『バーサーカー/フォーリナー』のスタンド『レット・イット・ビー』から生じる光のラインを見た豊海柚葉は、即座に相手の『切り札』を看破し――。
「……えーと、直也君を殺したいの?」
『矢』じゃないのか、と同時に最高に白けた表情で、殺意を霧散させた豊海柚葉は純粋な疑問をぶつけた。
「は? 一体何を――?」
質問の意味を理解出来ない『バーサーカー/フォーリナー』は質問で聞き返し――「こういう時、質問を質問で返すなって言う処だけどさ」と、豊海柚葉は心底憐憫する。
「もしかしてクラス、『バーサーカー』か『フォーリナー』、或いは両方だったりする? 狂化or精神汚染でまともな状況判断が出来てないのか、中身が違うパターンの何方かだと思うんだけど。……後者に至っては元々を知らないから判別出来ないのが難だね」
……この相手に関しては、自身のクラスの情報を何一つ与えていないのに、両方を推測して見せて――だからこそ、どうしてそれが『秋瀬直也を殺す事になる』という結果に結びつかない。
「――貴女の『切り札』が『聖人の遺体』で、発現した能力がファニー・ヴァレンタイン大統領と同じく『ラブトレイン』と同一である前提で語るけど、空間の隙間に飛ばされた害意は『誰』に行くと思う? 64億分の1の『大凶』を引き当てる『世界一不幸な人』が『誰』かなんて、フォースの予知能力を使うまでも無いと思うのだけど」
能力の詳細を知られているのは、百歩譲ってどうでもいい。転生者だから、という情報アドバンテージに関しては非転生者の自分にはどうしようもない。
だが、無敵の『ラブトレイン』で飛ばされた厄災がこの世界で唯一飛ばされて欲しくない対象である秋瀬直也にピンポイントで飛んでいくなど有り得ない――。
「――っ、そんなハッタリに……!」
故に、これは此方の精神的動揺を誘って能力発動を自主的に止めさせる、豊海柚葉の苦し紛れの策、単なるハッタリだと断定する。
……確かに、『シスの暗黒卿』の絶死の攻撃を他の誰かに押し付けて、結果的に殺害する事に、著しい葛藤が入る。それなくして、この『悪の魔王』相手に勝利する手段が無いと確信していても――。
「――え? 貴女、直也君の何を見てきたの? 彼、そういう『星』の下に生まれた人種よ。……貴女と一緒に居た時は違ったのかしら?」
心底不思議そうに、豊海柚葉は当然の如く語る。64億分の1の『大凶』を絶対引き当てると確信して――確信して尚、豊海柚葉という女は平然と、その手に握る赤いライトセイバーを『バーサーカー/フォーリナー』の心臓に突き立てた。
(この女! ――いや、違う。そう、有り得る訳が無い)
『星の白金(スタープラチナ)』に匹敵する動体視力を持つ『レット・イット・ビー』の眼が、『シスの暗黒卿』の神速の突きを目視する。
迷い無く繰り出された絶死の刺突に、感情的な動揺だとか葛藤だとか一切見られず――やっぱり、単なるハッタリの類だと看破する。恋人の死と両天秤だとしたら、絶対に繰り出せない一撃である。
(――『ラブトレイン』で攻撃を『何処か』に飛ばし、『レット・イット・ビー』の拳を叩き込む……!)
これで決着――されども、『バーサーカー/フォーリナー』本体の視線は、後方に眠る秋瀬直也に向けられており――恋敵の言葉など、信じるに値しない。確かに秋瀬直也は貧乏籤を引きがちであるが、そんな逆に運命から愛されているレベルの運の悪さなど持っていなかった。……『バーサーカー/フォーリナー』の生前の物語では、の話である。
『――まぁ有り得ないと思うが、『お前』が悪い事に手出すなら、全力で止めてやるさ――』
どうして、秋瀬直也との、生前での有り触れた会話を、今、この瞬間に思い出してしまうのか。
この憎き恋敵に勝利する為ならば、『悪』に堕ちる事も厭わなかったのに――『ラブトレイン』の光のラインに赤いライトセイバーの刀身が遮られ、『何処か』に飛ばされる。
(あ――、っっ!?)
