転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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38/『家族』

 

 

 

 ――斯くして『うちは一族の転生者』の『邪悪』な企みは、より強大な『邪悪』によって最高のタイミングで横合いから叩き付けるどころか舞台ごと引っ繰り返される勢いで呆気無く無情に踏み潰された。

 

 驚愕に染まる『万華鏡写輪眼』に映るは後ろ髪がばっさりなくなった以外、何一つ変わらない『魔術師』神咲悠陽に他ならず――間髪入れず、『穢土転生』した神咲悠陽が反逆し、『彼女』の制御から離れて動向が掴めなくなった。

 

「……どんな『魔法』を使ったの? 『第二』か『第三』、それとも『第五』? まさか『聖杯』を使って『魔法』に至った別の並行世界の神咲悠陽――!?」

 

 『彼女』に殺されて『穢土転生』された『魔術師』と、自由自在に暗躍した『魔術師』。二人の神咲悠陽が存在しなければ今の状況は成り立たない。

 ならばこそあれは、冬木での『第二次聖杯戦争』を勝ち抜いて『大聖杯』を起動して『魔法使い』になった神咲悠陽か、サーヴァントとして召喚されて別の聖杯戦争――冬木での第四次か第五次か、或いはルーマニアでの聖杯大戦、月のムーンセルでの聖杯戦争も考えられるか――『万能の願望機』によって受肉を果たした英霊の彼なのだろうか?

 

 神咲悠陽は嘲笑う。余りにも的外れな解答に滑稽だと言わんばかりに――。

 

「おやおや、型月世界の魔術師に無闇に『魔法』などと口にするものではないぞ。この無限の可能性を秘めた並行世界で『魔法使い』に至った私が存在すると仮定した処でこう答えるだろうさ。『――自分の世界の尻拭いぐらい自分でしろ』とな」

 

 今のこの自分が『魔法使い』でない事を宣言した上で「そんな可能性があるとは思えないがな」と『魔法使い』に至る可能性すら否定する。

 

「ならばあの『穢土転生』は何? 今、此処にいるお前は何!? 私が殺した神咲悠陽は間違いなく神咲悠陽だった。だが、今、此処にいるお前もまた神咲悠陽だ。この矛盾をどう説明する!? お前は――」

 

 自身の願いを打ち砕かれた絶望よりも、こんな理不尽な矛盾による驚愕の解明こそ最優先だと『うちは一族の転生者』は叫ぶ。

 最初から考えるまでもない。あの神咲悠陽に自由行動を許した時点で舞台を引っ繰り返されるのは自明の理だ。だからこそ『彼女』は真っ先に彼を脱落させたというのに、もう一人の神咲悠陽が居るなど、どうして想定出来ようか――。

 

 だが、返ってきたのは退屈そうな――それこそ失望すらしている『魔術師』の顔だった。

 

「――その『万華鏡写輪眼(め)』はどうしようもないほど節穴だな。優秀な癖に何一つ『真実』を見抜けない。いや、生半可に優秀過ぎた為に見たモノだけを『真実』と誤認してしまったのか?」

 

 神咲悠陽は古びた箱から煙草を取り出し、魔術の炎で火を付ける。

 口に咥えずに講釈する様は、出来の悪い生徒に教える教師のようだった。

 

 

「ふむ、確かこうだったかな? 『――お前は死んだ筈だ、なんてお決まりの台詞だけはよしてくれよ。器が知れるぞ。余り、私を失望させないでくれ』」

 

 

 その台詞は『空の境界』にて蒼崎橙子がコルネリウス・アルバに言った台詞であり――『彼女』はこの矛盾の仕組みを電撃的に理解すると共に瞬時に否定する。

 

「ッッ、それこそ在り得ない……! あれが『人形』だって? 自身と寸分違わぬ性能の器など蒼崎橙子以外の人物に鍛造出来るものかっ! お前は『作る者』ではない、『壊す者』だ……!」

 

 ……仮に、自身と寸分違わぬ性能の器を鍛造出来ていたのならば、この状況に至った原因の半分は説明出来る。『穢土転生』された彼自身に疑問は残るが、大体の事は説明出来よう。

 だが、そんな『完璧な自身』を造れるのは『うちは一族の転生者』の知る限り、稀代の人形師である蒼崎橙子しかいない。幾ら同じ世界出身だろうが、いや、だからこそ戦闘特化の魔術師である『彼』が彼女の域に至れるとは到底思えない――!

