ですらないな。ならば理由はどうあれ一から話すしかないな。」

ソイツは新聞を畳み、こちらを向いて独りごちた。

「はい、何が何やらさっぱり、うっ……!」

立ち上がろうとして右手から激痛が走った。その激痛はチクチクと続き、つい顔をしかめて体を丸めてしまった。

「その前に回路だな。一旦横になりたまえ、マスター。」

この激痛が治るならと、僕はなんとかベッドに戻った。

そこにソイツが片膝をつき、僕の右手を両手で握り、目を瞑り、祈り始めた。

 

「カチッ、カチッ、カチッ、カチッ……。」

静かな部屋の中に時計の音のみが響き渡る。

ソイツの服が教会の人の制服だったら、それは様になったことだろう。現実は非常にシュールであったが、ソイツの雰囲気は真剣そのもので、心なしか痛みが和らいだ。

どれほどたっただろうか。ややあって彼は目を開き、笑顔で僕に囁いた。

「まだ、痛むかね。いかんせんこういうことは不慣れなもので。」

「いえ、だいぶ楽になりました。……いれず、いや、痣も無くなりましたし。」

痛みの元凶と思われるあの十字架は無くなっていた。

やはり刺青などでは無く痣か何かだろう。

ホッとして手の甲を見ていると、

「あー、言いづらいが、自分の胸を見てごらん。」

と、やや気まずそうに彼は言った。

一抹の不安を抱えながら服を脱ぐと、そこには確かにはっきりと十字架が存在した。

赤々と胸の真ん中に、でかでかと僕の心の中に、

圧倒的存在感を放っていた。

「すまないな。しかし、キャスターだからできるのであって、生前医療などまるで関わってなかったからね。」

彼は苦笑していた。

十字架のショックで完全に目を覚ましていた僕は、とりあえず抗議しようとしたらところ、

「オォーーー!!!」

外の遥か遠くから獣のそれと思わしき声が轟いた。

その声は僕が今まで聞いた音の中で最も恐ろしく、野生的な声だったのにも関わらず、どこか神秘的な響きも兼ね備えていた。

そんな圧倒的イメージに、ぼーとしてしまったところで、彼が口を開いた。

「距離は、うーむ、それほど遠くないな。これはまずい。幸い魔力反応は2つ。奴らはこちらに気にかけてもいないようだが、気づかれるのは時間の問題だろう。ーさて。」

窓の外を見つめ、状況分析を終えたらしい彼は、改めて椅子に座りなおし、話し始めた。

「闘争は始まった。我がマスター、原川航一君よ。まずは逃げるぞ!」

と、立ち上がり彼は何処で知ったのか、いそいそと僕のクローゼットから外出用の服一式を取り出した。

「待って待って待って。僕には何がなんだが。少しは教えてくださいよ。」

僕は彼から急き立てられつつも着替え始めながら、彼の返答を待った。

思案していたらしく、ややあってから彼は、

「ああ。では改めて。私はサーヴァント・キャスター。真名は、アダム……、そう、アダムだ。アダムとイブのアダムだ。恐らく短い間だが、どうか宜しく。」

と、運命の夜にからからと笑いながら答えを口にした。

 

 

 

〜用語〜

・キャスター(1)

嫌いなタイプは全く他人に気遣いできない人。




次話は約二週間後を予定しています。
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