僕の名前は原川航一。どこにでもいる受験生の1人、のはずだった。
今では燃え盛る街中で必死に逃げ惑っている。そんな哀れなマスターの1人になってしまっていた。
〜今から30分前のこと〜
「ーそういう訳で、私たちはこのような理不尽なゲームに巻き込まれてしまったのだ。」
キャスターからの一通りの説明を聞き終えて僕は改めて思う。
「本当の真名は明かせないんですか?」
「困ったなぁ、私はアダムだと言ってるのに。」
流石にそれだけはおかしいと思う。
僕のアダムのイメージは「裸」で、「細マッチョ」な、「青年」である。
対して彼はしっかり「服」を着て、「やや太め」で、「おじさん」である。
英霊は全盛期の姿で呼ばれると言うが、果たしてキャスターにはどのような理由があるのだろうか。
「まあまあ、それはともかく家を出る準備は整った。マスターももしかすると最後の我が家なのかもしれないから、悔いのないようにしたまえ。」
「今更どうしろって言うんだ……。」
本当に最低限の荷物を持ち、家族の寝顔を見て、僕は玄関を出た。
外には炎が舐め回る地獄の風景が広がっていた。
〜回想終了〜
(……。)
僕は実体の無いキャスター・アダム(仮)の気配を感じながら、工房とするべき場所に向かっていた。
地脈の流れなどまるで知らない僕にとっては、最高の工房は召喚地、すなわち駅前の本屋であった。
(「ところで。1つ言わせてもらって構わないだろうか」)
(「何?」)
霊体化中のキャスターから念話が届いた。
(「所詮はキャスターだからね。力仕事は今後勘弁願いたいよ。
ましてや、男を抱えて何キロも走るのは。」)
(「……。ナルホド。」)
キャスターの意図を察した僕は、
(「善処しますが、また倒れたらお願いします。」)
と、逃げ回るテンションも手伝ってか、ややゆるく返答した。
キャスターの術式によって呼吸は平時のそれと同じように出来るが、
炎の暑さはどうにもならない。
クタクタにかなりながらもどうにか、キャスターを召喚した本屋にたどり着いた。
幸い外傷は見当たらず、電気も全て消されていた。
人払いの結界を貼っていったらしいが、それが功を成したらしい。
また、魂喰いのサーヴァントがやってくることもない。
さらに、この時間で外はこの惨状だ。まさかこの小さめの木造店にこもる人間はいないだろう。
「お邪魔しまーす。」
僕はキャスターに鍵を開けてもらって、そそくさと中に入った。
中は薄暗い闇が広がっていた。
この視界不明瞭の床から、消されたかもしれない魔法陣を探さなければならないのである。
「窓際、入り口は生憎外のおかげで明るい。しかし、流石にもっと奥の、周りが本棚の床だったぞ。私が召喚されたのは。」
気がついたら霊体化を解いたキャスターが後ろに立っていた。
「なんか魔法でパッと明るいできないんですか?」
「細かく言えば魔術なのだが……、それは置いておいて。残念ながらそういう魔術は出来ない。私のは火も光もまるで異なる魔術系統だからな。」
……アダムなら原初の何かしらをスキルなり、宝具なりをもって来そうなものだが。
とんでもない威力の代わりに一発しか打てない、といったような理由だろうか。
……しかし、漁夫の利を得るために、何故外の2人に仕掛けに行かないんだろう、と思う。正体を探るだけでも良いと思うんだけど。
そもそもー、
「世の中には考えなくても良い事柄がある。その最たる例は杞憂。
つまり、マスター、君のことだ。今防御術式を建物にかけているから、今ここで焼け死ぬような結末は考えなくて良い。
それよりも今はこれからの事を考えながら工房の要、つまり召喚地点を探すべきだ、と進言させてもらうよ。」
確かにその通りではあったので、僕はおっかなびっくりスマホの光をあてにしながら、魔法陣を探し始めた。
〜用語〜
・キャスター(2)
変化はゆっくりの方が好ましい。
本来はもっと腰を据えて構えているスタイルである。