転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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--/『根幹世界』にて

 

 

 

 

 ――今まで体験した事の無い、無慈悲な『死』が我が身を貫き、意図せず『永劫回帰』が発動し――本来の『巷の吸血鬼』に噛まれている最中の初期時間軸に巻き戻り――即座に手刀で心臓貫いて逆に食い殺して最速の下剋上をかまし、間髪入れずに地球を捕食する。

 

「――別次元への追放による『配役変え』、この試みは正直不毛だと思っていたよ。幾ら『端役』を入れ替えても物語の盤上に立てる『役者』は現れなかった。『私』の望む『主役』は、ついぞ現れなかった――」

 

 吸血鬼と名乗っているだけの原初の祖の『星喰い』としての全性能を即座に回帰・再現し、それでも足りないと判断した『私』は無制限の食事に突入する。

 『私』の血の影を無限加速させて光速すら超越し、触れた瞬間から片っ端に問答無用に『吸血』する。太陽系、銀河系、銀河団、超銀河団――。

 

 

「――それが、よもやよもや、追放した『魂』が、まさかまさかの帰還果たして復讐しに訪れるとはッ! この胸を震わせる大感動、言葉で語るには時間がまるで足りなさすぎるぞ!」

 

 

 星系規模の万物を融解して吸収する此方の血の影をあっさり食い破り、眼下に対峙する『死の具現』に狂喜乱舞する。

 太陽より眩しく煌めく赤髪の長髪を乱雑に一纏めにし、黒い和風喪服に西洋ブーツというアンバランスな装いを着こなす青年――極彩色に歪む虹の魔眼は今この瞬間にも万物に『死』を齎している。

 

「――さぁ、『私』の『配置変え』を乗り越えて帰還果たし、『私』の『永劫回帰』にも巻き込まれずに個を保つ『君』よっ! この『私』の『永遠』を終わらせてみよ! 見事、『私』を完全に殺してみせよッ! この『私』の『終わらない悪夢』から解き放ってくれ!」

 

 

 

 

 ――この『全ての元凶』に対して、億単位で殺してやったが、結局殺し切れなかった訳で。

 

 『あれ』の『永劫回帰』の正体である『愛(呪縛)』の法則性は理解したが、態々更なる苦労を重ねて殺してやる義理も無く――無限の虚無が殺意を上回り、自然と終戦となる。

 そもそも八つ当たりであると最初から理解している以上、殺意も根気も長続きしないのは当然であり――。

 

 

「――それはそうと、今どき『へい彼女、今からお茶しない?』でナンパしてくる人がいるなんて、古典的かつ余りにもレアケース過ぎて、つい、ほいほい付いて来ちゃいましたよ?」

「既婚者なのに些か以上に軽率過ぎないか? ……いや、まぁ其処は許して欲しい。ナンパなんて人生で初の経験だったからね。参考例が古典的な例しか思い浮かばなくてこうなった」

 

 

 視覚は自ら封じているが、彼女の存在は長い月日が経っても解るものだと我ながら関心する。

 

 ……適当に入った喫茶店で、適当に注文するが、久方振りに飲んだコーヒーの味は、とにかく苦い。

 

 彼女の左手の結婚指輪に、思う処は無限にあるが――『自分』以外に娶る物好きが居た事に、素直に喜ぶとしよう。『自分』が居なくても彼女は何とかなるだろうという身も蓋も無い感想に、間違いは無かった事だし。

 

「経験が無いのに私なんかをお誘いに? それと、やっぱり私達、初見じゃないですよね? 此方の事情をある程度知っているようですし」

「一見盲目の男が何一つ不自由無く行動している時点で、ある程度の事は些細な違和感で片付けられるんじゃないかな。――君の事は良く知っているけど、良くは知らないよ。そして君は『私』の事を絶対知らないし」

 

 望まない『第二』の人生の目的の半分は達成出来たが、もう半分が永遠に達成出来ない事の虚無感に打ちひしがれる。

 

 ――我々が嘗て生きた一回目の『根幹世界』は、『閉じた円環』と化している。

 『全ての元凶』の死が終焉となり、指定時間軸へと巻き戻って『永劫回帰』している。

 その過程で魂の次元単位の追放、『配置換え』を行った『端役』は次週には存在せず、別の『配役』が穴埋めする。

 

 つまりは、追放された『私』の穴埋めに、他の『有象無象』が勝手に生じている為、無限週後の今となっては、この『私』の生きた痕跡は、此処には欠片も存在しない。事象の地平線の彼方に葬り去られている。

 

「あらあら、何やら凄く意味深ですね。……ストーカーさん?」

「ストーキング出来るほど接触する機会があれば、お茶になど誘わんさ。――独り言だけど、君は相変わらずだね。安心したというか、何と言うべきか――」

 

 ……それ故に、『私』の愛した『君』は、もう何処にも居ない。存在した痕跡すら、此処にすら無いのだ――。

 ……何の為に、『私』は此処に帰ってきたのだろう? あちらで出遭えた『運命』すら捧げて根源に到達し、『魔法』に至って、それでも足りなくて、色々足掻いて、漸く『根幹世界』に帰還したのに――。

 

「満足さと残念さが同居している感じですか?」

「……ホント、遠慮無く突っ込んでくるね。――帰ってきた甲斐はあったけど、半分は永遠に果たされない。この遣る瀬無さは格別だ」

 

 ……言葉にするつもりの無かった無念と告解を、思わず口に出してしまう。

 彼女を前にした弊害か、つい口が軽くなっている気がする。……『自分』でも想像以上に意気消沈している事を、此処で漸く自覚する。

 

「……うん。やっぱりこれ以上の言葉は思い浮かばないな。言うべきでもないし」

「事情は知りませんし、詮索もしませんけど、言うだけなら無料では? 貴方にとって、この一瞬ですら『意味の無い蛇足』であって、心の中に引っ掛かっている何かを吐き出しに来たのでしょ?」

 

 ――……違うんだ。違うんだよ。こればかりは、もう『私』の中にしかない事であり、『私』が一生抱えていかなければならない事であり、『私』にとって永遠に許されない『十字架』だ――。

 

「……いいや、実は逆。本来は、顔を出すつもりは欠片も無かったんだ。――『炎』に焼かれる覚悟はあっても、その『炎』がとっくに存在しないなんて、余りにも想定外過ぎる」

 

 ……嗚呼、やはり、彼女と接触するべきでは無かった。未練がましくて情けない。

 今の彼女に存在しない『者』に対する懺悔なんて意味が無いのに、最期に会いにくるなんて、女々しいにも程がある。

 

「……貴重な時間を費やして狂人の妄言に付き合ってくれてありがとう。もう二度と遭う事は無いだろうけど、達者でね。……あと、夜は絶対に出歩かない事。『巷の吸血鬼事件』に巻き込まれたくなければ――」

 

 最期に、忠告だけ出して立ち去ろう。聞き届けるか、無視するかは彼女自身の問題であり、『自分』がこれ以上関与すべき事でもない。

 

「一人納得して一人自己完結している処、すみませんけど、こっちのもやもやは解消されていないので――お名前、伺っても?」

 

 ……どうして、今更そんな無意味な質問をするのかな? 『自分』と出逢わなかった君は――。

 

「神咲悠陽。――ほら、欠片も聞き覚えの無い名前だろう?」

「いや、それ『本当の名前』じゃないでしょ?」

「……、ノータイムで――本当に君は、そういう処だぞ?」

 

 

 

 

 

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