転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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--/『屋敷』にて

 

 

 

 

 それは第四特異点『死界魔霧都市 ロンドン』が発見される前の幕間の物語――新たに発見された『微小特異点』は、レイシフト条件に極めて限定的な縛りがあり、マスター及びシールダーの二人しか派遣出来ないというもので――意気揚々とレイシフトしたマスターとマシュ・キリエライトの2人に待ち受けていたのは、カルデアに居候している筈の――敵か味方かも定かではない――『異分子(二人組)』だった。

 

「――やぁ、随分と遅かったね。藤丸立香にマシュ・キリエライト。私と『アーチャー』がこの『微小特異点』に無断かつ独断でレイシフトしてから3日間の時間が空くとは、通常空間との微妙な時間的誤差があるみたいだね」

 

 『特異点F』の一件から外部協力者という位置付けに強制的に納まっているものの、絶対いつか裏切ると確信されている――黒い和服姿の紅髪・目閉じの、二十代前半にしか見えない青年と、現代服を着こなす『金髪紅眼の少年サーヴァント』――2人の独断専行に「凄いです先輩、問題発言を此処まで堂々と言えるとは!」『絶対に見習っちゃいけない処だよ、マシュ……』とマシュの純粋な反応にドクター・ロマニも呆れ顔でツッコむ。

 

 『……それで、どうしてこの『微小特異点』に、先立ってレイシフトを?』

→『……レイシフト適合率0%じゃなかったんです?』

 

「前所長、オルガマリー・アニムスフィアという例外がある以上、掟破りの裏道は何処にでもあるという事だ。其処は本筋ではないので省くが、この『微小特異点』は謂わば古き王道――七人七騎による『聖杯戦争』が執り行われていてね、最後まで勝ち抜いて『聖杯』を入手すれば特異点が解消されるという、実に分かり易い話だ」

 

 マスターからのジト目――自分より絶対的に優れた『魔術師/マスター』であるに関わらず、今までの『特異点』において直接的な協力を得られなかった最大にして唯一の理由――に対して、かの『冠位魔術師』は厚顔無恥に掟破りを敢行し「それ故に、この『微小特異点』にレイシフト出来たのは、マスター役とサーヴァント役の、君とシールダーのみ、だっただろう?」と宣う。

 

「それでは――先立って『微小特異点』にレイシフトしていた御二方は、この特異点に存在する敵対勢力の情報を入手していたり……?」

「それに関しては豊富にあるが、同時に無意味な情報の羅列でもある。報告書には必要だから後で明記しておこう」

 

 『冠位(グランド)』の称号を持つ現代最高位の魔術師の協力を直接的に得られるのならば、これ以上に頼もしい話はない、とマシュは期待に胸を膨らませるが、『彼』が浮かべる笑顔は、誰の目から見ても非常に邪悪極まる愉悦顔だった。

 

 

「――『良い情報』と『悪い情報』があるのだが、何方から聞きたい?」

 

 

→『……それじゃ良い情報から』

 『……悪い情報からで』

 

 ある種の確信をもって、マスターは時間遅延の為に、遠回しの選択肢を取る。……いつか絶対訪れるであろうと思っていたが、意外と早かった事に内心動揺する。

 

「3日間も待たされるとは思わなくてね、摘み食いで終わらせるつもりだったが――現地の敵対サーヴァント&マスターは一人残らず駆逐しておいたよ。肩慣らしにもならなかったのは正直予想外だったね。聖杯戦争初心者としては予期せぬ展開を期待していたのだが」

 

 そんな事を平然とほざく『魔術師』&『アーチャー』に、『6回』ものサーヴァント戦を経たと思われる消耗は一切見受けられない。

 額面通りに受け取るなら、無傷かつ無消耗でこの『微小特異点』の敵対勢力を全て駆逐したと思われる。……つくづく、自分の存在意義が解らなくなる。この人が『人類最後のマスター』なら、この『人理修復の旅』なんて簡単に――。

 

「えぇ!? と、という事は、もう『特異点』を解決してしまって……?」

「いやいや、あと『一陣営』残ってるではないか。3日間も遅刻した最後の『一陣営』が――」

 

 純真なマシュも、此処まで言われれば察して余る。目の前にいる『二人組』が善意ある協力者などではなく――。

 

 

