「……これってさぁ、もしかしなくても『令呪』だよな?」
『私立聖祥大付属小学校』の白い制服を着る十二歳程度の黒髪の少年は、自身の左手の甲に刻まれた赤い3画の痣を、年不相応なまでにどんよりとした眼で眺めていた。
前回は割り当てられなかっただけに、この完全な不意打ちには正直参ってしまう。……『転生者』の身としては、『聖杯戦争』のマスターなど妄想し甲斐のあるシチュエーションだが、実際に身に降りかかると死亡フラグ満載の上に回避不可避の大災害への片道切符でしかない。
「明らかに『令呪』だね。……直也君、マスターデビューおめでとう?」
「いや、絶対召喚しねぇから!?」
その少年、この転生者の魔都『海鳴市』でも数奇な運命を辿っている秋瀬直也の――ほぼ真隣に寄り添うのは同年代の、同じく『私立聖祥大付属小学校』の白い制服を着こなす、赤髪蒼眼でポニーテールの美少女・豊海柚葉はからかうように邪悪に笑う。
秋瀬直也と同じく『転生者(3回目)』であり、色々あって、本当に色々あって(騙したり扇動したり欺いたり協力したり殺し合ったりして)紆余曲折を経て恋人関係になり、お互いに赤面していた初々しさが少し薄れ、少しだけ慣れてきた様子である。……まぁそれでもこの『海鳴市』1番のバカップルなのは変わらないが。
「レクイエム化して殴れば『令呪』も消えるか……?」
「……うーん、根本的な問題解決になるかは微妙だね。絶対巻き込まれるだろうし」
「……薄々勘付いていたが、やっぱりオレってそういう運命の下なの?」
柚葉はきょとんとした顔で「今更じゃない?」と当然の如く述べて、直也は「今更レベルなのかぁ……泣きたくなってきた」と本気で神社にお祓い行った方が良いか、真剣に悩む。
なお、秋瀬直也の厄を落とせるレベルの神社は、どの世界にも存在しない。本物の神様だって、通夜のような面持ちで首を横に振って匙を投げるだろう。
「仮に召喚出来た処で戦力にならんぞ? 一般人に魔力なんてものは無いし」
前回の『聖杯戦争』でサーヴァントを召喚してしまった一般人枠のマスターは、魔力不足を解決する為に『魂喰い』で補っており――其処までの凶行をしなければ、『聖杯』のバックアップがあっても一般人がサーヴァントを維持する事は不可能なのだ。……尤も、前回はその『聖杯』のバックアップが存在していたかは極めて疑わしいが――。
「『逸般人(スタンド使い)』が何を言うのやら。――それはそうと、この類の事に関する『一番の専門家』には頼らないの?」
その『一番の専門家』が『誰』を示しているのか、直也は即座に察し――にんまり笑う柚葉に対し、思わず苦々しい顔となる。
「……解ってて言ってるだろ、柚葉?」
「勿論、解ってて言ってるわ。直也君がそんな愚かしい自殺願望者じゃない事を祈りつつね?」
その選択肢が最初から無い事など、柚葉とて百も承知だろうに。
転生者の魔都『海鳴市』における最大勢力にして最も厄介で危険な個人、型月世界出身の『転生者』であり、実際に『聖杯戦争』経験者――というより、冬木における『第二次聖杯戦争』の勝者にして穢れ無き『聖杯』を手にした唯一無二の人物。
――この転生者の魔都『海鳴市』を自身の霊地として管理する、自身の死すらペテンにする稀代の謀略家。依頼者としても全く油断ならぬ人物であり――。
「この転生者の魔都『海鳴市』に二回目の『聖杯戦争』が起こるとすれば――」
「事の発端からその結末まで、主演・監督・脇役・黒幕、その全部が『魔術師』の仕業だろうさ」
『■ー■ー■ー/■■ー■■ー』 マスター秋瀬直也
未召喚の為、事前情報無し。
マスターの基本方針は消極的な受け身。ただし、どうせ我慢出来ずに積極的介入に変わる事は目に見えている。
『聖杯』に対する願望、特に無し。『万能の願望機』で叶えたいような大層な願いも無いし、どうせそんな世界を変革出来る『聖杯』は鍛造出来たとしても『魔術師』が無意味に使い潰すだろう。