転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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26/幕間の物語・『■■■■/■■■■ー』の前日譚(1)

 

 

 

 

 ――『Phantasy Star Online(ファンタシースターオンライン)』、略して『PSO』は、その当時では極めて珍しい、オンライン対応のアクションRPGだった。

 

 このゲームを知る切っ掛けが何だったのかは思い出せないが、このゲームのチャット機能を扱う為にPCのキーボード操作を習得したと言っても過言じゃないぐらいのめり込んだ記憶がある。

 潜れるマップなんて森林、洞窟、坑道、遺跡の4個所だけで、質素な造りの街一つだけで、ストーリー要素も簡易的で薄い――されども、他のプレイヤーとの交流は文字通り『無限の冒険』と称するに値する、輝かしい記憶となった。……思い出として基本的に美化されているけど、レア堀の確率だけは無限に文句を言いたくなるほどの天文的確率だったが――。

 

 自分の『PSO』の来歴は、GC版の『EP2』まで。それ以降は知らない。……機会に恵まれなかったと言えばそれまでだろう。何で『EP3』でいきなりカードゲームになったのか、今でも良く解らない。

 

 それから数年後に『Phantasy Star Universe(ファンタシースターユニバース)』、通称『PSU』が発売されたが、うん、これは初期の不具合(『エリア51』)や諸々のゲーム仕様で見限ってしまった為、詳しくは知らない。

 思い出深い作品の続編ではあるが、思入れが深いほど失望も深まるものだ。

 

 ――さて、その自分が『PSO2』に移住して定住したのはいつの頃だったか。確か『ダークファルス・エルダー』が実装された『必滅の呼び声』だったか。

 

 勿論、前評判はそれなりに調べており、その大規模アップデートに色々問題があって『大炎上』していたのも把握している。

 ……期待値が『PSU』のせいで最初から底辺だったし、先入観もあんまり無かったし――オンラインゲームで一番楽しい要素は他のプレイヤーとの交流だから、住めば都とは良く出来た言葉だ。

 ゲームでの不満要素を駄弁りつつ、数多のプレイヤーと共に数多のクエストを遊んでいったものだ。……レアドロの確率は『PSO』時代と同じぐらい酷かったなぁ。自堀出来た時代なんて星13実装時のアーレスシリーズぐらいだ。アンガ堀は面倒だったけど楽しくはあったなぁ。

 

 1回、『EP4』から『EP5』の間で長めの引退を挟んだ後、『PSO2』の物語の最後を今度こそ見届けて――『PSO2NGS』に新生という時期で、自分は巷に流行っていた『吸血猟奇事件』に巻き込まれ、手酷く殺されたのだった。

 

 

「――『君』は何も成し得ない。何度繰り返そうが、結末は変わらない。そういう『星』の下に産まれたとしか思えない。嗚呼、これはこれは、手の施しようが無いね! 本当に、凄く可哀想――!」

 

 

 ――殺されて『転生』など、実体験すると中々に笑えない。本当に笑えなかった……何せ、転生先は名前すら存在しない『実験動物』扱いも同然であり、毎日が拷問に等しい日々だったからだ。

 

 

 幾ら泣き叫ぼうが、必死に許しを請おうが、媚び諂おうが、無意味で無駄で無価値だった。

 そもそも基本的な人権が無いので、同じ言語を解しているだけの『実験動物』に情けを掛ける人種は存在せず――言葉が通じるからこそ、より意図的に痛めつける人種の方が多いぐらいだ。

 心は早々に折れて、何かを感じる機微が最初に壊死して、絶望して諦める。最初からどうしようもない。産まれた時点で詰んでる状況にどう抗えと? 痛めつけられている理由すら解らないまま、この世のありとあらゆる苦痛を与え続けられた。

 

 ――転機が訪れたのは、産まれてから十年後ぐらいだったか。

 

 自分を創った違法研究所が検挙され、自分は『誰か』に助けられたらしい。

 ……実感が伴わないのは、その当時の自分の精神は完全に壊され尽くされ、人としての情緒を完全に失っていたからだ。

 物事を正しく認識出来るようになるまで数年の時を必要とし――その恩人の名が『リコ・タイレル』だと知った瞬間、自分の転生した世界が『PSO』であり、彼女が既に大型移民船『パイオニア1』に乗って『惑星ラグオル』に渡った後であると知る。

 

 ――『PSO』の物語は、『彼女』の軌跡を辿る物語であり、プレイヤーが関与出来る要素など何一つ無く、その結末もまた何一つ救いが無いのに、私は、絶対に届かぬ『星』を求めたのだった――。

 

 

 

 

 『ハンターズ』の一員として、第二の移民船『パイオニア2』に乗り、『惑星ラグオル』を探索する事になった自分は、お世辞にも優秀な人材とは言えなかった。

 フォース適性のある種族、ニューマンの筈なのに、テクニックを行使する素養に欠けていて、ニューマン故に非力なのはそのまま――周囲からは『役立たず』『足手まとい』『木偶の坊』『落ちこぼれの屑』と散々な言われようだった。

 

 ――それでも、前に進む為には、他の『ハンターズ』との協働が必須であり、なけなしのコミュニケーション能力をフル活用して、一定以上の協力関係は築けたと思う。

 

