転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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01/決めろ尊き融合召喚! チュートリアルデュエル!

 

 

 

 ――そうして、幸運な事にも誰にもエンカウントする事無く『魔術師』の屋敷に到着した。

 

 ほっと一息吐いて入ろうとしたが、どうにも柚葉が微妙な顔をして渋った。

 さもあらん、今まで一度足りとも『魔術師』の屋敷には足を踏み入れなかったし、やはり『魔術師』相手だと色々思う処があるのだろう。

 

「……えと、私も入るの? 絶対に嫌――」

「あれ、柚葉じゃん」

 

 こんな処にいられるかっ、オレは部屋に残る!という典型的な死亡フラグを建てる前に、扉が独りでに開き、現れたのは12歳ぐらいの――何処か『魔術師』の面影を見せる赤髪の少女だった。

 

「げっ、神那……!」

 

 まるで親友のように気軽に声を掛けた赤髪の少女とは違い、柚葉はぎょっとした顔で表情を歪ませる。

 ああ、そういえば今まで話す機会が無かったが、彼女は――。

 

「確か『魔術師』の娘、だよな? 知り合いだったのか? 柚葉」

「そ、それは……」

 

 物凄く言い辛そうな顔をする柚葉に対し、赤髪の少女、神咲神那は笑顔で答える。

 

「うん、そうだよ。共謀してお父様を騙して謀殺された仲だよ!」

「うわぁ、身も蓋も無い上にろくでもねぇ!?」

「……うっ、確かにその通りだけど……!」

 

 ……何か色々省かれているが、それに突っ込む勇気は無い。柚葉の為にスルーする。

 にやにやと何処かの誰かを思わせる邪悪な笑顔で柚葉の微妙な反応を堪能した後、その視線の矛先がオレに降り注がれる。……なんでこう、真顔で眺めていらっしゃるのかな?

 

「それにしても君が秋瀬直也君かぁ。直也君で良い? 私の事は神那でいいよ」

「あ、ああ、よろしくな、神那」

「ふーん、へぇ、ふぅーん、なるほどねぇ、お父様からの評価が異常に高い『転生者』だとは知っていたけど……」

 

 いや、『魔術師』から異常に評価が高いって、そんな怖い話聞きたくなかった……!

 オレ達は9歳、そして神咲神那は12歳、頭一つ分だけ上から見下ろした状態でオレの顔を覗き込んだ後、にやりと神咲神那は柚葉を見て嗤った。あ、嫌な予感というか直感がする。

 

「――ねぇねぇ、柚葉。直也君貰って良い?」

「駄目ッ! 絶対に駄目ッッ!」

「あははっ! 冗談だよ冗談。私はお父様一筋だし。――いやはや愛されてるみたいだね、直也君。まさかあの柚葉がこんな初心な反応するなんて!」

 

 あの柚葉をからかい、目の前で大爆笑する。柚葉も顔を真っ赤にして怒りで震える。

 

「……ああ、うん、お前って本当に『魔術師』の娘だなぁ……」

 

 率直な意見を述べたら、何故かぱぁーっと破顔して天使の如く微笑む。あれ、これ褒め言葉だったの?

 とにかくこのままじゃ話が進まないし、後ろからの柚葉のプレッシャーが怖いのでわざとらしく咳払いして話を進める。

 

「それで『魔術師』に用があるんだが」

「それじゃ私が案内してあげよう。――あ、柚葉もついでに来るー?」

 

 本当についでの如く言われて挑発され――柚葉が直情的に行動した自身を全力で後悔するまま、オレは柚葉を連れて『魔術師』の屋敷に踏み込んだのだった。

 

 

 

 

「――意外と早かったじゃないか。学校が終わった後だと予想していたのだがな」

 

 最初に訪れた頃に比べれば随分と賑やかになったものである。

 左側のソファには専有出来ずにげんなりするランサーと紫天一家(ディアーチェ・レヴィ・シュテル・ユーリ)勢揃いに、お茶やお茶請けを忙しく持ってくるエルヴィ、そして『屋敷』を案内してくれた神咲神那に『魔術師』――って、あれ? 何か物凄い違和感が。

 

 最初の第一声からして何か知っている風だが、いつもの奴と何かが違う? 最近切った後髪はそのまま、和服にブーツもそのまま、目はどんよりと邪悪の色に染まって、って、は!?

