転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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--/『外典』にて(1)

 

 

 

 

 ――それは、とある『外典』の物語。歪んで燃えた物語の断片。

 

 始まりの地である冬木から遠く離れたルーマニア・トゥリファスの地にて、ユグドミレニア家の魔術師からなる『黒』の陣営と、その討伐の為に魔術協会に雇われた『赤』の陣営による、サーヴァント7騎vs7騎、前代未聞の『聖杯大戦』が勃発し――その佳境、『赤』の『アサシン』の宝具、『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』を用いてユグドミレニアの城塞から『大聖杯』を引き抜いて戦局を決定付ける、その直後に異変が生じた。

 

 

 この戦乱を俯瞰していた『ルーラー』、真名ジャンヌ・ダルクすらも、当初は何が起こったのか、理解が追いつかなかった。

 

 

 何処ぞの城内の豪華絢爛な広間に、この『聖杯大戦』に関わる者全て――既に脱落した『黒』の『アサシン』、黒の『バーサーカー(フランケンシュタイン)』、赤の『バーサーカー(スパルタクス)』を除いて――マスター含めて(『赤』の陣営のマスターは『何故か』『赤』の『アサシン』のマスターであるコトミネ神父と、『赤』のセイバーのマスターである獅子劫界離の2人しかいないが)勢揃いしている。

 

「――空間転移? 各地に散らばっていたサーヴァント及びマスターを一斉に?」

「……『ルーラー』ジャンヌ・ダルク。一応確認だが、これは裁定者特権で強制招集されたのか? それとも、全く予期せぬ不測の事態が生じたのか――」

 

 この場を代表して、『黒』の陣営の首魁、『黒』の『ランサー』のマスターである『冠位』の魔術師、『八枚舌』ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが『ルーラー』ジャンヌ・ダルクに問うが――。

 

 

『――『赤』の陣営が勝利条件を満たした為、これにて『聖杯大戦』は終結しました。『第三陣営』の勝利です』

 

 

 古式の城内には似合わぬ、無機質なアナウンスが鳴り響き――此処に居る誰もが唖然としながら、勝利したとされる『第三陣営』の存在に首を傾げる。

 

 

『――『汝は人狼なりや?』というテーブルゲームを御存知かな? 村に紛れ込んだ『人狼』を民主的な投票で吊し殺す、実に人間味溢れる代物であり――特に、私が好きな役割(ロール)は『村人』側でも『人狼』側でもない、第三陣営の『妖狐』だ。勝利条件は非常に厳しいが、達成した時の爽快感が格別でね、中々癖になる』

 

 

 ――そして、誰にも認識されなかった『勝者』は姿を現した。

 

 遠隔からの投影魔術の応用か、少し透けているが――燃えるような紅髪の後ろ髪を『一本の三つ編みおさげ』にして垂らす、両眼を頑なに瞑っている黒い和服姿の青年。

 この『聖杯大戦』の裁定者、ジャンヌ・ダルクにとって初見のサーヴァント。逆算的に、この『聖杯大戦』中に遭遇してないサーヴァントは『一騎』だけであり――投影映像越しからは流石にルーラーのクラススキル『真名看破』の適応外となるが――驚愕が勝る。

 

 

『――貴方の役割は『黒』の陣営に潜伏する『妖狐』だ。『裁定者(ルーラー)』の眼を欺き、他陣営の勝利条件を成立させ、その勝利を簒奪せよ、と言った処か』

 

 

 何故ならば、彼――『黒』の『アサシン』は、この『聖杯大戦』において最初に敗退し、真っ先に消滅したサーヴァントだからだ。

 

『――説明する義務は無いが、自分達が何故敗北したのか、その理由を知れぬまま退場するのは少しばかり可哀想かね?』

 

 その邪悪な嘲笑をもって全てを見下す『黒』の『アサシン』を、『黒』の陣営の長であるダーニックは、亡霊を見るかの如く表情で慄えていた。

 

