転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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15/再演

 

 

 

 

 ――押し寄せる絶望の波を、赤い炎が猛然と焼き尽くす。

 

 燃える世界、黒い和服を着た支配者は悠然と佇んでました。

 その背中を覚えている。男性にしては長すぎる赤髪を一つに三つ編み、両腕両肩に脈動する魔術刻印の赤い光も、今でも鮮明に思い返せます。

 この眼に鮮烈に焼き付いた、運命の夜の呆気無い終幕でした。

 

 ――その姿に憧れたと打ち明けたら、貴方は小馬鹿にしたように笑いましたね。

 

 それでも、貴方は私の目標になってしまったのです。

 貴方は何度も何度も拒否しましたけど、私は何度も何度も立ち上がりました。

 最終的には貴方は折れて――それは、私が得た最初にして最後の勝利でした。

 

 ――七人四騎の戦争を越え、舞台装置の魔女を超えて、貴方は灼熱の海に消え果てた。

 

 街は緩やかに死に絶えました。貴方という支柱を失い、防波堤が崩れ果て、街は分断され、同士討ちし、無情に削がれました。

 私もまたその大きな流れに飲み込まれ、気づけば仇敵どもの道具に成り下がりました。それは死をも上回る陵辱でした。

 

 ――貴方が生きていれば、未来はこんなにも残酷ではなかったかもしれない。

 

 貴方と居た頃の街が懐かしい。最近は昔の思い出に浸る事でしか慰められない。

 彼等の奴隷として使い潰されるまで、私は何も出来ずに、このまま朽ち果てるのでしょうか?

 

 ――否。否。否。否ッ!

 世界はいつだってこんな筈じゃなかった?

 戯言だ。弱者の言葉だ。そんな言葉は我が内に必要無い。

 世界を歪めて、思うように構築する。それこそが我が師の真髄でした。

 

 ――私は運命を変えられる唯一の『鍵』を見つけました。

 

 それは天井にぶら下がった一本の蜘蛛の糸でした。

 絶望の只中で見出した唯一にして最期の光明であり――逃れようのない破滅の始まりでした。

 

 ――さぁ、物語を始めましょう。

 血塗られた『英雄』の物語を。

 一人の傑出した『魔導師』の物語を。

 反旗を翻して討ち滅ぼされた『魔王』の物語を。

 

 ――そして私は再び『運命』と出遭った。

 

 

 15/再演

 

 

 ――長い夜は終わり、一時の安らぎが訪れる。

 『魔術師』の屋敷に帰還し、気を失った月村すずかを一室のベッドに眠らせる。

 来訪者が訪れたのはその直後だった。

 

「すずかっ!」

 

 姉の月村忍との感動の再会、と言って良い物か。

 月村すずかは未だに眠ったままである。

 ……これから彼女は、数々の苦難にぶち当たるだろう。途中で折れてしまうかもしれない。絶望して自ら生命を絶ってしまうかもしれない。

 ただでさえ令呪をもって自らの死を命じるくらいだ。幾ら実の姉と言えども、自殺を止めれる気がしないのだが――。

 

「はいはい、病人の前ですから静かにして下さいね」

「五月蝿いわよ、吸血鬼!」

 

 ……本当に、この『魔術師』と『使い魔』は高町恭也と月村忍に何をしたのだろうか?

 二人からの恨まれっぷりが尋常じゃない気がするが……?

 

「人間として再起不能になると思ったのだがな、残り香でも存外に復元するものだ」

 

 小馬鹿にするように『魔術師』は月村すずかの体の状態を告げる。

 あれだけバーサーカーが暴れて、後遺症の一つや二つ残らなかったのは僥倖だっただろう。

 これも吸血鬼『アーカード』をサーヴァントにした事と夜の一族の相乗効果だったのだろうか?

 

 

「起きているのだろう? 月村すずか」

 

 

 ぴくり、と――月村すずかは『魔術師』の言葉に反応してしまう。

 周囲の皆も一斉に視線を集中させる。

 

「死ねなくて残念だね、月村すずか」

「……どうして、助けたのですか? 私に、生きる価値なんか――」

 

 『魔術師』は皮肉気に笑い、月村すずかはゆっくりと目を開けて『魔術師』を睨む。

 おいおい、挑発してどうするんだよ? 立ち直させる気は零か?