 

「って、ちょ、おま!? 魔眼開いてるとか殺す気かッッ!? 無言の宣戦布告……!?」

「問題無いぞ? 今の私の屋敷は永続罠『スキルドレイン』によって効果が無効化されている。つまりは私の制御不能の魔眼の効果も無効化されているお陰で、晴れて裸眼で生の視覚情報を満喫している訳だ」

 

 ……道理で妙なほど機嫌が良い訳だ。こっちは寿命が縮まったぞ。

 しかし、いつもは両眼を瞑っている男が開眼しているとは、何か起こる前兆――いや、もう既に何かが起きていたか。

 

「……オレ達が来る事を予想していたって事は、この『異変』の事にオレ達と同じように気づいてるんだな?」

「いやはや、さしもの私も豊海柚葉と一緒に来るとは予想してなかったよ。其処から何通りかの可能性は推測出来るが、本筋では無いからどうでも良いな。――その質問の答えには『そうであり、そうでない』と答えようか」

 

 ん? 随分と曖昧な解答だ。完全に『異変』に置いていかれているオレ達とは何か違う視点を持っているのか?

 

「君達は今回の『異変』、突如起こった世界法則の改変の影響を一切受けず、無意識の内にキャンセルしたんだろう? だから全てが『決闘』で解決する『遊戯王』の世界法則に改変される前の記憶しかない。――私の場合は意図的に半分受け入れたが故に改変前も改変後の記憶も両方保有している状態にある」

 

 何か良く解らないが「説明係としては最適のポジションじゃないかな?」と当人の言う通り、今回の『異変』を見通せる立場にあるのだろう。

 

「という事は、何が原因なのかも全部解っているのか?」

「何もかも把握しているよ。開示しないけど」

「はぁ!? ど、どういう事だよ?」

 

 雲行きが怪しくなる。原因も何もかも解っている立場なのに『魔術師』が行動に出ていない時点で今回の『異変』を軽く見ているか、または動かない事に『利』があるという事なのか……?

 『魔術師』の事だから確実に後者だろう。

 

「今回の一件で私自身が直接関与する事は一切無い。全部君に任せよう。あ、気持ち遅めに解決してくれたまえ。研究材料が多すぎて目移りしているからね」

 

 ……この時点で、『魔術師』のやる気は別の事に注がれており、この『異変』解決に対して役に立たない事が確定した。

 だが、何の成果もありませんでした、では帰れない。何としても解決の糸口ぐらいの成果らしい成果をもぎ取らなければ……。

 

「……いや、解決するとか言っても方法も道筋も解らんから此処に来たのだが……」

「方法も道筋も明確に示されているではないか。今、この世界のルールは『遊戯王』だ。ならばこそ、単純に『決闘』すれば道は開かれるだろう。幾多の『決闘者』の屍を踏み越えた頃には『黒幕』の方から勝手に現れるさ」

 

 ……気のせいか、普段から見たら在り得ないほど『デュエル脳』になってないか? 『魔術師』。まさかと思うが、抵抗したつもりで抵抗判定失敗してないか……?

 

「……それだがな、そもそもカードが無いのだが。オレの『デュエルディスク』には一枚も収納されてなかったぞ?」

「……は? よりによってあの『デッキ』が無い? そっちの方が大惨事だろうに。一体誰に奪われたのやら――ふむ、仕方あるまい。解決役にデッキが無いのでは物語が始まらないからな」

 

 ……ふむ、『魔術師』はオレの『デッキ』が何だったのか、知っているのか。

 一応どんなのだったか聞こうとした最中、『魔術師』が何もない空間に手を突っ込み、カードの束を取り出してオレの前に置く。

 タイミング逃した感があるが、それらを手に取る。

 