「……『アサシン』? 馬鹿な、何故現界しているっ!? 貴様は、とっくに――!?」

『その手の謳い文句は生憎と聞き飽きていてね。それに対して言ってやる言葉も昔から決まっている――器が知れるぞ。政治的とは言え、仮にも『冠位』の魔術師なのだから余り失望させないでくれ』

 

 驚愕するダーニックに『発言が『赤ザコ』と同レベルなのは、正直どうかと思うぞ』と嘲笑う。

 

「……『黒』の『アサシン』の消滅は、霊基盤及びルーラーの知覚能力にて予め確認されています。一体、どうやって自らの霊基消滅を偽装し、誤魔化したのです?」

『――それはね、コトミネ神父。いや、冬木における『第三次聖杯戦争』にてアインツベルンによって反則的に召喚されたルーラー、天草四郎時貞と言った方が良いかね?』

 

 聖堂教会から派遣された監督役にして『赤』の『アサシン』のマスターにして、別の聖杯戦争にて反則召喚された『ルーラー』の真名を暴露しつつ――共通の『敵』が出来たからと言って無条件に結束させてやる趣味は無く、不和の種を着火し――『黒』の『アサシン』は囀る言の葉を弾ませる。

 

『私は『聖杯戦争』の『勝者』として人理に登録された英霊未満の亡霊だ。サーヴァントとして成立する為の『外付け機能』はともかく、『聖杯戦争』の『勝者』がその戦利品を持ち得ているのは当然の理だろう? その一環で『自身と寸分違わぬ霊基』をもう一つ所持しているだけだよ』

 

 とんでもない暴論に『まぁ本体と違って、此方は真に『穢土転生体(不死身)』なのだがね?』と補足する。……なお、本当にとんでもない暴論――『聖杯』を所持している時に行った闘争全てを『聖杯戦争』扱いにしている――で、数多の反則を持ち越している。……流石に『不死の使い魔』と『便利な槍兵』は許されなかったが。

 

「――ッ、その世迷い言が真ならば、どうやって最初の『令呪』を誤魔化した!? 『――『黒』の陣営に『聖杯』を捧げよ!』という解釈の余地が存在しない絶対命令権を!」

『おいおい、私は『聖杯戦争』の元マスターだぞ? 使い切れずに死蔵した『令呪』を何画保持していると思ってるんだ? ――『令呪』による強制命令権を打ち消す。この単純命令を凌駕出来る『令呪』の行使は基本、不可能だと思うがね』

 

 小馬鹿にしたように鼻で笑いながら『ああ、『令呪』の物量で押し切る方法なら通るかも知れないな。私以上に『令呪』を保有していればの話だが』と自身の左腕を捲り、眼下に晒す。

 

 素肌を晒した左腕には、赤い文様が無数に刻まれており、一目見ただけでも十画以上の『令呪』が刻まれていた。片腕だけでも、という当たり前の注釈が付くが。

 

「――馬鹿な。そんな、まさか――!? サーヴァントとして現界した、他の『聖杯戦争』での戦利品も持ち越しているのか!? そんな横紙破りが成立する筈が無いッ!?」

 

 サーヴァントは『英霊の座』から召喚された、クラスという枠組みに限定された本体の写し身であり、例え同じ存在を召喚したとしても厳密には別個体扱いとなる。

 現世での記録を座の本体に持ち帰る事は出来るが、それを自身の記憶と実感出来るかは別問題であり――当然の事ながら、前の召喚時に獲得した戦利品を次の召喚時に引き継げる道理は何処にも存在し得ない。

 

『確かに、その手の『例外』が通じるのは一度限りで、それ以降は『世界』が絶対に成立させないだろう――その疑問に対する答えは単純明快だ。『今』のこの『世界』に『抑止力』は存在し得ないからだよ』

 

 

「――は?」

 

 

 ――ならばこそ、その『例外』が当たり前の『常識』の如く適応されている事そのものが『異常』であり、有り得ざる『前提』が罷り通っている事を全力で嘆くべきだろう。

 

『――天体は空洞なり、空洞は虚空なりとは良く言ったものだ。肝心の中身が無ければ、それはどんなに言い繕うが『偽物』だろうに』

 

