転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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19/決戦の夜

 

 

 ――そして彼女の前には、彼女の罪の形が居た。

 

 かつてのマスター。邪悪を討ち払う、その為だけに使い捨てたマスターの一人、歴代の中でも一際才能が無かった凡人。

 されども、死の間際でさえ『悪』に屈する事が無かった強靭不屈の意志の持ち主――邪悪に屈して折れた彼女には眩しく、同時に顔向け出来なかった。

 

 ――彼は恨んでいるだろう、と今の今まで思っていた。

 

 才能無き彼を邪悪との戦いに巻き込んだ忌まわしき魔導書を、見殺しにした非情な彼女を――これも運命、彼の恨み言を聞き届けた上で、彼を物言わぬ傀儡にする事を選ぶ。

 彼女には選択肢などない。彼女は愛する伴侶を見つけてしまった。彼の温もりは千年の孤独を癒し、その代わりにどうしようもないほど弱くしてしまった。

 それ故に自らが破滅の道に進んででも彼の魂を救いたい。それが邪悪である事を理解しつつ、彼女にはそれしか道は無かった。

 

 ――彼は恨んでいなかった。

 それどころか、全てを知った上で、捨て駒になる事を良しとしていた。

 

 彼は彼女の千年の放浪が、彼女の伴侶、大十字九郎に巡り合う為だけの道筋である事を理解していた。

 自身が途上に転がる石ころ以下の存在である事を、誰よりも理解していた。

 魔導書『アル・アジフ』を大十字九郎に託さなければならない、その不変の意志の下、彼は誰が考えても無謀な死闘に身を投じた。

 

 ――自分の死は、決して無駄ではなかった。彼は心より笑った。

 

 罪悪感で死にそうになった。

 彼女は宇宙の中心で運命の戦いに敗れた。邪神の策略に気づけず、生涯の伴侶を無限地獄に突き堕とした。彼の知る正しき物語とは違って――。

 耐えられなかった。恨まれる覚悟はしていた。疎まれる事を覚悟していた。けれども、これは恨まれるよりも疎まれるよりも辛かった。

 

 ――謝る資格すら、彼女には無い。罅割れた心を、ただひた隠しする。

 

 その代償を、彼女は必定の敗北をもって支払う事となる。

 またしても邪神の策略に気づけず、無能な魔導書は主を再び破滅させた。

 またしても、同じ『結末』になってしまった。

 

 ――謝っても謝り切れない。

 今生の主よ。汝に過失は無い。

 全ては無能な魔導書の所業。

 汝には妾を憎悪し呪う権利がある。

 

 ――願わくば、その『令呪』をもって裁きを下せ。それが唯一の――。

 

 

 19/決戦の夜

 

 

「――っ!」

 

 唐突に目覚める。

 息苦しく、喉も乾いていて最悪な気分だ。頭が痛く、身体中に激痛が走っている。

 見れば自分の身体は包帯に撒かれ、消毒液の匂いが部屋中に充満している。

 

 ――今のはアル・アジフの記憶、此方に召喚されてからの記憶が脳裏を埋め尽くす。

 

 告解出来ない懺悔の渦、彼女の罪の具現が何よりもオレの精神を蝕む。

 どうして気づけなかった。彼女を召喚した事で浮かれて、彼女自身の苦しみを1mm足りても理解出来ていなかった! 

 

 遠くから足音が聞こえる。軽い、軽快な足音が。部屋の扉が勢い良く開かれる――シスターだった。

 ……良かった。彼女の方は怪我らしい怪我は無いようだ。

 

「クロウちゃん! 良かった、本当に良かった……!」

「わぶっ!?」

 

 急に胸に飛び込んで来られ、彼女の小さな身体すら受け止められずにベッドに沈む。

 こ、此方は病人なんだから少しは手加減して欲しかった、です。

 

「シスター、状況を教えてくれ」

 

 彼女を一旦引き離し、鈍っている頭を振る。

 シスターは少し目を下に逸らし、渋々現状を説明し出した。

 

「クロウちゃんと大導師が戦って敗れて、もう四日になるよ」

 

 四日、四日だって……!?