「――カードは貸した。まぁ返さなくて良いよ。どうせ君がこの『異変』を解決すれば跡形も無く消滅してしまうだろうから」

「あ、ああ、ありがとう……?」

 

 妙なほど親切すぎて本当に『魔術師』か疑いながらも、デッキの内容を確認する。

 

「デッキを把握しながら聞け。――何か気づいた事は無いか?」

「何かって……スリーブしてないのか? そのままじゃカードが痛むんじゃ――あれ? 集英社のロゴと収録されたパック名が表示されていない……? アニメ基準なのか!?」

 

 隣にいる柚葉が首を傾げる中、『魔術師』は無言で頷く。

 というか、このカード、何の材質で出来てるんだ? 本当に紙かと疑いたくなる。スタンドで投げたら刺さりそうだぞ、これ。あと、何か知らないが、このデッキから言い知れぬ威圧感を覚える。

 ……まさか、アニメと同じようにモンスターの精霊が宿っているとか、そんな事は無い、よな?

 

「半分はそうだな。だが、カードの効果は全て『遊戯王OCG』基準だ。それに加えてカードは買うものではなく、主に拾うものだ」

「……え? どういう事?」

「刷っている企業が存在せず、いつの間にか存在しているという事だ。その原因は考えるだけ無駄だから改変された世界法則の概念だと思え。と、此処からが重要なポイントなんだが、それ故に禁止制限が無い」

 

 

「……え゛?」

 

 

 何か今、致命的にヤバイ事を聞いた気がするが、脳が受け付けない。嘘だと言ってくれ『魔術師』!

 

「制定する存在がいないし、遥か先の未来のカードまであるんだ。どの時期の改定を基準にするかなんて誰も決めれないだろう。――同じカードを3枚まで、という基本的な事以外は無法地帯になっているのは当然と言えば当然だ。君に貸したデッキにも禁止カードが何枚か含まれているぞ」

 

 やはり世界法則が『遊戯王』になっても『魔都』は『魔都』だったらしい。此処の環境は誰も体験した事の無い未知の脅威に満ち溢れている事が確定した瞬間である。

 唯一の救いは「まぁ後々にエラッタされたカードはエラッタ後のテキストだがね」という『魔術師』の一言であり、環境をカオス一色で染め上げて第一の暗黒期にした《混沌帝龍》や《混沌の黒魔術師》の脅威は消え去り、《ダーク・ダイブ・ボンバー》で爆殺される事は無くなっただろう。

 

「あともう一つ、『闇のゲーム』についてだが――」

「『闇のゲーム』?」

「『遊戯王』伝統の命懸けのゲームの事だが、この『魔都』では流行っていない」

 

 柚葉の反応に気づきつつ、『魔術師』はくつくつと邪悪に笑う。……ああ、柚葉は『遊戯王』の事に精通してない事を見通した上で「苦労するだろうなぁ」という愉悦部特有の笑みである。

 だが、それに反して述べられた事は真逆の事である。禁止制限全てを取っ払った世紀末環境の他に『闇のゲーム』が日常茶飯事と思いきや、違うのか……?

 

「……どういう事だ?」

「本末転倒になるからだよ。本来『闇のゲーム』は勝負の結果、命を落とすものだが、此処では趣旨が逆転して対戦相手を殺せば勝利となってしまってな――『遊戯王』というルールで束縛する事で『転生者』の特異性を完全封殺しているのにそれを発揮させる場を態々用意しては本末転倒だろうよ、という話だ」

 

 ……あー、言われてみれば納得する。

 目の前の『魔術師』とか、柚葉なら真っ先にやりそうだ。彼と彼女に『闇のゲーム』を挑もうものなら、あの手この手でゲーム外での即死攻撃(物理)がいつでも飛んでくるだろう。それも『決闘』を利用した上で確殺しに来る事は目に見えている……。

 