 吐き捨てるように、『黒』の『アサシン』は意味のない文言を口にする。此処にはいない、『誰か』に対する憎悪の炎を一瞬だけ滾らせる。

 

「……我が宝具、『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』を、如何にして乗っ取った?」

 

 狂乱するダーニックを遮り、『赤』の『アサシン』は憎々しい表情を浮かべて、『黒』の『アサシン』に問う。

 彼女、真名セミラミスの宝具『虚栄の空中庭園』はランクEXの対界宝具であり、紛い物とは言え、一度現実に成立してしまった大虚構は並大抵の神秘では絶対に太刀打ち出来ない大神秘となり――間違っても、英霊としての歴史が欠片も存在しない、亡霊未満の『魔術師』風情が無作為に乗っ取れる代物ではない。

 

 

『――神秘はより強い神秘に打ち倒される、それがこの『世界』における基本法則だ。所有権が書き換えられた『大聖杯』を直接格納した際に制御を乗っ取っただけだよ。太陽系最古の月の聖杯『ムーンセル・オートマトン』を用いての電脳化置換という趣向だが、お気に召したかな? この『空中電脳庭園SE.RA.PH』は、私が有効活用してあげるとも』

 

 

 推測するまでもなく、逆説的な事実として――『黒』の『アサシン』は複数の『聖杯戦争』に参加し、勝ち抜き、その戦利品として数多の『聖杯』を所持している。

 その事実や過程は説明出来ないが、そうでなければ今の特異状況は成立していない。『聖杯』を巡って戦争しているのに、他の『聖杯』を所持した『異分子』が参戦し続けているとか、一体何の冗談だろうか――。

 

 

『――『聖杯大戦』は終結しました。現界中のサーヴァントへの魔力供給を全停止しました。敗残兵の皆様に置かれましては速やかに自主退去して下さい』

 

 

 『黒』の『アサシン』から齎される情報の渦を処理し切る前に、現世への現界をサポートしていた『聖杯』からの魔力供給が完全に途絶え、サーヴァントを現世に留める依代がマスター個人の魔力頼みとなり――。

 

『――物語の黒幕みたいに、無意味な自分語りは出来ない性質でね、君達の貴重な時間を私の口車で現在進行形で出血して貰っている』

 

 サーヴァントという霊格を一個人が維持する事はほぼ不可能に近い。『聖杯戦争』中は『聖杯』からの魔力供給があるから戦闘行動も可能だが、それが完全に打ち切られれば、魔力枯渇による消滅は時間の問題となる。

 

 

『――『黒』の『アサシン』! この『聖杯大戦』の裁定者として、貴方の目的を問う……! 貴方は『聖杯』に何を願う!』

 

 

 この『聖杯大戦』の『裁定者』、ジャンヌ・ダルクはある種の確信を持って責め問う。

 『聖杯戦争』に絶対的な管理者である『ルーラー』が召喚されるケースは、特殊形式で結果が未知数な為、人の手の及ばぬ裁定者が『聖杯』から必要とされた場合と――『聖杯戦争』によって世界に歪みが出る場合――『世界の崩壊を招く』可能性がある場合のみだ。

 

 ――両眼を頑なに瞑っているのに、『黒』の『アサシン』の意識が『ルーラー』にのみ集中する。

 

 一瞬だけ浮かべた、余りにも濃厚で混沌とした感情の渦の正体に『ルーラー』は気付けず、一瞬後には能面の如き無感情となる。

 

『残念ながら『世界に変革を』だとか『世界に救済を』と言った高尚な目的とやらは抱いてない。ただ、とある『単一目的』の為だけに――この『世界』の全要素を消費して『星系内生態系破壊兵器』を製造したいだけだよ』

 

 まるで昼のおやつを何にするか、の如き軽い感触で飛び出した『世界の崩壊を余裕で招く』破滅願望に、此処に居る全員が絶句する。

 

