転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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08/新・紫天一家御一行(槍・術)

 

 

 

 

 ――今回、神咲悠陽が召喚してしまったサーヴァントは、メソポタミア神話の英雄、人類最古の英雄王ギルガメッシュ……その幼年期に相違無い。

 

 縁召喚で何故そんな劇物を引き当ててしまったのか、疑問は無限に尽きないが、今はどうでも良い問題だ。

 

 ――此処で一番の問題はどうして幼年期の姿で召喚されたのか。

 

 偶然であるならそれで片付けられる問題だが、偶然ではなく意図的であるならば末恐ろしいの一言に尽きる。何故、あの英雄王に自身の存在が認知されている?

 自分の『2回目』の人生においての接点は皆無、であるから別の世界線の縁? 一体どんな経緯を辿って縁を結んだ? あの英雄王相手に? 御せない筆頭サーヴァントとして召喚した瞬間自害させる可能性100%の大外れ枠なのに。

 

 様々な疑問に憶測が交差する中、唯一の共通認識――この『聖杯戦争』はもう通常じゃないという第一認識で思考再開する。

 

「……時間的猶予は?」

「3分12秒はありますよ、手早くお願いしますね?」

 

 流石は話が早いといった風に、したり顔で笑う英雄王(小)に、神咲悠陽の眉間が歪みに歪む。

 時間的猶予少ねぇ!?とツッコむ猶予すらありゃしない。

 

「その二重クラスは、通常規格の『聖杯戦争』に別の異常規格の『聖杯戦争』を重ねられた、という認識で?」

「その認識でほぼ間違いないかと」

 

 全騎二重クラス持ちとかいう『聖杯戦争』など、考えるまでもなく地獄の中の地獄だろう。サーヴァントとしての規格に意図的に大穴空けてリミッター解除しているに等しい。

 『アーチャー/ルーラー』という自己申告のクラスを盲信するのならば、ルーラーのクラス別能力『神明裁決』――全サーヴァントに対する令呪を2画ずつ持ち得ている筈だが――中立の筈の裁定者が特定勢力になっている時点で余り期待出来ないし、令呪が通用するサーヴァントなど逆に稀だろう。

 つまり、あの英雄王がルーラーのクラスで現界した理由は――。

 

「人理崩壊案件?」

「残念、宇宙崩壊案件です」

 

 一瞬で推測出来てしまった最悪の結論を更に上回る現実に「一介の魔術師の領分を遥かに逸脱しているな!?」「ユウヒが一介の『魔術師』? 中々笑える冗談ですね」と鼻で笑う英雄王(小)に青筋を立てる。

 

「何が必要だ?」

「真の降霊儀式・英霊召喚なる決戦魔術――自己検閲領域の16頁目ですよ」

 

 どうして魔術的な自己暗示で整理している人の記憶領域の事情を知っているのか、『魔術師』神咲悠陽はブチ切れしつつ「クソがッ! 最重要ネタバレ区分じゃねぇか!?」「早く自己解凍して下さいねー」と英雄王(小)に煽られながら、死に勝る精神的苦痛を我慢して検閲している記憶群を精査する。――ネタバレした奴、マジブッ殺。いや、もう殺しているけど。

 

「マスター代行の許可!」

「了承、彼女を一時的に仮のマスターと認めましょう」

 

 有無を言わさずディアーチェの手の甲に自身の掌を合わせ、令呪3画を移植する。

 当人の許可を得ずに行われた令呪移植に、ディアーチェは困惑顔だが、残念ながら構っている猶予は無い。

 

「エルヴィ! 此処に書き記した魔術的素材を世界各地から手段選ばずに最速で回収して来い! 詳しい指示は追って出す!」

「はいぃ!? 御主人様の護衛は!?」

「んなもんいらん! 『(『うちは一族の転生者事件』でぱちったままの)穢土転生』の本来の使い方をすれば『遅延戦闘』ぐらい出来る! 早く速く一秒でも疾く(ハリィ・ハリィ・ハリィ)!」

「はいぃいってきまーす!?」

 

 即座に自身の不死身の使い魔、シュレディンガー准尉の性質を取り込んだ吸血鬼アーカード、その直系の吸血鬼エルヴィをお使いに行かせる。

 何処にでもいて何処にもいない『シュレディンガーの猫』の能力を自在に使えるエルヴィは、何処にでも現れる事が出来るので、こういう時の即効性は唯一無二、折り紙付きである。

 

 

「ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリ。私は出来る事しか言わない。――この『聖杯戦争』を生きて、勝ち抜け。最後のどんでん返しは私が用意してやる」

 

 

 本来ならば、この選択は拒否感MAXの、『魔術師』にとっても苦渋の選択である。

 何せ危険度が未知数、既に自分の掌から零れ落ちている異常事態だ。彼女達『紫天一家』の戦闘能力を額面通り算出すれば心配無いが――。

 

「――ふんっ、この我を誰だと思っている! 我こそはっ!」

「――『紫天の書』の主にして」

「――僕達の頼もしき盟主!」

「――『砕け得ぬ闇』の支配者、『闇統べる王(ロード・ディアーチェ)』、です!」

 

 ……全く、子供はすぐ成長する。こんな啖呵を切られたからには安心して代行するしかあるまい。

 「残り時間10秒」――幼年期なのに愉悦部特有の愉悦顔で笑うなっ!と内心ツッコむ。

 

「――ランサー、アーチャー、後は任せた!」

 

 短く簡潔的な言葉に全ての想いを乗せ、ランサーとアーチャーは自信満々に笑う事で無言の返答とする。

 時間があれば「英雄の矜持に賭けて死んでも守れ」と死守命令を下しただろうが、当たり前の前提に対する返答なんて英雄の中の英雄には持ち合わせてない。ただ無言で実行するのみである。

 

 後の心配は此処にいない神咲神那の事だが、まぁ大丈夫だろう。あの娘なら色々察して勝手に動いてくれるだろう。何せ、あれは神咲悠陽の実の娘なのだから――。

 

 

 ――『魔術師』が自身の固有結界の応用で空間転移で姿を消すとほぼ同時に、世界が文字通り塗り替わる。

 

 

「なっ、これはあの『邪悪娘』の時と同じ……!」

「術者の心象風景を形にし、現実に侵食させて形成する『固有結界』――」

 

 ディアーチェが過去に似たような出来事を思い返し、後に『魔術師』から様々な知識を得たシュテルは大凡の正解を導き出す。

 

「似たようなものですね。規模と規格が段違いですけど」

 

 眼下に現れるは、一面の砂漠――『征服王』の固有結界との差異は、砂漠だけでなく、『全長2000kmに渡る超巨大な大陸』が克明に再現されている事であり、「流石に僕の『乖離剣』でも切り裂けそうにないですね」と、かの英雄王の暴威を知る者からは破格の感想を述べる。

 

「――よもや、神秘の薄れた現代世界で『神霊級』規模の権能を拝めるとはな」

「――おやおや、『クランの猛犬』ともあろう者が、怖気付きましたか? ランサー」

「――抜かせ。格上への下剋上は英雄の誉だ。そういうテメェはどうなんだよ? アーチャー」

 

 普段のアロハ服から戦闘用の青い鎧姿に切り替え、呪の朱槍を片手に担ぐランサーは、肩を並べるサーヴァントに獰猛に笑いかける。……何処かの世界線で縁があったのか、微妙に懐かしいという正体不明の感傷があったが――。

 

「幼年期の僕も神なる存在は大嫌いなので――憂い無く殺せる機会は非常にありがたいですね」

 

 

 

 

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