転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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05/新たな帝王《冥帝エレボス》! vsアリア・クロイツ(3)

 

 

 ――なんだあれは、どうすれば良い?

 

 目の前に聳え立つ、『神』を凌駕する巨大な真紅の騎士、絶望の化身《CX 冀望皇バリアン》を前にぽかんと見上げる。

 戦闘では破壊されず、このカード以外の効果を受けず、更には攻撃力7500もある上に最後の頼りの召喚・特殊召喚すら封じられた?

 

 ――このカード以外の効果を受けずって事は、最強の除去である『墓地に送る』すら通用しないという事だ。どうしろってんだ……!?

 

 後出してであれをどうにか出来るカードがあるのか? そもそもこのデッキに何とか出来るカードが存在するのだろうか?

 

(……召喚・特殊召喚が出来ないって事は、モンスターを裏守備表示でセットするしか無い? いや、それじゃアイツの次のターンが来た時、5つ目の効果で全除去されるじゃねぇか)

 

 ――つまり、あのモンスターは、出された時点で詰む類のものだろうか?

 

 召喚条件的に非常に厳しく、エクストラデッキのカードを大量に使うだけに《CX 冀望皇バリアン》がエクシーズ素材を5つ以上持った上で《No.86 H-C ロンゴミアント》の効果を得た時点でどうしようもない。

 アリアの言う通り、手札0枚、フィールドに何もなし、墓地に《ワイト》系モンスターが合計6体いるが、召喚・特殊召喚が出来ない以上、墓地から《ワイトプリンス》の効果を使ってデッキから2枚目の《ワイトキング》を特殊召喚する事は出来ない。

 ……もはや今のオレではあれを何とか出来るカードすら想像出来ない。

 

(……ああ、また負けか――)

 

 別に、この『異変』が起きてから負け越しであり、今日だけで何度も経験した事だ。

 そもそもデッキのパワーがまるで違うのだから、当然と言えば当然だろう。ファンデッキでガチデッキと戦うようなものだ、普通に勝てる筈が無い。

 更に言うならば『遊戯王』次元の流儀にも馴染んでない自分が完璧に馴染み切っている『決闘者』達に簡単に勝てるなんて思う方がおこがましいだろう。

 『デュエルディスク』にセットしているデッキを取り外せば、サレンダー扱いとなって『決闘』は終了する。ただ、それだけだ――。

 

 

「――駄目よ、直也君」

 

 

 だが、オレのサレンダーを止めたのは、柚葉だった。

 

「……いや、これはどう考えても無理だろ。次のドローが何にしろ、どうしようもねぇ……」

「いいえ、信じなさい」

「……何をだよ? 次のドローか? それとも柚葉をか?」

 

 次のドローで逆転の一手を引くなんて、そんなの『遊戯王』の主人公でなければ不可能だろうし、その逆転のカードさえイメージ出来ない。

 更にはいつもは頼りになる柚葉も『遊戯王』の事に関してはあてに出来ない。これで何を信じろというのだ……?

 

「――いいえ、貴方が今、『決闘』している相手を信じなさい」

「……え?」

 

 オレが今、相手にしているアリア・クロイツを……?

 

「顔をあげて、今のアリアがどんな顔をしているか見なさい。――一切の油断無く、次の手を身構えている強敵の顔よ。直也君が勝てる可能性に思い至れなくても、彼女の顔を見れば何か手があるのは明白よ」

 

 ……そうか。このカードを使っている張本人こそ打開策を一番知っているのは自明の理だ。

 当人が一番やられて嫌な事を知っているからこそ、彼女の顔には勝利を確信した慢心の色など皆無、つまりは――オレが知らなくても逆転の一手は何処かにあるって事だ……!

