転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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28/血戦

 

 

 ――左手に刻まれた三画の令呪、其処から私の物語は狂い出しました。

 

『――ごめんね、フェイトちゃん』

 

 意図せずに召喚されたサーヴァントは、知らない筈の私の名前を呼んで、泣きながら私を抱き締め――私は眠るように意識を失いました。

 何に対して謝ったのか、その時の私には解らないままでした。

 

 ――そして、私は貴女の物語を長い時間を掛けて全て見届ける。

 

 その過程で、私は姉である『アリシア・テスタロッサ』のクローン体であり、母さんから失敗作として忌み嫌われている事を知り、自身の存在意義を見失いました。

 

『――例えこの身が贋物でも、母さんに笑って欲しい。幸せになって欲しいという気持ちは本物です』

 

 それでも、未来の『私』は贋物だと認めた上で、自身を見捨てた母さんにそう言い放ち――その彼女が『自分』でない事を強く痛感しました。

 今の私に、その真実を受け入れる強さなんて、何処にもありません。自身の存在意義が無意味である事を自覚した上で、何かを見出す事なんて出来ないのです。

 

 ――物語は巡って行き、『私』と貴女の道は何度か交わる。

 

 その『私』にとって貴女は掛け替えの無い親友であり、彼女の故郷が壊された後に最も密接な人物だったと客観的に分析します。

 だからこそ貴女は『私』に討たれる事を望み――『ごめんね、フェイトちゃん』と、泣き崩れる『私』に言い遺したのでした。

 

 ――その未来の知識という禁断の果実が齎したのは、絶望的なまでの無気力感でした。

 

 私は知りたくなかった。

 知った上で、贋物の自身を自覚した上で立ち向かうなんて出来ない。

 だから、この誰にも打ち明けられない鬱憤を晴らす為に今の貴女と戦い、懺悔するように母さんに打ち明けました。

 

『――それを知っていて、何故貴女は私に尽くすの?』

 

 私には、それに対する答えを持ち合わせていません。

 

『――例えこの身が贋物でも、母さんに笑って欲しい。幸せになって欲しいという気持ちは本物です』

 

 そんな『私』の言葉なんて、私は間違っても語れません。

 愚かで醜悪で弱い私を、許して下さい――。

 

 

 28/血戦

 

 

「一応聞いておくけど、これは豊海柚葉の差金か?」

 

 型月世界の『聖堂教会』で思い浮かぶと言えば、『シエル』と『言峰綺礼』である。

 いずれも人間の域を超えた化物であり、目の前の金髪男がそれに並ぶのならば、自分は抵抗すら出来ずに殺されるだろう。

 オレが今祈るべき事は、それ等以下である事、その一点に尽きる。

 

「散歩のついでの異端者狩りに誰かの差金が必要ですか?」

「性質の悪い通り魔だなぁ、おい」

 

 現状で解っている事は、目の前の金髪の男が性格破綻者で度し難い殺人狂である事ぐらいか。

 奴との間合いは十五メートル程度、遮蔽物は特に見当たらず――少し戻った処に広い公園がある。戦場設定は其処で良いだろう。

 スタンドは目視されている。浄眼の類か、霊的なものに有効な概念武装である『黒鍵』の使い手だから見えて当然と言えば当然だろう。

 

「――豊海柚葉の狗かと思ったら、単なる野良犬かよ。やってらんねぇ」

 

 堪らず呟いた愚痴に、ぴくりと、奴は反応する。

 その反応した箇所はどうも『野良犬』の部分らしく、大層ご立腹な様子だ。……突いてみるか?

 

「知っているか? 良く吠えて噛み付く駄犬ってのはよォ、本質的に臆病なんだよ。いつ自分が襲われるか、常に恐怖しているから先に仕掛けるんだ」

「……ほう、この私を臆病者の駄犬扱いですか。狩られるだけの分際で、良く吠えましたね」

 

 片手に三本ずつ『黒鍵』を出して、にこやかに笑いながら憤怒を隠し切れずに居る。

 ああ、こういうタイプか。プライドだけは一人前で感情を制御出来ない類の人間――冷静さを完全に奪うとしよう。

 

「いや、お前なんてどうでも良いから、さっさとあっち行け。しっしっ。あー、それとも犬語じゃないと通じないかな? わんわんおー?」

 