「……ああ、うん、なるほど。すっごい納得した」

「何故私と豊海柚葉の方を交互に見つめながら納得したのかはさておき、万が一『闇のゲーム』を仕掛ける奴が居たのならば容赦など必要あるまい。そんな奴は『決闘者』じゃなく『リアリスト』だからな、そんな自殺願望者はお望み通りに屠ってやれ」

 

 説明を聞きながらデッキの内容確認が終了した。見た感じ結構戦えそうである。禁止カードも6枚ぐらいあるし。

 デッキの初期枚数が51枚なのに引っかかりを覚えるのと、エクストラデッキがほぼシンクロモンスターに偏っているのは気になるが――。

 

「――さて、デッキは把握したな? 『決闘者』なら一目でテキストを記憶するなんて芸当は朝飯前だよな。それじゃ早速チュートリアルで誰かと『決闘』しようか。さて、誰が良いかなぁ」

 

 何て優しいんだ。今日の『魔術師』は本当にいつもの『魔術師』に見えない! 後でどんな要求をされるのか、超怖いんだが!

 

 

「――ナオヤ、貴方の最初の相手は私なのです!」

 

 

 と、最初に名乗り出たのはディアーチェ・レヴィ・シュテルを従える紫天の盟主たる白い幼女ことユーリ・エーベルヴァインだった。

 

「ユ、ユーリ? 大丈夫なのか……?」

「もう、ディアーチェは心配性です! 私のカッコイイところをお見せします!」

 

 この時、オレが気づかなければならなかった点は2点。当然、この時は気づけなかった。

 一つは『遊戯王』というゲームが同じ盤上で同じルールに立たせる以上、『転生者』の特異性を完全封殺している事と、ユーリが対戦相手として言い出した時に『魔術師』がこの上無いほど邪悪に笑っていた事だった。

 

 

 

 

 ――そして『屋敷』の外に出たオレ達は対面に向かい合う。

 

 ユーリ・エーベルヴァイン、前回の異変――の前座の――元凶だった少女であり、一見して単なる金髪幼女にしか見えないが、個人で『闇の書の防衛システム』と同等かそれ以上の戦力を保有する、まさに生きる戦略兵器である。

 ……だが、こんな前情報は一切役に立たない。何せこれからやるのは『遊戯王』であり、彼女の素の能力とは一切関係無いからだ。

 

 ――まぁ個人で『闇の書の防衛システム』を撃破しろ、よりはイージーなクエストだろう。所謂この『決闘』はチュートリアルだし。

 

 左腕に装着した『デュエルディスク』が展開され、質量のあるソリッドビジョンも展開され、セットされていたデッキが自動的にシャッフルされる。凄い機能である。

 

『――デュエル!』

 

 デュエルディスクの画面がオレの先行だと告げている。

 

「オレの先行、ド――あれ?」

 

 勢い良くドローしようとし、ぶーっと警戒音が生じる。何かやってはいけない事をまたやってしまったぽい?

 

「マスタールール3からは先行ドローは廃止になってるぞ」

「そ、そうだったのか。それじゃ改めてオレのターン!」

「今みたいに出来ない処理やイカサマ行為に対しては『デュエルディスク』が警告してくれる。現実世界でのにわか審判とは訳が違うのだよ」

 

 マジで『デュエルディスク』万能だな。五枚の手札を見る。基本的なルールだが、1ターン目は攻撃宣言出来ない。

 初期手札も展開出来る感じじゃないが、自分も相手も無差別に全てのモンスターカードを一掃出来る魔法カード『ブラック・ホール』を握っているのが心強い。次のターンに相手が幾ら展開しても打開出来るだろう。

 

「モンスターをセット、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 秋瀬直也

 LP8000

 手札5→4→3

  裏守備表示のモンスターカード

 魔法・罠カード

  伏せカード1枚

 

 伏せたモンスターは《ワイトプリンス》、攻撃力・防御力共に0のモンスターだが、このカードが墓地に送られた時、《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地に送る墓地肥やし効果がある。

 『遊戯王』において墓地とは『第二の手札』に等しく、『魔術師』から渡されたこのデッキはその墓地をフルに活用する事で真価を発揮する。文字通り、墓地が肥えるほどやれる事が増え、力が増すのだ。

 更に魔法・罠ゾーンに伏せたカードは『聖なるバリア -ミラーフォース-』、相手の攻撃宣言時に発動出来る、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する強力な罠カードだ。

 出来る事ならばユーリに裏守備表示のワイトプリンスを破壊させた上で『ミラーフォース』で一掃したい処だ。さて、どう出てくる……?