 

「――ありがとう、柚葉。惚れ直した」

「当ぜ――っ!? っっ?!」

 

 柚葉の顔が一瞬にして茹で蛸のように真っ赤になるが、それを見届けるより先に今『決闘』している『決闘者』に振り向く。

 

「……あー、砂糖撒き散らしたくなるような『茶番(ボーイ・ミーツ・ガール)フェイズ』終了した? 早くドローフェイズとスタンバイフェイズ終わらせてメインフェイズに移行して欲しいんだけどぉー」

 

 ……ふむ、『茶番フェイズ』はターン初めのドローフェイズよりも先にあったのか。知らなんだ。

 

(――今のオレにはこの展開を打開するカードすら思い浮かばない。だが、もしもあるなら……!)

 

 デッキトップに手をやり、大きく深呼吸する。

 

(――デッキよ、今はオレの『デッキ』だ。ならば、この詰み状態を打開出来るカードを……!)

 

 

「――オレのターン、ドロオオオオオォ――!」

 

 

 秋瀬直也

 LP8000

 手札0→1

  無し

 魔法・罠カード

  無し

 

 

 全身全霊を籠めて引いたカードの種類は罠カード、一瞬絶望する。

 今の《CX 冀望皇バリアン》はこのカード以外のあらゆる効果を受けない究極耐性。どんなカードの効果も受け付けない。

 この引いたカードも、結局は無意味であり――いや、違う。待て待て、確かに今の《CX 冀望皇バリアン》は《No.86 H-C ロンゴミアント》の効果で完全無欠となっている、だが、それは――メインフェイズ時に効果を発動して初めて完全となる代物だ。ならば……!

 

「――オレはカードをセットしてターンエンド」

「――エンドフェイズ時、先に《CX 冀望皇バリアン》の効果が終了、《No.86 H-C ロンゴミアント》のエンドフェイズ時にエクシーズ素材を1つ取り除く効果を踏み倒しっと」

 

 秋瀬直也

 LP8000

 手札1→0

  無し

 魔法・罠カード

  伏せカード1枚

 

「――私のターン、ドロー」

 

 ドローフェイズが終了し、スタンバイフェイズに移行し――その瞬間を待っていた!

 

「スタンバイフェイズ時! 罠カードオープン! 『ブレイクスルー・スキル』! 相手フィールドの効果モンスター1体を対象とし、その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする! オレは《CX 冀望皇バリアン》を選択する!」

「ちぇー、やっぱり引かれていたかぁ。それと『強制脱出装置』はトラウマだなぁ」

 

 あの完全無欠と思われた《CX 冀望皇バリアン》が苦悶の声をあげて片膝付く。

 

 アリア・クロイツ

 LP1000

 手札2→3

 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2800

 《CX 冀望皇バリアン》ランク7/光属性/戦士族/攻6000→0/守0 ORU6

 魔法・罠カード

  無し

 

 なんて事はない。《CX 冀望皇バリアン》の効果は自身のメインフェイズでのみ起動出来る効果であり、元々《CX 冀望皇バリアン》には何の耐性も無い。

 ならばそれが来る前のフェイズでフリーチェーンの効果をぶつけてしまえば、完全無欠の耐性を得る前に無力化出来るのだ……!

 

「けれど、一安心するのはまだ早いよ。私のデッキの本筋は『帝』なんだから――墓地の『汎神の帝王』を除外し、効果発動! デッキから『帝王の深怨』『帝王の深怨』『汎神の帝王』を選択、さぁどれを私の手札に加えさせてくれるぅ?」

 

 げっ、またその三択になっていない三択かよ!?