 そんなにもオレは長い時間意識を失っていていただと……!

 

「私の方は『歩く教会』を着ていたから大丈夫だったけど、クロウちゃんの負傷は重くて――私の魔術で治したけど、意識が回復するまで四日も掛かった」

「アル・アジフは奴に、攫われた、のか?」

「……ええ、今は大導師と共々行方不明であり――まだ存命のようね」

 

 アル・アジフの事を語るシスターの眼には殺意が灯っている。

 声の口調も、冷たいものであり、未だ健在な令呪を忌々しげに睨む。

 

「なら、話は簡単だ! ――令呪を以って命ずる! アル・アジフよ。戻って来いッ!」

 

 アル・アジフの現界を維持する為にオレを生かしたまでは良いが、令呪を奪わなかったのが運の尽きよ!

 右手の甲から令呪が一画消え去り――そして、何も起こらなかった。

 

「なっ、令呪を消費しただけで、何も起こらないだとぉ……!?」

「……やっぱりね。ギルガメッシュの神を律する『天の鎖(エルキドゥ)』で拘束されたバーサーカーは令呪の強制送還でも脱出不可能だった。今のアル・アジフも同じ状況のようね」

 

 相手は『大導師』に『ナコト写本』だ。その程度の芸当はお手の物ってかッ!

 壮絶なまでに舌打ちし――シスターの懐から携帯の着信音が鳴り響く。

 

「――『魔術師』」

 

 シスターは静かに、その相手に様々な感情を浮かべながら通話ボタンを押した。

 

 

 

 

『――やぁやぁ、元気そうだね。下らない世間話を抜きにして本題と行こうか。貴様等の尻拭いをしてやるから有り難く思え』

 

 全てを見通したかの如く言葉に、僅かながら動揺が走る。

 『魔術師』の簡易使い魔は念入りに処理したが、数日足らずである程度の情報網を形成したと見える。

 ならば、今、クロウが令呪の強制送還を試し、失敗した事もお見通しだろう。喉まで出かけた文句を押し込め、『魔術師』の言葉を待つ。

 

『今夜十時に大導師の隠れ家、いや、『神殿』を強襲する。奴は『邪神招喚』の為に自らの『鬼械神』も生贄にする算段だ。勝機があるのは儀式を行なっている最中しかあるまい。お前等も最大戦力を投入して援護しろ。奴の儀式は必ず阻止しなければならない』

 

 此処最近に『魔術師』陣営に動きがなかったのは、邪神陣営が『鬼械神』を使えなくなる時を待っていたからか。

 確かに前の戯けた電話の時は奴等の居場所も掴んでいると騙ったが――ぱさりと、紙の束を置く音が鳴り響いた。

 

「はい、これが今作戦の資料です。しっかり目を通して下さいね」

「『使い魔』!?」

「おぉ、怖い怖い。長居は無用ですね、じゃーねー」

 

 まるで夢か幻の如く『魔術師』の『使い魔』が現れ、瞬き一つの間に消え去る。

 『使い魔』が置いて行った資料に目を通す。『這い寄る混沌』の『大導師』が隠れ潜む地下神殿、その詳細な見取り図さえ用意されている。

 

『――此方が用意出来た援軍は『銀星号』の仕手と、『スクエアエニックス』の夫婦(バカップル)だけだ』

「――正気ですか? あの二人はまだしも、『武帝』に協力を要請するなど……!」

 

 『武帝』は転生者だろうが一般人だろうが、主義主張に関わらず等しく力を貸す。

 その代価が金銭などではなく、あの『善悪相殺』の戒律である事は言うまでもあるまい。

 

『一騎当千の戦力でなければ意味が無いからな。出し惜しみしている余裕など欠片も無いんだよ。私達も全戦力で向かうが、到着は遅れると見込んでくれ』

「……どういう事ですか?」

『確実に先客の相手をする事となる。今夜で『聖杯戦争』は間違い無く終結するだろうよ』

 

 此方では行動原理も掴めていないアーチャー陣営との確執、ですか。

 世界の窮地を前に、聖杯戦争如きの些事で相争うなど最悪なまでの浪費だが、回避不可能だと『魔術師』は淡々と語る。

 

