『――例えその生涯が全て無意味だと解っていても、立ち向かう事が出来る……?』
……正体不明の『既視感』に苛まれる度に、『君』の言葉が脳裏に過ぎる。
それは幼い頃の思い出、ずっと泣き続ける『君』が不意に零した言葉――その問いを最後に、『君』は涙を一切見せなくなった。
でも、これは単に、『平気』を装うのが上手くなっただけ。ある種の『覚悟』を身に纏い、『君』はひたすら走り続けた。
『一体何が……シャル? シャル――?』
……目指す場所は、いつも一緒だと思っていた。
掛け替えのない『親友』とは別離してしまったけれども、『君』とは最後まで一緒だと、頑なに信じていた。
――何の根拠も無い、ただの空虚な錯覚であった事を、『君』が消えた後に思い知らされた。『君』の手を握れずに、空を切る――。
――まただ。また、正体不明の喪失感に苛まれる。……何故、と。無言の叫びがいつまでも木霊する。
『君』は『君』に出来る事をやり通す、凄い『魔法使い』だ。この旅の中で何度、『君』の『魔法』に救われた事か。
嫉妬すら沸き立つ余地の無い、隔絶した『魔法』の才覚は数多の困難を打ち砕き、幾多の不可能を可能に貶めてきた。
そんな『君』の視点は、きっと常人の誰にも理解出来ない領域で――ふと、気づく。そんな『君』が、泣きながら立ち向かっていた『絶望』とは、一体何だったのだろうか……?
――『血濡れた聖天使』が異次元の魔力暴走で崩壊する中、『君』は今まで一度も見せた事の無い笑顔を浮かべて――刹那に気づいて、必死に手を伸ばす、けれども間に合わず――『君』は静かに消え果てた。
……最初から、『君』は解っていたんだ。此処で誰にも気づかれる事無く消え果てる『運命』だと、最初から全部解っていたんだ……!
それなのに、僕は、『君』に何と答えた? 『君』の内心など、まるで知らずに、恥知らずにも……!
「……ふふ、皆、ごめん。これはもう立ち直れない……」
「……あぁ、あかんっ、シャルさんがお労しい事に!?」
現在のシャルロットはというと、体育座りで横たわり、魂の抜けた無表情で全力で黄昏れていた。
まぁ『お前の生涯、本当に蛇足で無意味だったよ! 無駄死に乙!』なんて言われた日には自身の生き恥に耐え切れず、全力で切腹したくなるだろう。
「……あー、これ、どう収拾付けるんだよ? いや、オレもショックが大きかったけどさぁ?」
「……完全にオレのミスだな。まさかこんな処に前世からの『核地雷』が埋まっているとは……いや、言い訳しても仕方ないな。――シャル」
現状ではまともな処方箋など思い浮かばないので――副作用に問題がある『劇薬』の投与が必要だろう。
「……何? 介錯してくれるの?」
「ええい、早まるなっ! ……とりあえず、エンディングをその眼で見届けよう。あれこれ思い悩むのはそれからにしろ」
このままでは一生立ち直れないので、痛みを伴う、強引な解決法をブラッドは提示する。
「……やだ、見たくない。生き恥だけでなく、死に恥まで全世界に晒すなんて――」
「……ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズの結末が従来通りとは限らないだろう?」
此処で、シャルロットはある重大な事に気づく。……そう言えばゲームの自分、『ルカヴィ』達のアビリティ継承していたっけ、と。
本来のシャルロットは他のジョブになっていても魔法ラーニング率は100%だったが――あれ、ゲーム中のシャルロット(FFT)、魔法に被弾してもラーニング完了した僅かな硬直動作、一度も確認していない……?
「……ねぇ、クロウ。ゲームの中の私、『ルカヴィ』達のアビリティ、継承してる?」
「何気無くとんでもない事を暴露しやがったぞ!? マジで何やってんだよ!?」
冷や汗が流れる。もうチャプター4の終盤、残る『ルカヴィ』は『統率者』と『聖天使』のみ――体感的に、その2体だけじゃ足りないと直感する。我が身を犠牲にしても『デジョン』で脱出させられないと判断する。
……つまり、このゲーム中のシャルロット(FFT)、生き恥も死に恥も晒さずに済む自分の『if(もしも)』なのでは?
「……うぅ、ぅぅぅ~~~!」
あと、ブラッドの言った事が『真実』かどうか――自分の従来の認識通りに全滅する可能性もあるし――この眼で確かめる必要がある。自分自身の眼で『観測』する必要があるのだ。
それがどんなに怖くても、恐ろしくても、耐え難くても、拒否したくても――。