 ……このターンにドローしたカードは不明だが、残り2枚は最初のターンにサーチした《冥帝エレボス》と『帝王の深怨』だったか。

 ……結局、最初から『帝王の深怨』がある以上、好きなカードをサーチされるのは確定している訳であり、どれを選んでも結果が変わらない。なら――。

 

「――『汎神の帝王』で」

「あいあい、それじゃ手札に来た『汎神の帝王』の効果発動、手札の『帝王の深怨』を捨てて2枚ドロー!」

 

 アリア・クロイツ

 LP1000

 手札3→4→2→4

 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2800

 《CX 冀望皇バリアン》ランク7/光属性/戦士族/攻0/守0 ORU6

 魔法・罠カード

  無し

 

 

 

 

(……んー、微妙だ)

 

 他の『帝王』――《天帝アイテール》でも来てくれれば、墓地から生贄要員を確保してアドバンス召喚し、その効果でデッキから攻撃力2400以上で守備力1000の他の『帝』モンスターを特殊召喚出来て、2800+2800+2600=8200のダイレクトアタックで、秋瀬直也の8000のライフを瞬く間に0に出来たのだが、引けず終い。

 

(速攻魔法『破壊剣士の宿命』でも来てりゃ相手の墓地の同じ種族のモンスターを3体まで除外し、『バスター・ブレイダー』の攻撃力を1500アップ出来て『バスター・ドラゴン』も攻撃すれば削り切れたのに『汎神の帝王』の2ドローで引けなかったからなぁ)

 

 結論から言えば、このターン、どれだけ動こうが秋瀬直也のライフを0に出来ない。

 ならば、全てのモンスターを守備表示にし、確実に引導を渡せる機会を虎視眈々と待つ持久戦ならば確実に勝利を拾えるだろう。

 墓地の『帝』魔法・罠カードを1枚除外するだけで永続罠モンスターを壁として毎ターン特殊召喚出来る『帝』にとっては得意分野である。

 

(――うん、却下)

 

 それが最も簡単で確実な戦略と認めつつ、アリアは笑顔でその道筋を破却する。

 だってそれは全然楽しくない。地べたを這いずりながらも勝利を拾う方法であって、勝利を掴み取る方法ではない。

 管理局に所属していた時は絶対に勝たなければならない理由があった。だが、そんな組織のしがらみの無い今はやりたい勝ち方に殉ずる自由がある。

 

(そうさ、不慣れなデッキなのは物足りないけどさ――私は君に、あの秋瀬直也に私の誇れるやり方で勝ちたい……!)

 

 自らの誇りに殉じてこそ『決闘者』であり、賢しいだけの必然手をアリアは捨てる。――確実な勝機を捨てたアリアは、自らの愚行を嘲笑いながらも、何故か最高の笑顔になっていた――。

 

 

 

 

「《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》の効果発動、自分フィールドに『バスター・ブレイダー』モンスターが存在しない場合、1ターンに1度、自分の墓地の『バスター・ブレイダー』1体を特殊召喚する! 再び蘇れ、《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》!」

 

 アリア・クロイツ

 LP1000

 手札4

 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2800

 《CX 冀望皇バリアン》ランク7/光属性/戦士族/攻0/守0 ORU6

 《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300

 魔法・罠カード

  無し

 

 げっ、また手札消費無しに最上級モンスターが墓地から特殊召喚しやがった! ま、まだ大丈夫だよな……?

 

「そして墓地の『帝王の深怨』を除外し、墓地から永続罠『真源の帝王』を守備表示で特殊召喚し――『真源の帝王』と《CX 冀望皇バリアン》をリリースし、手札から《冥帝エレボス》をアドバンス召喚!」

 

 アリア・クロイツ

 LP1000

 手札4→3

 《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻1200/守2800

 《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》星7/地属性/戦士族/攻2600/守2300

 《冥帝エレボス》星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守1000

 魔法・罠カード

  無し

 

 2体を生け贄とし、アドバンス召喚されるは巨大な椅子に腰掛け、鋭利極まる漆黒の全身鎧姿の――この『帝』デッキにおける支配者たる邪悪な『帝王』だった……!

 

「――なっ、《CX 冀望皇バリアン》を生け贄にしただとぉ!?」

「君の墓地に『ブレイクスルー・スキル』がある以上、本当に攻撃力0の雑魚モンスターになっちゃうからねぇ、そんなモンスターは生け贄にしちゃいましょうねー!」

 

 理屈で解っていても『切り札』たる超弩級モンスターを簡単にリリースするとは……!