『その三人は我が陣営が敗れ去った際の保険だ。その場合は君達が『武帝』の善悪相殺の代償を支払う事になるが、否とは言わせんぞ』

 

 ……解っている。元より我が陣営から出た錆だ。その事に関して一切反論せず、話を続けさせる。

 

『これは言うまでも無いが――『大導師』とキャスター、いずれかを殺せば邪神招喚は阻止出来るが、囚われの身の『アル・アジフ』を殺害しても同様の結果を得られる。殺されたくなければ一番乗りして『大導師』をその手で殺すんだな』

 

 それは私ではなく、なけなしの魔力強化で耳を澄ませていたクロウに対する言葉であり、返答を聞く事などせず、『魔術師』は通話を終了する。

 そしてクロウの眼には燃える闘志が灯っていた。

 

「……クロウちゃん。まさかと思うけど、乗り込む気?」

「当たり前だろ。アル・アジフを取り戻す!」

「あれは元から私達を裏切る気だった」

 

 この場にいない魔導書に殺意を籠めて呟く。

 初めからあの魔導書はクロウを利用し、最後の最後で出し抜いて自身の歪な願望のみを優先しただろう。

 

「クロウちゃんが敗北した理由も、あの魔導書が原因よ。まさに疫病神だわ、最悪なまでに」

 

 静かなる憤怒を籠めて、必死に説得する。

 あんな魔導書の為に、クロウが生命を賭ける必要は無い。見捨てるのが正解だ。

 殺されても仕方ないほどの愚行を、あの魔導書は犯したのだから――。

 

「それでもクロウちゃんは助けるの? 己の生命を賭けて、絶対に敵わないであろう『大導師』に挑むの?」

「……アル・アジフがナイアルラトホテップに敗北した原因はオレだ。異分子であるオレが彼女達の物語に関与しなければ敗北しなかった。だから、オレにはアル・アジフに償う義務がある」

 

 ――何だって?

 

 そんな世迷い事を、クロウは本気で言っていた。

 ぎりっと歯軋り音が響き渡る。それが自分のものであると気づくのに、少々時間が必要だった。

 

「――クロウちゃんのせいじゃない。あれが敗れた要因はあれ自身以外の何物でもない。貴方が背負う必要なんて無い……!」

 

 私は彼の、クロウ・タイタスが辿った末路を知っている。彼本人が、いつしか口にしていた。

 確かにクロウには才能らしきものは欠片も無かった。それでもクロウは頑張った。自分の果たせる事を全て成し、後に繋げた。

 

 ――大十字九郎に至る道を、不可能かと思われた道筋を彼は切り開いたのだ。

 

 これが奇跡じゃなくて何が奇跡だろうか。

 例え彼自身の結末が不遇でも、彼の物語を貶す者は私が許さない。彼自身が何も出来なかったと自虐したとしても、私はやり遂げてやり通した彼を祝福する。

 

「心配してくれるのは嬉しい。でも、オレが行かなけりゃ駄目なんだ」

 

 ……それでも、彼は行ってしまう。

 自分の命など顧みずに、あのアル・アジフの下に……!

 

「――行かせない。貴方をアル・アジフの下には絶対行かせない……!」

「シスター!? 何を……!?」

 

 十万三千冊の外道の知識を総動員する。

 彼を行かせる訳にはいかない。彼の精神を幾重にも鎖された精神世界に隔離させ――クロウは抵抗すら出来ずに気絶した。

 

「――暫し、泡沫の夢に微睡んで。目覚める頃には全て終わっているから――」

 

 ……これで良い。例え、これで彼に嫌われても、彼の死など絶対に望めない。

 眠れる彼を見届け、私は退出する。外には、八神はやてが待ち受けていた。……全部、聞かれてたか。

 

「八神はやて。クロウちゃんをお願いします。事が終わるまで目覚めないと思いますが、万が一目覚めたら――」

「私が、止める」

「……ありがとうございます」

 

 これで後顧の憂いは断てた。後は――この生命に変えても、『大導師』を葬るまでである。

 

