転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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18/神殺しのやり方

 

 

 

 

「――なんで、どうして……!」

 

 途方も無い試行錯誤の末、『彼女』は遂に人類が魔軍を打ち倒す結末を引き当てた。

 ランス率いる人類軍が、数多の死闘を経て、魔人ケイブリスの討伐に成功し――『人類(メインプレイヤー)』がルドラサウム大陸で平和を成してしまった事での『創造神』からの直接介入に全警戒する最中――天を警戒してりゃ地は疎かになって当然――魔軍撃破の祝賀会にて最悪の悲劇が生じる。

 

 一体誰が想像出来るだろうか。取るに足らぬ端役の逆恨みで、『彼(ランス)』にとって最も大事な『奴隷(シィル)』の生命が奪われるなど……!

 

 更には魔王リトルプリンセスの覚醒も重なってしまい――苦渋の決断で、シィルの魂を回収する為に『地獄』に単騎突入するも……大陸の生命の魂は死後、必ず地獄に送り込まれるのに関わらず発見出来ず――あろう事か、ランスが魔王を継承してしまい、全てが台無しになってしまった。

 

 此処まで何もかも上手く行ったのに、『鬼畜王』での魔王ルートを辿ってしまった事に、『彼女』は心底絶望する。

 このルドラサウム大陸での魔王の役目は『人類(メインプレイヤー)』を苦しめる為だけの舞台装置に過ぎず、これまでの経験から十数年足らずでランスの人間としての意識は消え去り、『破壊衝動に支配された魔王(神の傀儡)』に成り下がるだろう。

 そんな『彼』など見るに耐えない。何度、自分の手で終わらせるか、苦悩に苦悩を重ねて、完全に気力を失った『彼女』はその決断さえ拒否した。

 

 ――もう、この回は完全な捨て回だと割り切り、次回以降の周回での初期行動にシィル殺害犯の完全抹殺をルーチンに組み込む。

 

 惰性にも似た諦観の内に沈む最中に、他の世界での『聖杯戦争』参加の打診があれば、そりゃ全力で八つ当たりしに行くのは当然だろう。

 何せ、『彼女』を常に苛つかせる要素は他にも生じている。……傷の舐め合いで抱かれ、気まぐれで自己改造した生殖器&胎盤に生命が宿ってしまい、自分の要素を何一つ受け継がずに遺伝子提供者の100%再現になってしまった『我が子』に対する憎悪は世界を引き裂くレベルまで跳ね上がっており――全ての子達の中で最もランスなのに、何処までも『主人公』足り得ない不出来な存在に殺意と憎悪を滾らせて――次に出遭ったら、自らの手で惨たらしく殺害しようと決断してしまっている。

 

 

 ……声が出せるなら、全力で叫びたい。余計な事をするな、と。

 『彼女』は『彼女』自身すら気づかない内に正史ルートに突入しており、感動の結末まで後一歩の処まで迫っているのに自らの手で台無しにしようとしていて――次周以降は自らの手で正史ルートを根絶しようとしていると――。

 

 

 

 

「……全員無傷で『ランサー/プリテンダー』の居城に侵入出来た処までは上首尾でしたが――」

「強制的に分断とかクソゲー乙。いや、真面目にクソギミックじゃね?」

 

 小さな『英雄王』が操る『空中戦艦』に死に物狂いでしがみつきながらも、全員無事という奇跡で敵本拠地に到達したのは良いが、直後に理不尽な空間転移によるパーティ分断が入り――『魔王(ランサー/プリテンダー)』がいるであろう玉座の扉の前には、『英雄王(アーチャー/ルーラー)』、ランサー(クー・フーリン)、元管理局局員ティセ・シュトロハイム&アリア・クロイツ、『全魔法使い』シャルロットの5人のみとなっている。

 

 ティセの探査能力によって「他の皆様は更に4個所に分断され、待ち受ける魔人達との強制戦闘に入ってますねー」と、状況説明が成される。

 