 

「頭固いな。確かに魔術的手法では蒼崎橙子以外の誰があんな真似を出来るものか。ならばこそ答えは至極簡単――私が『魔術』的な手段で鍛造した、とは一言も言ってないぞ?」

「……、え?」

「解り難かったか? あれは過ぎたる『科学』の産物だと言ったんだよ。『プロジェクト・F』と『学園都市』の科学技術の融合、その完成形だ。尤も完全な複製ではなく、私の意思で動かせる人形だがね。十八年間伸ばし続けていた後ろ髪はその触媒に使われたのさ」

 

 『魔術』ではなく『科学』――『魔術師』から飛び出した爆弾発言に、『彼女』の思考が停止する。

 

 ……確かに、この世界にはその2つの技術があり、発展させれば『真作(オリジナル)』と全く同一の『贋作(クローン)』を作る事は可能だろう。偶発性に頼ったとはいえ『過剰速写(オーバークロッキー)』という前例がある。

 

 だが、しかし、なれども――!

 

「そんな。魔術師の、癖に――」

「目的に最も近い道筋が『魔術』だからこそ我々『魔術師』は『魔術』を学ぶ。だが、それよりも効率的な方法が見つかったのならば、例えばその方法が『科学』なら即座に『科学者』に鞍替えするのが『魔術師』たる者の合理性だ。『魔術協会』で貴族ごっこしている脳の黴びた『伝統派(老害)』からは失われた概念だがね――ほら、『壊す者』らしく既存概念を壊してやってるぞ」

 

 『魔術師』はしたり顔で皮肉を言う。

 『魔術』を信仰すれば信仰するほど『科学』から遠ざかる理は、転生者である『彼』には一切通用しない理であった。

 

 『人形』が『彼』が世界を超えても終生持ち歩いた『聖杯』を持っていなかったのは、至極当然の事だったという訳だ――。

 

「――っ、仮にそうだとしても何故こんなにも都合良く……!」

「ふむ、確かに私は君の介入だけは予測出来なかったが――この事件の発端、君の介入を招いた『闇の書の欠片事件』が偶発的事象だと勘違いしているのならばそれは大きな間違いだ」

 

 この事件の発端は、ディアーチェ達が独断でシステムU-D『砕け得ぬ闇』を取り戻そうとした――『魔術師』にとっても予期せぬ事象だったが故に、駆けつけるまでに無理な強行軍を強いられ、『うちは一族の転生者』に暗殺される隙を生じさせた。

 

 だが、派遣されたのが最初から『人形』であるのならば、これは最初からそう仕組まれていたという前提で考えるのが自然であり――。

 

「『闇統べる王(ロード・ディアーチェ)』を焚き付けて暴発させるぐらい同居人の私にとっては何という事も無い。まぁそれ事態はどうでもいい一欠片だ。説明の上では後々必要だがね――君が道化になった原因はね、実は一秒差だったんだ」

「……一秒差、だって……?」

「そう。君はあと一秒、傍観していれば良かったんだ。君が何もせずとも、あの器は機能停止して死を装う手筈だった。そうすれば君は私の偽装死ぐらい簡単に見抜けた筈なのにね」

 

 「正直自分以上に運の無い奴がいるとは思わなんだ」と『魔術師』は心底憐憫する。

 

 

「――最初から『闇の書の欠片事件』は、私の死によって誘発する多種多様の問題に他の者達が対処出来るか、それを試す為の脚本だったのだよ。君の介入によって脚本の書き直しを要求されたが、まぁ私の立ち位置は同じだ」

 

 

 『うちは一族の転生者』はそうとは知らずに、無自覚の内に『魔術師』の『巨大な歯車(シナリオ)』に組み込まれていたに過ぎない、という事になる。

 偽装死するにあたって『魔術師』の事前準備は万全であり、あの『人形』の『魔術師』を殺害した段階でこの敗北は決定していたのだ。

 