 『森林』を越え――未熟な己の力量を仲間との繋がりで補い、『洞窟』を潜り抜け――ひたすら成長して仲間達に追い付き、『坑道』を走り抜けて――先導者として仲間達を率いて、『遺跡』に至り――この『惑星ラグオル』に『封印されし存在』の影響で親しくなった仲間達が次々に消えていき、遂には一人になった私は『遺跡』の最奥に辿り着き――やっぱり、間に合わなかった。余りにも遅すぎたのだ。

 

 『惑星ラグオル』に封印されし『ダークファルス』は、『リコ・タイレル』を依代にして復活を果たし、私に出来る事は既に手遅れになった舞台の後始末――引導を渡し、彼女の魂の救済を願う事のみ。

 

 ――嗚呼、何と酷い物語なのだろう。……此処で終わっていれば、良かったのに。

 

 気がつけば、『惑星ラグオル』に初めて降り立った日まで『時間遡行』していた――結論から言うと、自分は生まれる世界を間違えた類の『転生者』だった。

 その特異性から『実験動物』として研究対象になるのも当然だ。余りにも異なるフォトン適性から、この世界のテクニックに順応出来ないのも当然だ。偶然か、必然か、卵が先か、鶏が先か――私は『PSO』の世界に、『PSO2』の世界の第三世代のアークス、否、その主人公である『守護輝士(ガーディアン)』と極めて酷似した性質を持って誕生していた事が判明する。

 

 自身の適性を再認識し、自身の可能性の終着点を見据えた私の飛躍は、傍目から見えれば異質極まりないものだっただろう。

 

 周囲との隔絶を自覚しながらも、この力を十全に使いこなせば、今度こそ――『リコ・タイレル』が『ダークファルス』の依代になる前に間に合う、と確信する。

 既に一度、『惑星ラグオル』を踏破している経験も重なり、前回よりも遥かに早く『遺跡』エリアまで到達し――間に合わなかった。結末は変わらなかった。

 

 ……予想以上に、早い段階で『リコ・タイレル』は『遺跡』の最奥に到達しているようだ。

 ならば、踏破時間をひたすら縮めるだけの作業だ。その手の苦行は前世から慣れ親しんでいる。

 

 ――何度でも『時間遡行』してやり直す。一秒でも短縮可能な箇所があれば徹底的に切り詰めて、自身の未熟を許さずにひたすら研磨し続け、理想像(『PSO2』での自キャラ)――『ファントム』クラスの完全再現を目標に、ひたすら走り続けた。

 その同じ数だけ、同じ結末を迎えた。やはり間に合わず、『依代』になった『彼女』の魂を解放する為に、『ダークファルス』を討ち滅ぼす。――心が軋む音が鳴り響く。

 

 いつしか、他の『ハンターズ』との交流を一切しなくなった。誰も自分に付いてこれず、結局は『遺跡』エリアで侵食同化の餌食になって消えるので、時間短縮要素として真っ先に切り捨てた。

 ……稀に『同業者』に襲われるケースも増えたが、火の粉を払うほどの手間としか感じられず、深くに潜るほど少なくなるので気にもしなかった。――既に、袋小路に迷い込んでいるという自覚から、目を逸らして。

 

 既に周回数を覚える余力すら失い、千か、万か、億か――詰められる要素を完全に詰め、余白を完全に消し去ったと確信した瞬間、それでも変わらない結末に、打ち拉がれる。

 

 何故――通常では考えられないほどの踏破速度で『遺跡』エリアの最奥に到れるのに。

 最悪の想定は、『惑星ラグオル』の謎の大爆発――確実に『ダークファルス』由来――これが起こった時点で、既に『彼女』は『ダークファルス』の依代として取り込まれている、という完全な詰み状況である疑惑。もしそうならば、幾ら時間短縮した処で、結末が変わらないのは当然だ。

 

 それからは迷走の歴史だ。取り零した可能性の欠片を探し求めて、多種多様の調査に乗り出した。

 

 異星由来の先史文明の軌跡を『彼女』と同じように探求したり、見放した『ハンターズ』の可能性を色々関与して試行錯誤したり、多角的で先進的な別のアプローチを試みたり――。

 余白を全部埋め切って、それでも結末は変わらないという結論に至った瞬間、自身の中に完全に育ち切った、途方も無い『闇』を自覚する。

 

 ――疾うの昔に『ダークファルス』を通り過ぎて、それを超える『深遠なる闇』に至っていたなど、まさに『笑劇(ファルス)』だった。

 

 ……考えるまでもなく、億単位で『ダークファルス』を討滅し、同じ数だけ『時間遡行』していれば、幾ら『守護輝士』になれる素養があろうともダーカー因子を分解し切れないのは道理であり、許容限界など遥か昔に超過していた。

 

 

 ――宇宙を滅ぼした感想は、呆気無かった、に尽きる。

 

 

 もっと入念に丁寧に執拗なまでに、壊していくべきだったと後悔する。

 どう足掻いても救いの無い最低最悪の盤上を破壊する快感は、今までの絶望・鬱憤・憤怒・怨念・悲嘆を晴らす総決算であり――終わらない物語に、終止符を打った。

 もう活動理由も無いので、永遠の眠りにつく事にした。足掻いて藻掻いて抗った末に、何も成し得なかった『深遠なる闇』は、全てを滅ぼして活動停止に至る――。

 

 

 

 

 ――それなのに、どうして放置してくれない?

 

 

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