 

「死ぬのはいつでも出来る。死という『安楽』に逃避する事は絶対に許されない。――生きて償え。苦しみ悶えた末に無様に死ね。それが私の復讐だ」

 

 ――それが冬川雪緒への、弔いの挽歌。

 ぽろり、と。月村すずかの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 

「……どうやって、償うのですか? 私は――」

「そんなの自分で考えろ。そもそも私は『罪』だの『罰』だの執着出来ない性質なんでね。むしろ踏み倒す側だ。――死で『罪』が清算出来ると思うなよ?」

 

 言いたい事を言い終わって『魔術師』は退出しようとし、携帯のベルが鳴り響いた。

 各々に視線を送り、首を傾げ、首を振り――月村すずかは、震えながらその携帯を取り出した。

 

「冬川の……?」

 

 一体誰から――?

 『魔術師』の方に視線を送り、彼は無言で頷く。

 その配慮に感謝して、意を決して非通知の電話を取る。

 

「――誰だ?」

『……秋瀬直也か? オレの携帯を回収したという事は、事は片付いたようだな』

 

 

「は?」

 

 

 ――『オレ』、だと……!? それにこの声は――だが、お前は、

 

「……冬川雪緒? 馬鹿な。お前は、死んだ筈じゃ――!?」

『――? 寸前の処で自身の死を偽装し、辛くも逃走に成功したのは良いが、意識不明の重傷でな。今まで連絡出来なかった。三河――お前の前任者だが、ソイツに探し当てて貰わなければ死んでいた処だ』

 

 ……思い出す。

 確かに朝一番に非通知で此方の携帯に掛かって来て、冬川雪緒の生存を信じて赴いた奴が居た。

 あの野郎、無事なら連絡の一つや二つ、即座に寄越せっつーの……!

 

『……気のせいか、話が食い違っている……? まさか奴から連絡が行ってないのか……!?』

 

 珍しく慌てた口調の冬川雪緒は、自身が『死亡確認!』されていた事に漸く気づく。全くよぉ、その間抜けっぷりは第二部のジョセフじゃねぇか……。

 

「……っ、この馬鹿野郎ォッ! 生きているなら早く言いやがれよなぁ……!」

 

 涙を流しながら、笑う。

 彼が生きていて良かったと、心から喜ぶように――。

 

 

 

 

「昨晩はお愉しみでしたね! きゃー、これ一回言ってみたかったんですよー!」

「な、何もしてないわよ!? 人の家でやる訳無いじゃないっ!」

 

 翌朝、『魔術師』の「夜の街は危険だから泊まっていけ」の一言で屋敷にまた一泊し、個性豊かな面子と朝から対面する。

 エルヴィが何処かで聞いた事のある一文で月村忍をからかい、彼女は顔を真っ赤にして反論する。高町恭也の顔が真っ赤な事から、彼女自身は墓穴を掘っている事に気づいていないようだ。

 

「……朝から随分と騒がしいのう」

「良いんじゃねぇか? いつもみたいな閑散とした幽霊屋敷より百倍マシだろうよ」

 

 居間で焙茶を飲みながら『魔術師』は呆れた表情をし、アロハシャツという謎のチョイスの私服に着替えたランサーはけたけた笑う。

 この人も『魔術師』のサーヴァントを平然と務めるなんて、第四次のランサーとは比べ物にならないぐらいの適応力である。

 もしも第四次のランサーが召喚され、同じように『魔術師』に奪われていたらこうはいかなかっただろう。

 

「洋館なのに朝食は和食なのねぇ……」

 

 席に付いた月村忍は不思議そうにテーブルの上に用意された朝食を見ていた。

 ほっかほかの白飯に味噌汁、そして鮭の焼身に出汁巻き玉子をエルヴィが運んでいく。

 

「忍さん、すずかちゃんは……」

「……うん、今は色々と疲れているし、ね?」

 

 高町なのはが月村忍に尋ね、しょんぼりとする。

 昨日の今日じゃ立ち直れないだろうし、高町なのはの場合は顔を合わせ辛いだろうな。

 運び終わり、全員が席に着く。

 

『いただきます』

 

 手を合わせて合唱する。おお、出汁巻き玉子うめぇ。舌の上でとろりと蕩けやがる!?

