「あっ、これかな? キャスター。」
見るからに魔法陣、……の消えかけらしい跡が床に残っているのを発見した。
「ちょうどいいところだ、マスター。こちらも非力ながら結界を貼り終えたところだ。」
やや汗をかいたキャスターが歩いてきた。
(キャスター「魔術師」のクラスなのになんでそんなに疲れているんだろう。古代の人は魔術が苦手なのかな? それとも「系統」というのがそんなに重要なんだろうか。)
相変わらず不思議なサーヴァントのキャスター・アダムは発見した魔法陣に座り、最後の仕上げに取り掛かろうとした。
その時、
「ズパッ!!!」
何か分厚い物をすごい速さで切ったような、そんな音が頭上から聞こえた。
間も無くして、天井の板とそれに付いている四方の壁の一部が、爆風によってきれいに吹き飛ばされていった。
それを見てキャスターは、
「即席とはいえ、私の防御術式がまるで効いていない……!」
「ど、どうするんだ、キャスター!」
空から入り込む熱風にむせながら、とりあえず僕たちは床に伏せていた。
「マスター、2人のサーヴァントらしき反応が近づいて来ているが、これは……! ……手に負えなそうだ。」
「急にしおらしくなって、そんなやばい2人なんですかー!?」
確かに、サーヴァントの能力というのは聞くところによると戦闘機1個分らしいが、それはこちらも同じなはずだ。
せめて逃げ切ることは出来ないのだろうか。
急変する事態の中、僕は必死に考えた。
(こんな、唯巻きこまれた挙句、何もせずに死にたく無い。そんなことあんまりだ。何もしてこなかった僕だけど、ただ無駄死にするよりは…。)
「1人でも道連れにしてやる!」
最後の思いは心を超えて、口から理不尽な現実に向けて解き放たれていた。
僕にとっての人間の本性というものが現れた瞬間だった。
その時。
胸が熱くなった。紅い光が溢れているのに気がついた。続いて頭がぼうっとした。
「……! その令呪を使ってはならない! 意識をしっかり持て、マスター! 」
時すでに遅く、紅い輝きは収まり、驚異的な速さでキャスターが僕を捕まえ、僕の視界から背景の風景が溶け落ちた。
数秒たった後、僕たちは近隣の小高い丘の上にいた。
一体何が起こったのだろうか。
まだ、状況に頭が追いついていない状態で、先程輝いた胸をさすっていると、
「これは強制転移! なるほど、この程度を無理を令呪は可能にするようだ。しかも、サーヴァントだけでなくマスターも一緒に転移出来るとは。……これは扱いが難しそうだ。」
と、自身に言い聞かせるようにしてキャスターは僕を地面に降ろした。
「よく分からないけど、ありがとうキャスター。」
僕は自然とお礼を口にしていた。令呪を使ったのは僕だが、口では使うなと言っても、何だかんだで命令に従ってくれた所を僕は非常に頼もしく思った。
「いや、礼はいい。もう少し強いサーヴァントだったら対抗するなり、止めるなり出来たはずだ。本当にすまない。最低限の命は保障するつもりだったのだが……。戦争というものを履き違えていたようだ。」
何故か逆に謝ってきた。しかし、その思いは僕も一緒だった。
「違うよ、キャスター。僕も履き違えていて、その、浮かれていたんだ。僕はこの非日常に。」
キャスターは不思議そうな顔をして、
「今までの生活に不満があったのか? 経済的に苦しくなく、今の居場所である学校では新聞で読んだようないじめもない。確かに、勉強はあまり出来ないみたいだが、それがそんなに苦痛なことかね。」
いつ間にか仕入れた情報を明かしつつ、キャスターは質問してきた。
(本当にその通りだ。僕はむしろ環境的には恵まれている。何かのコンプレックスもない。でも……。)
「僕はね、それが嫌だった。退屈で僕一人居なくても回っていく世の中には、全く興味も持てなかった。生きていく理由が分からなかった。痛いのが嫌いだから積極的に死は望んで無いけど、積極的に生も望んでない。そんな駄目な人間なんだ。だから……。」
「マスター……。」
キャスターはどこか神妙な顔持ちになり、僕を近くのベンチに降ろし座らせると、自分は隣に座り、顔をこっちに向けた。
「それで?」
キャスターは優しい、どこか暖かい表情になり、僕に独白の続きを促した。
「だから、僕なりに生きる意味を探した。部活に打ち込んでみたり、新しい趣味を始めたり、両親の仕事も調べたりした。でも、見つからなかった。とても失望したよ。僕はどうして生きているか分からなくなって、それで何も考えなくなって、テキトーに周りについて行くようになったんだ。」
一気に喋り、舌が回らなくなり始めていたが僕は続けた。
「でも、今分かった。理由は分からないし、この状況がこう思わせているだけかもしれない。けど、とても、今、僕は、生きたい。」
眼下に街が火に包まれている中、少年は確かに生きることについて触れ始めたのだった。
〜用語〜
・キャスター(3)
戦場経験は皆無。後、髪は地毛らしい。