→『……もう聞くまでもない気がするけど、『悪い情報』は……?』

 

 

「君達が何の備えなく『最後の陣営』と対峙している事だね――限り無く詰みに近い状況だが、何かあるかね?」

 

 

 

 

 比較的、初期に開催されたこの『悪名高きクソイベント』は基本選択肢で状況が分岐し――割と容赦無く『王手詰み(ゲームオーバー)』となり、最初の選択肢に強制的に戻されるという、極めて珍しい理不尽方式(マルチバッドエンド採用)となっている。

 

 ――神咲悠陽という人物の事前情報を、他作品媒体で知っているプレイヤー達にとっては「やっぱりやらかしやがった!?」という感想と「一作品における『主人公(ラスボス)陣営』と最初から正面衝突とかどんな罰ゲームだよ!?」と阿鼻叫喚の叫びしか出ず、初見勢からは「明らかに格が違う超人枠だけど、何でこの人、世界を救わないの?」という重度のヘイトを貯めたとか。

 

 ――選択肢を間違えれば、戦闘すら無く敗退扱いで初期選択肢に戻されるし、まともに戦闘になればマシュ単騎で『子ギル(HP100万)』との戦闘となり、毎ターン宝具斉射(『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』)で蹂躙される事となる。

 

 マスターである『冠位魔術師』は令呪の使用こそはしないものの、毎ターン、まともな戦闘続行が不可能になる程度には重いデバフの数々を片手間に行い、『魔術師/マスター』としての絶望的な性能格差を全プレイヤーに叩きつけてくる。

 ……戦闘に至る前の、事前の選択肢を致命的に間違えて、『彼』に時間を与えてしまった時は――毎ターンの開幕に、1万以上のダメージを無敵貫通で叩き込む、Aランクの大魔術・儀礼呪法を連発(何処ぞの『赤ザコ』が行った『再発動』の再現)する『決着術式・原初の炎』モードになってしまう為、どう足掻いても詰みである。

 

 ……此処で、『FGO』に登場した『彼』の魔力貯蔵量が一般魔術師の200倍以上と判明するも、外部からの補助無しでの超級サーヴァントの全力運用&十小節以上の大魔術の詠唱破棄&乱発は「幾ら何でも無法過ぎる!?」とロマニから指摘があり、何らかの『種と仕掛け』があると思われるが、このイベント内では明かされなかった。

 

 ゲームの仕様的には、初期の段階のマシュ単騎で倒せるような相手でないし、聖唱石を使っての霊基復元(コンティニュー)を行った時点で、慈悲とばかりに『子ギル』の宝具が『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』に変更されて強制敗北となる。『Fate/EXTRA CCC』での如くカンストダメージ&強制即死効果である。

 

 この時点でプレイヤーは、この『最強のマスター』&『最強のサーヴァント』相手の戦闘は『敗北イベント』にしかならないという共通認識を持ち、戦闘以外で何とかするしかないという不条理を叩きつけられ――令呪を実際に消費する選択肢に悪戦苦闘する事となる。

 

 ――この『追跡者』の魔の手を令呪を代償に潜り抜けつつ、この『微小特異点』での戦闘痕跡を探っていき、『6つ』の痕跡を発見する事でかの『冠位魔術師』&『アーチャー』コンビがこの聖杯戦争の枠組みに最初から存在しない『第八陣営』である事が発覚し、もうこの『微小特異点』が解決済みである事実を突き付けると、神咲悠陽は飛び切り邪悪な笑顔を浮かべて『聖杯』を投げ渡すのだった。

 

 

 

 

→『……以前、『世界を救うよりも、世界が滅びる前にどんな手段を使ってでも『根源』に到達しようとする』のが魔術師のサガだって言ってた話……』

 

「一般的な魔術師の思考だね。私自身がその一般的な魔術師の思考に当て嵌まるとは一言も言ってないが?」

 

 カルデアの食堂にて、『冠位・黒』の称号を持つ『魔術師』神咲悠陽はコーヒーを嗜みながら、何一つ悪びれもせず、あの時に披露しなかった持論を展開する。

 ……全くもってその通りだと痛感する。あらゆる意味で隔絶している存在ゆえに、一般像になど欠片も当て嵌まらないのは必然だった。

 

