亜種聖杯闘争 〜極夜之星〜   作:ジグソウ

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第7話 決起来訪 〜交差する運命〜

「お帰り。よく無事に帰って来たものだ。」

「はは……。無駄に疲れたよ、キャスター。」

これからのこと、自分が今置かれた状況を考えながらの下校は、非常に精神的に疲れるものだった。

やっとのことで、自分の部屋に着いても一向に報われる気配は薄い。

受験勉強に対して漠然と「大変だなぁ」と思うことはあったが、実際に命の危機が迫っていると、「人間って頭が回るんだなぁ」とひしひしと実感させられているのだが。

結局、何もいい案は思いつかなかった。

ところで。

「なあ。まさかと思うがキャスター。僕のこと、死んだらそれまで程度しか、思ってないのか。」

「はははは。まさかまさか。マスターが居なければ私の願いが叶えられ無いではないか。」

キャスターにとっては大したことでは無いらしいが、僕にとってはこれからの人生は重大だ。

この戦いに参加するまではこんなこと考えもしなかったけど。

「『心配ない』、だけでは心配かな。では。」

僕の部屋で霊体化していたキャスターは突然実体化し、僕のベッドに腰掛けて言った。

「サーヴァントとしてだけではなく、家庭教師として、そして1人の大人としてアドバイスをしよう。」

キャスターは真摯に言い放った。

「君には無限の可能性がある。ならば、その可能性を、命を賭して試す自分に誇りをもちなさい。であれば、必然と答えは見えてくるはずなのだから。」

僕は色々と定まらずにこの時を迎えたが、キャスターのアドバイスはとても暖かいものだった。

目の前の問題は何一つ解決はしていないけれど、自身に誇りを持っていい。それは無機質な理屈よりも、確かに、僕の心に光を与えた。

 

ほっとしたところで、回転をし始めた頭には、目の前の人物に対してある疑問が浮かんだ。

「そのアドバイスは有難く受け取るけど、結局あなたは何者なんだい、キャスター。」

「なんだ……、てっきり学校で調べ済みなのではないのか。この学校の教育課程も見たが、私の名前、テストに出ているよ。」

「いや、その、歴史は選択制なんだよ。世界史はとってなくて。」

「……。経済の方なのだがね……。もう一度勉強し直したまえ。」

経済? そういえば一年生の時にやったような。

「しょうがない。時間もあまりないので端的に言ってしまうが、真名はアダム・スミス。ただの学者だ。覚えておきたまえ。」

と、キャスター、いや、アダム・スミスは何処かで見たことがある参考書から、彼の解説が載っているページを見せてきた。

「へぇー。なるほどなるほど。いやー、なんかそんな人習ったような気もするよ。了解したよ、アダム。」

色々書いてはあったが正直興味はない。経済嫌いだったし。

「約束の時間まで30分もないのだが、一言言わせて欲しい。もっと驚いたらどうかね。何故真名を偽造していたのか、学者のサーヴァントなんかでこの先勝ち抜けるのか、特に宝具は何なのか。」

「僕、初心者だし。」

よく分からない約束の時間まで、僕はキャスター・アダムの説教を受けた。

 

 

「キャスター。あなたのことはよく分かったよ。たださー、僕らは一応コンビなわけだから、一言言ってくれると助かるなー。」

「予測だが、なんだかんだ言ってチキンな君はこの話、断っていただろう。何度でもいうが、私1人ではまともに勝ち抜く事は不可能。よって同盟は必須だ。話ができる相手でむしろラッキーくらいに思わなければ、この先やっていけないぞ、マスター。」

(だからって、バーサーカーと組むかな〜、普通。)

