転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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30/決着

 

 

 ――そして、赤坂悠樹は大の字に倒れた。

 

 完膚無きまでに心が折れた。双子の妹が殺された時と同じように、否、その時よりも更に救いが無い。

 あの時は精神的に死んだが、超能力の発現によって空虚な器に憎悪という炎が注がれた。

 その負の感情を原動力に再起し、人生という膨大な時間を刹那に消費しながら死というゴールまで駆け抜ける事が出来た。

 だが、今はどうか。死はゴールではなく、自分自身の存在も自分の別の『可能性』によって全否定された。

 気づかない内に、赤坂悠樹はこの手で『可能性』を縊り殺していた。最初の願いを踏み躙ってしまっていた。

 世の不条理を更なる不条理で覆す為に悪党に成り下がったのに、いつの間にか初志を見失って悪党以下の何かに成り下がっていた。

 何という滑稽、何という無様。もう自嘲する気力すら無い。もう立ち上がる気力すら彼には無かった。

 

「……え、えとっ! だ、大丈夫です、か……?」

 

 敵対していた少女、いや、自分が一方的に殺そうとした、が正しいか――奇妙な事に自分と関わりのある異世界の少女・八神はやては恐る恐る尋ねる。

 彼女を守護する騎士達は細心の注意を払って警戒しているが、無用の産物である。今の赤坂悠樹は赤子より無害の、二度と立ち上がる事の無い挫折者である。

 

「……大丈夫じゃない。今直ぐ死にたい……」

 

 喋る事すら億劫であり、自分の手足のように自在に使っていた能力の使い方も今は思い出せない。

 双子の妹の複製体を殺す前、そのトラウマが誘発した時に精神的な嘔吐感が生じて一時的に使えなくなったが、今は自分を構築していた歯車が一気に崩れ去っていて、全てが空回りしているような気分である。

 

 ――尤も、使えた処で使う気力、実行する意思が無ければ無意味・無価値なのだが。

 

「……そんな『可能性』があったなんて知らなかった、見たくもなかった……! 今更、オレにどうしろってんだよ……?」

 

 心折れた負け犬は涙を流しながら、そんな女々しい泣き言を口にした。

 何の脈絡も無く叫ばれた意味不明な告白に、守護騎士達は訝しむが、八神はやてだけはその言葉の意味を正確に理解した。

 

「……クロさんと、赤坂さんの事を……?」

 

 八神はやてを通して『過去視』した結果、狂人の域までに偏屈で強靭で堅牢で不屈だった精神が完膚無きまでに砕け散って折れた。

 完璧なまでに自己完結している事で他者の言葉など耳に届かずに何も響かない男だったが、自分の他の『可能性』からの自己否定だけは耐えられなかったのは当然の理である。

 

「……己の無力に泣きたくないから『力』を求めたのに、こんな単純で大切な事をいつの間にか見失っていて、気づかない内にこの手でぶち壊していたってか……!」

 

 双子の妹の複製体を殺す事で『悪』を貫いた赤坂悠樹と、自分の手で殺せずに他人に殺させようとした半端者の『赤坂悠樹』。

 どうして此処まで差が開いたのか、どうして誇らしげに『風紀委員(ジャッチメント)』の腕章を付けたままなのか、理解したくなかった。

 

「……何もかも遅いんだよ。今更過ぎるんだよォッ! 全て手遅れになった後で『可能性』だけを見せつけられてもどうしようもねぇんだよッ! 嗚呼、糞、畜生ォ……!」

 

 絶望の涙を流しながら、魂の慟哭が響き渡る。

 

 

「……悠樹さんは一人で何でも抱え込んで頑張りすぎなんよ。一人で何でも出来ちゃったから、誰かに頼る事が出来なかったんや」

 

 

 その言葉は、彼の幾多の『可能性』を目にした彼女だからこそ口に出来た言葉であり――。

 

「今はゆっくり休んで、またやり直しや。私も、微力ながら手助け出来ると思う」

「……死人に、やり直す機会なんぞ――」

「一回死んだだけでやり直せないとか、この街に生きる人の大部分に喧嘩売っとるで?」

 

 この幼女から飛び出した超理論に、赤坂悠樹は自身の目と耳を真っ先に疑う。

 