「原作と仕様の違う『穢土転生』は君の完全な落ち度だがね。君の『穢土転生』からして仕様がおかしい。魂を分解された我が娘を呼び寄せる時点で死者の魂を口寄せするのではなく、世界からの『情報』を口寄せて再現させている類なのだろう? 死徒二十七祖の第十三位『タタリの夜』に酷似していたのが運の尽きだったな、それは対策済みだ」

 

 『彼女』の『穢土転生』は、大蛇丸が『木ノ葉崩し』の時に歴代火影を口寄せした光景を鴉に変化した影分身が見た結果、自らの術へとコピー出来たものである。

 

 ――だが、『彼女』は疑問に思わなかったようだが、あの最悪の禁術『穢土転生』は通常の写輪眼で見ただけでコピー出来る類の術だろうか? 否である。

 

 『彼女』自身、今まで考えもしなかったし、それ故に検証の余地すらなかった。

 コピーした術が正規のものなのか、それとも『彼女』の『万華鏡写輪眼』の効果で似たような効果を持つ術に過ぎないのかなど――本来模写出来ない術を独自法則で模写出来るという反則性が今回の敗因の一つとなる。

 

「廃棄予定の器を廃棄直前に殺害したという『大凶』を引き当てたのは同情の余地があるが、あれを『人形』だと見抜けなんだのは君の二つ目の落ち度だ。あれの『魔術刻印』はクロウ・タイタスから徴収した『ジュエルシード』による代用品だというのにな」

「――そんな、馬鹿な。その事にこの私が気づかない筈が……っ!?」

「三つ目の落ち度は我が娘、神咲神那を口寄せした事に尽きる。あれは一見して気狂いだが、私の全てを刻んだ唯一の後継者だぞ? 随分と手酷く騙されたようじゃないか」

 

 殺した『魔術師』の『魔術刻印』を神咲神那が自身に移植すると宣言した際、『彼女』は視るのを止めた。

 『魔術刻印』の移植は臓器移植に等しい行為だ。本来ならば徐々に少しずつやっていくものであり、それでも拒絶反応が生じて苦痛が走る。それを幾千幾億の転生から実体験として知っている『うちは一族の転生者』は一気に移植する事が拷問どころの騒ぎじゃない事を身をもって思い知っている。

 だからこそ、そんな暴挙など目にもしたくないと『万華鏡写輪眼(め)』を背けた結果――神咲神那の思惑通り、『魔術刻印』が『ジュエルシード』によって代用している事を隠し通す事に成功する。

 普段から従順そうに気狂いの様を装っていたのは、神咲神那が『うちは一族の転生者』を騙す機会を虎視眈々と覗っていたからである。

 

 あの親にしてあの娘あり、何方にしても意にそぐわぬ者の下につくなど在り得ない選択肢である。

 

 敗北感と絶望感に心折れる寸前に追い詰められながらも、『うちは一族の転生者』にはまだ疑問が残っていた。

 

「――在り得ない。お前は、私の視た『魔術師』神咲悠陽は自分の死後を憂いるような人間ではなかった……!」

 

 ……そう、何がおかしいと言えば、その発端がおかしい。

 この男には誰かに託す希望など持ち合わせていない。自分が死ねば其処までという冷めた死生観の持ち主の筈だ。それが自分の死後を憂いて、偽装死まで織り込んだ脚本を書き上げた動機が余りにも理解出来ない――!

 

「別に不思議な事ではないだろう。『家族』の行く末を案じる事ぐらい私もする」

「……『家族』? 『家族』ですって? それはこの世界で『血』しか繋がってない『家族』の事? それとも自分の手で殺した娘の事?」

 

 余りにも突拍子の無い言葉が飛び出し、『うちは一族の転生者』はまともに受け答えしてないと判断して怒りを露わにする。

 『彼』にとっての『家族』が如何なる存在であるかは『彼』の辿って来た人生を視れば一目瞭然だ。一回目においては幼年期に別れたろくでもない両親、二回目においては『尊属殺し』を三度させた愚者であり――その点については『魔術師』は感情無く肯定する。

 

「三回目の『転生者』という立ち位置の私に『血』の繋がっているだけの赤の他人を『家族』と認識するのは難しい。前世の悔いから最低限の義理は果たすが、所詮はその程度の存在だ。私の行動原理の根本には成り得ない」

 

