冬木の『大聖杯』を完全起動させ、7騎全てのサーヴァントの霊核が元の場所に戻る時に出来る、世界の外側への『孔』を通り――魔術師にとって至上目的である『根源』に到達する。
『抑止力』側からの妨害が無かったのは、『根源』に到達して存在消失する事が確定していたからだろうか――ともあれ、『根源』に到達した『私』の感想は。
「――あ、全然足りないやこれ」
全てが満たされた全能感による満足ではなく、不足分が目に見えての落胆だった。
……これで満ち足りて『全』に溶けるなど、『私』には到底選べない選択肢であり、意識するまでもなく却下する。
――此処でどれほどの月日を消費したかは、定かではない。主観時間があやふやであるし、特に意味があるものでもない。
紆余曲折を経て、『最初の鍵』である『第ニ魔法』に到達した。それだけで十分だろう。
『自身』が発生した瞬間を遡る事で、帰還すべき『座標』も、完全に把握出来た。
問題は、この世界から『基幹世界』への移動は、思った以上に分厚い『壁』に遮られており――色々計算したが、結局は、純粋に魔力資源が足りないという結論に至る。
現段階で『根源』にある全リソースを消費しても全くもって足りず、頭を悩ませる事になる。
「――瞬間的ならば、2つの並行世界を衝突させて対消滅し、全取りするのが手っ取り早いが……問題は、観測出来る並行世界全てを犠牲にしても足りるかどうか微妙な処か」
「――その場合は全力で抗わせて貰うがね?」
「――遠慮しておきますよ、宝石翁。案外、暇なんですね?」
自身の専売特許である『第ニ魔法』を土足で侵犯する存在故に、最初から壊滅的な敵対関係になると思いきや、想像以上にかの御仁の懐が深いのか、器の底に大きな孔が空いているだけなのかは不明だが――。
「言葉にするのなら、無限の魔力資源を無限に汲み取り続けるという結論になるか」
「ふむ、君の国でいう『頓知』が必要かね?」
「まぁ既存の常識に捕らわれない、発想の転換が必要なのは確かですね。――いや、イメージの問題か?」
とりあえず、これまでの常識は全部役に立たないので、一旦全破棄し――観測出来る並行世界全てを活用する方法を咄嗟に思いつく。
「――今までの隣り合う並行世界の認識は、無数に枝分かれした系統樹のような感触でしたが、少しばかり改変しましょう。具体的には、『私』自身の『魔術回路』の配置と同列に――」
かの『第二魔法使い(キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ)』がどう運用していたかは知らぬが、これが『私』なりの『並行世界の運営』、空前絶後の超規模『魔術回路』としての運用法である。
完全な外付けと言えども、これが『私』の『魔術回路』である以上、理論上、無限の魔力を無限に生成出来るようになる。
「――ほう? 『天体科の君主(アニムスフィア)』に連なる理想魔術を『並行世界の運営』で再現するとはな。その発想は素晴らしい。だが、しかし、此処から生み出される無限×無限乗の魔力に、『君』の『魔術回路』は到底耐え切れぬが?」
問題があるとすれば、まさに魔導元帥殿の指摘通りだが、これは問題ではない。何故ならば――。
「――まぁ、其処は気合で。諦める為の理屈はもう『私』には必要無いので」
『私』の求める結果に辿り着くには『人』である前提は必要無く、『人』としての限界など自主的に踏み越えていくしかないからだ――。
此処は多元宇宙の果ての果て、全にして一、一にして全、全ての可能性の始発点にして終着駅、入り包む超次元の位相空間――現在、いや、この未来も過去も等しく入り混じる領域に時間軸の話など余りにも無意味であるが――2柱の『神格』の正面衝突により、天地開闢の大異変を巻き起こしていた。
「――あはっ。それは逆ギレかな? 最期まで気付かなかった癖に、今更? 思わず笑っちゃうよね!」
小さな少女の形をした『赤髪ポニーテールの金瞳の少女(『補正』)』は、無言で開眼して全切れしている『紅髪長髪の虹瞳の青年(『魔法使い』)』と神域の死闘を繰り広げている。
核融合、反物質生成、重力崩壊による超新星爆発を経て――結局は無限×無限乗の魔力放出という、単純かつ原始的で、同時に最たる殺害手段に立ち戻る。
それすらも手札の一つに過ぎず――本命は、人の身に過ぎた神域の『直死の魔眼』による耐性無視の絶対的即死――此方の即死無効の穴を穿つ為に、秒単位で魔眼の視覚領域が進化していく。
――この『転生者の魔都』を構築した『補正』は、無意識下の領域改変機構である。
『悪』であるならば、全ての事象を思うままに改変する、一人ぼっちの少女の絶対無敵の『補正』――されども、あの『魔法使い』だけは唯一の例外だ。
自身と同格の『神格』であり、一回目の『死』をそのままくり抜いた存在、一回目において同日同時刻に死んだ唯一の輩! これが『運命』でなくて何を『運命』と語ろうか!
あの『魔法使い』こそが、自己意思を持たない『補正』が自らの意思で自発的に織り込んだ最大の自滅因子である――!
「――ねぇ、『自分(神咲悠陽)』の手で『自分の愛娘(神咲神那)』に引導を渡した気持ちってどんなのかな? ああ、手引したのは『僕(豊海柚葉)』だから、二人での共同作業になるのかな?」
『死』が二人を分かつまでの勝手な約定(エンゲージ・リング)――荒れ狂う神々の最終戦争は、共倒れになる筈だった。
「……え? 僕は知らないよ。並行世界と言え、『私(豊海柚葉)』を殺害して、よりによって『神咲神那(根源接続者)』から譲り渡された『固有結界』で魂諸共吸収するなんて。人の身で神殺しを達成するなんて末代まで祟られて当然じゃないかな? なお祟られたのは当人『達』みたいだけど」
――全知全能の神様だって、見誤る事はある。
それを身をもって教えてくれたのは、他ならぬ『亡霊(君)』じゃないか。
今更蒸し返すのは無しだ。あれは僕にとっても思い出したくもない、恥ずかしい黒歴史なのだから――。
「――ああ、なるほど。全部繋がっていた、と。卵が先か、鶏が先か、全部があべこべの話だったんだね? 基本的に僕達に時系列なんて関係無い話だし」