 ――ぷちっと、即座に切れて力任せに『黒鍵』を全部投げ放ち――スタンドを纏って後方へ一歩跳躍し、あっさりと躱す。

 十分反応出来る程度の投擲速度、再び回収されて手元に戻る前に『黒鍵』の刀身を横合いから蹴って破壊しておく。

 これで九本――『シエル』みたいに百本ぐらい隠し持っていない事を祈りつつ、残り何本やら。

 

「『魔術師』の狗の分際で、このクソガキが……!」

 

 ……端正な顔が台無しである。

 また新たに二本ずつ腕に構え――それを見届けつつ、跳躍して逃げる。

 

(一気に同じ箇所に投げてくるなら一回避けるだけで楽だが、波状攻撃されたら串刺しになるからなぁ……)

 

 流石に開けた場所でやりあうのは分が悪い。近寄られたら終わりなので、隠れる場所のある公園に――っ、と、危ねぇ、感情任せて投げてきやがった……!?

 

「――ああ、何だ。そっち方面かよ! 幾ら『魔術師』に敵わないからってオレに八つ当たりかよ、大人気無ぇなー!」

 

 九歳児と化け物じみた身体能力を持つ代行者、駆けっこをすれば瞬時に追い付かれるのは眼に見えるが、その理を『全盛期』のスタンドが覆す。

 オレの精神力は『全盛期』から翳りなく、嘗ては成人の肉体で纏って幾多の戦いを乗り切ったものだ。つまり、何が言いたいかと言うと――今の九歳児の身体は非常に身軽で軽いのだ、羽毛の如く。

 

「屈折しているなぁ、もっと気持ち良く生きようぜ?」

 

 瞬間的な速度ならば、今のオレは嘗てのオレの『全盛期』以上であり、回避するだけだが、化物の投擲に対抗出来る要素となっている。

 その反面、パワーは悲しくなるほど低下しているのだが――。

 

「……うわっと、図星かよっ!?」

 

 何本か掠めて冷や汗掻く。やっぱり向こうの身体能力は突き抜けているのか、逃げ切れそうにもない。

 予定通り、公園に誘き寄せ――スタンド使いの戦い方というものを見せるとするか。

 

 

 

 

 予想以上に速い。子供と見縊っていたが、スタンド能力と合わさって尋常ならぬ速度で秋瀬直也は逃走する。

 

「逃がすかァ――!」

 

 渾身の一刀をもって投擲された『黒鍵』は彼の胴体を串刺しにするべく飛翔し、寸前の処で回避されるも、走る姿勢を崩したが為に差は縮まり、徐々に追いつく。

 

(……追い詰めている。その筈なのに、何故違和感が拭えない――?)

 

 まるで誘導されているような感触に、更なる苛立ちが積もる。

 一方的に狩られるウサギに等しい存在の分際で、狩人の手を煩わせるなと憤る。 

 

(――!?)

 

 変化は一瞬だった。靄のような何かに包まれたかと思いきや、奴の姿が一瞬にして消え失せた。

 これが話に聞く『ステルス』であると認識し、歯軋りをあげる。

 

(――逃した? いや、まだ近くにいる筈……!)

 

 怒り心頭の感情を冷却しながら、『代行者』は周囲を入念に探る。

 秋瀬直也が逃げ込んだ場所は近くの公園であり、すぐさま人払いの結界によって隔離されたので、一般人の邪魔が入る可能性は皆無である。

 尤も、一般人程度の存在が乱入した処で、今の『代行者』は迷わずに即座に殺して片付けるだろう。

 

(……ちっ、あんな猿風情の言葉に踊らされるとは……!)

 

 大人しく殺されるのであれば楽に殺したものを、この苛立ちを晴らすべく、じっくりと解体してやろうと彼の末路を残酷に定める。

 残りの『黒鍵』の残数は四本、右手に一本、左手に二本構えている状態であり、一本でも残っていれば九歳の小僧を八つ裂きにして尚足りる凶器である。

 

(奴のスタンド能力は時間制限有りの『ステルス』――精々五分程度が持続限界というお粗末なもの。姿は消せても音は消せまい。物音を立てた瞬間に終わりです)

 

 視覚ではなく、聴覚に神経を集中させ、背後に物音一つ感知する。

 即座に黒鍵を二本放つも――空振りに終わり、視界が揺れる。

 

(……っ!? 顎を、殴ら、れただと――!?)