 これは御飯が進む。他の皆も感心したように食べ、エルヴィは誇るように無い胸をえっへんと張っていた。

 料理スキルも普通にあるんだなぁ、あの吸血鬼。

 

「……あ。そういえば、気がつけば二日も此処に……!? 今から家に帰るのが怖ぇ……!?」

「それなら大丈夫ですよ? ご主人様の指示でちゃんと誤魔化していますから! こう、ぐるぐると」

 

 此方の目先に人差し指を差し出して、エルヴィは可愛げに回す。

 ああ、エロ光線だか魔眼だか暗示だか知らないが、誤魔化してくれたのならば有り難い。

 何て言い訳しようか悩む必要が無い訳だが――普通にそういうの乱発して大丈夫なもんかねぇ?

 

「あ、ありがとうございます、と言った方が良いのかな?」

「別に何も要求しないよ。君には期待していると言っただろう?」

 

 これまた『魔術師』は背筋が凍るような素敵な笑顔をお浮かべになる。

 無料ほど高いものは無い。コイツ、また何か企んでやがるな――!?

 

「秋瀬直也君、何か困った事があったら相談してくれ。今度はオレが君の手助けをしたい」

「失礼な奴だな、高町恭也。それではまるで私が秋瀬直也を破滅に誘うようじゃないか」

 

 高町恭也と『魔術師』の間に火花が散る。

 恭也さんの言葉は滅茶苦茶有り難く、『魔術師』の言葉もまたあながち間違って無くて恐ろしい。

 

「そうだ、一つ忘れていた。高町なのは」

「は、はいっ!?」

 

 と、『魔術師』は唐突に思い出したような素振りで、話題の方向性を高町なのはに変更し――シスコンの高町恭也の視線が更に剣呑に鋭くなる。

 狙ってやっているのならば拍手したい気分だ。

 

「封印した『ジュエルシード』は私が責任を持って預かろう。欠陥品なれども願望機だ。禍根の種となる可能性があるしな」

「今度はどんな悪巧みに使うんだ? マスター」

 

 まぁた始まったよ、という呆れっぷりでランサーは鮭に手を出しながら己がマスターに聞く。というか、箸の扱い上手だな? 聖杯からの現代知識か?

 

「私としてはこれを管理局の手に委ねる気は無いから――」

 

 そう言って『魔術師』は着物の袖から『ジュエルシード』を一つ取り出し――あれはランサーに『主替えに賛同しろ』という命令を消費した時に排出されたものか?

 事もあろうに『魔術師』は『ジュエルシード』を親指と人差指で摘み――力を入れて握り潰した。

 

「あーっ!?」

 

 二十一個の『ジュエルシード』が二十個のジュエルシードになった瞬間である。

 危険物の『ジュエルシード』を暴走させずに破壊するという理解の及ばぬ高等魔術を披露したのだが、破壊するというパフォーマンスに衝撃がありすぎてそんな事まで頭が回らない。

 

「手に入れた分は全部砕くよ」

 

 まるで昔から決まっていた決定事項を述べるように『魔術師』は平然と言い捨てやがった!?

 其処までして管理局に『ジュエルシード』を渡したくないのか。渡したくないのだろうなぁ。

 

「も、勿体ねぇっ!? それでも願望機だぞ!?」

「願望機という存在が世界を変革しないのは、無駄に使い潰す者の手にしか渡らないからだ。人はそれを『抑止力』という」

 

 究極的な結果論だな、暴論過ぎて涙が出るわ。

 それはお前が元居た世界のみの事だろうよ。

 しかし、勿体無いが――これは非常に解り難いが、高町なのはに対する配慮では無いだろうか?

 このまま彼女が『ジュエルシード』を持ち続ければ、それを狙う勢力と交戦する可能性さえ出てくるし、徹底的なまでに彼女を原作及び今の事態に関わらせないようにするのか?

 それは『高町なのは』の代わりに『フェイト・テスタロッサ』陣営の利害と致命的なまでにぶち当たるという事だ。

 手に入れた傍から『ジュエルシード』を廃棄するなら、何が何でも『魔術師』の排除を目論むだろうし、『魔術師』としては『フェイト・テスタロッサ』陣営を真正面から敵に回す危険を避ける為に高町なのはに『ジュエルシード』を持たせ続けた方が――。

 色々考えたが、あの『魔術師』らしからない手だと思うが、さて?

