「――はい、以上が『特別な状況に配慮』した事前説明です。この『私』の『悪意(誠意)』ですよ!」
『バーサーカー』クラスにより、『狂化:EX』を付与。これにより、生前は秘匿し切っていた想いの歯止めを完全にぶち壊しておく。
秋瀬直也と豊海柚葉の足止めが目的なので、この霊基には入念に調整しておく。生前では考えられない行動理念となるが、当人が自覚出来なければ些細な問題だろう。
「貴女が何をしようが自由ですし、『私』の関与する処ではありません。あと、『私』の『悪意(善意)』で差し込んだ『フォーリナー(降臨者)』の成果、存分に活用して下さいね!」
更には『フォーリナー』クラスによる『精神汚染:EX』も付与。まぁこれは彼女に持ち込ませる『評価規格外の宝具』を取得させる為の『異聞帯(ストーリー)』の為に、千回以上繰り返したが故の後遺症なのだが、記憶の一部を検閲する事で正常稼働を促す。
――別に、『バーサーカー/フォーリナー』が本命ではないので、仕込みはそこそこに。手抜き出来る部分は徹底的に手を抜く事は、『迷子』の『本体』由来の性質だろう。
其処に悪辣な飽き性が加わるのは、『迷子』由来の悪意である。
「――追いかけっこはもう終わりかしら?」
「――嫌になるぐらいしつこいね。異常極まる執着心でがっちがちに拘束するタイプ? 今時流行らないよ、そういう気色悪いぐらい粘着質なの」
まさか、生身の人間相手の追跡を振り切る事が出来ないとは予想外であり――『バーサーカー/フォーリナー』は気絶している秋瀬直也を地に下ろし、追跡者である豊海柚葉と対峙する。
「それ、返してくれる? 私のものだから」
「物扱いとは傲慢極まるね。中々に吐き気がする物言いだわ」
「赤の他人に態々口に出す必要がある? これは私のもので、私は直也君のものなのに。――ああ、何処の誰かなのか全く察せないけど、貴女には関係無い話よね?」
大体察していながらも、豊海柚葉は敢えて無関係の誰か扱いし――『バーサーカー/フォーリナー』は内心ブチ切れる。
出遭った当初から気に食わなかった。この『3回目』の世界で歩んだ物語も、吐き気が出るぐらい嫌悪した。この『邪悪』が秋瀬直也の隣に立っている事に、我慢ならない。
「――その『スタンド』能力、基礎スペックは『星の白金(スタープラチナ)』に匹敵するけど、固有能力は珍しい事に無いようだね」
そしてこの『邪悪』の洞察力は、正鵠を射ている。桁外れの戦闘経験に、類稀な直感の組み合わせで容赦無く、隠された真実を暴き立てる。
「……実はあるけど無い風に偽装しているかもしれないのに?」
「――だって、貴女の動き、物凄く器用に立ち回れる『秋瀬直也(もう一人)』とのコンビ前提の動きでしょ。見れば解るわ」
……いつも隣には、『秋瀬直也(君)』が居た。『秋瀬直也(君)』と一緒なら、何でも出来た。唯一、不覚を取ったのは、『秋瀬直也(君)』が居なかった時であり――。
「――その『秋瀬直也(もう一人)』にどれぐらい依存して、頼り切っていたのやら。だから能力に目覚めていない。あるべき成長を遂げていない。物語に対する『解決要素』を持つに至らなかった――『主人公』失格ね」
他の『スタンド』には、ほぼ必ずある『固有能力』を、『バーサーカー/フォーリナー』の『スタンド』には無かった。
戦闘において、その小手先の『固有能力』など必要としないぐらい近距離パワー型として完成していた事に加え、相棒役の『秋瀬直也(彼)』が余りにも――彼の『スタンド』に足りない決定力を持ち得ていたお陰で――上手く戦えたせいで、『固有能力』を必要としなかった。
望んでいない『固有能力』が勝手に芽生えるほど、『スタンド』の成長は甘くはない。……それを憎き恋敵に指摘され、素直に受け止められるほど『バーサーカー/フォーリナー』は老成していない。
「――悍ましい限りの『邪悪』の権化、その血塗れの手は何人括り落としたのかしら? その口先は何人地獄に叩き落としたのかしら? 死臭が酷くて臭いわ、近寄らないでくれる? ――どの顔で『秋瀬直也(彼)』の隣に立っているの?」
この『女』が、生前の敵だった『ボス』以上の『邪悪』である事を、『バーサーカー/フォーリナー』は識っている。
『コイツ』と比べれば、『ボス』の所業など赤子同然になるぐらい、この『邪悪』は酷すぎる。
「――お前に『秋瀬直也(彼)』の隣に立つ資格など無い。立ち去れよ、吐き気を催す『邪悪』。存在するだけで不快極まる」
……だから、この『邪悪』を庇う『秋瀬直也(君)』の姿など見たくなかったから、生命力を吸い尽くして気絶させた。
この『邪悪』に対抗する為に、悪に堕ちた自分の姿など、『秋瀬直也(君)』にだけは見せなくなかったから、眠らせた。誰よりも『秋瀬直也(君)』に会いたかったのに――。
「他人の嫉妬を体感するのって初めての事だけど――醜いものね? いや、これは逆に優越感に浸ってしまうかしら? 『持たざる者』からの妬みなんて『持つ者』にとっての賛美のようなものだし?」
――うん、やっぱり殺そう。問答無用で殺そう。改めて殺意を漲らせ、『切り札』を切るタイミングを図る。
「さて、どうでも良い相手との会話は飽きたわ。――『隠し玉』があるなら、さっさと使えば? 事前に潰すなんて無粋な真似はしないわ。正面から叩き潰してあげる」
上から目線の余裕を醸し出しながら、その『邪悪』は悠然と待ち構える。
……その挑発で冷静さが根刮ぎ持っていかれそうになるが、事前の戦況分析では100%返り討ちになると、悔しさを滲ませて認める。
生身の人間vsサーヴァントという絶対に敵わぬ対戦という枠組みは、最初から忘れた方が良い。あれにはそういう当たり前の理屈は通じない。
速いとか強いとか、そういう次元ではなく――最初から理不尽の極み、運命に愛されている類の『邪悪』に対する『解決要素』を、『バーサーカー/フォーリナー』の『スタンド』は持ち得ていない。
――故に、それでは勝負にならなくて面白くない、と『迷子』は差し込んだ。
『バーサーカー/フォーリナー』が持ち得なかった別の可能性を。別の物語を達成させる事で差し込んだ。彼女が『フォーリナー(降臨者)』なのは、その『一巡後の世界』に対してである。
――『バーサーカー/フォーリナー』がこの世界に持ち込んだ『評価規格外の宝具』は、もうお察しの通り、『聖人の遺体』である。