 

 闇雲に黒鍵を振るい、手応えと同時に刀身が木っ端微塵に破砕する。

 風のベールから青いローブを纏った秋瀬直也のスタンドが姿を現した。無傷であり、ローブの一部分が少し切れただけだった。

 

(なん、だと……!?)

 

 ――彼の敗因を上げるとすれば、それは如何なる原理によって『ステルス』という結果が成り立っているのか、深く思考しなかった事に尽きる。

 『メタリカ』のような保護色による単なる迷彩ならば、今の一撃で決まっていた事だが――。

 

(……っ、圧縮された風? まさか、騎士王の『風王結界(インビジブルエア)』のような状態なのか……!?)

 

 秋瀬直也のスタンド『ファントム・ブルー』が『ステルス』時に全身に纏うのは高圧縮された風の膜であり、偏光する事によって不可視性を実現させている。

 全能力を行使させるが故に持続時間は五分程度であり、それは極めて高い隠密性と同程度の『防御性能』を約束する。

 先程の砕けた『黒鍵』は密集した乱気流の渦に素手を突っ込むような行為であり、砕け散った刃は必然の理である。

 

(――だが、今の一撃で『ステルス』は掻き消えた。勝機……!)

 

 最後まで温存し、隠し持っていた『黒鍵』による刺突を繰り出す。狙いは仮面中央、頭部による一撃必殺――。

 『黒鍵』は元々霊的な存在に特化した概念武装であり、スタンドへの効果は抜群と言えよう。

 そして、この距離、この間合い、如何に熟練の『スタンド使い』と言えども、反応して対処出来るのは空条承太郎の無敵の『スタープラチナ』ぐらいだろう。

 遠距離型の秋瀬直也の『スタンド』ではこの閃光の如き刺突を躱す事も防ぐ事も出来ない。

 ――『代行者』に誤算があるとすれば、躱す必要も防ぐ必要も無かった事に尽きる。

 

 単純な問題だ。この防御性能を全て攻撃手段に用いれば、一体どうなるだろうか?

 

 スタンドの手の甲にあるプロペラが猛烈な唸りをあげて高速回転する。

 腕の周囲に構築された右回転と左回転の竜巻は破壊の渦と化して『代行者』の身体を無情に引き裂き、彼を数十メートルは吹き飛ばした。

 

「擬似的でも真空状態にさせる事は無理だったんでな。ワムウの『神砂嵐』みたいな究極的な破壊力は繰り出せないが、結構効くだろう?」

 

 ぴくりとも動かなくなった『代行者』を遠目に見送り、秋瀬直也は自身の身体に纏っていたスタンドを消す。

 苦し紛れの『黒鍵』の一撃で『ステルス』が掻き消えたのではなく、防御に使う力を攻撃に転化させる為に消したが正解である。

 

「敵への恐怖にさえも打ち勝てない奴が、透明の敵に勝てる訳ねぇじゃん」

 

 小石一つの物音に、過剰なまでの反応で二本もの『黒鍵』を飛ばし、無駄に費やした彼に送る言葉と言えば、そんなものしか出て来ないだろう。

 

 海鳴市の異常極まる『転生者』や『サーヴァント』によって埋もれがちだが、彼のスタンド能力は至極強力な部類である――。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁ、くっ――」

 

 まるで地獄のような要塞だとフェイト・テスタロッサは愚痴らずにはいられなかった。

 

「……何度も、同じ処を回っている……?」

 

 『魔術師』の屋敷に突入してから幾十分、未だにフェイトは屋敷の中に彷徨っていた。

 無限に続く回廊をひたすら前へ進んでいく。屋敷の中の空間は完全に捻れ狂っており、部屋の扉は何処に繋がっているのか、開けてみなければ解らないという有り様である。

 まるで『屋敷』の主の性格さが滲み出ているようだと、遭った事の無い『魔術師』を恨みたくなる。

 

 ――未だに『魔術師』は現れず、精根・体力が著しく削がれ続ける。

 

 足が重い。満足に休息も取れておらず、未だに魔力不足から立ち直れていない。

 その為、子犬モードのアルフにさえ活動に支障を来たし、今回は置いてきている。実際に正解だっただろう。

 此処から無事に生きて帰られるビジョンが全く見えない。自分より先に死なれるのだけは、御免だった――。

 