 

「あ、あのっ! 神咲さん!」

「ユーノ・スクライアの事情を考慮する気は無いぞ。この場に居ない者の意志など知ったこっちゃない」

「わー、ご主人様鬼畜ー」

 

 何か高町なのはが意を決したかのように『魔術師』の名を呼ぶ。そういえばユーノって本当に何処行ったんだ?

 そして高町なのはの次の発言は此処に居る全員の予想を斜め上に超えたものであった。

 

 

「私を貴方の弟子にして下さい!」

 

 

 恐らく此処に居る全員が「は?」と呟いてしまった事だろう。

 それぐらいまでに、高町なのはの提案は余りにも突拍子無いものだった。

 

「なのは! 何を言ってるんだ!?」

「待て待て、早まるなっ! 落ち着いて深呼吸するんだ!」

「なのはちゃん、そんな破滅的な自殺願望を抱いちゃうなんて駄目ですよ……!?」

 

 上から高町恭也、次にオレ、そしてエルヴィ……お前、『魔術師』の『使い魔』の癖にひでぇ言い草……。

 

「……朝から幻聴が聞こえたな。ふむ、寝不足かな?」

「嬢ちゃん、やめとけって。こんな性根の腐った『魔術師』から学ぶ事なんざ何も無いぞ。全力で反面教師にするぐらいだ」

 

 『魔術師』は自らの耳を疑い、ランサーさえ止めておけと忠告する始末だ。

 一体何がどうなって、高町なのはにそんな決断を下させたのか? 謎が深まるばかりである。

 

「私は、すずかちゃんに何も出来ませんでした」

「そうでもない。あの場で令呪を封印出来たのは君だけだ」

 

 その通りである。あの場に高町なのはがいなければ、月村すずかの生存は絶望的だった。彼女が居たからこそ、救える望みがあったのだ。

 それを悔やむ事は無いと思うのだが……。

 

「……違うんです。私が最初に遭遇した時にすずかちゃんを止められていれば、被害はもっと少なく済みました」

 

 それは結果論である。例えば、高町なのはが砲撃魔法を使い出した頃に交戦していれば、非殺傷設定での魔力ダメージで『魔力枯渇』が引き起こって、月村すずかを呆気無く殺害していたかもしれない。

 本当に、初戦で彼女とぶち当たったのはある意味幸運だったのかもしれない。それほど今回の一戦は綱渡りの連続だったと後から汗が流れる勢いである。

 

「――私は、今後同じような事があっても、対抗出来る力が欲しいのです……!」

 

 ……それは。思わず、口を塞ぐ。

 彼女が原作通りの成長をすれば、その願いはまず叶うだろう。

 彼女の才覚はそれを容易く叶える。

 でもそれは、今のこの街の状況に置いては――。

 

「――君は『魔導師』で、私は『魔術師』だ。図面上は一文字しか違わないが、『魔導師』は『リンカーコア』なる器官が先天的に必須であり、『魔術師』は『魔術回路』なる擬似神経が先天的に必要だ。似て非なる者と認識してくれれば良い」

 

 当然の事ながら『魔導師』と『魔術師』は違う人種だ。

 世界の法則が違うと言っても良い。魔法のような科学は未来を目指し、魔術は過去を目指す。間違っても交わる道にはいないのだ。

 

「更には君の『魔法』は魔法の域まで発展した科学技術であり、神秘・奇跡を再現する行為の総称である『魔術』とは真逆の技術系統だ。『魔術師』の私が『魔導師』の君を指導するなど筋違いも良い処だ」

 

 ――万が一、億が一の僥倖が重なって『魔術師』が高町なのはに指導する事があるとすれば、戦いに対する気構えを伝授するぐらいだろうか?