「その両足はリハビリ最中の私のと違ってちゃんと動くし、左腕はともかく義手の右手も地味に精密操作出来るっしょ? 見えない右腕は健在やし。目の方は片方無事だし、失明した方も未来も過去も見通せるスーパーな魔眼みたいなもんやないか。ほら、全然大丈夫や!」

 

 小さな胸を張って自信満々に保証する少女の笑顔は眩しすぎて、思わず目を背けてしまう。

 

「……厳しいな、君は。諦めたまま終わらせてくれないのか……?」

「それは駄目や。そうなったら、悠樹さんは『一生』が終わっても後悔し続けてしまう。今、此処でやり直すんや。今度は、間違わないように――」

 

 弱り目に祟り目か、彼女の言葉が胸に無条件に響いて、今までとは別の意味の涙が流れてくる。

 

「……オレの駄目さ加減は半端ねぇぞ……?」

「うん、知ってる。クロさんのオリジナルさんとは思えないほど駄目駄目や」

「……問答無用に君を殺そうとした奴だぞ……?」

「うん、大丈夫。此処では良くある事だし、クロさんとの最初の関係は人質と誘拐犯だったし、今日の敵は明日の友や!」

 

 本当に『学園都市』に匹敵するか凌駕するぐらいロクでもない街だな、と奇しくも複製体の『過剰速写』と同じ感想を抱いて――。

 

 

「――手を、貸してくれないか……? 一人じゃ、立ち上がれそうにもない……」

 

 

 脳裏に、白井黒子、御坂美琴、削板軍覇、黄泉川愛穂、カエル顔の医者の顔が刹那に過ぎる。

 こんなロクでもない悪党の自分にも手を差し伸べてくれた人達が居た事に今更気づいて、静かに涙を流す。

 

 ――今まで他者の手を払いのけ続けていた彼が、初めて助けを求める。

 

 拒絶される事を恐れる左手は目に見えるほど震えており――八神はやては力一杯、その手を掴んだのだった。

 

 

 

 

「――ふむ、存外詰まらぬ結果になったものじゃ。いや、八神はやての原作乖離が予想外の方向に働いたと言うべきかね?」

 

 遠くから事の顛末を見届けた『博士』はそう結論付ける。

 この魔都に住まう転生者達の影響を最も受けたのは高町なのはではなく、フェイト・テスタロッサでもなく、八神はやてに他ならないだろう。

 従来通りの八神はやてならば、この結末にはまず辿り着かない。

 

 

「――しかし、此処で八神はやてが死ねば、どう転ぶかね?」

 

 

 科学者たる者のサガか、『博士』はその最悪の未来図を思い描く。

 絶望の淵から唯一の希望を目の前で潰された時、あの第八位は何処に辿り着いてしまうだろうか?

 今度こそ完全に心折れて廃人になるか、絶望と憤怒の果てに『絶対能力』に辿り着いてしまうだろうか、それとも――全く未知の『可能性』に至ってしまうだろうか?

 思ってしまったが最期、如何なる結果になろうがアクセル全開でぶっ飛ばして見たいと思うのは科学者としての『博士』の悪癖である。

 

 ――既にナノサイズの粒子で、特定周波数で自在に操作可能な殺人兵器『オジギソウ』の散布は完了している。

 

 通常通りの第八位ならば事前に察知されて無力化される可能性があるが、今の彼のボロボロな精神状態では気づけないだろう。

 ラジコンを操作する感覚で、今、この瞬間にも主である八神はやてを守護騎士達に気付かれずに骨と服だけに出来る。

 

 ――いや、それでは演出的に風情が無い。

 彼の双子の妹と同じように頸動脈を切り裂いて殺すか、否、その程度の傷では泉の騎士シャマルに治癒される。此処はその素っ首を削ぎ落として――。

 

 

 ずぶり、と。一度だけ聞いた事のある奇妙な異音が響き渡り、『博士』は嘗てと同じように血を吐いた。

 

 

「……、やれ、やれ――」

 

 

 自分の胸から露出する『何か』など今更見るまでもない。

 今の一刺しで内臓という内臓が徹底的にズタボロにされ、果てには自分の行動をある程度縛っていた『穢土転生』のクナイも一緒に粉砕された事だろう。

 

 

「――とんだネタバレだ。視聴者の一人として演出家に文句を言いたい。これではもう見処が無いではないか」

 