 

「《冥帝エレボス》の効果発動! このカードがアドバンス召喚に成功した場合、手札・デッキから『帝王』魔法・罠カード2種類を墓地に送り、相手の手札・フィールド・墓地の中からカード1枚選んでデッキに戻す! 私は『帝王の深怨』と『帝王の開岩』を墓地に落とし、君の墓地の《ワイトプリンス》をデッキに戻す!」

「何だと!?」

 

 うわ、その効果、墓地にも及ぶのかよ!?

 墓地にある自分と他2枚の《ワイト》を除外する事でデッキから《ワイトキング》を特殊召喚出来る《ワイトプリンス》がデッキに戻ってしまった事により、次のターンで《ワイトキング》を特殊召喚する方法を完全に失った……!

 

「――バトル! 《破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー》と《冥帝エレボス》でダイレクトアタック……!」

 

 竜破壊の騎士からの巨剣の一撃に、続いて帝王の拳をまともに受け、オレは大きくバウンドする――。

 

 秋瀬直也

 LP8000→5400→2600

 

「直也君……!」

「~~痛っ! だ、大丈夫だ、柚葉っ。でも『スタンド』で防御してなけりゃ死んでるぞこれ!?」

 

 痛がりつつも、まだライフが残っている事に一息付く。

 

「私はこれでターンエンド――さぁ、秋瀬直也、ラストターンだ……!」

 

 ライフ的に追い詰められ、本当に最後のターンになるが、さっきのターンよりは光明がある。

 次のターンに《ワイトキング》を場に出せれば勝てる……! 《ワイトプリンス》が墓地からデッキに戻されたが、未だに墓地に《ワイト》達は6体いる――引けば勝ちだ!

 

「オレのターン、ド――!?」

 

 あ、れ。デッキトップに手をおいた途端、説明出来ない絶望が過ぎる。

 麻雀でいう、最悪の危険牌を掴んでしまった時と同じような悪寒、だが、それでも引かなければオレのターンは始まらない訳で――。

 

「ド、ドロー!」

 

 ……恐る恐る引いたカードは、ああ、最悪だ。《ワイト》だ。レベル1の攻撃力300守備力200の通常モンスター……何の効果も持たない、一体では何の意味も無い、最弱級のモンスターカード、逆転の手を願う今、一番引きたくないカードだった。

 

「……あ」

 

 ぐにゃぁ~と景色が歪む。此処まで来て、前のターンに奇跡的なドローをして、次のターンのドローはそれを覆すが如く最低のドローだと……!

 何でよりによって、デッキに1枚しか残ってないこのカードを引いてしまったんだ……!

 

 秋瀬直也

 LP8000→2600

 手札0→1

  無し

 魔法・罠カード

  無し

 

「スタンバイフェイズ時、《破戒蛮竜-バスター・ドラゴン》の効果発動。相手ターンに1度、自分フィールドの『バスター・ブレイダー』モンスター1体に自分の墓地の『破壊剣』モンスター1体を装備カード扱いとして装備させる。――私は《破壊剣-ドラゴンバスターブレード》を選択。このカードが装備されている場合、相手はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚出来ない」

 

 何というダメ押しだろうか。いや、この手札では無意味極まりないが。

 こんなカードで一体何処にエクストラデッキから特殊召喚出来る道筋があるのだろうか。――いや、待て。このアリアの行為は無駄な行為なのか?

 

 オレのこの最低最悪の手札は考慮しない事にしても、今のこの時点でアリアは『エクストラデッキから特殊召喚される可能性』を見出し、封じた、のでは?

 

(……つまり、オレが何か見落としているだけで、何か動ける余地が……!?)

 

 今のオレ自身は何も信じれないが、この油断ならぬ対戦者は信頼出来る! 自分の墓地を全部確認する。

 今、オレの墓地にあるカードは下にあるものから、『ブラック・ホール』『ハーピィの羽根帚』『闇の誘惑』『おろかな埋葬』《ワイト》《ワイト夫人》『生者の書-禁断の呪術』《ワイト》《ワイト夫人》――そして、あった。最後の希望が。《グローアップ・バルブ》が!

