『――無茶だ、この触腕の群れを真正面から潜り抜けるなど……!』
『大丈夫大丈夫、このクトゥルフもどきの本体を吹っ飛ばすよりは現実的な話さ! ――気張れよ『ライダー』、俺達の仕事は避け損ねる触腕を撃ち貫くだけで良い』
『ライダー/アヴェンジャー』が駆るデモンベイン・トゥソードに転送された『突入部隊』の進行予測ルートは、鎮座する『初代魔王ククルククル』を真正面から突破し、最短距離で『空飛ぶランス城』に突入するものであり、自殺と同義語としか思えない。
『初代魔王ククルククル』の異常極まる再生能力を考慮するなら、デモンベイン単騎でも強行突破は不可能という判断を下さざるを得ず――。
『避け損ねた、ではなく?』
『あらあら、『騎士殿』は此処の連中の要求基準のエグさをご存知無いようで。……平然と最高難度を顔面にキラーパスしてくるわぁ……!』
『大十字紅朔(アナザーブラッド)』の言動は一々癇に障るが、これは此処の住民に対する愚痴に似た感想であり――。
『其処の『仲良し兄妹(二人共)』、駄弁っている時間は無いですよ。――残り五秒。陽動開始して下さい』
無数の触腕のうねりを真っ向から飛翔して回避し、クロウ・タイタスが駆るデモンベイン・ブラッドは無数の魔弾を撃ち込みながら陽動の役割を果たし――デモンベイン・トゥソードもまた追随するように二丁拳銃の魔弾をありったけ撃ち込みながら陽動する。
四、三、二――本当にこの触腕の壁を潜り抜けられるのか、半信半疑であり、いざとなればデモンベイン・トゥソードでの単騎突入も視野に入れて――その『突入部隊』は光の速度を悠々と超越して、遥か彼方から飛翔してきた。
『――速っ!? 予想の2倍以上疾っ!?』
『――クロウちゃん、シャルロットから聖魔法『マバリア』のお裾分け!』
『――魔術と魔法が交差して更に加速しているのかよ!? 『ライダー』置いて行かれるなよ!』
肉眼で目視しきれなかったが、それは『空中戦艦』――それも古代の神に連なる系列の――分析よりも先に、途方も無いぐらい埒外の補助魔法がデモンベイン・トゥソードの全性能を一時的に向上させる。
『ライダー/アヴェンジャー』は当然知らない事だが、『リレイズ(自動蘇生)』『リジェネ(自動回復)』『プロテス(物理加護)』『シェル(魔法加護)』『ヘイスト(時間加速)』を同時に施す反則級の聖魔法であり――思考を更に加速させて『空中戦艦』の飛翔航路を予測、迫り来る触腕の嵐を先読みして自動式拳銃とリボルバー式拳銃の弾をひたすら撃ち続ける――!
『避け損ねるとは良く言ったものだ! 最初から避ける気などまるで無いじゃないかっ!』
『最初から知ってた定期。――こっちの腕を過信しすぎな気がしないでもないがな! ほら撃て撃て! あと当たるなよ!』
此方にも伸びてくる触腕(掠っただけでも即死)を必死に回避しながら零に等しい活路を切り開くが如く、デモンベイン・トゥソードとデモンベイン・ブラッドの魔弾が巨大な触腕を穿ち貫いて刹那の航路を穿ち貫いていく。
英雄王が駆る『空中戦艦』ヴィマーナはその刹那の道を的確に突き進んでいく。黄金の光がジグザグに直角移動しながら魔弾で一瞬開いた死地を突破していき――幾十幾百の触腕の壁が一斉に立ち塞がる……!