(立ち止まったら、もう二度と歩けなくなる……)

 

 その一心のみで無限に連なるような扉を開き続け――一際開けた大きな空間に着く。

 其処には、その広い空間の中央には、あの白い魔法少女が静かに待ち構えていた。

 

「……一つだけ聞かせて」

 

 デバイスの穂先を此方に向けて、彼女は問う。

 答える義務が自分にはある。彼女の未来を召喚した自分には、今の彼女に答える必要がある。

 

「未来の私はどうして、神咲さんと殺し合わなければならなかったの……?」

 

 ――数多の感情が流れ込み、儚く消えて逝く。

 そう、母親の言う事など、苦し紛れの一手に付き合う事など、今の彼女には大した問題ではない。ついで程度の問題である。

 目の前の彼女との問答こそ、今のフェイト・テスタロッサの全てだった。

 

「あの人と肩を並べるだけの実力を身に着けて、手を取り合って助け合う道があった。それなのに――」

「――此処に居る限り、あの人の死は避けられない。そう、未来の貴女は判断していた」

 

 其処に至る為に全てを犠牲にして来たのだ、今更誰かに頼るという上等な選択肢は、アーチャーの中には用意されてなかっただろう。

 

「……優しすぎたんだと思う。未来の貴女は唯一つの目的の為に全てを犠牲にし、極限まで摩耗した果てに壊れた。でも、完全に壊れてなかった」

 

 そう、優しすぎたが故にフェイトの母親、プレシア・テスタロッサは壊れ――それでも未来の彼女は壊れてなかった。

 感情の堰が切れる。内に溜め込んでいたものが際限無く溢れ出る。今のフェイトにはそれを抑える事は出来なかったし、そもそも最初からしなかった。

 

「……私も、一つだけ、言わせて」

 

 その声は、地獄の底から這い出たような一声であり、フェイトの表情は苦悶に満ちて涙を流した。

 

「どうして、私に未来を見せたの? 無知のままなら何も迷わずに完遂出来た、それなのに……!」

 

 それは絶望した者の表情であり、怨嗟の声であり、その光無き両瞳に灯るは正真正銘の、掛け値無しの憎悪だった――。

 

「私は贋物で、本当は愛されてなくて、母さんしか拠所が無いのにそれを壊されたら、私はどうすれば良いの……!?」

 

 今まで押し留めていた物が全て決壊し、フェイトは泣き崩れながら叫んだ。

 高町なのはは目を見開いて一歩下がる。今まで超越的な殺意に晒された経験はあっても、此処まで純粋な憎悪を自分自身に向けられたのは、初めての経験だった。

 

「――私は貴女の未来に居た『私』みたいに強くなれないっ! 私は貴女のように強くいられないっ!」

 

 荒ぶる感情と共にフェイトの周囲に幾多の魔法陣が展開される。

 それをなのはは、初めて見る何かを恐れるように、震えながら目を離せなかった。

 

「返して、返してよぉ……! 何も知らなかった『私』を返して。母さんの為に最期まで尽くせた『私』を返して――ッ!」

 

 ――涙と共に、魔法は放たれた。

 

 彼女達の最後の決戦が形を変えて実現する。けれどもそれは本来の物語の原型すら留めず、考えられる限り最悪な形で――。

 

 

 

 

「――貴女は死したその果てでも、一途に間違えずに想いを完遂させた。残酷な未来を前に挫けた私とは違って……!」

 

 フェイト・テスタロッサの繰り出す魔法は普段とは考えられないぐらい直情的であり、いつもの彼女と比べれば児戯に等しい一撃――されども、それを躱す事は今の高町なのはには出来なかった。

 

「その在り方は綺麗だった。美しかった。羨ましくて尊くて何よりも憎かった……!」

 

 楽に躱せる一撃に被弾し、地を転がるなのはに、フェイトはバルディッシュを振り上げ、渾身の力で振り下ろし、レイジングハートは自動的に防御魔法を展開し、受け止める。

 弱々しく、腰の入っていない一撃が拮抗するのは、なのはが動揺し、魔法を繰り出せるような精神下に無い事を如実に示していた。

 