「全員合流してから玉座に、というのがRPG的な王道的展開だけど――」

「時間がありませんから私達だけで突入しましょう。他の場所で犠牲者を出さずに済ますにはそれが最適解です。――『アーチャー』に『ランサー』、貴方達の判断を仰ぎたい」

 

 アリアの戦力集中は理想論であるが、それでは犠牲者が何人か出るとティセが分析し――この面子の中でも特に特記戦力である二人の意見を伺い立てる。

 

「ええ、その意見に賛成ですよ。肝心要の『全魔法使い』は意図的に見逃されたようですし」

「全部が全部、『ランサー/プリテンダー』の思惑通りってのが面白くないが、異論は無い。――嬢ちゃん、俺達に命を預けられるか?」

 

 暴論であるが、『ランサー/プリテンダー』の前に無傷で『全魔法使い』を送り込むのが今回の戦闘での大前提であり、他の人員は彼女の為の『肉盾』に過ぎない。数少なくなった『肉盾』を信頼出来るか、否かの話だが――。

 

「――大丈夫。やるべき事は変わらないから」

 

 常に隣にいた『竜』の騎士不在がシャルロットの中で重く響くものの、大切な人の無事を願う心は他の人と変わらない。

 意を決して玉座の扉を開き――現在の城主である『ランサー/プリテンダー』は玉座に直接座らず、空の玉座の肘掛けに座りながら侵入者を一瞥すらせず、空っぽの笑顔を浮かべる。

 

「――ようこそ、『空飛ぶランス城』へ。残念ながら歓迎はしないよ、私に唯一対抗出来そうだった『豊海柚葉(あれ)』を連れて来れなかった時点でたかが知れてるし。まぁ最期の悪足掻きぐらいは許してあげるわ」

 

 「散り際で興じさせろとか、本家本元の『英雄王』に言うかぁ……」というアリアの軽口は、『ランサー/プリテンダー』から生じる物理的な威圧感の渦で圧倒される。

 常人の呼吸すら許さぬ、荒ぶる『神威』はまさに神なる超越存在の理不尽さの体現であり――。

 

「……そ。じゃあ、遠慮無く――生命を司る精霊よ、失われゆく魂に、今一度生命を与えたまえ。アレイズ」

 

 空気を読まない事に定評のある『全魔法使い』シャルロットは唯一の対抗策を最初に行使し――何故、攻撃魔法ではなく蘇生魔法?という『ランサー/プリテンダー』の疑問は、自身の内部に生じた違和感によって解消される。

 

「――? ああ、そういう事――!」

 

 ――『ランサー/プリテンダー』の腹から白い手が、内部から突き破って生える。

 『彼女』の透き通った透明な瞳に驚愕の色が灯り――『彼女』の内に取り込まれ、肉体の原型すら留めていなかったマスターは、自身の『ソウルジェム』を起点に自身の肉体の再構成を成して、一瞬にして『ランサー/プリテンダー』の肉体を内部から突き破って、脱出する事に成功したのだった。

 

 

「――わぁお、久しぶりだねマスター! 肥溜めに這いずり回る油虫よりも生命力逞しいのね!」

「表現に悪意しか感じられないっ!?」

「いや、正直驚いているよ! あの状態から完全蘇生果たすとか人間じゃないね! ……ああ、ごめん。本当に人間じゃなかったようだね? 興味無かったから見もしなかったわ」

 

 

 内部を徹底的に引き裂いて脱出してやったというのに、その損傷は瞬く間に修復する――この魔都の中で唯一『ランサー/プリテンダー』に対抗出来る超越存在の帰還に成功する。

 それ即ち、『ランサー/プリテンダー』という規格外の存在に対しての魔力供給を成せる、同じく規格外の存在、女神/摂理に到達した『魔法少女(鹿目まどか)』に匹敵する『魔法少女』であり――。

 

「白ちゃんおかえり! 早速だけど、令呪だ! 命令内容は――」

 