 

 『穢土転生』の縛りから解放された『博士』は何の未練無く消え去った。

 彼には元から赤坂悠樹のようにこの世に対する未練など欠片も持ち合わせていない。人知れずに『博士』は一足先にこの劇場から退場したのだった。

 

 

 

 

 ――そして『彼』は全てを投げ捨てた上で完全に敗北した。

 

 至高の存在として君臨した『彼』が宇宙の彼方で何を想うのか、それは神様さえ知り得ぬ事だろう。

 『彼』は何よりも切望した太陽に照らされながら、未来永劫に渡って漂うのみ。

 

 もしも『彼』に悔いがあるとすれば、それは一体何だろうか?

 

 数千年に及ぶ悲願を果たせなかった事だろうか?

 それとも、取るに足らぬと思っていたちっぽけな人間に邪魔立てされて阻止された事だろうか?

 または、憎き神々の奇跡なんてモノに翻弄され、彼の信仰する『力』が最終的に屈した事だろうか?

 

 ――もしくは、鬼眼の力で魔獣と化して、それでも敗北した自分自身の醜態に対して、だろうか?

 

 それは天界に座する神様すら知らない。地上に暮らす人間にも解らない。彼と戦った勇者にも解らない――。

 

 

 

 

「――此方から攻められぬとでも思ったかッ!」

 

 ――『天地魔闘の構え』を崩した大魔王バーンは無数のイオラを撒き散らす。

 

 大魔王自慢の火炎呪文すらそのまま弾き返す光の円を纏っている『竜』の騎士に通用しないのは百も承知、バーン自身も目潰しついでとしか思っていない。

 

 ――先に片付けるべきは目の前の『竜』の騎士よりも後衛の大魔道士、そう決断した大魔王は隙を作るべくイオナズン級の威力が篭められたイオラを幾十と繰り出す。

 

「――ッ!?」

「む……!」

 

 『竜』の騎士は通用しない攻撃を全部無視して此方に斬り掛かってくるだろうが――その竜の如き猛攻を如何に対処するかを思考していた大魔王バーンの予想とは裏腹に、ブラッドは一部のイオラだけ切り裂いて無力化させる。

 切り捨てたブラッドの表情は何とも言えない、苦々しい表情だった。

 

(何故自動的に反射するのに無駄な行為を――いや、待てよ。あの反射角度のまま弾かれればあの魔道士の女の方に飛んで行っていたか)

 

 優先目的から言えば本命だが、今のイオラは大魔王が意図しない攻撃でもある。

 それもその筈だ。あの魔法を反射する魔法を詠唱したのは彼女であるからこそ、自分自身に施せるのは当然の理である。

 だからこそ、大魔王バーンはイオラを視界汚しの弾幕程度としか認識せず、後方援護に徹するシャルロットに生身からの『必殺』を叩き込む算段を練っていたのだが――瞬時にこの法則性に気づく。

 今まで魔法を反射する相手と相対した事が無いが故に、実際に試した事は一度も無いが、大魔王は迷わず行使する。

 その、全盛期の肉体が戻ってからは肉体一つで事足りるが故に使う必要の無くなったある魔法を――。

 

「『魔法反射呪文(マホカンタ)』、そしてェッ! ――『カイザーフェニックス』ッ!」

 

 自らに魔法反射呪文を施した状態で、自らに『カイザーフェニックス』を撃ち放って反射させる。

 それを目にしたブラッド・レイの顔は瞬時に蒼白となり、全速力を持って回避行動を取る。

 辛くも避け切った『竜』の騎士の表情は無傷で対処出来たのに関わらず、極めて険しかった。

 

「今の焦りようで証明出来たも同然だな。一度反射した魔法は反射出来ないッ! ならば――!」

 

 自らに魔法反射呪文を施したまま、大魔王バーンは自身に無数のイオラを撃ち込んで反射させ、全方位攻撃を再び繰り出す。

 今度は唯一つも反射出来ない、イオラズン級の破壊力のイオラが故に、ブラッドは全力で切り捨てながら回避行動に終始する。

 戦局を一変させた大魔王バーンに余裕が戻り――ブラッドの瞳と肌の色を注意深く観測し、未だ暗黒闘気のダメージによって回復呪文を受け付けない状態だという事に気づく。

 

(――余とした事が騙されたものよ。如何に異界の魔法で死の淵から生還したとは言え、暗黒闘気による回復阻害効果は暫くは有効、瀕死の状態で虚勢を張っていたとはな……!)

