「――確かに、『君』の話は興味深いよ。根本的な解決策と言っても良い。……同時に、実現不可能な理想論とも言える」
神秘的な雰囲気を纏いながらも人側に寄り添う蒼髪の少年は、されども否定的な演算結果を告げる。
「……残念ながら『もう一人の君』に匹敵する存在は、この宇宙には『君』と『彼女』の二人しか存在しない。……悔しいけど、誰も、『君達』には追いつけないんだ。『君達』が『もう一人の君』に追いつけないように――」
――それでも、『もう一人の私』の中の記憶には、『もう一人の私』に匹敵する存在が沢山居た。『もう一人の私』は、絶対孤独の星ではなく、銀河に煌めく星々の一つだった……!
『もう一人の私』と『今は存在しない彼等』との絆こそ、現在の状況を打破する、唯一無二の手段だと確信する。
それに繋がる手掛かりを、何としてでも探さなければならない。どんなにか細いものだろうとも――。
「……そして『君』のあげた艦名は――オラクル船団航宙艦第一番艦フェオから第十番艦ナウシズは、過去に、全て撃沈済みの艦なんだよ……」
それが完全に途絶えた縁だと、もう何処にも存在しない虚空の記憶だと、絶望と共に識る事になる――。
『■■■■/■■■■ー』 マスター■■■■
未だに召喚されぬ、最後の一騎。最後の希望。――されども、『迷子』の最後の仕込み。
「――マスター!? やめてください、これ以上は……! マスターの霊基が……!」
「現在進行形で砕けつつあるな。それを、ほぼほぼ気合で現界を維持している状態だ――」
輝くトラペゾヘドロンを何度も振るう『大導師』がどうなっているかなど一目瞭然だ。既に霊核が自壊し、世界の修正力から退去を要求されているのに関わらず、一念のみで拒否して現界し、戦闘続行している。
サーヴァント風情の身で、神々の禁断領域を行使する代償は非常に重い。冠位級でも冠位を返上しなければ不可能な芸当である。
それを通常霊基で行えばさもありなん――『迷子』の見立てでは、既に、数分前から強制退去していないとおかしいレベルであり、狂人は『アルターエゴ』で切り取っても狂人だったと評価を改める。
「本来の私は悔いなど何一つ無く逝ったが、『アルターエゴ』の私には一つだけ悔いがある。――私を召喚した『ナコト写本日本語版』、お前を一人置いて逝った事を識ったが故の後悔だ」
「マス、ター? 何を――」
自身のマスターであり、自身の魔導書にだけ聞こえるように、そっと、耳元で、彼女の名前となる単語を呟く。……どういう名前かは『迷子』には筒抜けだが、此処で開示するなど無粋の極みだろう。
名も無き魔導書の精霊は、漸く、亡き親から名前を貰い――感極まって涙を流す。……救いなど欠片も無く、勝手に破滅するだけの可哀想な存在だと思っていたが、こんなルートもあるのかと『迷子』は心底感心する。
「……その誕生こそ見届けられなかったが、長年付き添った娘のようなものだ。故に選択肢を与える。既に死した身なれども――共に参るか?」
コクピットの中で、宇宙規模で物騒なものを振り回しながら――『大導師』は『ナコト写本日本語版』に手を差し伸べる。……まぁ空気ぐらい読んでやるさ。どういう台本になっているかはもう大体読めたし。
「――イエス、マスター! 何時までも、何処までも……!」
そうして未熟で歴史の浅い、写本の写本に過ぎない魔導書は『大導師』の宝具として昇華し――真の意味で三位一体と化したリベル・レギスはその目的を完全に遂げるまで、あらゆる限界を更新しながら現界し続けるだろう。
――リベル・レギスの真の覚醒に、クロウ・タイタスの奮闘もあるが、『ELS融合侵食型デビルガンダム』を打倒するには少しばかり足りない。
難易度調整ミス? 否、一番重要なフラグが成立してないだけである。それは『核』である『ライダー/アヴェンジャー』の奮起である。
……訂正、調整ミスったかもしれない。三位一体になる可能性すらない『幻霊以下の塵屑存在』にそれを期待するのは少しばかり酷だったかもしれない。
此処で奮起して立ち上がった処で、存在を確立出来ずに消滅した『ライダー/アヴェンジャー』に原作通りの役割を求めるのは――。
『――何を諦めているの? いつからそんなに物分かりの良い素振りをするようになったのかしら?』
ジェガン達の集中砲火を浴びて、損傷が増えているデモンベイン・ブラッドから、予想外の人物からの交信が入る。勿論、通信妨害するなんて無粋な真似をせず、拘束されて身動き一つしなくなった『ライダー/アヴェンジャー』に聞こえるように流してあげる。
『――私の識っている『貴方』は、もっと往生際の悪い偏屈狂だったわ。足掻け、立ち向かえ、抵抗しろ、反逆仕れ! 嘗てのように、私に煮え湯を飲ませ続けた時のように――!』
……果たして、『彼女』の言葉は『ライダー/アヴェンジャー』に届くだろうか。響くだろうか。答えられるだろうか。
――この魔力の高まりは、令呪の使用……それも2画、残り全部か。一体何に使うのやら。令呪による強制転移ならば勿論却下するが――。
『――『貴方/私』は『大十字九朔』なのだから――!』
あらゆる可能性を網羅する『全知存在』だからこそ、一番薄い可能性を的確に通される事に驚愕を隠し得ない。まさかのまさか、『彼女』自身が『大十字九朔』の存在を確立させてしまうとは……!
『――わぁお、マジかぁ。誰よりも否定しなきゃいけない『大十字紅朔』が『大十字九朔』の存在を肯定してしまうかぁ。……やれやれ、やっぱりこうなるか。これは『這い寄る混沌』を嘲笑えないなぁ!』
――口元を覆っていた触手を噛み砕き、言葉にならない絶叫をあげ、全身全霊を以て『大十字九朔』は操縦席から指揮系統の略奪を開始する。
『ま、お決まりだから台詞通り叫んであげるよ。――馬鹿な、不可能だ、無理だ! お前は消え果てた存在の残りカスだ! それが創造主に反逆するなど――!』
『舐めるなあああああああああああああああああああああぁ――ッ!』
地球外変異性金属体&ナノマシンで構成された疑似機体を、根本から再構築して別の鋼に変えてしまい――デモンベイン・トゥーソードとして、『魔を断つ剣』として再誕する。まぁぶっちゃけどんな機体でも『魔を断つ剣(デモンベイン)』に成り得るしね。
――斯くして、『核』を失った『ELS融合侵食型デビルガンダム』は、苦悶しながら未練がましくデモンベイン・トゥーソードに手を伸ばし――。
『『――我等は世界を紡ぐ者なり!』』
黄金に煌めくリベル・レギスによる『窮極呪法兵葬』が完成し、第二のレイドボス『ELS融合侵食型デビルガンダム』は成す術無くこの宇宙から否定されたのだった。