 

「ふふっ、事故ったようですね。でも容赦しません! 私のターン、ドロー!」

 

 中々様になっている感じにユーリは勢い良くドローし、ちらっと引いたカードを見る。

 

 

「――まだ2ターン目、ライフは8000だし、伏せカードもあるから大丈夫、次のターンに何とか出来る、そう思っているのですね、ナオヤ」

 

 

 ……あれ、何か嫌な予感がする。白い幼女がくっくっくと邪悪に笑っていらっしゃる……!?

 

「――それはどうかな、です!」

 

 えぇー、何でその伝統の逆転劇台詞を僅か2ターン目で言われるのですかね? 開始早々に次のターンねぇからってどういう事だ……!?

 

「私は手札から《ファーニマル・ベア》の効果を発動! 《ファーニマル・ベア》の効果は1ターンに1度、このカードを手札から墓地に送り、デッキから『トイポット』を自分の魔法&罠ゾーンにセットする!」

 

 ぬいぐるみみたいなピンクのクマ――背中に申し分程度の白い羽根が生えており、更には天使族らしい――が出落ちして、代わりに魔法&罠ゾーンに1枚のカードがセットされる。

 

「セットした永続魔法『トイポット』をオープン、1ターンに1度、手札を1枚捨てて効果発動! 自分のデッキから1枚カードをドローし、そのカードが『ファーニマル』モンスターだったら手札からモンスター1体を特殊召喚出来る。違った場合はドローしたカードを墓地に捨てる。――ドロー! ドローしたカードは《エッジインプ・チェーン》、『ファーニマル』モンスターじゃないので墓地に。《エッジインプ・チェーン》の効果発動、《エッジインプ・チェーン》の効果は1ターンに1度、このカードが手札・フィールドから墓地に送られた場合、デッキから『デストーイ』カードを1枚手札に加える。私は永続魔法『デストーイ・ファクトリー』を手札に」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP8000

 手札5→6→5→4→5→4→5

  無し

 魔法・罠カード

  永続魔法『トイポット』

 

 何か仰々しい形の黒い悪魔族モンスターが墓地に行ったと思ったら墓地からサーチ効果発動か。

 しかしこの『トイポット』、ドローカードにしてはギャンブル性が強すぎるし、墓地肥やしにしては手札消費が痛い。癖が強すぎなカードだなぁとこの時は楽観視していた。

 

「墓地に捨てた《ファーニマル・ウィング》の効果発動! 《ファーニマル・ウィング》の効果は1ターンに1度、自分フィールドに『トイポット』が存在する場合、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の『ファーニマル』モンスター1体を除外し、デッキから1枚ドローし、更に『トイポット』を墓地に送る事で1枚ドロー、墓地に送られた『トイポット』の効果発動、このカードが墓地に送られた場合、デッキから《エッジインプ・シザー》1体または『ファーニマル』モンスターを手札に加える。私は《ファーニマル・ラビット》を手札に加える!」

「え? 何その効果!?」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP8000

 手札5→6→7→8

  無し

 魔法・罠カード

  無し

 

 墓地コスト2枚と引き換えに2枚ドローに1枚サーチ効果で手札が3枚も増えただとぉ!?