 

 今ならあの『竜』の騎士を確実に畳み掛けられる。一撃でも当てれば黄泉路に旅立たせる事が出来よう。

 即断即決、大魔王は地を蹴り、一足にて倍速状態のブラッドに切迫する。

 そして刹那に繰り出すは最大の一撃、オリハルコンの剣すら一刀両断する天地魔界最強の手刀――。

 

「――『カラミティエンド』ッ!」

 

 神々が鍛えし『真魔剛竜剣』ごと両断せんと放たれた必殺の一撃は――、

 

 

「――その胸に怒りあるなら、地に眠る者達、大地の激震となれ! クエイク!」

 

 

 周辺一帯の地面が一斉に3メートル近く隆起するほどの大地震によって遮られ、不発に終わる。

 大振動によって動きを阻害された大魔王バーンと、大振動を利用して一飛びに間合いの外に出た『竜』の騎士ブラッドでは噛み合わず――されども、大魔王の行動はあと二手可能である。

 

「……ッ、猪口才な――!」

 

 再び魔法反射呪文を展開し、再び自身に『カイザーフェニックス』を当てて反射させる。

 今度は『竜』の騎士ではなく、詠唱終了した直後のシャルロットを狙って――。

 

「シャルロットッ! 避け――!?」

 

 炎の不死鳥が飛翔する。瞬時に避けられないと判断したシャルロットは両腕で顔をガードして逆に『カイザーフェニックス』に突っ込む――!

 

「無駄だッ! 骨すら残らず灰となれェッ!」

 

 大魔道士ポップのように分解するのではなく、飛び込んで『カイザーフェニックス』を耐え切る事など竜闘気を纏う『竜』の騎士でなければ不可能である。

 

「フフ、ハハハハ、ハァーッハハハハハハハハ……!」

 

 斯くして異界の魔道士は炎の鳥に飲み込まれ――無傷で生還果たす。

 

「――何だと……!?」

 

 シャルロットが『カイザーフェニックス』をやり通せた理由は装備する伝説級のアイテム『賢者の指輪』による全属性吸収の恩恵――ではない。

 煮え滾る溶岩を温泉代わりにする魔軍司令ハドラーさえ一撃で黒焦げに出来る大魔王自慢の『カイザーフェニックス』はもう炎属性というカテゴリーには納まらず、黒魔法最強の破壊魔法『フレア』の原初の炎のような属性無視の域に達している。

 

「……大丈夫、流石に熱かったけど――」

 

 ――シャルロットが事前にセットしたアビリティは時魔道士の『MPすり替え』と陰陽士の『MP回復移動』である。

 

 『MPすり替え』はHPダメージが発生した際、ダメージ分の数値をMPにすり替える。

 今の『カイザーフェニックス』の一撃で彼女の膨大なMPが一瞬にして底に尽きたが、『MP回復移動』を併せ持つ事でMPが0の時に当てられなければ何度でも耐えられる。……恐怖のチョコボ軍団によるチョコメテオ・チョコボールなどで自身のターンが来ずに畳み掛けられなければ――大魔王バーンで言うなら二・三回連続で『カラミティエンド』を叩き込まれれば流石に死ぬしかないが。

 だが、これでは一発の攻撃を何度でも耐えられるだけで、もう彼女に大掛かりな魔法を詠唱するMPは残されていないのだが――これから行う『詰み手』には一切影響しなかった。

 

「それに――もう準備は終わった」

 

 ――既に場は整えられ、発動条件は成立している。

 シャルロットは心の中で『それ』を呟き、前世から会得したものの味方殺しの恐怖から頑なに封印していたある『術』を解禁する。

 

 それには詠唱も必要無ければMP消費も無い。更には魔法を反射するリフレクの影響すら受けない処か、沈黙状態でも発動可能である。

 敵も味方も区別無く、発動条件を満たしているならば等しく対象となる究極の魔法職の『術』、それは即ち――。

 

 

 ――『ハイト3ホーリー』

 

 

 対象となった大魔王バーン、ブラッド、シャルロットの周囲に聖なる光が集う。

 瞬時に反応した大魔王バーンは魔法反射呪文を張るが、聖なる白光は反射せずに無慈悲に降り注いだ。

 

「――っ、ぐおおおおおおおおおおおぉ――!?」

 

 魔法反射呪文を無視して貫通した魔法に驚愕し、敵である自分だけでなく味方にも等しく行われた無差別攻撃に底知れぬ恐怖を抱き――ブラッドとシャルロットだけはダメージを受けずに逆に回復している事に驚嘆する。

 

(……ぐっ、馬鹿な!?)