『うっし、合わせろ『ライダー』!』
『――言われずとも!』
デモンベイン・トゥソード、デモンベイン・ブラッドが共に自身の魔銃に特別な弾丸を装填し、膨大な魔力を籠める。
『『――クトゥグァ、イタクァ、神獣形態!』』
2組の、焔で構成された獣と氷で構成された一角の竜が縺れるように飛翔し――無数無量の触腕の壁に一時的に大穴を穿つ事に成功し、瞬間再生される前に『空中戦艦』ヴィマーナは光を超える超速度にて突破成功し――そのまま『空飛ぶランス城』に突貫する。
『……こうも簡単に突破するか――』
……サーヴァントの宝具である事を加味しても、此方の援護を前提にしても、それを信頼して任せる糞度胸は理外のモノであり――『ライダー/アヴェンジャー』もまた識っていた。クロウ・タイタスが『母(アル・アジフ)』と共に紡いだ物語は、確かにこの身にも引き継がれている。
……この魔都の油断ならぬ住民達を過小評価していた自身の眼こそ、どうしようもないほど曇っていたと判断出来るぐらいの冷静さは、残念ながら残っていた。
クラス補正のせいだという言い訳などしたくないが、『ライダー/アヴェンジャー』の心を燃やす復讐心は際限無く燃え滾っており――。
『――! 『ライダー』避けろ!?』
『!?』
目標を達成した虚脱感、一瞬の思考の没入は致命的な隙を晒し――致死の触腕が回避不能の位置まで蠢動していた事に気付けなかった。
何たる無様極まる不覚――この一瞬で出来る事は、無駄と知りつつも全力で防御して即死から即死一歩手前まで被害を抑えるのみであり、やっぱり過剰殺傷過ぎて無理だという判断は――天から無数に降り注ぐ黄金の弓の射撃で覆る。
『――! っっ!』
文字通り降って湧いた天の助けに、背部ユニットのシャンタクを瞬間的に吹かせて、致命的な一撃の回避に成功する。
この黄金の弓の射撃を、『ライダー/アヴェンジャー』は識っている。『母』の知識に刻まれし魔人の御業――!
『――『天狼星の弓』!? リベル・レギス!?』
『まさかマスターテリオン!? それとも――!』
新たに現れた機影は紅き鬼械神、忌まわしき『無限螺旋』で、デモンベインの前に幾千幾万幾億以上も立ち塞がった絶望の化身。デモンベインの対を成す、最強最悪の鬼械神――。
『久しいな我が宿敵、クロウ・タイタスよ!』
『んな、『大導師』!? テメェ、生きて――いや、サーヴァントか!?』
『お察しの通り、此度の『聖杯戦争』では……ああ、そういう事か、なるほど――『キャスター/アルターエゴ』として召喚されている』
ブラックロッジの大導師マスターテリオン、ではなく、この転生者の魔都『海鳴市』を震撼させたクトゥルフ系の狂信者宗教団体『這い寄る混沌』の『大導師』――先の事件で魔都中の転生者に袋叩きにされた事で死亡している筈なので、此処に居る『大導師』は『ライダー/アヴェンジャー』と同じく、サーヴァントとして召喚された存在なのだろう。
『一体、何の真似です? 最初からトチ狂っているのは知ってますが、まさか私達の手助けでも?』
『いやはや、そのまさかだよシスター。それが『聖杯戦争』の正しい作法だろう? 『レイドボス』戦は仲良く袋叩きにしろ、とは名言よな。こういう機会でも無ければ我等の共闘など叶うまい』
その悪魔の如き鬼械神がデモンベイン達と戦列を並べるのは、違和感が激しく――『大導師』が駆るリベル・レギスは旋回しながら『天狼星の弓』で『初代魔王ククルククル』の触腕を射抜き続けている。
『次の舞台が間近に控えているのだから、前座如きで倒れてくれるなよ――』
『テメェの方は此処でひっそり撃破されてくれると非常に助かるんだけどなぁ!』
クロウからの真正面な罵倒に『つれないじゃないかクロウ・タイタス!』『うっせぇ勝手におっ死ね『大導師』のクソ野郎!』と、当然の如く塩対応しつつも、連携とは絶対に呼べない――互いの力量を熟知しているが故の、単独演舞から生じる結果的連携で触腕の群れを一方的に駆逐していくのだった。