もうどうしようもない愚痴を心の中に留め、これからの交渉は全てキャスターに丸投げしようと考えていると、

「ああ、ここだ。バーサーカーのマスターの家だ。」

どうやら約束の場所に、トウチャクシタヨウダ。

「キャスター、ここがどんな場所か知ってて言ってる? 冗談でマスターの精神力を削ったって、なにも面白くナイヨ。」

震えておかしくなる口調で、僕は半ば願うように質問した。

「はっはっは。私の情報収集能力を侮って貰っては困る。この家、いや、屋敷は地元でも有名な暴力団、所謂ヤクザのものだ。名前は氷室組で、今のボスは2年前に行われた内部抗争の末、前のボスの長男、氷室一徹になった。彼の影響力は大きく、半年程前に組の下っ端が若い女性に嫌がらせをしたと発覚した時は、自身の指を詰め、下っ端を斬り殺して、組総出で謝りに行った事はかなり有名だ。その時、殺人罪で投獄された」

「3日もしないうちに何故か無罪放免で解放。この事から、氷室一徹はこの街で殺人をしても無罪な、近寄ったらダメな人として認識されるようになっとさ。アー、おうちかえりたい。」

しかし、時遅く、実体化しているキャスターは玄関の呼び鈴を、何の緊張感もなく鳴らした。

「ジー、ジー、ジー……。」

「多分聞こえているか、もう、オサナクテイイヨ、キャスター。」

「いやぁ、マスターが緊張をしているからつい、場を和ませようと思ってね。」

ひょっとしてこの男、嫌がらせするのが好きなのかしら。

ギイっと、門が少し開き、目の鋭い男が出てきた。

「……、ふむ。刻限だ。入れ。」

ただそれだけ言葉を残すと、彼はゆっくりと奥へ向けて歩き始めた。

「では、遠慮なく。」

何故か意気揚々のキャスターの後ろに半ば隠れながら、僕は夜近くに寄りたくない場所No. 1の奥地へ、歩を進めることになった。

 

案内している男は黒の着物に、短髪の整った出で立ちだった。後ろからはあの眼光は拝めないが、あの目力からくる威圧感は直感的に幹部以上だろう。

幹部に案内させる組の者がこの屋敷の主人、そして、バーサーカーのマスター。

つまり十中八九、氷室一徹その人と僕は同盟を組むことになるのだ。

(キャスター。僕はどうしたら良い?)

流石にマスターとして一言も喋らないのは良くないのでは、と昔見た任侠映画を思い出して、心変わりした僕は助けを求めた。

(なぁに、堂々と構えていれば良いのだよ、マスターは。後、ややテンションが高いのには二つ理由がある。

一つはこの亜種聖杯闘争がそうさせるのだ。このシステムは最終的には聖杯降臨の儀式を効率よく進めるため、サーヴァントに戦いをしやすくするための高揚感を与えているらしい。それに今回は話をするだけだ。得意分野だから尚更名誉挽回と張り切りたくなるものさ。

二つ目は私の過去がそうさせるのだ。まあ、これは長くなるから詳しくは省略するが、一言で言うと「贖罪」かな。)

(?)

そう言われると気になるのが人間の性だが、いつのまにか大広間に到着したらしい。

男が襖を開けると、のっぺりと広がる畳の床の中央に、木製のテーブル。そして座布団が四つ置かれていた。

一つは埋まっていて、禿頭の和服の美男子、(優男いうよりかは整ってて清潔感があるイメージ)、が胡座をかいていた。

彼が氷室一徹なのだろうか。

僕が何処に座ろうか決めかねていたところ、案内していた男が禿頭の男の隣に座りながら話しかけた。

「待たせたなバーサーカー。これで漸く戦争が始められってもんだ。」

「ああ。だが、マスター。サーヴァントの方は兎も角だ。相手さんのマスターは色々と確かめる必要があると思うぜ。なぁに、これでも人の上に立つ者として見る目はあったつもりだ。まずは一献傾けて、互いを知る必要がある。」

「お言葉だが、うちの国では未成年は飲酒禁止だ。だが、私も部下を持つものとして、ビジネスパートナーにはある程度の能力は知らないといけない、という意味では賛成だ。」

二人は座って数秒座って過ごし、互いに顔を見ながら苦笑いし、先に席を立ったマスター、氷室一徹その人が茶等を取りに行った。

「そういえば使用人が見当たらないですね。人払いなら私の結界等で十分ですのに。」

サーヴァント・バーサーカーの目の前に座りながら、キャスターは話し始めた。

必然的に最後の席におどおどと正座した僕は、決して目を合わせないように視線をテーブルに向けて黙っていた。

 

