――『君』は、出逢った当初から泣いていた。
実際に泣いてる訳ではなく、とにかく無表情で、感情表現が乏しく、何を考えているか、いまいち解らない。
同じ年齢の異性に――心開かない少女に――どう接したら良いか、もう一人の『親友』と一緒に頭を悩ませる毎日だった。
――どうして泣いているのか。どうして他の人にその悲しい気持ちを訴えないのか。あれこれ手を尽くしたけど、解決に繋がらない日々にもどかしさを感じた。
あの時も『君』は自分の膝を抱えて、独り、悲観に暮れていた。
その無感情な顔を見て、不意に――「泣きたい時は、泣いても良いんだよ」と、当たり前過ぎて、疑問にすら思わなかった事が口に出て、自分でも何を口走っているのか困惑する前に、『君』の無表情が遂に崩れて、わんわんと泣き崩れた。
――僕はどうしたら良いか解らず、ただただ『君』の傍にいる事しか出来なくて……でも『君』が、無表情で無感情なのではなく、感情表現がとことん下手なだけの、何処にでもいる普通の少女であると悟る。
泣き疲れた『君』は、たどたどしい言葉遣いで僕に、質問する。
その質問に対し、何て答えたか、良く思い出せないけど、『君』は更に泣き出してしまって――これは原初の記憶、僕の原点、誰かが泣いている姿が苦手で――『君』に涙を流させる悲しみを、振り払える『騎士』でありたいと、僕は心の内に強く誓ったのだった。
「……おい、其処の魔法職版『雷神シド(バランスブレイカー)』……!」
――『全魔法使い(ソーサラー)』、本来は敵専用の固有ジョブ。
神殿騎士クレティアン・ドロワとかいう、オリジナルの『FFT』をプレイした9割9分9厘のプレイヤーが名前すら覚えてない、どっかの『雷神シド(バランスブレイカー)』が文字通り瞬殺するせいでいまいち印象薄い敵キャラの固有ジョブであり、そのジョブコマンドの全魔法なら何人かこっそりセットしている敵キャラが存在する。
「……『剣聖』と『天騎士』の、たった2人で畏国の完全敗北を和平まで持っていった『規格外』と一緒にされるのは甚だ不本意」
「いや、どっこいどっこいだろ!? チャプター1から使えて良い性能してねぇぞ!? 何で最初のステージから時魔法最強の『メテオ』ぶっ放してるんだよ!?」
『FFT』における最初のオープニングバトルは、主人公のラムザ以外操作出来ないチュートリアルであり、大抵は固有ジョブ持ちである『ホーリーナイト』アグリアスと『ダークナイト』ガフガリオンが暴れている内に終わるものだが――。
『――時は来た。許されざる者達の頭上に星砕け降り注げ! メテオ!』
『例外』が組み込まれたファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズにおいて最初にかつ最も注意するべき事は、『全魔法使い(ソーサラー)』シャルロットの魔法の攻撃範囲に入らない事である。当たったら回避不能&即死確定である。
「詠唱時間的に職補正で『ショートチャージ』盛り込まれてやがるな!? あと何で平然とMP消費半分で放ってやがるんだよ!?」
「……? 何それ知らない、怖っ……」
「いやお前自身の事だよ!?」
雑魚敵――もとい、南天騎士団に偽装している北天騎士団の面々から名指しで『魔女』呼ばわりされ、あの悪名高き傭兵、暗黒騎士ガフガリオン以上に恐怖されている少女に、クロウは全力でツッコんだのだった。
「そもそも初期ジョブが専用職の『全魔法使い(ソーサラー)』……これ敵専用ジョブだった記憶があるんだけど、使ってくる魔法は極めて限定的で全魔法(笑)扱いだったんだが――マジで全部あるな」
ジョブの習得可能アビリティ欄を開けば、ずらりと並ぶ、魔法・魔法・魔法――黒魔法・白魔法・時魔法・陰陽術など、余さず並んでおり――後々解る事だが、他の魔法職ジョブと共有されており、何方か片方で習得すれば両方とも習得扱いになる特別仕様だった。
