――この想いが『恋』である事を、私は暫く自覚出来なかった。
『君』と出会った後の『世界』が余りにも色鮮やかに輝き過ぎていて――出会った瞬間に一目惚れしていた事に、ずっと気付けなかった。
だって、いつでも『君』は隣にいる。姿が見えなくても其処に居るのが当たり前の定位置で、『君』のいない『世界』なんてもう一秒たりても想像出来なくなっていた。
私が「自分でもどうかなぁ?」と微妙に思いながらも百人中百人が呆れるほどの問題事を起こしても、『君』は筆舌に尽くし難い罵詈雑言で怒るものの、結局は最後に折れて最後まで付き合ってくれるんだもの。
一蓮托生の相棒過ぎて、この胸の奥に仕舞い込んだ想いを吐露する機会にとことん恵まれなかった。
そんな事をわざわざ言わなくても、通じ合っていると思っていたし、ずっとこんな関係が続いていくものだと思っていた。
――私の死が『君』の一生の傷になったのは、少し不謹慎だけど……嬉しく思えてしまう。それだけ、私の存在が『君』の中でも大きかった証明であるし――。
……ただ一つだけ、悔いがあるとすれば――『名前』で呼んで欲しかった事。
その『愛称』は割と好きだったけど、最期に『君』の口から、私の『名前』を聞きたかったなぁ――。
「――何とも初々しい『彼女』ですねぇ。感動しました。感動したので、『君』と今生での『彼女』との馴れ初め、その一部始終をついでに渡して置きましたよ! いやぁ実に良い仕事したなぁ『私』!」
――魔人と『竜』の騎士が激突する。
繰り出される拳打の一つ一つが『竜闘気』を纏う『竜』の騎士にとっても即死級の猛撃、致死の暴力の嵐を『竜』の騎士ブラッドは正面から迎撃する。
卓越した戦闘経験と直感による刹那の見切り、己が獲物である神造兵装『真魔剛竜剣』の一閃を差し込み――魔人は意図的に回避行動すらせずにその身に受ける。
――当然の如く、目に見えぬ『結界』に阻まれ、無傷に終わる。
地を引き裂き海をも両断する、伝説のオリハルコンの剣の一撃さえ目の前の魔人には通用しない――!
『無敵結界』が真に『無敵』であるが故の無傷を前提とした、魔人からの致死のカウンターは――予想通りの結果だったブラッドが一歩後退する事で空振りに終わり、再び致死の拳打の猛攻と迎撃の一閃による一方的な防衛戦に移行する。
「やはり、通じないか。『竜』の騎士も一応神由来の存在だが……世界観が違うと言われればそれまでだし、『固有結界(ルールの上書き)』の強度が成せる業か?」
「……攻撃手段が全部通用しない割には余裕そうだね?」
数多の戦場を駆け巡った歴代の『竜』の騎士さえ遭遇した事の無いタイプの敵に対し、ブラッドは即死の嵐を潜り抜けながらも、涼しげに分析する。
残念ながら、かの魔人の性能はブラッドの『1回目』の『知識』によって筒抜けであり、もう1つの要因もあって本来の脅威度よりも格段に劣っている事を認識する。
「そもそも魔人は『無敵結界』が無くとも強大で理不尽な存在なのだが――理性の無い人形だと、幾ら本体性能が高くても本領を発揮出来ないものだな。……シャル、攻撃手段は通じないが、搦手は割と通る。今の内に片っ端から試行錯誤して耐性確認だ」
「ん、了解。ハイト3信祈仰祷。――カ~エ~ル~の~き~も~ち~! トード!」
目の前の魔人に理性がある状態なら、真っ先に『最大脅威(何をしでかすか解らない『全魔法使い』)』を無力化させようと、あの手この手を行使してきただろうが――この場にいる全員をフェイス状態(信仰心100)にした上での、その詠唱って正直どうなの?的な黒魔法が魔人に襲いかかり――。
「……あ、それ通っちゃうのか。魔人カイト、哀れな……」
そう言えば原作でもかなり不遇な扱いだったなぁ、と、まさかのトード(カエル状態)が通ってしまって無力された魔人に心底同情する。
こんな状態でも機械的に攻撃してくるが、小さいカエル姿なので――『竜闘気』を切っていても――全然痛くない。反撃に『真魔剛竜剣』の先端で突っつくが、この状態に成り果てても『無敵結界』は健在で、結界に阻まれて突き刺さらなかった。
ほぼほぼ無力化した後も、シャルロットが無表情で算術(算術化出来ない魔法はわざわざ詠唱して)を行使し続け「スロウ、グラビガ、ポイズン、デス、闇縛符(ブライン)、魔吸唱(アスピル)、命吸唱(ドレイン)、沈黙唱(サイレス)、勇猛狂符(バーサク)、乱心唱(コンフュ)、不変不動(ドンアク)、狐鶏鼠(チキン)、夢邪睡符(スリプル)、腐生骸屍(ソンビ―)、アレイズ、碑封印(ブレイク)」と、散々な目に遭った後に、最後にはカエル状態のまま石化する。
「時間操作は基本的に受け付ける。毒や即死、割合ダメージは通らない。ダメージを伴わない状態異常系は大体通るけど、精神に作用する系は効果薄そう。ゾンビー&アレイズの即死コンボは流石に通らなかったけど、石化は通る」
……どうして其処まで搦手の手札が病的なまでに多いのか、ブラッドは内心戦慄する。
シャルロットからプレゼントされたリボンを装備していなければ、これらの状態異常は大体刺さるので恐ろしい。
「……シャルと一緒で良かった。俺一人ではほぼほぼ詰んでいる」
「頼れる前衛が居ないと瞬殺されちゃうけどね」
……なお、即死ダメージ対策にMPすりかえとMP回復移動も常備しているので、シャルロットを無力化したくば殺害よりも気絶させた方が手っ取り早かったりする。
彼女の他に、転生者の魔都『海鳴市』で魔人に対応出来るような搦手の持ち主など――万能に等しい魔術適性と無制限の手札を持つ『魔術師』ぐらいだろうか?
それ以外だと咄嗟には思い浮かばないので、多くの『転生者』は詰み状態で苦戦してそうだ。
「早い内に他の者達との合流を急いだ方が良いな。――シャル、トベルーラで移動する。俺の背中に――」
「お姫様抱っこ」
「手が塞がるリスクが大きい、却下――こら、杖で頭叩くな。恥ずかしいから言ってるんじゃないんだぞ?」