 

「《ファーニマル・ドッグ》を手札から通常召喚、効果発動、《ファーニマル・ドッグ》の効果は1ターンに1度、このカードが手札から召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから《エッジインプ・シザー》1体または《ファーニマル・ドッグ》以外の『ファーニマル』モンスター1体を手札に加える。私は《ファーニマル・キャット》をサーチ」

 

 更にカテゴリー内での万能サーチ効果が発動する。あれ、これやばくね? い、いや、まだオレの場には裏守備表示の《ワイトプリンス》と皆大好き『聖なるバリア -ミラーフォース-』がある。

 相手が展開すれば展開するだけ傷口が大きくなる布陣だ。今の相手は膨らみ続ける風船のようなものだ。いつか破裂する。

 

「手札から魔法カード『融合』発動! 手札の《ファーニマル・キャット》と《エッジインプ・シザー》を融合! さぁ、現れるのです! 全てを引き裂く密林の魔獣《デストーイ・シザー・タイガー》!」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP8000

 手札8→7→8→7→5

 《ファーニマル・ドッグ》星4/地属性/天使族/攻1700/守1000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 魔法・罠カード

  無し

 

 可愛らしい紫色の子猫と鋏が複数合わさったような刃物の悪魔族モンスターが融合し――緑色のトラのぬいぐるみの腹部から大きな鋏の刃が食い破るように登場する。

 開かれた口の奥に悪魔の眼光を宿した、お子様涙目の凶悪そうな融合モンスターになる。……ぬいぐるみのような可愛らしい天使族モンスターが融合すると凶悪な正体を現すとか、そういう感じのテーマなのね。

 

(しかし、『融合』かぁ。相変わらず手札消費が激しいなぁ)

 

 融合召喚は『遊戯王』初期からあった召喚法であり、主に魔法カード『融合』を使って特定のモンスターを素材とした融合モンスターをデッキとは別の『エクストラデッキ』から召喚するものである。……まぁ当時は融合だけだったから『エクストラデッキ』じゃなくて融合デッキとか呼ばれていた。

 後にシンクロやらエクシーズなる新しい召喚法、新しいカテゴリーが出て、色々改定されて『エクストラデッキ』となり、15枚までとなった感じだったか。

 

「《デストーイ・シザー・タイガー》の効果発動、このカードが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数までフィールドのカードを破壊出来る! 融合素材は2体、私はナオヤの裏守備表示のモンスターと伏せカードを選択!」

「なっ、即座に融合召喚によるディスアドを取り戻せるカード!? 『聖なるバリア -ミラーフォース-』がー!」

 

 この罠カードを入れた張本人はというと「流石は仕事をしない事に定評のある『ミラーフォース』、やっぱり相手の攻撃宣言時まで発動出来ない罠なんて遅いよねー。時代はフリーチェーンよ」なんてのたまいやがってる……!?

 

「っ、墓地に送られた事で《ワイト・プリンス》の効果発動、手札・デッキから《ワイト》《ワイト夫人》を1体ずつ墓地に送る!」

「ふふ、《ワイト》は単体では何の効果も持たない雑魚モンスターですが、墓地に送る事で強大な攻撃力になる《ワイトキング》を主軸に戦うデッキ。――ですが、まるでっ、遅いのです!」

 

 とは言うが、3枚消費で中型モンスター程度を出しては後が続かないだろう、と思いきや――。

 

「融合素材として墓地に送られた《ファーニマル・キャット》の効果発動、《ファーニマル・キャット》の効果は1ターンに1度、このカードが融合召喚の素材として墓地に送られた場合、自分の墓地の『融合』1枚を手札に加える――再び『融合』発動! 場の《ファーニマル・ドッグ》と《デストーイ・シザー・タイガー》、そして手札の《ファーニマル・ラビット》の3体融合! 全てに牙剥く魔境の猛獣《デストーイ・サーベル・タイガー》!」

 

 今度は紫色のトラのぬいぐるみから複数のサーベルが突き出てきて、更にしっぽがまんまサーベルの柄という凶悪なフォルムが出現する。

 墓地に行った『融合』を回収して再び融合召喚を決めるとはびっくりだが、幾らなんでも素材重すぎないか? 『デストーイ』融合モンスターの他に2体なんて――。

 

「《デストーイ・サーベル・タイガー》の効果発動! このカードが融合召喚に成功した時、自分の墓地の『デストーイ』モンスター1体を特殊召喚する。融合素材にした《ファーニマル・ラビット》の効果発動、《ファーニマル・ラビット》の効果は1ターンに1度、このカードが融合召喚の素材になって墓地に送られた場合、自分の墓地の《エッジインプ・シザー》または《ファーニマル・ラビット》以外の『ファーニマル』モンスター1体を手札に加える。私は《ファーニマル・ドッグ》を手札に」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP8000

 手札5→6→5→4→5

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 魔法・罠カード

  無し

 

 んな、『融合』による損失を即座に取り戻しやがった!? 嘘だろ、1ターンのうちにこんなに融合出来るもんなのか……!?