 通常のマスターであるならば、あの『ランサー/プリテンダー』に幾ら令呪で命じようが平然と無視して不履行にしてしまうだろうが、白ほどの規格外の魔法少女が行使すれば、間違いなく通る。其処に攻略の活路を見出し――。

 

 

「――令呪3画を以て勅命と成す!」

「……あの、白ちゃん? 話聞いてる? 待って待って、あ、駄目だこれ。全然聞いてねぇ!?」

 

 

 まぁ問題があるとすれば、復活を果たした白が珍しく、感情を極限まで荒げてブチ切れている状態になっており――如何なる理不尽が自身に降り注いでも此処まで感情的になる事は無いだろうに、一体何が白の琴線に触れたのかは余人には知る由も無く――。

 

 

「――『私の話を聞けぇ』!」

 

 

 白の左手の甲に刻まれた令呪が一気に3画消失し――途方も無い令呪の拘束は、『ランサー/プリテンダー』に刻み込まれる。

 

「白ちゃんの馬鹿ぁ!? そんな命令で貴重な令呪を……!?」

「大丈夫ですアリアさん! 私に良い考えがあります!」

「それ第一級の失敗フラグですよ!?」

 

 この予想外の大暴挙に対して、小さな『英雄王』は腹を抱えて大笑いし、ランサーは呆れ顔で肩を竦め、予想外の事態に弱いシャルロットは思考真っ白な状態で完全硬直していた。

 

「……うわぁ、すっごい馬鹿魔力。それなのに史上稀に見る無駄使い。遠坂凛よりも才能あるよ? ――お望み通り、マスターの話を聞いてあげるわ。それが遺言になるから素敵なお話をどうぞ?」

 

 その令呪によって行動を一時的に縛られた『ランサー/プリテンダー』は完全に呆れながら――此処に召喚されて初めて、人の話を聞く状態になる。

 今の今まで、『ランサー/プリテンダー』は人の話など欠片も聞いておらず、特に意味の無い独り言を反射的に吐き散らしていた状態だったと誰が知ろうか。

 ――唯一人、自身のサーヴァントのマスターとして『ランサー/プリテンダー』の記憶を読み取っていた白以外は気付けない事実だっただろう。

 

 ――その前提があったとしても、何故、その命令に3画も消費したのか。それは――。

 

 

「――『ランサー/プリテンダー』、貴女は――ランスシリーズ最終作である『ランス10』がシリーズ初の『2部構成』なのをご存知無い?」

 

 

 ――その会話こそ、『ランサー/プリテンダー』にとって、最も致命的な行為に他ならないからだ。

 

「……は? ――え? ちょ、マジで……!?」

 

 一瞬、自身のマスターが何を囀っているのか、理解出来ず――脳裏に反芻する言葉を強制的に理解してしまって更に混乱する。

 このマスター、白は自身を現界維持出来るほど規格外の魔力の持ち主だったからこそ、『ランサー/プリテンダー』を召喚出来たのではなく、『ランサー/プリテンダー』が求めた解答の持ち主だったからこその縁召喚だったのだ。

 

「奇跡的に第2部突入して正史ルートに入ってるから余計な事するなっ!」

「――冗談っ! シィルを亡くしたランスが正史? 一番要の『番』を失ったランスなど……!」

「シィルの魂を『地獄』から回収出来なかった時点で察するべきじゃなかったのかな? 前作のランス9で、クルックーにどのような形で魔王の呪いから解放されたか、まさかご存知無い? その事に関して聞かれたら間違いなく正直に答えるのに!」

 

 怒涛の如く紡がれる言葉の暴力に「ご丁寧にも魂が抜けやすいという目に見える異常を目の当たりにしている癖に!」「は? え? ちょ、クルックー!? 嘘でしょ!?」と目に見えるまでに『ランサー/プリテンダー』は狼狽える。

 