 『魔術師』神咲悠陽が思い起こすのは、捨てられて『神父』に拾われた夜、冬川雪緒と最初に殺し合った後の居酒屋、シスターと別離した夜、プレシア・テスタロッサをお見舞いに行った最初で最後の昼下がり――『彼』が死んで英霊に成り果てる世界線の師弟に告げた言葉――であり、『彼』は少しだけ自嘲しながら万感の想いを口にする。

 

 

「――うん、神咲悠陽の抱く『家族』の条件とはね、血縁ではなく、同じ釜の飯を食った相手なんだよ」

 

 

 それが一回目では理不尽に離別し、二回目では不条理に殺害し、三回目では生まれた直前に生き別れた『彼』が、転生者としての観点から出した一つの結論である。

 三回目の転生者として、二回目の転生者の姿形のまま生まれた『彼』にとって血の繋がりなどを『家族』の定義には出来ない。元より自身の血を引く者など例外の中の例外である彼の娘を除けばこの世界に存在しない。

 

 幾ら憎んでも、幾ら疎ましいと思っても、結局は世界を超えても執着しているという事であり――。

 

「……何、それ? ふざけてるの? その冗談でも笑えない世迷い事は明らかに矛盾している。ならば何故、その『家族』と該当する者と悉く殺し合っている?」

「別に『家族』と殺し合う事ぐらい日常茶飯事だろう? 愛しくても憎しんでも『家族』は『家族』だからな。それに私は型月世界の『魔術師』だぞ? 既に『家族殺し』なんて前世で散々経験している」

 

 ――結局は、『彼』の動機は一回目の世界からの『代償行為』である。

 神咲悠陽はその核心部分を口にせずに自身の胸にだけ秘める。

 

「……君にとっては、いや、数多の者にとっては些細な事だが、私にとっては命を賭けるに値する理由となった。ただそれだけさ――」

 

 未練がましい動機だと『彼』は自嘲する。

 二回目の世界において切望した故郷に生涯帰れなかった『彼』だからこそ、『家族』達の故郷となった『海鳴市』をどんなに『邪悪』な方法を使ってでも死守する。

 

 ――これがこの世界での神咲悠陽の行動原理である。

 

「君の即興詩は完全に粉砕してやった。次の出し物は何だ? もう無ければ――役目の終えた役者は舞台から退場して貰うしかないな」

 

 火の着いたまま手付かずの煙草を片手に、お喋りは終わりだと死刑宣告を下す。

 

 ――確かに、『うちは一族の転生者』の企みは『魔術師』によって完膚無きまでに焼き払われた。

 

 もう今のこの『彼女』には自身の望みを達成させる為の余力が無いし、このまま消え去る運命に逆らえない。

 だが、それがどんなに細い道筋だろうとも、僅かな可能性がある以上、『彼女』に諦めるという選択肢は無い。例えこの身が『希望』という炎に焼かれても――。

 

「……まだよ。まだ終わっていない! 私の手には豊海柚葉が残っている。さぁ、秋瀬直也。愛しの彼女の命が欲しければ――」

 

 そう、まだ勝機はある。人質となっている豊海柚葉を上手く使って立ち回れば――本物の『彼』が持ち歩く『聖杯』か、秋瀬直也が持つ『矢』でもいい。何方かを奪えば、まだ活路はある。

 だが『魔術師』は大笑いした。腹を抱えてくの字に曲げて、頑なに瞑る両眼に涙さえ浮かべて――。

 

「……何がおかしい!」

「何がって、これで笑うなという方が無理だろう!」

 

 ――おかしい。『魔術師』としても秋瀬直也と敵対したくない筈だ。

 

 『うちは一族の転生者』にとって不倶戴天の天敵であるように、『魔術師』にとっても秋瀬直也は不倶戴天の天敵だ。秋瀬直也はどうしようも無いぐらい『悪』に対する天敵であり、そのスタンド能力もまたどうしようもない反則的なものだ。単純な戦闘になったら一瞬で詰むぐらい解っている筈なのに――。

 

 

「君も十二分なまでに存知だろうに。――『悪党』に人質なんざ通用しねぇんだよ」

 

 