「……確かに。普通の魔術師なら、ほぼ完成している『聖杯』を、あんなにあっさり渡さないからね……」

 

 ドクター・ロマニも非常に疲れた表情をしながら、『魔術師』神咲悠陽に対して警戒の色を強める。

 この如何にも怪しい人物が『人理焼却』の犯人ならば、カルデアの全力をもって抗うのだが――薄々と、『人理焼却』の一件とは一切関係無い、されども絶対に無視出来ない『異分子』という厄介な立ち位置であると悟っている。

 

「そもそも前提として、今の私は『根源』を目指していない。既に諦めた落伍者と言って良い立場だ」

「えぇ!? 嘘だろそれ!? だってそれは――!」

 

 そして彼の口から飛び出した問題発言に、ロマニは全力で驚愕する。

 この場にいるキャスターのサーヴァント、カルデアに召喚された第三号の英霊、ダ・ヴィンチすら「信じられない」という表情を浮かべており――魔術世界とは縁遠い藤丸立香としては、今いちぴんと来ないものだった。

 

「元来、魔術師とは『根源の渦』に到達する事を至上目的とする、永遠に報われぬ群体だ。到達する事だけが目的であり、到達してからの目的が存在しないのは本末転倒と言う他ないがね」

 

 その手の触りは何度か聞いた事があるが、一般人の視点しか持たない藤丸立香には到底理解出来ない部分だ。

 目指すからには理由があり、到達してからの目的があって然るべきだと思うが――。

 

「魔術師とは一代目からの無念を子々孫々、永遠に受け継ぐ呪いの系譜なのだが、八代目の私には個人的な『目的』があった。『根源の渦』に到達する事でしか果たせない『目的』がね。……その内容については、今の話には特に関与しないので省略するとして」

 

 ロマニが信じられないものを見たような表情に変わる。……やはり、目の前にいる神咲悠陽は魔術師から見ても『例外』的な人物なのだろう。

 

「――紆余曲折を経て『時計塔』に留学中、幸運か不運にも『魔法使い』、『魔導元帥』、『宝石翁(キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ)』に目をつけられてな。色々な経緯があって、不本意にも弟子入りする羽目になった」

 

 ロマニの百面相の理由が今いち解らないが、どうして自分自身がやらかした時のような気まずさと、かの御仁に目を付けられた不運さを同情しているような、絶妙なまでに複雑な感情を抱いているのだろうか?

 

「かの御仁に弟子入りするという事は、大成するか破滅するかの二択だが、そういう意味では私は魔術師として『破滅』した形となる」

 

 『根源』に到達した偉大な先達である、『魔法使い』に師事して貰う事が、魔術世界ではどの程度の意味合いなのかは藤丸立香にはぴんと来ないが――『栄光』ではなく『破滅』したとは一体どういう事だろうか?

 

 

「……数多の無茶振りの果てに、偶然、他の並行世界の『自分』を観測する機会を得られてな。――望む通りに『機会』に恵まれ、其処で『運命』に出遭い、『抑止力』に邪魔される事無く根源への孔を開けて現世から消え果てる――この事実を観測した瞬間、私は『今のこの私』が完全に必要無い事を悟ったよ」

 

 

「え? いや、いやいやいや、それは有り得ない!? だって、それは――!」

 

 その無感情な告白が、魔術師としてどれほど異端かは、今の藤丸立香には理解出来なかったが、ロマニの反応からは、それは天地が引っ繰り返っても有り得ないレベルの暴論であり――。

 

「――他の並行世界に、『根源』への到達に挑戦し、それを成し遂げた『自分』がいるんだ。実際に存在を喪失せずに『第二魔法』に至れたかは別問題だが、徹底的に『機会』に巡り会えなかった私が無理して『根源』到達を目指す理由が根本から無くなってしまった訳だ」

 

 神咲悠陽は無感動に、されども年相応の老いを感じさせる気怠さをもって「個人的な『目的』の為に『根源』を目指していた以上、其処で折れるのは必然だったという訳だ」と自身の魔道の探求をそう締め括る。

 

「――個人的な『目的』がどうでも良くなった以上、更に優先度が下だった一族の『命題』など心底どうでも良い話だ。ならば、後は気楽に個人的な『愉悦』を優先しただけの事よ」

 