 ――最速で『地獄』に突入したのに、シィルの魂は何処にも見当たらなかった。『神』か『悪魔』の横槍でシィルの魂を強奪されたのかと疑ったが、あの時点では両陣営ともにシィルの魂に価値など見出さないだろうし、それならば彼女の魂の所在が解らないという道理の通らない事態にはならない。

 

 ランス9にて、現・法王のクルックーはヘルマン帝国の秘宝を用いて魔王の呪いによって氷結封印されたシィルを解放したが、その経緯及び真実を、『ランサー/プリテンダー』さえ知らなかった。

 

 それもその筈。それは最終作の『ランス10』で明かされる驚愕の真実であり――。

 

 

「――さて、助言は此処まで。ところで『ランサー/プリテンダー』。私って元魔女で性格悪いの。貴女に対しての一番の嫌がらせが何になるか、考えに考えてね――やっぱり、『ランス10』の最重要ネタバレが一番良いと思うの!」

 

 

 そう宣う白の笑顔は、愉悦部部長の『アーチャー/ルーラー』からしても太鼓判を押したくなるほど悪どい愉悦顔であり、精神的な死刑宣告を下された『ランサー/プリテンダー』の絶望顔は最上級の観物であった。

 

「なななっ、悪魔なのマスター!?」

「元魔法少女で元魔女で現・女神級の魔法少女ですけど?」

 

 にんまりと素敵な笑顔で「悪魔はほむらの方だしー?」と言う、純白の魔法少女姿の白だが、何故だか真っ黒の衣装で黒の三角帽を被っている魔女時代の彼女を想起させる。

 

「ぐぎぎ!? う、動けない!? 耳も塞げない!? そ、そんな馬鹿なぁ!?」

「私の馬鹿魔力での令呪3画で、尚且つ単一命令だよ。例え『創造神』を超越した『簒奪神』でも逆らえる訳無いじゃない? ほらほら、諦めて御清聴あれ! 実はねぇ――!」

 

 それだけは絶対に聞くまいと必死に抵抗するも、3画の令呪の縛りによって逆らう事さえ出来ずに――『ランサー/プリテンダー』の脳裏に走馬灯が流れる。自身の膨大な記憶の中から解決策を見出そうとひたすら高速検索し――辿り着いた結論は、というと――。

 

 

「お、お願いします! どうか、どうかそれだけは……! 私の記憶を覗き見たのなら、解るでしょ? その結末を見る為だけに生きている私に、それだけは、それだけはぁ……! な、何でも、何でもするからっ! それだけはやめてぇー!」

 

 

 ……誇りも尊厳も全て投げ捨てて、必死に命乞いする。まさかのケーちゃん(魔人ケイブリス)リスペクトである。

 それを見た白は一瞬ぽかんとした後、呼吸困難に陥るほど大笑いする。「うわぁ、下手糞な命乞い演技! ぎゃっはっは!」――その、何処かで見覚えある絶望的な光景に、『ランサー/プリテンダー』の表情は更に悪くなり――。

 

 

「貴女はそうやって命乞いした相手を、今まで一人でも助けた事ある? 識っているよ見たから、唯の一人足りても無いよね? ――因果応報って素晴らしい言葉だと思わない?」

 

 

 ……人生の総決算は、一番厳しい状況で請求される。死神の沙汰が下される最中――『ランサー/プリテンダー』は土壇場で閃いた最終手段を下す。

 即ち自身の霊核の自己崩壊、自主退場を以て即座に現界を取り止めて、瞬間的に退去したのだった。

 

「……よ、良かったぁ……! ハッタリ、通じましたよ、アリアさんティセさん……!」

 

 ――総評して、『ランサー/プリテンダー』は自身のマスター以外では対処出来ない超越存在であり、直接的な戦闘で対処してしまったら白のソウルジェムが黒く濁り切って砕けてしまい、『二次災害(宇宙規模)』が生じる二段構えの罠構成であり――自主的に自己退場して貰うのは、唯一にして無二の抜け道であった。

 

 

 

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