 

 シャルロットは『賢者の指輪』の全属性吸収の効果で、ブラッドは鎧の下に着込んだ『カメレオンロープ』の聖属性吸収の効果で――それはファイナルファンタジータクティクスにおける一般職の最大のバランスブレイカー『算術』で敵味方纏めて対象にして敵だけを一方的に屠る時に使う常套手段だった。

 

 『算術士』――それは全ての事象を計算で導出する最強の魔法職。

 詠唱が必要な魔法をMP消費無しで即時発動させる『算術』を行使する。

 

 尤もこれは、条件を満たす者全てに効果発動してしまう為、意図せずに自軍にも被害が及んでしまう可能性の高い諸刃の剣である。

 今回の場合は、大魔王バーンのレベルは不明であるからは条件指定不可能、CT(待機時間)からの条件算出はルカヴィのようなボス級なので条件指定不可能、EXP(経験値)も同様の理由で条件指定不可能――わざわざ『クエイク』を使ってハイト(居る場所の高さ)を条件指定が楽な『3』まで上げたのはこの為である。

 

 ――大魔王バーンにとっての悪夢はこれからである。

 

 『算術』による魔法は須らく詠唱無しのMP消費無しで即時発動するもの。

 つまりは、シャルロットが健在な限り、回避も防御も不可能の『ハイト3ホーリー』は常に降り注ぐのである……!

 

「――オ、オオオオオオオオオオオッ!?」

 

 『ホーリー』による聖なる光を食らいながら、大魔王バーンは同じく聖なる光を浴びながら逆に回復する『竜』の騎士と戦わざるを得なくなり――遅れながら、ブラッド・レイが『竜』の騎士の究極戦闘形態である『竜魔人』とならなかった理由を自ずと悟る事となる。

 

 ――此処に至って大魔王バーンは、目の前の『竜』の騎士が魔獣の如く殺気に満ちた竜騎将バランとも双竜紋を持つ勇者ダイとも異なるタイプの、彼等二人に匹敵するか凌駕するほど厄介な、最悪なまでに『人間』らしい『竜』の騎士であると判断する。

 

 その戦い方は己が強大無比な力を誇らしげに自負する強者のモノではない。

 泥水を啜ってでも賢しく策を練り上げて下克上しようとする、絶対的な弱者である『人間』そのものだった。

 ――大魔道士ポップが示した、一瞬、されども閃光のように生き抜く人間の生き方とはまた別の在り方を正統な『竜』の騎士が示すとは皮肉でしかない。

 

 そして大魔王バーン最大の誤算は女の魔道士――『全魔法使い』シャルロットを人間扱いした事に他ならない。

 

「グ、オオオオオオオオオオオオオオォ――!?」

 

 ――止め処無く降り注ぐ聖なる光に慈悲など無く、ブラッドは構わず斬り掛かる。

 ホーリーを受けながら応戦する大魔王バーンの必殺の手刀がブラッドを傷つけても、即座に落ちるホーリーが暗黒闘気の効果ごとふっ飛ばして刹那に回復させる。

 

(これほどの魔力を、人間が……!? 化物め……!)

 

 最早人間の領域を超えて魔の領域に足を突っ込んだ超魔力から繰り出される白魔法『ホーリー』は無慈悲に大魔王バーンの体力を削っていき――ブラッド・レイが人間のような化物ならば、彼女は化物のような人間に他ならなかった。

 

 

 ――天地に雷鳴の如き轟音が響き渡り、古代の神々の戦場が再現される。

 果たして最後まで立っているのは大魔王か、『竜』の騎士と全魔法使いか、神は知らない。雌雄を決するのは神ならぬ、化物のような化物と、人間のような化物と、化物のような人間だけである――。

 

 


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