 

「まだまだこれからですよ! 魔法カード『簡易融合』発動! 『簡易融合』は1ターンに1度しか発動出来ない」

 

 『簡易融合』だって? 何でまたあのカードを――。

 

「……何か、1ターンに1度とか、そんなのばっかね。まるで念を押すように書かれているけど――」

「その一文が無ければ恐ろしい事になるぞ。あとカード名の指定が無い場合は2枚目の同じカードの効果を発動出来るが、カード名の指定がある場合は出来ない。……カード名指定が無かったから『甲虫装機(インゼクター)』どもは……」

「……え? それってそれだけで意味合いが違うの?」

 

 後ろで観戦していた柚葉が同じ1ターンなのにまだ終わっていない事に驚愕しながら呟くようにそんな事を言い、対する『魔術師』はその一文がついてない方がおかしいと断言し、遠い目をする。

 

「ルールは一見複雑そうだけど複雑だぜ!」

「意味が解らないよっ!」

 

 物凄く腹立たしい笑顔で『魔術師』は柚葉に言い放ち、柚葉は痛む頭を抑えながら叫ぶ。

 ……ま、まぁ、それはともかく、『簡易融合』なんてオレの知っている頃には使えないカードの筆頭で、せいぜいアドバンス召喚にするぐらいしか活用方法が無かった筈だが――。

 

「ライフを1000支払い、レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する! この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃出来ず、エンドフェイズに破壊される。私が融合召喚するのは《デストーイ・チェーン・シープ》!」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP8000→7000

 手札5→4

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 《デストーイ・チェーン・シープ》星5/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000

 魔法・罠カード

  無し

 

 手札1枚消費とライフポイント1000で素材を無視して融合召喚扱いで出せるのだが、それだけであり、攻撃も出来ないし、このターンのエンドフェイズに自壊してしまう。

 何故こんな使いにくいカードを――。

 

「永続魔法『デストーイ・ファクトリー』を発動! そして効果発動、『デストーイ・ファクトリー』の効果は1ターンに1度、自分の墓地から『融合』魔法カードまたは『フュージョン』魔法カード1枚を除外し、自分の手札・フィールドから『デストーイ』融合モンスターによって決められた融合素材を墓地に送り、その融合モンスターをエクストラデッキから融合召喚する! 『簡易融合』を除外して《デストーイ・チェーン・シープ》と手札の《ファーニマル・ドッグ》を融合し、《デストーイ・サーベル・タイガー》を融合召喚して効果発動、墓地の《デストーイ・チェーン・シープ》を特殊召喚!」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP7000

 手札4→3

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・チェーン・シープ》星5/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000

 魔法・罠カード

  永続魔法『デストーイ・ファクトリー』

 

 ……は? 墓地から特殊召喚する事であっさりデメリットを踏み倒しやがった!?

 

「はぁ!? ちょっと待て、その《デストーイ・サーベル・タイガー》の素材は確か『デストーイ』融合モンスターと2体じゃなかったのか!?」

「違います。正確には『デストーイ』融合モンスターと『ファーニマル』または『エッジインプ』モンスター1体以上です。ちなみに3体以上を素材にして融合召喚された《デストーイ・サーベル・タイガー》は戦闘・効果では破壊されません」

 

 え? そんな超耐性が付属されていたの!?

