――昔々、ある処、否、何も無い空間に巨大な『神』さまがいました。
その『神』さまの性根はとてもとても歪んでおり――苦しみ、憎しみ、哀しみなどの負の感情を心地良く思い、それを創造する死と破壊を好み、苦痛と絶望と悲劇と混沌の鑑賞にこの上無い愉悦を感じてました。
『神』さまが創造した『大陸』は、『神』さまの退屈を慰める為だけの『劇場』であり、其処に生きる全ての創造物はその邪悪な『神』さまの為に捧げられる祭壇に過ぎません。
その『大陸』に生きる『観察対象(人間)』には、救いなんて最初から用意されてないのです。『神』さまの思惑通りに苦しんで憎み合って殺し合い犯し合い、泣きながら喚きながら苦しみ悶えながら死ぬしかないのです。
――そんな余りにも酷すぎる『舞台』だからこそ、『貴方』の存在は唯一無二、金輪際現れない『一番星』だったのです。
『貴方』の冒険を、その活躍を、私はこの『大陸』に産まれる前から見続けてました。
波乱万丈、物語の王道を徹底的なまでに型破りした邪道の極みなれども、他に類を見ない極上無類の英雄譚――それを、余す事無く見続けてました。魅せられてました。
惜しむべきはその結末を見届けられなかった事であり、私の前世における唯一にして最大の未練となり――この『大陸』に生まれ変わったと知った時、私は希望/絶望を抱きました。
――嗚呼、余りにも遠すぎたのです。それと同時に思ったのです。手段を選ばなければ今度こそ、『貴方』の冒険譚の結末をその眼で見る事が出来ると――。
「――っ、ティセちゃん無事!?」
「痛い痛い危ない危ない、片手程度で済みました。――再戦は援軍を募ってからですね」
『ランサー/プリテンダー』からの絶死の触手を避ける為に、アリアを左腕で掴んで回収し、自傷前提で自分から遥か彼方に吹っ飛んで一時離脱する事に成功したティセの右腕は複雑骨折し、あらぬ方向に曲りくねっていた。
苦痛に顔を歪ませながらも、ティセは比較的軽傷で済んだと判断する。あの攻撃を掠りでもしていれば、此方のバリアジャケットの防御を貫通して――原型すら留めずに血袋として大破裂していただろう。背筋が寒くなる。
「でも、白ちゃんが……!」
「アリアさん、落ち着いて下さい。白ちゃんは『まどか☆マギカ』式の魔法少女です。ソウルジェムが無事な限り、どんなに肉体が損傷しても大丈夫です」
人体としての致命傷を幾ら受けても支障無いだろうが「早めに救出しないと、魔女化しますけどね!」という最大規模の懸念点があるにはあるが、一応時間の猶予はある。
そんな普段のぽやぽやした様子と違い、戦闘者としての冷徹な一面を目の当たりにしたアリアはごくりと唾を飲み――自身の両頬を叩き、自身の中の混乱を打ち切る。
「……ごめん、落ち着いた。んで、これは『ランサー/プリテンダー』の『固有結界』?」
自傷の勢いで飛翔中、景色が一変し――何処かファンタジーじみた町並みの建物に突っ込む事となる。
派手にぶちまけてしまったせいでその家屋は半壊しているが――足元に散乱する奇妙な『貝』の数々が何故だか目に入る。粉々に破壊してしまったが、この『家主』のコレクションの一種だろうか?
「そのようですね。超巨大な一枚岩の大陸――一般人は除外されている? 物凄く大雑把に選別したような感じですけど……うわぁ」
転生者の魔都『海鳴市』に存在する、大凡の『転生者』が大陸各地に拉致(招待)されており、それに加えて戦力持ちの現地民も同様の扱い(殺戮対象)となっているようであり――その他の反応に、ティセは思わず呻く。
「敵対反応が、何とっ、億単位ですね! 何処も彼処も敵・敵・敵です!」
もう数えるのが億劫になるぐらいの敵対反応に、ティセは自棄糞気味に大笑いする。
「は? 億? 嘘でしょ、アーカードの『死の河』だって数百万単位なのに!? 個の極限みたいな超性能だったのに、数の暴力まで完備とかどんなチートよ?」
当該サーヴァントが人智を凌駕した超暴力の化身なのに、集団戦特化の『征服王』を遥かに上回る規模の数の暴力まで取り揃えているとか冗談だと思いたい。
「種も仕掛けも無い、真面目に『神』さまかもしれませんね――まぁ関係無いですけど」
ティセの周囲にミッドチルダ式の魔法陣が複数展開され、自らの杖型デバイスを軽く振るう。
牽制の魔力弾を放つかの感覚で――四方八方が同時に爆ぜる。敵対反応という有象無象が魔力の津波に纏めて飲み込まれる形で――。
「外堀を削ってから他の陣営との合流を目指しましょう。ぶん殴る方法を考えるのはそれからです。――なお、考えるのはアリアさんの仕事ですのでよろしくお願いします」
「……うわぁ、忘れていたよ。ティセちゃんが核兵器同然の扱いだった事。――あいあい、任せてくれたまえ。悪巧みは割と得意だからさ!」