 

 

 

 

「――おや、クロウ・タイタスが目覚めたと聞きましたが?」

「足手纏いです。今の彼では生き残れない」

 

 久々に見た『代行者』の気障ったらしい顔を見て、シスターの顔は一気に不機嫌に歪む。そして彼は此方の反応を見て、馬鹿みたいに大笑いした。

 

「はは、涙ぐましいぐらい健気だね、君は! あれでも弾除けぐらいにはなれるだろうに!」

 

 シスターは殺意を籠めて睨むが、面の厚い彼には憎たらしいほど無意味だった。

 

「そうそう、私も参戦しても良いのですが、そうですね。一つだけ条件を突き付けましょうか」

 

 今すぐ葬り去りたい衝動に駆られるも、全力で我慢しながら――そんな彼女の心中を察して、わざわざ顔を近寄せて、『代行者』はこう言った。

 

「――『お願いします(プリーズ)』。貴女のその一言で私は如何なる戦場も馳せ参じるとしましょう」

 

 彼女の怒りは一気に沸点に達し、マグマの如くぐつぐつ燃え滾る。

 一触即発、されども、それすら目の前の『代行者』は愉しんでいた。

 

「――『お願いします(プリーズ)』。これで良いですか?」

「くっは、あははははははは! 良いですねぇ、その屈辱に歪んだ表情はっ! 良いでしょう、貴女の為に存分に異端を狩ってご覧入れましょう!」

 

 ――終わったら絶対殺してやる、とシスターは陰ながら誓う。

 

「おやおや『神父』殿。今日は吸血鬼狩りではないのにいつにもなく昂ぶっているご様子」

「当然です。相手は米国の小説家が創設した数十年足らずの架空神話の冒涜者、我等にとっては赤子同然の異端ですが――オイタが過ぎますね」

 

 彼等のやり取りを見ていた『神父』は最初は温和な表情を浮かべていたが、がらりと豹変する。

 狂気、殺意、憎悪を等しく混ぜ合わせ、強靭な意志で一つに束ねる殲滅者の顔となる。

 

「――クトゥルフ! アザトース! ナイアルラトホテップ! 良いだろう、泡沫の邪神どもよ。我等が神の力を、とくと思い知るが良いイィッ!」

 

 ――時刻は午後九時、約束の時間は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

「あっ、ああああぁ――っ!」

 

 一際甲高い声を鳴り響かせ、アル・アジフは意識を失った。

 喩えようの無いぐらい無様な光景だ。最強の魔導書が、自身の鬼械神の中で、異形の触手に手足を拘束され、犯し侵されるままに冒され、穢れるままに穢されている。

 意識を手放しても、一時の休息に過ぎない。また意識を取り戻して終わらない生き地獄に犯される。

 いい気味だと、ナコト写本は自らの舌で唇を舐めて、うっとりと優越感に浸りながらかつての宿敵の無様な姿を見下した。

 

「気が済んだか? よくもまぁ飽きずに痛めつける。既に心が折れている者を嬲って何が面白いのやら」

 

 その光景を見届ける彼女の元マスターは冷ややかだった。

 この魔的で病的で官能的な空間を、一瞥の価値も無いと断じていた。 

 

「狂おしいほどあの魔導書を求めていたのに、随分と冷めているのね」

「一種の興醒めという奴だ。困難に立ち向かう姿勢は誰彼構わず美しくて好きだが、折れて屈した姿は見る価値すらない」

「あの邪神を信仰している者の思考とは思えないわ」

 

 そう、一つの邪悪である事は間違い無いが、目の前の魔人には著しく欠けているものがある。

 この魔人が『マスター』に届かないのは、人間として人間の領域を超えたが故か。

 

「――私は絶望を識れない。そんなもの、一度も識らない。だからこそ、我が神は私が『黒の王』の領域まで届かぬと見做し、お見捨てになられたのだ」

 

 嘆き悲しむように天に祈り、即座に精神的に復帰する。

 そう、この魔人は千の永劫を繰り返したとて、折れず屈せず惑わず、己の目標をひたすら達成させようとする。

 それは『黒の王』の所以ではない。真逆、それは宿敵である彼等の――。

 