 

「墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動! デュエル中に1度だけ、自分のデッキの一番上のカードを墓地に送り、墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事が出来る!」

 

 勿論、このレベル1のチューナーを復活させた処で壁にもならない。シンクロ召喚も既に封じられている。

 大切なのはこの効果で『自分のデッキの一番上のカードを墓地に送る』事だッ!

 

「これがオレの最後の足掻きだああぁァ――!」

 

 そして墓地に送られる運命のカードは――。

 

 

「――此処で《馬頭鬼》かぁ。ちぇっ、負けちゃった~。《CX 冀望皇バリアン》をリリースしたのが致命傷となるとはねぇ」

 

 

 残念そうに、されども満足気にアリアは笑った。

 

「墓地の《馬頭鬼》の効果発動! 墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する! 再び蘇れ《ワイトキング》!」

 

 蘇らせるのは当然、《CX 冀望皇バリアン》のエクシーズ素材となり、《冥帝エレボス》のアドバンス召喚によってリリースされる事でオレの墓地に解き放ってしまった、死者の王《ワイトキング》である。

 

 秋瀬直也

 LP2600

 手札

 《グローアップ・バルブ》星1/地属性/植物族→ドラゴン族/攻100/守100

 《ワイトキング》星1/闇属性/アンデット族→ドラゴン族/攻?→5000/守0

 魔法・罠カード

  無し

 

「あーあ、《破壊剣-ウィザードバスターブレード》でも手札に来てりゃ、『バスター・ブレイダー』に装備して墓地のモンスター効果の発動を封殺出来たんだけどなぁ」

「うげっ、墓地利用を主とするこっちのデッキの致命傷になるメタカードがナチュラルにあったんかよ……」

 

 本当に初代からは想像出来ないぐらい『帝』も『バスター・ブレイダー』も強化されていてびっくりである。

 

「――バトル! 《ワイトキング》で《冥帝エレボス》を攻撃!」

「ふぅ、あざっしたー」

 

 アリア・クロイツ

 LP1000→-1100

 

 

 ソリッドビジョンが消え去り、デュエルの決着は静かに終わりを告げた。

 ……勝った。あのインチキ効果の数々に倒される前に勝てるとは、この勝利を誰よりも信じられないのがオレ自身である。

 

「あぁ、楽しかったぁ。でもやっぱり負けるのは悔しいや。次は本来のデッキでデュエルしようね~」

 

 アリアは笑顔で「じゃーねー」と手を振り、そのままクールに立ち去った。

 ……この『異変』を解決したら元の世界に戻るだろうから、それは絶対果たせない約束だなぁと、静かに心の中に沈んだ。

 

「直也君、おめでとう」

「ああ、やっと初勝利だ。柚葉の言葉が無ければ負けていたぜ」

 

 実際問題、最後まで諦めずにカードを引く事は難しい。その前に心が折れてしまえば可能性に手を伸ばす前に潰えてしまう。

 「ドロー出来る限り諦めない」という言葉は良く聞くけれども、実際にそれを行うのは言う以上に難しいようだ。

 

「――それにしても、最初は《ワイト》は邪魔だと思ったが、特殊召喚封じやエクストラデッキからの召喚封じに対するメタだったのかな? 流石は『魔術師』、其処まで考えていたのか」

 

 どんなカードも使い方次第であり、このデッキから《ワイト》を抜くなと厳命した『魔術師』に一応の感謝を心の中で告げておく。

 

 

 

 

「――え? あのデッキで第九期基準の『帝』相手に勝ったの?」

 

 その一方で、この勝利に誰よりも困惑していたのが使い魔を通して『決闘』を観戦していた『魔術師』だったという事は、オレの知る由も無い話である。

 

 

 

 


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