『バーサーカー/フォーリナー』の肉眼が捉えてしまう。その『何処か』は、64億分の1の『大凶』を見事引き当てたのは、意識を失って眠る秋瀬直也であり――何で、どうしてと運命の皮肉さを呪う前に、即座に『聖人の遺体』の所有権を破棄し、『ラブトレイン』の発現を無効化し――赤いライトセイバーの刺突が、『バーサーカー/フォーリナー』の霊核を呆気無く穿ち貫いた。
――どうして、よりによって。64億分の1を引き当てたのが秋瀬直也以外なら、必要な犠牲として容認したのに。
否、それよりも――途方も無い怒りで、『バーサーカー/フォーリナー』は現世からの退去を拒否する。
「ふ、ざけんなァッ! 確信していた癖に、どうして……!」
致命傷を負い、血反吐を撒き散らしながらも、吐き出された怨嗟の言葉は、秋瀬直也の安否に関する事であり――。
「――貴女の中身が『JOJO(貴女)』じゃなかったら完全にアウトだったけど、『JOJO(貴女)』なら間に合うと確信していた。我が身を犠牲にしてでも絶対庇うと。……仮にも、秋瀬直也という男を愛した女だもの。それぐらいやって貰わないと、困る」
既に、『バーサーカー/フォーリナー』にサーヴァントとして戦闘続行する余地は残されていない。
この死の間際のみ、サーヴァントとしての束縛――『狂化』及び『精神汚染』の支配から解き放たれており――あの刺突が、敵対者の性根を信頼するという愚行だけでなく、自身の生き死にも共に全乗せした覚悟だったと勘付く。
――もしも、それで秋瀬直也を突き殺す事になったら、返す刃で自身の首を掻っ切る覚悟で繰り出しており……嗚呼、最高に気に食わない。
死が分かつまで、でなく、死が分かつとも共に逝くなど、自分が出来なかった在り方を、まざまざと指し示されるなんて――!
心臓に穴が空いて、血も肉も魔力も大流出し、霊核が砕かれ、現界を保てない? そんな当たり前の理、誰が知るか。
やっぱり、この恋敵だけは一発、全力でぶん殴らないと気が済まない……!
サーヴァントとしての規格を超越し、世の理からも逸脱して、その一念だけで『別の存在』に変わり果てる寸前に――気絶している秋瀬直也の口から譫言のように『何か』が呟かれた。
「あ……」
――それは『誰かの名前』のようであり、それを聞いた『JOJO(彼女)』は憑き物が取れたような透明な表情で「……遅いよ、もう――」と呟き、満足気な表情で現界を取り止め、この世から何の未練無く退去したのだった。
――この顛末を多元宇宙から見届けた『迷子』は、『もう一つの仕込み爆弾(本来の『フォーリナー』クラス由来の外なる神)』不発かぁ、と物凄く嬉しそうに残念がるのだった。
「あ、やっと起きた?」
「柚葉? ……あー、これ、どういう状況?」
「私の膝枕だけど?」
目が覚めたら、此方の顔を覗き込んでいる柚葉の顔がドアップであって――いや、そういう事を聞いてるんじゃない。
頭の裏の柔らかい感触で色々と心拍数が上がりそうだが――全体的に超怠い。根幹の生命力を根刮ぎ吸い尽くされたような、極度の疲労状態で上手く体を動かせない。……『スタンド』もろくに出せないな。
「多分だけど、まだ、終わってないんだろ? なら、行かなきゃ――」
「その体で? 動かないでしょ」
「ああ、うん。だから手伝ってくれ。これは勘だが、一緒に行かないと何かまずい気がする」
左手にあった令呪が消えている事を確認しつつ、柚葉にそう促し――彼女は溜息一つ付き、渋々了承する。
……今回、俺が召喚したサーヴァントの事については、事件が終わった後に聞くとしよう。……何となくだが、やらかしてないがやらかした気がする。
「……うわぁ、柚葉におんぶ抱っこって、絵面最悪」
「お姫様抱っこの方が良かったかしら?」
「いや、逆なら最高だったって話」
柚葉は振り返らないまま「っ、またそんな事を言う」と文句ありげに語る。……この時の柚葉の表情が見れないのが非常に残念だ。真っ赤な耳元は見えてるのだが。
「それじゃ最後の舞台に颯爽と参りましょうか。超特急で。舌噛まないでよね?」
「うわっと!? フォースの力ってすげー!?」