「……それでもお前はあの邪神を信仰すると?」

「うむ、愛も信仰も無償の産物だからな。私が勝手に信仰し、勝手に愛する。その理は我が神に見捨てられようが変わるまい」

 

 だから、この魔人に与えられる救いは何処にも無い。

 狂った願いが成就するかは知らないが、その末路は変わらないだろう。いや、変える気さえ、この魔人には無いだろう。

 

「……最高に狂っているわ、貴方」

「最高の褒め言葉だ。ナコト写本」

「そうよね、狂って無ければ鬼械神を生贄にしようなんて考えないよね」

 

 少し不貞腐れたような顔で、ナコト写本は自らの鬼械神を遠い眼で眺める。

 下等な邪神如きの招喚の為に、最高位の鬼械神を生贄とする。本末転倒も良い処であり、そんな事の為に『マスター』の鬼械神を失う事に抵抗を持つのは当然だ。

 

「お主達『魔導書』が鬼械神を我が子のように想っているのは知っているが、勘弁願いたいな。お前もこの茶番から一刻も早く抜け出したいであろう?」

 

 彼女は移し身、消えれば再びマスターの下に戻る泡沫の夢に過ぎない。

 この夢がどう転ぼうが、最早彼女にとってはどうでも良い事だ。

 

「どの道、アル・アジフを下した今、鬼械神は必要無い。後は私一人で成せるだろう」

 

 全人類と相対し、最後の一人まで勝ち残れると即座に自負する強大無比の精神こそ、この男の強さの根源。邪神の信徒にあるまじき不屈の精神である。

 

 ――一際大きく『神殿』が揺れる。彼の領域に踏み込んだ侵入者の存在を感知する。

 

「ほう、一番乗りは君達か。以前の邪神招喚の儀式以来だな。『竜の騎士』に『全魔法使い』!」

 

 

 

 

 

 迫り来る影の枝を、異形の鎧を纏う騎士が一閃して切り払う。

 邪神信仰者の『神殿』に一番乗りした十四歳の少女と二十代前半の男性の二人組の前に現れたのは影絵の世界であり、見慣れた『魔女』の結界であった。

 

「――『魔女』か。クトゥルフ系の怪物が立ち塞がると予想していたが」

「……油断しない。普段よりずっと強力」

 

 押し寄せる使い魔の猛攻に終わりは無く、騎士風の男が斬った傍から再生し、終わりなく切迫する。

 

「邪気に誘われて集ったか。どうやら先は長そうだ。なるべく魔力を温存しておけ。雑魚相手に苦戦し、本命で魔力切れを起こしては話にならない」

「――大丈夫。『竜の騎士』である貴方が前衛である限り、私達は無敵」

 

 青髪翆眼の少女は無愛想に、されども全幅の信頼を抱いて答える。

 黒髪黒眼の青年は少しだけ苦笑いし、柄部分に龍の顎の意匠がある愛剣を存分に振るう。剣は影絵の枝の強度がまるで豆腐以下のように鋭利に斬り裂いて行く。

 

(だが、本体の『魔女』に至るまで時間が掛かる、っ――!?)

 

 膨大な魔力の奔流は背後から生じて、既に魔導師の青いロープを靡かせる青髪の彼女は詠唱を終えていた。

 

「――汚れ無き天空の光よ、血にまみれし不浄を照らし出せ! ホーリー!」

 

 影絵の枝を無視し、穢れ無き聖なる光は影の魔女に降り注ぎ、瞬く間に浄化する。

 かちり、と『魔女の卵』が転がり、影絵の結界は崩れ落ちて元の不気味な『神殿』に戻る。

 

「馬鹿者、初めから飛ばしすぎだ」

「大丈夫、『魔吸唱』あるから敵が尽きない限りMPは尽きない」

 

 斯くして一騎当千の力を保有しながら、如何なる勢力に属さない『竜の騎士』と『ソーサラー』の二人組は立ち塞がる怪異を一掃しながら『神殿』の奥深くに進んで行った。

 

 

 

 


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