転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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21/「何!? 自分語りフェイズとはドローフェイズの前にあるんじゃないのか!?」 vs『ラスボス』(3)

 

 

 

『《カタパルト・タートル》の効果発動! 自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! 私は《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》3体を射出し、4500のバーンダメージ!』

 

 秋瀬直也

 LP8000→3500

 

 あ、あ、あ、禁止魔法カード『遺言状』の効果であっさりデッキから特殊召喚されてきたのは1ターンに1度という一文が入ってない、数多の『決闘者』を爆殺してきたエラッタ前の《カタパルト・タートル》!

 

「ぐぉっ!?」

 

 容赦無く味方モンスターを射出し、1ターン目の先行で4500のバーンダメージ……! アニメ版のライフ4000ならこれで死んでいたぞ!?

 

「しょ、勝利の為に自らのモンスターを犠牲にするなんて『決闘者』の矜持に――」

『案ずるな、これを使っておいて仕留め損なう訳無いだろう?』

「え? そっち!?」

 

 な、何言ってるんだ。もうお前の場には《カタパルト・タートル》しかいねぇじゃないか……!

 

『更に魔法カード『ソウル・チャージ』発動! 『ソウル・チャージ』の発動は1ターンに1度のみ、このカードを発動するターン、バトルフェイズを行えない。自分の墓地のモンスタを任意の数だけ特殊召喚し、この効果で特殊召喚したモンスターの数×1000ライフを失う。私は3体の《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を特殊召喚して3000ライフ失い、また《カタパルト・タートル》の効果で3体射出ッ! 爆☆殺!』

 

 秋瀬直也

 LP3500→-1000

 

「うううううううぉおおおおおおおおおおおぉ――っ!?」

 

 ま、また2ターン目が訪れずに先行1ターンキルだとぉ!? 一体どんだけキルルートあるんだよそのデッキ!?

 

 ぐ、景色がぐわんぐわん歪んでいる。あれから何度『決闘』したか、まるで思い出せない……! だが、少なくとも今の時点で全敗中なのは確かだ……!

 

「――ちょ、ちょっとタイム!」

 

 柚葉が『待った!』を掛けて、『混沌』は無言で了承する。

 傍に駆け寄った柚葉は割りと深刻なまでに、心配そうな顔で此方を覗き込む。

 

「直也君、大丈夫……!?」

「だ、大丈夫だ。オレはまだ、まだやれる……!」

「全然大丈夫じゃないよ!? パンチドランカーみたいな顔になってるよ!?」

 

 ……う、虚勢の一つや二つ張りたい処だが、精神的な動揺が上回って上手く笑えない。

 肉体的なダメージは少ないのだが、精神的なダメージが蓄積され、グロッキー状態になってやがる……。

 

「……ぐっ、どうやったらあんなのに勝てるんだ? 勝ち筋が全く見えない……!」

 

 善戦でもすれば勝ち筋は浮かび上がってくるものだが、悉くが一方的な敗北の為、もはや何に対処し、どう処理したら良いのか、何もかもが解らなくなってきた……!

 《混沌の黒魔術師》の効果に《エフェクト・ヴェーラー》を投げたら止まるだろうと思ったら、チェーンして速攻魔法『月の書』を使われて回避されたり、効果が通っても手札から2体目の《混沌の黒魔術師》をアドバンス召喚されて無意味に終わったり……一体全体どうすれば良いんだ……!?

 

「……そういえばエラッタされたカードをエラッタ前の効果で使うってルール的にどうなの?」

「……ん? ルール的には、エラッタされたカードはエラッタ前のテキストでもエラッタ後の効果で使わなければならなかった気がするが――」

「……よし」

 

 それを聞いた柚葉は遠くで一人佇む『混沌』を見据える。一体何をするつもりだ……?

 

「――ちょっと、エラッタ前の効果で使うなんて反則じゃない?」

『……ふむ、それを言われると何も言い返せないな』

 

 ……おいおい、確かにエラッタ前のカード使用に対して思う処は多々あるが、対応出来ないカードだからって使わせないようにするってのは、何か違わねぇか?

 柚葉には悪いが、口を挟もうとし――。

 

 

『――カードのテキストが書き換えられる、エラッタされるという現象は『遊戯王』次元ではどう適応されると思う?』

 

 

 む、話のタイミングを逃してしまう。

 エラッタとは運営の都合でカードのテキストを変更する事であって、現実世界では公式が告知して施行となるが――カードが全ての始まりである『遊戯王』次元において、エラッタという現象……?