 ……またもやロマニが空いた口が塞がらない、という驚愕顔を披露する。

 とりあえず、解った事は、この神咲悠陽が魔術師としても『異端』である事ぐらいである。――正直、良く解らない。

 

「――この世界の『未知』は、私を何処までも愉しませてくれる筈だから」

 

 

 

 

 ――第四特異点の終盤にて現れた、『人理焼却』の黒幕である冠位英霊、魔術王ソロモンを前に、カルデア一行は絶体絶命の窮地を迎えるが――。

 

 

「――ク・ソ・がッッ! このシチュエーションをやるなら大人しく死んどけッ! というか存在そのものがネタバレだから出てくんなクソがぁぁぁぁァッッ!」

 

 

 「死ぬ順番は年功序列だぜ!」というノリで――いつの間にかまた独断でレイシフトし、魔術王ソロモンと身代わり戦闘を行い、撤退までの時間稼ぎを十全に果たして殺害されたFGO世界線の神咲悠陽は、カルデアの人達から「超絶怪しかったけど、『人理焼却』の一件とは関係無い悪人だったかぁ」「絶対黒幕だと思っていたけど、『人理焼却』の一件には関与してなかったですね!」「間違いなくろくでもない悪人だったけど、死ねば皆仏だ、南無阿弥陀仏」と故人を偲ばれたが、「いや、皆、酷い反応だね?」と平然と会話に参加した神咲悠陽に、カルデア一行は阿鼻叫喚となる。

 

「――駄目じゃないか、死人は死んでなきゃあぁっっ!」

 

 そう、狂ったようにのたうち回るのは、転生者の魔都『海鳴市』で『FGO』プレイ中の『魔術師』神咲悠陽であり、その狂騒具合を屋敷の住民達は生暖かい視線で見守っていた。

 

 「……我、知ってた」「僕知ってるよ、ユウヒのお家芸ってヤツでしょ!」「つい最近見た記憶がありますね」「……オレらは一体何を見せられてるんだ?」「型月名物、自分との戦いってヤツですよ。例に漏れず不毛ですね」……なお、その反応に対する温度差は大体こんな感じである。

 

「あっはっはっは! いやぁユウヒ、そんな反応も出来たんですね! 腹、痛い! 腹筋大激痛で笑い死にそう!」

「……わぁ、ギルくんがやっちゃいけない愉悦顔しているのです」

「この子ギルは我様成分マシマシの子ギルみたいだね?」

 

 笑い転がる小さな『英雄王』に対し、金髪幼女の『砕け得ぬ闇』ユーリは意外な側面を見たようなまん丸眼となり、『魔術師』の前々世における元娘、前世における元娘、現妹で穢土転生から復活済みの自称『一人娘』という非常に複雑な境遇の神咲神那は『全能者』の視点からそう結論付ける。

 

「……しかし、『冠位人形師』の――『本人と寸分違わぬ人形』など、ありなのか? いや、此方での『穢土転生体』の方が無法だが……」

 

 ディアーチェがそう言うのも無理はない。

 今回の『命に保険をかけた反則技』は、魔術王ソロモンの千里眼でも見抜けなかった『自身と寸分違わぬ人形』であり、破壊された事でカルデアに遺していた『本体』が起動した顛末をFGO世界線の神咲悠陽は邪悪な微笑みで開示する。

 

 ――他媒体でも無法な活躍をしている、かの『冠位人形師』を出されては、「蒼崎橙子さんなら普通に出来るよね」と納得しそうになるが――。

 

「ああ、あれは嘘だね。面識はあるかもしれないが、蒼崎橙子の秘奥を開示させるには交渉材料が足りないだろう」

 

 とうの本人である『魔術師』が嘘だと断言する。非常に白けた表情で――。

 

「……え? どういう事? それだと身代わり無しで死を乗り越えた事にならない?」

 

 レヴィの率直な反応は、ある意味、見え隠れする真実を的確に捉えたものであり――。

 

「意図的に英雄王を召喚している、これがもう答えだろう。どうして『そんな状況』に陥っているのかは皆目見当も付かないがね」

 

 現在、屋敷のギミックで自身の神域の魔眼を無効化している『魔術師』神咲悠陽は、その光無き裸眼で『英雄王』を視るが――かの『英雄王』を意味深に笑い、沈黙をもって答えたのだった。

 

 

 

 

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