転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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■■■編 ~海鳴決闘都市編~
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「……何だこれ?」

 

 朝、目が覚めると机の上に変な機械らしき物体が置かれていた。

 縦10cm横20cmぐらいの長方形の映像表示装置。少し大きめのスマートフォン――いやいや、この年代には明らかに『オーパーツ(場違いの工芸品)』であり、だとすると『転生者』の持ち物なのだろうか?

 ……仮にそれが誰かの生前の持ち物だったとしても、それが何故オレの処に唐突に置かれているのか、全くもって訳が解らない。いや、それ以前に睡眠中に何者かの侵入を許したという事実の方が重大問題か。平和ボケしていた意識を振り払い、警戒度を数段上げる。

 

「……んー、侵入者の形跡無し、か。素人の犯行じゃないな」

 

 窓に損傷は見当たらない。鍵もついたまま、つまりは完全な密室だった――と探偵物ならお決まりの文句だが、基本的に何でもありの『転生者』にその程度の常識は捨ててしまった方がマシだろう。オレの寝室が二階にあっても何のそのだろう。

 

「……となると、この『謎の物体』をオレの前に置く事が目的だった……? 厄介事の匂いがぷんぷんするなぁ」

 

 気休め程度だが、この『謎の物体』はオレがこの世界に持ち込んでしまった『矢』以上に厄介だという事は無いだろう。凄く安心した。

 

「推理材料はこの『謎の物体』だけか……よし」

 

 虎穴に入らずんば虎児を得ず、とりあえずスタンド『蒼の亡霊(ファントム・ブルー)』を出して触ってみる。

 持ってみると見た目以上に軽く、右部分の少しだけ露出した角のパーツが可変式で、普段は収納されているようだ。出してみると長方形の本体に三角形の出っ張りが現れ――左側にも開くギミックがあるようだ。

 こっちも開いてみると同じ三角形のパーツだが、何かをはめる窪みがある。一体何を挟むのかは解らないが、今現在は空のようだ。

 

「……結局、これが何なのかが解らない、か」

 

 ……それ以上の事は解らない。起動ボタンらしきものは発見したが、迂闊に起動させて大惨事になっても困る。大惨事になっても特に問題無い場所――『魔術師』の屋敷とか――で試そう。『魔術師』の事だから、こういう『謎の物体』に興味を示すだろう、多分。いや、それ以前に柚葉に見せたら『シスの暗黒卿』的な直感で二弾飛ばしで真実を突き止めるに違いない。

 他に何か異変が無いか、具体的には机の下に隠してある柚葉とのデート資金が荒らされてないか、その他も含めて部屋中を確認したが、変わった点は無い。『謎の物体』という不審物がある以外の異常は無かった。

 

「……とりあえず、学校行った後に『魔術師』の屋敷に訪ねるか」

 

 学生である以上、学校に行くのが一番の仕事だ、とこの時のオレは楽観視してこの『謎の物体』を鞄の中に入れた。

 

 ――この異変がオレの想像を遥かに超える規模の『大異変』だと気づいたのは、私立聖祥大付属小学校に辿り着いた頃だった。

 

 

 

 

「――え?」

 

 ……何が何だか訳が解らない。

 登校途中にもちらほら見て目を疑ったが、どうして皆が皆、左の腕に『謎の物体』を装着しているんだ?

 いや、何だこの違和感は。そう、まるで逆だ。登校途中で遭遇した生徒達から揃いに揃って困惑した眼差しを向けられる。揃いも揃ってオレの何も無い左腕を見て、首を傾げる具合に。

 

 ――そう、何であの『謎の物体』を装着してないんだ?と言わんばかりに。

 

 一晩経ったら皆が皆――小学生からサラリーマン、果てには老人まで――『謎の物体』を利き腕以外に装着しているのが世界の日常になっていた? そんな馬鹿な。一つ隣の『並行世界』に迷い込んだ気分である。『宝石』の『魔法使い』に化かされたか?

 正体不明の焦燥感が歩む足を先へ先へと急がせ、普段より10分以上早く登校してしまった。

 自分のクラスの教室前に、『魔術師』と同じぐらい頼りにしたい豊海柚葉の姿はまだない。逸る気持ちを抑え、教室で自分の席に座って落ち着くとしよう。

 

「直也君、おはよう!」

「ああ、おはよう、なの――」

 

 思わず絶句する。クラスメイトの高町なのは、アリサ・バニングス――最近になって登校してきた月村すずかの三人娘はいつも通りだったのに、三人とも、利き腕じゃない腕にあの『謎の物体』を装着しているゥ――!?

 何なんだ、何なんだあの『謎の物体』はァァァァァ!?