 清々しいぐらい邪悪な嘲笑をもって『魔術師』は一度も口にしていない煙草から魔力を送り――紫煙舞う上空に巨大な魔術陣が姿を現す。

 突如全容を現したAランク以上の大魔術はこの校庭全域を焼滅させるに足る威力を持たされており――『魔術師』による種明かしはこの大魔術を構築する為の時間稼ぎに過ぎなかった事を『うちは一族の転生者』は一瞬で理解する。

 如何な『万華鏡写輪眼』と言えども当人が視なければ意味が無い。煙草の煙を利用し、上空で風力操作などで陣を構築していたとは――だが、まだ詰みではない。

 

 あの程度の大魔術ならば『万華鏡写輪眼』の瞳術の一つ『須佐能乎』の絶対防御の前では――否、これは衛宮切嗣の魔術礼装である『起源弾』のように防いだ瞬間に詰んでしまう類の悪辣極まる一手だと歯軋りを立てる。

 

(――おのれ、おのれおのれ『魔術師』……!)

 

 この広域を焼き払う大魔術は人質諸共『うちは一族の転生者』を屠る目的に放たれたものではなく、人質の存在で身動きが取れなかった秋瀬直也に目に見える人質の危機を与えて――選択の余地を一切合切奪って彼を突撃させるものである。

 

(っ……!)

 

 事実、『須佐能乎』の絶対防御頼りで立ち止まったのならば、突撃する秋瀬直也の『レクイエム』によって『須佐能乎』を打ち砕かれ、三人仲良く黄泉路に辿る処であり――であるからに『うちは一族の転生者』がこの刹那に取れる行動は一つ、決死の覚悟で迫り来る秋瀬直也に豊海柚葉を突き飛ばし、出来る限りこの領域から離脱するのみである。

 

 ――だが、それは自らの唯一無二の勝ち筋を自分から捨てる事であり――。

 

「――柚葉ぁッ!」

 

 自身に向かって突き飛ばされた豊海柚葉をその両の手でキャッチして抱き締めた秋瀬直也は、漆黒の闇夜から迫り来る破滅の炎に対して、自身のスタンド『蒼の亡霊・鎮魂歌(ファントム・ブルー・レクイエム)』の渾身の拳によって殴り飛ばす。

 『魔術師』渾身の儀式魔術『原初の炎』は幻か陽炎が如く四散し――。

 

「『魔術師』ッッ! テメェなぁ!」

「私は信じていたぞ? 秋瀬直也、君なら間違い無く彼女を助け出してみせるとな――」

 

 

 

 






 SG・2『家族』

 一回目においては幼年期に両親共に彼の前から消えて、『愛』というモノが空虚で無意味なモノだと幻滅させた。
 二回目においては誕生と同時に母親を『魔眼』で焼き殺してしまい、魔術師の常識を理論武装する事で『人間性』を喪失し――『第二次聖杯戦争』を経てそれら大切なモノを取り戻した後は『聖杯』を死蔵する事を許さなかった父親を焼き殺し、復讐に燃えた妻たる妹を焼き殺す事で『尊属殺し』を三度も犯す事となる。
 三回目においては転生者を間引いていた医師を『魔眼』で焼き殺した事により、生後間もなく捨てられ――一回目の実の娘にして二回目の実の娘、三回目において妹として生まれた神咲神那をこの手で屠って看取る事となる。

 血縁での『家族』は彼の天敵であり、彼自身もまた血縁での『家族』の天敵である。

 最早呪われた宿縁だが、この魔都『海鳴市』における彼の行動原理は過剰なまでの『自己防衛』の題目に隠された――捨てても捨て切れぬ『家族』への複雑な想いからなる代償行為である。

 ――そう、この三回目の世界においてやっと彼は『家族』を得る。
 血縁によらぬ『家族』であるが故に呪われた宿業を逃れ得る者達を――。

 それは捨てられた彼を引き取った『神父』であり、三回目の『転生者』が集った『教会』の前身の『孤児院』に居た『シスター』を始めとした転生者達であり、初めて自らの本音を打ち明けた冬川雪緒であり――だからこそ彼は『家族』の生きる魔都『海鳴市』を持てる能力の全てを行使して死守する。
 これが正体不明の黒幕として自由自在に暗躍するよりも魔都『海鳴市』の表舞台に現れて全ての矢先を自身に集中させた悪手の理由である。



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