「貴女の憧れの人は間も無く死ぬ。炎の海に飲まれて――!」

 

 放心するなのはが、その言葉に反応する。

 

『推測になるが、あれは平行世界の『高町なのは』の成れの果てだろう。どういう訳か私への弟子入りが成功し――私が早くに殺害された後の彼女だろうね』

 

 いつしか神咲悠陽自身が言った言葉が脳裏に鮮やかに蘇る。

 

「貴女は何もかも失う。友達も、家族も、故郷も、全て全て全て失う!」

 

 だた、そうなった過程を高町なのははどう頑張っても思い浮かべられなかった。

 現実味が無かったという事もあるし、その時は深く考えなかった。否、考えてはならないと、心の何処かで気づいていたのではないだろうか――?

 

「でも、貴女は折れなかった。心底諦めなかった。貴女は英雄になって、サーヴァントとして過去を変える事に一途の光明を見出した……!」

 

 それが、アーチャーとして召喚された未来の自身。

 英雄となって舞い戻った、未来の高町なのはの物語。そしてそれは――。

 

「貴女は沢山殺したよ。百万人殺して英雄になる為に、屍山血河を築き上げた! 過去に死んだ唯一人の運命を変える為に未来の全てを犠牲にした!」

 

 ――嘘。だと、信じたかった。

 

 けれども、今の高町なのはに、彼女の言葉を否定する事は出来ない。

 未来の彼女を召喚した、この少女の真実の言葉だけは、拒絶する事の出来ない致死の猛毒だった。

 

「――それが未来の貴女の物語。血塗られた英雄『高町なのは』の物語。貴女の末路……!」

 

 脳裏に全く見覚えの無い景色が広がる。

 幾千幾万の骸の山、命乞いをする捕虜、区画ごと吹き飛ばされて息絶える人々、炎の海に沈んだ海鳴市、そして――未来のフェイト・テスタロッサに殺される、未来の己の姿。

 

「……『私』を、私を巻き込まないでよ……! 未来の貴女をその手で殺させ、今の私の全てを壊した! 貴女さえ、居なければ――ッッ!」

 

 怨嗟の声に、決壊する。高町なのはの、根幹を成す何かが、音を立てて――。

 

「……あ、あああああああああああああああああああああああああ――!」

 

 

 

 

 ――むくり、と、覚束ない動作で『代行者』は立ち上がった。

 

 見るからに満身創痍だが、負傷が煙をあげて徐々に治癒していく。

 『アンデルセン』や『シエル』みたいな『再生能力』を持っていたと見える。

 

「うっわ、丈夫だな。吸血鬼並の再生能力を持つのが最近の聖職者のトレンドなのか?」

 

 ただ、即座に完治するという具合には見えず、単なる悪足掻きにしか見えない。

 見えないのだが、オレの中の直感が告げている。今すぐトドメを刺すか、即座に立ち去るべきだと。

 

(オレのスタンド能力を知ったからには生かして帰す気は更々無いが、何か嫌な予感がする)

 

 今までにない緊張感が即断即決を妨げる。

 時間が経てば経つほど此方の能力持続時間も回復するが、全快されては敵わない。だが、このオレ自身の躊躇――相手の切り札に警戒しているのか?

 

「……殺す、殺す殺す殺す殺す、絶対に殺す――ッ!」

 

 譫言のように繰り返し、その単語だけを馬鹿みたいに呟き――カソックが頁状態になって舞い、別の形に再構築される。

 それは対物ライフルに何かの角のような銃剣が付け加えられた、歪な凶器だった。

 カソックを脱ぎ捨てた金髪の男は半裸状態となり――翼やら十字架などで構成されたペイントが顕となる。

 

(あ、やべっ。あれには見覚えがある。制御刻印――って事は、バイルバンカーじゃねぇが、あれは『第七聖典』なのか……?)

 

 ちょっと待て。コイツ、単なる『代行者』じゃなくて『埋葬機関』だと……!?

 そして『第七聖典』と言えば対吸血鬼用の最終兵器――ではなく、無限転生する死徒二十七祖の番外位『ミハイル・ロア・バルダムヨォン』を葬る為の転生批判の外典。

 

 ――そう、『転生批判の外典』である。俺達にとって、めっさヤバい代物じゃね?

 

 

 

 

 


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