亜種聖杯闘争 〜極夜之星〜   作:ジグソウ

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第5話 鎮火 〜獅子と老人と〜

「オォォォォォーー!!!!!」

キャスターと僕がそろそろ丘を降りようとしたところに、遠くから、あの恐ろしくも神秘的な声が轟いた。

その声に釣られて丘の上まで戻って来た僕たちは、いつ間にか変化した異様な光景を目にする。

 

空を彩るは夜の黒、炎の赤、そして月の白の三色の筈だった。

しかし、眼に映るはその全てを包み込むような薄い翠の光が、その全てを包み込んでいる。

発生源は街中央部にある唯一光が眩しい地点、そしてそこから噴水の如く光があふれていた。そこで一体何が起こっているのだろうか。

「ふむ、現在の機械というのは便利だな。少し君のスマートフォンを貸したまえ。」

同じように街中央を見つめていたキャスターは、急に僕のスマートフォンを要求してきた。

「どうするつもり? そもそもキャスターはこれの名前をどこで? 」

しぶしぶスマートフォンを渡しながらも僕は尋ねた。すると、

「まあ、待ってなさい。今、カメラの機能を強化するするから。……よし。後、情報収集は君が召喚時に気絶していた間に大体済ませておいた。これでも学者のサーヴァントだ。それくらいはするさ。」

なるほど。情報収集に長けた学者のサーヴァントだったのか。

……うん?

「学者? アダムが学者? 確かにどちらかというとそういう出で立ちだけど。握手したばかりとはいえ、よく分からない冗談はやめてくれよキャスター。」

と、僕はスマートフォンをいじりながら返答した。

「いやー、実は冗談ではなくてね。私は正真正銘学者、特に後世では経済、哲学の専門だと言われているね。」

至ってまじめにキャスター・アダムは答えた。

「いやいや。だってトリックスターのキャスターも嘘ではないって言ってたじゃん。どう考えてもあれを騙せるとは思ってないよ。」

「ああ、私もそう思う。だから、別に嘘は言ってないよ。恐らく相手が受け取った真実は別だったろうがね。」

「へ? よく分からないなあ、っと! 確かにカメラのアプリに見慣れないボタンがあるような?」

話をしつつも、僕はそれを押してみた。

すると画面が今まで見たことない表示になり、まるで望遠鏡とそのつまみを想像出来る様なものになった。

「もしかして、ここを回すと?」

「そう。つまみを回すとかなり遠くの方まで見える様になる。」

一旦キャスターの正体は置いておいて、僕は街の中心部の光の正体を探すことにした。

建物の合間を縫って光の正体を探していると、地面を走る光の線を発見した。

それは何かしらの模様、どちらかというと文字の様な物に見えた。

僕が何か発見し、それについて悩み始めた僕の様子を見たキャスターは、スマートフォンを奪い取り、

「どれどれ。多少の魔方陣なら解読してみせよう。キャスターだからね。」

と、意気揚々とそれを観察し始めた。

 

数分後。静かにスマートフォンを僕に渡してキャスターは呟いた。

「分からん。」

「キャスターなのに分からないんですか?」

今まで魔術師っぽいことはそつなくこなしていたキャスターだが、今回ばかりは分からないらしい。

「強いて言えば恐らくは魔方陣というより文字そのものだろう。となれば古代文字のいずれかであることは予測できる。あいにくそういう物には生前に縁がなくてね。」

キャスターは悪びれず、さも当然そうに言った。

結局のところ、誰がそれを書いたのかは分からず、諦めてその場を去ろうとして、ふと、それは真上にそれはいた。

 

その神々しくも猛々しい見た目から、それは恐らく街中で戦っていたサーヴァントの一騎であろうことが見た目から判断できた。

 

まず目に引くのはその男の頭の部分。

遠目では頭が獅子そのものに見えたが、強化されたスマートフォンのアプリでしっかりのぞいてみると、それは獅子の兜を被った壮年の男だった。

顎には白い豊かな長い髭を蓄えており、顔にはシワが目立っていた。

次にサーヴァントのクラスが分かりそうな獲物が一振り。

非常に分厚い剣だった。

これといった意匠が施されているわけでもないが、形は綺麗に整っており、素朴ながらも強烈なイメージを与えてくる。

そしてなによりも目を引くのはその厚さだ。果たして何cmあるのだろうか。

刃が端にいくにつれ薄くはなっているが、芯のところは中世の騎士が馬上で振るったランスの芯に勝るも劣らない厚さだ。。

その何kgあるか分からない剣を、サーヴァントは片手に軽々と握っている。

 

ここまで観察しきったところで事態は動き出した。

まず街中央の輝きがそのサーヴァント、(ここでは「獅子のセイバー」と呼称する)、に向かってゆっくりと伸び始めた。

それに呼応し、周りの光も獅子のセイバーに向かって集まり、街全体は柔らかな翠の光の流れに飲み込まれていっている。

それはさながら力強い竜巻の様な形になり、しかしながら、その光の流れは優しく街を巡り、脅威の様なものは見出せない。

 

そんな中、僕が目にした獅子のセイバーの行動はたった一手。

悠然と自身に集まった光の塊を、横一文字に薙ぐことだった。

それはシャーマンや神職の者が使う白い紙のついた棒、(大麻[おおぬさ]という)、で汚れを払う様に似ていた。

 

それを合図に光は一度、獅子のセイバーを中心にして円を作る様に拡散し、そのすぐ後に光の粒となって下にある街全域に降り積もっていった。

光の粒は火に当たると優しく弾け、その柔らかな勢いで火を少しずつ消していった。

 

僕とキャスターはその幻想的な風景に魅入られ、いつしか獅子のセイバーの事を観察することも忘れ、ただただ街の炎が消えていく様を鑑賞していた。

僕はその光景にどこか安心感を覚え、今までの激動の一日による疲れがどっと噴出し、気がつく間も無くに眠りについた……。

 

そして、キャスター・アダムは見届けた。

空が白み始めた頃、獅子のセイバーが全てを使いきり、消滅していく様を。

 

 

〜用語〜

・獅子のセイバー(1)

正体不明の剣士、と思われる壮年の男性サーヴァント。

キャスターが理解不能な文字を用い、最終的には街の炎の鎮火に勤めて消滅した。


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