 それはそれで彼女が正史以上にやばくなりそうだが……。

 

「そして何よりも――君のような子供は、此方側に足を踏み入れてはならない」

 

 オレはそっと――『魔術師』が分別ある大人で良かったと一息吐く。

 原作から疑問に思ってきた事がある。それは九歳の少女に世界の命運を背負わせて良いのだろうか、と。

 アニメの都合上、他の大人は何も活躍出来なかったが、それでも一人の大人として子供に世界を背負わせるなんて不甲斐なさすぎるとは思っていた処だ。

 

「でも、私は――!」

「――君は、何になりたいんだい?」

 

 逆に『魔術師』は問い掛ける。その声は何処か優しげであった。

 

「――君は『英雄』になってはいけない。君の類稀な才能は君自身を容易にその境地まで辿り着かせるだろう。それで、どうする? 君は月村すずかを『殺害』して犠牲を最小限にしたかったのかい?」

 

 高町なのはの瞳が真ん丸になる。

 そう、例え全盛期の高町なのはが居たとしても、月村すずかに引導を渡す事は出来るが、救う事は決して出来なかっただろう。

 彼女に衛宮切嗣のような『正義』を行わせる訳にはいかない――。

 

「犠牲者の血で彩られた膨大な殺人劇こそ『英雄』の物語だ。此方側に足を踏み入れるというのはそういう事だ。綺麗事じゃ片付けられないから手を穢してでも片付けるんだ」

 

 『魔術師』は自身の手の平を見せびらかすように眼下に晒す。

 ――その手は膨大な血で穢れている。幾ら洗おうが、永遠に拭えるものではない。

 

「――君はね、此方の事情を必要以上に背負い込もうとしている。そんな必要な全く無いんだ。君は『高町なのは』のままで良い」

 

 原作では高町なのはしか対抗手段が無かった。

 でも、此処では違う。もう訳の解らないぐらいごった煮の魔都になっているが、それでも九歳の少女が身を削らなくてもいいほどの実力者が出揃っている。

 

「全てを忘れて、普段通りに暮らすが良い。偶にで良いから親孝行してやれ。隣にいる友人を慈しんでやれ。どれも私には出来なかった事ばかりだ」

 

 『魔術師』は羨むように語り聞かせ、高町なのはは何か言いたげに顔を上げ――館全体が揺れる!? 地震? いや、何か違う……!?

 『魔術師』の顔色は極めて悪くなる。あの常に余裕綽々の彼が……!

 

「――ッ! 外で迎撃しろ、ランサー! もう一発撃たれたら防御結界が破られるぞ……! 私も出陣するッ!」

 

 ランサーが霊体化して戦場に馳せ参じ、『魔術師』と『使い魔』がそれに続く。

 このまま『魔術工房』の強度を信じて此処に待機するか、また『魔術師』に協力してこの危機を乗り切るか――もう一発撃たれたらお陀仏らしいから後者しかねぇ!

 

「恭也さん、忍さん、なのはは此処に!」

「……な、え、秋瀬君は!?」

 

 動揺する高町なのはへの返答をせずにオレも玄関前を目指す。

 屋敷の廊下の調度品は落下して割れて散乱しており、今の敵対者の攻撃が予想外の一撃だった事を如実に示している。

 

 駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。辿り着く。

 スタンドを着用し、ステルスで隠れる。これなら視覚とは別手段で感知されない限り大丈夫だ。

 外に出る。ランサーは戦衣装で天を仰いでおり、『魔術師』と『使い魔』もまた立ち止まって見上げている? 敵は空にいるのかっ!

 

(まさか昨日の『銀星号』か!?)

 

 あれの重力操作による蹴りならば、屋敷を襲った衝撃ぐらい簡単に叩き出せるが――空を見上げる。其処には一人の白い少女が空中を舞っていた。

 

(なん、だと……!?)

 

 白い制服のようなバリアジャケットには、処々に蒼ではなく赤いラインが走っており――まるでパチもんの2Pカラーだ。

 トレードマークの茶髪のツインテールはそのままだが、両眼がとんでもなく邪悪に淀んでいた。

 

「――お久しぶりですね、師匠」

「お前のような凶悪な魔法少女を弟子にした覚えは現時点では無いがな。――『アーチャー』か? それとも『キャスター』か?」

 

 一体これは何の悪夢だろうか?

 何がどう間違って、この時代に、成長して全盛期を迎えた彼女が居るんだ――!?

 

「――此度の聖杯戦争では『アーチャー』として現界しています。師匠の持つ『聖杯』を頂きに参りました」

 

 そして英霊『高町なのは』はレイジングハートの穂先を『魔術師』に向け、にっこりと――今の彼女からは想像出来ないほど冒涜的で邪悪を孕んだ嘲笑を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 


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