数回の会話を終えて、サーヴァント同士は無言になった。

(………………………。)

念話をすることも忘れて、一刻も早くこの永遠とも思える沈黙が終わるよう冷や汗をかいていて耐えていたところ、気がつくと三人の視線、(いや、死線だろうか)、が僕に突き刺さっている事に気がついた。

「な、何か。」

いたたまれない僕はキャスターに視線を固定して聞いた。

「自己紹介。一応先方には名前は伝えてあるけどもね。」

至って真面目な顔で言うもんだったので、僕はもう観念して、正直に助力を請うことにした。

「僕の名前は原川航一、です。今日はこの戦いに勝ちたくて、助力をお願いしに参上しました。相手が誰であれ、……ではなくて、その、とにかくこれから宜しくお願いします。」

(終わった……、僕の運命も、キャスターの運命も。)

正直に言いすぎたようだ。つい氷室一徹という男の世間の認識が、本人の前で失礼なものだということがすっかり頭から無くなっていた。

「ふっ。」

小さく、僕はこの世最期の吐息を口からこぼしつつ、視線をテーブルまで戻した。

「くっ。はっはっはっはっはっは!! 」

まるで堪え切れないようにしてバーサーカーが笑い始め、

「私は良いと思うぞ。キャスターのマスターと聞いていたから、どんなに謀略好きかと思えば。私は生前でもう懲りたものだ。マスターとてそうだろう。」

と。自身のマスターに同意を求めていた。

(ドーユーコト?)

当然僕の心の中の疑問はスルーされ、マスターの方は特に表情を変えずに、

「あゝ。そうだな。航一君。面をあげてくれないか。それではこれからのことも話せない。」

と返答兼僕を会話に誘ってくれようしていた。

なんだ、この妙な空気は。

(キャスター。もしかしてこれは。)

(何も言わなくてすまなかったね、マスター。だが、これくらいもできないようなら契約を解消していたよ。交渉も殆ど済んでいるし、今日は最期の確認をするだけだからね。)

「キャスター!!!!!」

 

僕は高校生になってから久しぶりに怒りをぶつけた。

結果的にはこれも良かった行動らしかったが、この平常では絶対に行わないであろう行動が、僕自身を変えていっている事に気づくのは大分後のことだ。

 

〜用語〜

・アダム=スミス

【元ネタ】史実

【CLASS】キャスター

【マスター】原川航一

【属性】中立・善

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力D 幸運D 宝具E

【クラス別スキル】

・陣地作成 E〜C

・道具作成 E〜C

【固有スキル】

・万象への興味 A

倫理、経済と二分野での書物を残したアダムではあるが、記述よれば科学の分野にも興味があったという。また、家庭教師を勤めたこともある経験から、様々な分野の質問にも答える機会があったことだろう。これらの事柄からこのサーヴァントは万象への興味、特に生前は関わらなかった新境地に関しては興味が倍増するスキルを持つ。

このスキルにより、道具作成の際は興味によって道具の質が変化する。

【宝具】

見えざる手(ゴッドハンド)

ランク:E 種別:対人宝具 レンジ: 0〜50 最大捕捉:1

自身が直前に触れたものに対し、真名開放することで引き寄せたり、振り回したり、突き放したりすることが出来る。

ただし、持てるものはてに付き1つで、勢いは筋力に依存する。

また、日本では「神の見えざる手」という訳が有名なため、神性が在るものには無効となる。

実のところ、これは本来の使い方ではないが直接戦闘では使えないため、本人が改良した。

【Weapon】無し

【補足】

ほぼ史実通り。「ほぼ」というのは、一人の人間としても描きたいので、性格や過去は独自設定となります。時代背景などを参考にしてはいますが、明らかな矛盾が有ればご指摘お願いします

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