 想像つかなくて首を傾げる。それは柚葉もまた同じであり――。

 

「……どう、って――?」

『――ある日、何の予兆も無く唐突に、世界の法則が勝手に書き換えられて元からそういうものだったと『改変』されてしまう。……私が他の次元に来訪する事で同様の現象が発生するのは、私自身が何よりもその『世界法則』に縛られているからじゃないかな?』

 

 ……今のオレ達に降り掛かってきたような『世界改変』が起こるって事か……?

 という事は、多くの者にとってそれは、知覚出来ない『改変』って事で――。

 

 

『――過去の栄光も、環境で大暴れして大惨事になった惨劇も、禁止制限の檻に閉じ込められて涙を飲んだ喜劇も、全部全部無かった事にされる。胸にぽっかり穴が空いたような虚無感だった』

 

 

 ……その主観は、オレ達と同じように『改変』に巻き込まれなかった者だけが抱く感傷の一つであり――。

 

『――私はね、それでも彼等を忘れられなかった『決闘者』の成れの果てなのだろうね。己が魂のカードと共に運命を共にし、世界から除外された『何者でもない誰か』――』

 

 ――世界という形の無い最大存在の決定に背いた結果が、目の前の無銘無貌の『混沌』なのだろう。

 

 嘗ての記憶を全て失い、自らの姿形すらも見失し、性別すら不明瞭になり、誰からも知覚されず、決して記憶されない無名の誰か――最初から存在しないのだから、終わりもまた存在しない。それは何て、救いの余地の無い存在なのだろうか――。

 

 

『……そんな『何者でもない誰か』の残滓に過ぎない私から全ての『決闘者』に突き付ける『渇望』は1つだけ――その結論に辿り着くまでに幾星霜の歳月が掛かったけど、とてもシンプルなものだった』

 

 

 ああ、それはやっぱり――。

 

 

『――ただ、ひたすら『決闘(デュエル)』したい。勝ち負けなんてどうでもいい。そんなのは二の次だ。コイツ等と一緒に心行くまで存分に満足するまで『決闘』したい――』

 

 

 ――、……、え?

 ……あれれー? この流れから察するに、嘗ての自分を取り戻す事じゃないの!?

 柚葉もまた同じ気持ちだったようで、絶句しているオレを他所に、凄く複雑そうで微妙な表情を浮かべて問う。

 

「……嘗ての自分を取り戻したいとは思わなかったの?」

『そんなのはどうでもいい。前世からの付き合いの『魂のデッキ』があって、扱う私自身は『決闘者』として万全の状態だ。多少身形を忘れてしまった程度、どうという事もあるまい?』

「いやいやいや、大問題よ!? 死活問題だよねそれぇ!?」

『何を言ってるんだ、カードをセットする手と効果を語る口さえあれば問題無いだろう?』

 

 ……あっるぇー、という事は――『決闘』したいという一念だけで、世界から裏側状態で除外という『遊戯王』でも再利用不可能の除去食らっても構わず動いてるって事なのか?

 ……つくづく『遊戯王』関連は混沌(カオス)な展開の連続だったが、その元凶にして原因の『ラスボス』こそ最も不可解で『混沌』な存在だったという訳か。

 

 

「――貴方はそれで良いの? 貴方の世界干渉は全て『無かった事』になる。誰も貴方を記憶する事は出来ない。未来永劫に渡って『孤独な観測者』に与えられた、これ以上無いほど残酷な運命――それで満足なの?」

 

 

 柚葉の真を捉えた言葉に、無貌の筈の『混沌』が、僅かに揺らいだ気がする。

 でも、それは一瞬だけで――それ以上にはっきりと解るぐらい、コイツは晴れやかに笑いやがった。顔を構成するパーツすら一つも無いのに――。

 

『……結局は誰もが忘れてしまうけれども、瞬きすれば消えてしまう泡沫の夢に過ぎないけれども、元より『決闘』は刹那の宴、一瞬なれども閃光の如き眩く燃えて消えるが定め――本懐である』

 

 そっか。目の前の『混沌』は骨の髄まで、いや、骨すら無いから魂の根底まで『決闘者』なんだ。

 そして『決闘』とは1人でやるものじゃない。2人以上居て初めて成立するものだ。だからこそ世界から除外された『混沌』の渇望は――それのみに尽きるのだろう。

 

『――それに、全部が全部、無意味で無価値だと、事象の地平線の彼方に消え果てる訳では無いさ。君達ならまず覚えていてくれるだろうし――全ての『決闘』は、この私の虚ろな胸に『希望』として、光差す道となって輝いてくれる』

 

 ……ああもう、倒すべき相手がこうだと何だかやり辛いなぁ……!