「何で魔法受けただけで100%ラーニング出来るんだよ!? 無法過ぎるだろ!?」
「……えーと、その、私、魔法の天才だし?」
「天才程度で済むかぁ!? あと何で素でMP回復移動、盛り込まれてるんだよ!? 陰陽士のムーブアビリティの倍ぐらい回復してねぇか!?」
「……MP尽きた覚えは、基本的に無い、から?」
「型月最強生物の『竜の心臓(魔力炉心)』持ちか何かか!?」
『FFT』経験者が一見しただけでぶっ壊れ確定するほど、深堀りすれば深堀りするほど更なるぶっ壊れ要素が白日の下に晒されるばかりであり――。
「『おまじない』だけならまだしも、何で作中屈指の壊れ聖魔法『マバリア』を初期習得してやがるんだよ!?」
「ラムザとは、幼馴染だし、彼の妹のアルマ経由で――」
「初手『マバリア』からのラムザの『エール』で更に加速して、適当に全魔法するだけで敵が悉く消滅するんだが!?」
シャルロットは解る人には解る、感情変化の乏しいドヤ顔で「ラムザに『応援(エール)』されたら、誰だって奮起する。これ常識」「……そういえばラムザは『見習い天騎士』だったなぁ……!」とクロウは自身の頭を全力で抱えた。
――『FFT』経験者から見て、余りにも強すぎる――それこそ、序盤から使えてしまう『雷神シド(もうアイツ一人で良いんじゃないかな)』という評価にしかならない。
いっその事、除名して普通にプレイしようと思ったら、主人公のラムザと同じく、システム的に除名出来ないと来た。……これではFace95以上上げてのパーティ離脱も期待出来ない……どころか、最初からほぼ上限値のFace97である。余りにも無法過ぎる。
「……ところで、シャル」
「……駄目、絶対」
「いや、いきなり『暗闇の状態異常(『闇縛符』)』は酷くないか? 何も見えないのだが……」
「……絶対見ちゃ駄目。――『睡眠の状態異常(『夢邪睡符』)』で意識を奪うべきだった……!? いや、いっそ『石化の状態異常(『碑封印』)』で……!」
ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズに自身の存在が刻まれている事を確認したシャルロットが真っ先に起こした行動は、隣に立つブラッド・レイから『リボン(全状態異常無効)』を奪い取り(シーフのアクションアビリティ『兜を盗む』)、詠唱破棄(『算術』)の陰陽術『闇縛符』で彼の視界を閉ざす事だった。
……照れ隠しというには、余りにも物騒な実力行使であり――この場に『18禁エロ本(大十字紅朔)』や『全自動煽り男(『代行者』)』が居たら、間違いなく収集付かなかっただろう。
「素で混乱&バーサク状態とかやめろ!? シャルロット(FFT)に混乱の状態異常されるのが1番の全滅理由になりそうだよこんちくしょう!?」
「早く『リボン』を用意して、全員分、早く」
「うりぼう系を勧誘して増殖させて密猟してからだな!?」
『全魔法使い(ソーサラー)』
ジョブの成長率
HP『C』MP『SS』Speed『A』物理『D』魔法『SS』
ジョブの補正率
HP『D』MP『SS』Speed『A』物理『C』魔法『SS』
職内蔵アビリティ
『ショートチャージ』
『魔法攻撃アップ』
『魔法防御アップ』
『反動魔法攻撃アップ』
『MP回復移動』
『MP消費半減』
※他の職の同じ名称のアビリティと重複可。
状態異常『勧誘』無効
シャルロット専用ジョブ。ぶっ壊れ職『剣聖』『ドラグナー』に匹敵するぶっ壊れっぷり。
敵・味方問わず、魔法を受けたら自動ラーニング搭載。
……ただし、経験者は結局、サブアビリティ『算術』をメインウェポンにするので、メインアビリティの『全魔法』の価値は算術不可の魔法となる。
――魔法関連限定で、敵専用アビリティの継承可能。