 

「《デストーイ・シザー・タイガー》を出した時には確信してましたが、手札に《エフェクト・ヴェーラー》無し、一応《幽鬼うさぎ》を警戒していたのですが、無いようですね」

 

 ……あっるぇー、既に場に4体も揃っている融合モンスターの攻撃力の合計が8000超えているのは気のせいだろうか……?

 

「そして最後に! 『魔玩具融合』を発動! 『魔玩具融合』は1ターンに1度しか発動出来ない。自分のフィールド・墓地から『デストーイ』融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する! 私は墓地の《エッジインプ・シザー》《ファーニマル・ラビット》《ファーニマル・キャット》《ファーニマル・ドッグ》の4体を除外して融合召喚! 現れちゃえ、全てを八つ裂く孤高の魔狼《デストーイ・シザー・ウルフ》!」

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP7000

 手札3→2

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000

 《デストーイ・チェーン・シープ》星5/闇属性/悪魔族/攻2000/守2000

 《デストーイ・シザー・ウルフ》星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500

 魔法・罠カード

  永続魔法『デストーイ・ファクトリー』

 

「ちょ!? 果てには墓地のモンスターを除外して融合召喚だとぉ!?」

 

 見てご覧、柚葉。相手の最初のターンにして場を埋め尽くす5体の融合モンスターを! なお、オレの場には何もない模様……。

 何だこりゃ、何なんだこれはっ!? こんなのオレの知っている『遊戯王』じゃねぇ!

 

「《デストーイ・シザー・ウルフ》は融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズに攻撃出来る! 融合素材としたモンスターは4体、よって4回攻撃出来るのです!」

 

 過剰殺傷(オーバーキル)も良い処だろう!? 何この幼女、超怖い。

 

「なお、《デストーイ・シザー・タイガー》の永続効果、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの『デストーイ』モンスターの攻撃力は自分フィールドの『ファーニマル』モンスター及び『デストーイ』モンスターの数×300アップ。更に更に! 《デストーイ・サーベル・タイガー》にもモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの『デストーイ』モンスターの攻撃力は400アップする。私のフィールドには《デストーイ・サーベル・タイガー》が2体、よって――」

 

 え? えーと、《デストーイ・シザー・タイガー》の効果で場に『デストーイ』モンスターが5体いるから、5×300の1500、更に《デストーイ・サーベル・タイガー》2体分で800、合計2300ずつ攻撃力が上昇し――。

 

 ユーリ・エーベルヴァイン

 LP7000

 手札2

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400→4700/守2000

 《デストーイ・シザー・タイガー》星6/闇属性/悪魔族/攻1900→4200/守1200

 《デストーイ・サーベル・タイガー》星8/闇属性/悪魔族/攻2400→4700/守2000

 《デストーイ・チェーン・シープ》星5/闇属性/悪魔族/攻2000→4300/守2000

 《デストーイ・シザー・ウルフ》星6/闇属性/悪魔族/攻2000→4300/守1500

 魔法・罠カード

  永続魔法『デストーイ・ファクトリー』

 

 こうなった。なんぞこれ、なんぞこれっっ!?

 えーと、更に《デストーイ・シザー・ウルフ》は4回攻撃だから、合計ダメージは……4700+4200+4700+4300+(4300×4)=35100!?

 

「なんじゃこりゃぁ!? AC3LR並のチュートリアル詐欺を見た!?」

「ナオヤ、手札誘発効果のカードが無いのならば覚悟するのです! モンスター全員でダイレクトアタック!」

 

 ちょっと待て、ライフ8000の状態でも4回以上殺せるじゃないか!?

 幼女の嬉々とした号令と共に『デストーイ』融合モンスター全ての眼光に灯る殺意が凶悪なまでに赤く光り輝き――死刑宣告を下された直後、『魔術師』は背後からわざとらしく注釈する。

 

「――ああ、そうそう。言い忘れたが、それ、質量のあるソリッドビジョンだから本当に痛いぞ?」

「最初に言えええええええええええええええぇぎゃあああああああああああああああああああああああああああ――!?」

 

 秋瀬直也

 LP8000→3300→-900→-5600→-9900→-14200→-18500→-22800→-27100

 

 


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