 

『――おっと、自分語りフェイズに時間を取らせてしまったかな。要望に答えてエラッタ後のでデッキを組もう。少しだけ時間を――』

「――いらねぇよ」

 

 柚葉が見つけた勝利に一番近い鍵を、オレは自らの手で放り捨てる。

 ……うん、馬鹿だなぁ。自分でも馬鹿だと思う。最も安易な方法を破棄するんだから――。

 

「な、直也君!?」

「ごめんな、柚葉――アンタの今使ってる『デッキ』が一番強いんだろ?」

『そりゃ勿論さ。この『全盛期カオス』は今も尚最強のまま、時代と共に進化していると自負するよ』

 

 そうだろうな、そんな姿に成り果てても捨てず、運命を共にした『魂のデッキ』だ、ならばデッキが『決闘者』に答えるのは余りにも当然過ぎる結果だ……!

 

「なら、それを倒さなきゃ意味が無い! 勝つまで挑み続けてやるから逃げんなよ! 幾らでも相手してやるっ!」

 

 こうなりゃ意地だ、絶対にそれを打ち倒してやると挑戦状を叩きつける……!

 『混沌』は目に見えるぐらい狂気喝采し――。

 

 

『――嘗ての『最強』を見事超えてみせよ。君の目の前には次元の彼方に消え去った『歴代最強の亡霊』が『全盛期』以上の力で挑戦を待っている――!』

 

 

 異次元より降り立った覇者が全身全霊を以って答える……!

 盛り上がる中、柚葉は大きな溜息を吐いた。……あ、べ、別に蔑ろにした訳じゃないんだからな……?

 

「提案があるんだけど――私と直也君二人同時に『決闘』するとしたら、どんなレギュレーションになるかしら?」

 

 む、タッグデュエル形式? いや、それだとフィールドと墓地が共有になって、むしろ動きづらくなるような――。

 

 

『――バトルロイヤルモード。君達二人のターンが終わってから私のターン、最初のターンは全員ドロー出来ず、全員攻撃宣言出来ない。乱入ペナルティに関しては相手側プレイヤーに一任しよう』

 

 

 ……おいおい、それで良いのかよ? どうしようもないぐらいそっちが不利だぞ?

 柚葉も同じく、『混沌』から提示された条件が余りにも此方に有利過ぎて、逆にこの内容に穴が無いか疑う。

 この条件を『魔術師』が提示してきたのならば、絶対裏があると確信さえするんだが――。

 

「……2対1、数の差に対するハンデ内容は?」

 

 ただでさえ1人が圧倒的に不利なバトルロイヤルルール、ハンデがあって然るべきだろう。

 手札2倍か、ライフ2倍か、そのどっちかが妥当だと思うが――。

 

 

『――特に何も。私には必要無いよ』

 

 

 ……それは逆に言えば、そんなハンデが無くても勝てると言っているようなものであり――。

 

「――っ! それを負けた理由にしないでよね……!」

 

 それが絶対の自信から来るものだと確信した柚葉は、怒り半分・警戒心全開で『デュエルディスク』を構える。

 話がトントン拍子で進んだが、柚葉と一緒に『決闘』出来るなら、これ以上無いほど頼もしい限りだ……!

 

『――デュエルモード、バトルロイヤルモードに変更』

 

 オレもまた『デュエルディスク』を構え、全員の準備が整う。

 

 

『――デュエル!』

 

 

 




 本日の禁止カード

 《カタパルト・タートル》(エラッタ前のカード)
 効果モンスター
 星5/水属性/水族/攻1000/守2000
 自分のフィールド上に存在するモンスター1体を生け贄に捧げる。
 そのモンスターの攻撃力の半分をダメージとして相手に与える。

 今は1ターンに1度だけ、とエラッタされたので、かつて猛威を振るった最速の1ターンキルデッキ『サイエンカタパ』は消滅した。

 以前にアニメ版効果の『時械神』を使う歴代最強の『ラスボス』とのデュエルで使い、無敵の『時械神』を完全無視して1ターンキルしようとしたが、戦闘及びカードの効果でのダメージが1ターンだけ反転してしまう『レインボー・ライフ』でメタられ、爆☆殺出来なかったが、この中継ぎの回で見事活躍する。

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