「――は? 一体何を言っている? 正気、か?」

『残念ながらダーニック、今のこの私は正気なんだよなぁ。お陰で死に勝る精神的苦痛にのた打ち回っている最中だとも。……とある『超越存在』を完全消滅する為の手段を演算した結果、余波で星系規模の領域が纏めて滅びるという本末転倒っぷりには参ったね。まぁコラテラル・ダメージという事で納得して貰おう』

 

 吐露する独り言には疲労感が滲んでいるが、其処に地球上に住まう全人類・全生命を自らの計画で犠牲にするという罪悪感など欠片も無く――。

 

「馬鹿言ってるんじゃねぇ! 巫山戯るのも大概にしやがれってんだッ! オレ等はテメェの玩具じゃねぇぞ!」

『――その戯言、凄く面白いね? 王ではなく道化の才能があったとは知らなんだなぁ、叛逆の騎士殿? 暇を弄ぶ玩具以下の分際で高望みし過ぎじゃないか? 機能が同じというだけの中身の無い伽藍洞なんて弄びようが無いじゃないか――』

 

 『赤』の『セイバー』、モードレッドの怒号に、『黒』の『アサシン』はあらんばかりの憐憫を籠めて嘲笑する。

 ……ジャンヌ・ダルクの胸中に、説明出来ない違和感が付き纏う。

 『黒』の『アサシン』の反応は狂人的で常軌を逸しているとしか言えないが、何処か淡白で冷淡で――画面越しに隔てたような温度差があるような……?

 

『……ああ、一つだけ皆に謝罪するべき事があった。特に『赤』の『キャスター』、偉大なる先人ウィリアム・シェイクスピア殿に対してだけど――』

「おやおや、全てを騙し尽くした上に『唯一人の独擅場』を大演出した大俳優が、何も演じられなかった吾輩にですかな?」

『物語の『黒幕』として舞台を最大限に演出してない事を全力で謝ろう。私にとってはこの『聖杯大戦』は単なる一タスクに過ぎないのでな。最適解かつ最速で事務的に処理してしまったよ。だからこの先の展開に『どんでん返し』も『逆転の余地』も存在しないよ? 退屈極まる『結末(バッドエンド)』でごめんなさいね?』

「――、――っ!」

 

 それは『赤』の『キャスター』、『物語』至上主義者であり、手段を選ばずに最高の物語を演出しようとする稀代の脚本家にとって、何よりも許し難き『手抜き』であり――。

 

「――、待て。待て『アサシン』。これは、お前を召喚し、お前の『聖杯』簒奪を目論んだ私達への、然るべき報復ですら、ないと?」

「本来ならば丹精込めてユグドミレニア一族郎党皆殺しの破滅案件なのだが、自意識過剰じゃないかな? その労力を掛ける価値すら今のお前達には無いと先程から言ってる。――決められた役割を演じるだけの『空っぽの人形劇』に、態々目くじらを立てる訳無いじゃないか、大人気無い」

 

 そう、『黒』の『アサシン』には悪意はあるが、熱意はまるで無い。

 ただ惰性でこの『聖杯大戦』を終わらせただけである。目の前に転がっている一タスクを消化する過程で、結果的に世界が滅びるだけである。

 

 ――理解が追いつかない。過程が結果に結びつかない。

 言葉を話すが、通じず、理解出来ない『正体不明の化け物』にしか見えない。

 

 『大聖杯』からの魔力供給が途絶えた以上、一刻の猶予も無い。ルーラーのクラススキル『神明裁決』――全サーヴァントに対する2画の『令呪』を魔力源に変換してでも、残存する全てのサーヴァント総掛かりで『黒』の『アサシン』を征伐しなければなるまい。

 

 ――不意に、鈍い振動が足元から感じられる。建物全体から生じているように感じ取り……。

 

「空中庭園が移動している……!? 『黒』の『アサシン』、何を――!」

『今後の予定としては黒海に進出してひたすら潜航、最大水深の更にその下、地球の内核まで潜航し続けて、『空中電脳庭園SE.RA.PH』と星の同化。星全体の加工はそれからだね』

 

 

 

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