 

「……何なの? そんな幽霊でも見たような眼でもして。って、秋瀬、アンタ『デュエルディスク』はどうしたの?」

「……へ? でゅえるでぃすく?」

 

 アリサから飛び出した意味不明の単語に、頭が真っ白になる。今、このツンデレ娘は何て言った。『デュエルディスク』? 決闘円盤? え? いや、それ何処かで――。

 

「あああああああああ! ゆゆゆ、『遊戯王』だーっっ!」

「わっ!? 突然叫ばないでよ!?」

「す、すまん、アリサっ」

 

 何か見た目が一致せず、コンパクトになりすぎていたが――この『謎の物体』の名前が『デュエルディスク』である以上、あの『遊戯王』に登場したトレーディングカードゲームなのに立ったままゲームが出来る革新的発明品じゃないか!?

 鞄から『デュエルディスク』を取り出し、左腕の押し付け――自動的にリストバンドが出現して固定されてフィットし、カードを置くスペースがソリッドビジョンで展開される――ってこれ質量のあるソリッドビジョン!? 実際に触れれるしそうっぽい! すっげー!と興奮した最中。

 

 ――ブッブー、と機械的な音が鳴る。主に何かやってはいけない事をやってしまった時に鳴るタイプの嫌な音である。

 

「……へ?」

 

 画面を覗き込んで見ると――デッキ及びエクストラデッキがセットされていません、という趣旨の警告文章が。

 

「……アンタ、デッキどうしたのよ?」

「いや、今日起きてから、最初から無かったんだが」

「はぁ!?」

 

 アリサが信じられないほど驚き、そして何故か知らないが、クラス全員を巻き込むほどの大騒ぎとなる。

 え? 何で? どうしたんだ、皆。たかがカードだろ?

 

「盗まれたの!? 『決闘者(デュエリスト)』の魂をっ! ……っ、朝から反応がおかしいと思ったら……!」

 

 何か納得行ったという風に解釈するアリサに「お、おう」と認識の温度差を激しく感じる。

 そしてクラスの反応も酷く同情的であり、何か知らないが、嘗て無いほどの一体感を覚えると同時にこれ以上無い疎外感が胸に染みる……!?

 い、いや、大袈裟だろ、皆……?

 

「――話は聞かせて貰った」

「え? せ、先生!? あ、いや、その……」

 

 と、いつの間にか背後にいた先生が真面目な表情であり――いや、最初から心当たりが皆無なものだから、盗難事件として事を大きくしたくないのだが!?

 

「自らの魂であるデッキを盗まれるなど『決闘者』にあるまじき失態だ。何も言わなくて良い、解っているとも。――今日は公休扱いにしておこう」

 

 え? 何? どういう事なの!? その省略した処を全部説明してくれ!? 一体全体どうなってやがるんだ!? まるで意味が解らんぞッ!

 

「先生! 私も直也君の手伝いを――」

「駄目だ、高町。いや、他の皆もだ――お前達の気持ちは秋瀬に十分伝わっている。だが、しかし、奪われた『魂』を取り戻せるのは己が手のみだッ! それでこそ『決闘者』としての誇りを、矜持を全う出来るだろう!」

 

 「おおっ!」と皆、凄く納得している――つーか、先生ってこんな性格だったけ? 何かカードが全てを優先するという風潮が常識ぽくて非常に怖いのだが。

 

「さぁ、行くが良い! 真の『決闘者』ならばカードの方から導いてくれるだろう!」

 

 ……こ、こうしてオレは誰の支援も得られぬまま、クラスの(重すぎる)期待を背負って無一文の状態で『自らの魂(デッキ)』奪還の旅に出たのだった。魔王討伐の旅に出される『ドラゴンクエスト』だってもうちょっとマシな初期条件だろうに……。

 というか、情報収集ぐらいさせてくれよ。オレは奪われたカードの内容すら知らないのにぃ……。

 

「……な、直也君……!?」

 

 と、皆に見送られて廊下に出ると、其処には柚葉がおり、更に言うならば、オレの左腕に装着した『デュエルディスク』を見て心底絶望に打ち震えた顔になった。この反応はまさか――!

 

「――朝起きたら『遊戯王』の『デュエルディスク』が共通装備になっていた。オレと同じ認識だよな、柚葉……!」

「え、えぇ……良かったぁ。直也君にまで『当たり前だろ』って言われたらどうしようかと……!」

 

 おぉ、良かった。これで柚葉にまで『当たり前でしょ、『決闘者』なら!』と言われた日にはSAN値が0になる処だった!

 そうだ、間違っているのはオレ達じゃない、世界だ!と強く確信し、心底安堵する。柚葉と一緒ならばこの狂った世界も何やかんやでどうにかなるだろう! 頼もしい限りである。

 

「そ、それでさ、直也君」

「どうしたんだ?」

 

 らしくない反応に首を傾げる。何でそんなに借りてきた猫みたいな態度なんだろう?

 もっとこう、いつものように自信満々で傲岸不遜な笑みを見たいのだが。

 

「……私、その、『遊戯王』の事、全く解らないんだけど」

 

 ジーザス……あ、これ完全に詰んだんじゃね?

 

 

 遊戯王編 ~海鳴決闘都市編~

 00/おい(遊戯王二次小説なら)『決闘(デュエル)』しろよ

 

 

 


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