転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

46 / 168
46/中継ぎの回

 46/中継ぎの回

 

 

 

「……こういう時、味方に『クレイジーダイヤモンド』みたいな治癒能力を持っている奴がいればなぁ。……制服に付着した血とか気にせずに済むのに」

 

 樹堂のスタンドで傷つけられた右手を柚葉に預ける。血は止まっているが、放置するにはデカすぎる傷だ。

 一回拭ってから消毒液を振り掛ける。非常に染みて涙が出るが、我慢する。ガーゼを当てて手早く包帯を巻く。案外慣れているのか、淀みない動作である。

 

「一応、突っ込んでおくけど、血塗れになる事が前提の日常なのね。……ふむ、胸の方は思ったより軽いのね」

「スタンドで防御したからな。でもあれ、防御してなかったら地味に胴体引き裂かれていたぞ?」

 

 ステルスの高密度の空気の膜があったから軽傷で済んだが、本当に末恐ろしいスタンドだった。もう二度と戦いたくない。

 柚葉は胸元に傷ついた三指の爪痕をまじまじと見ながら、また一度血を拭ってから消毒液をぶっ掛けられる。

 

「両手バンザイしてー」

 

 柚葉は高町家の備品だと思ってか、包帯を惜しむ事無くどんどん巻いていく。まぁ今のオレは九歳児に過ぎないから、大した量は使わないか。

 ああ、何だか今の自分の姿は負傷しまくったケンシロウみたいだ、北斗の拳の。いや、筋肉の膨張で包帯を破くなんて芸当は出来ないが……。

 

「はい、終わったよ」

「おう、ありがとさん。……学ランならまだ大丈夫だが、聖祥のは白だから嫌でも目立つなぁ」

 

 目下、洗濯中であり――今のオレは高町恭也からのお下がりの品を借りて着ている。

 

 ――あのスタンド使いの襲撃から、スタンド使いの脅威が高町家の共通意識となり、柚葉の交渉の末でスタンド使いに対抗出来るオレと彼女の滞在が許された。

 よくまぁオレ達がいるからスタンド使いが来るのに、オレ達のみがスタンド使いに通用出来ると置き換えたものだ。ものは言いようである。

 目の前に居る彼女を見ながら、相変わらずの交渉能力には感嘆の息しか出ない。なのはを巻き込む事になるし、恭也さんも割りと転生者嫌いなのになぁ……。

 

「其処は気にする必要無いんじゃない? 事が終わるまで悠長に学校なんて行けないだろうし」

「……余計気落ちするよ」

 

 居ないとは思うが、学校中に襲ってくる奴も居るかもしれない。

 一息付けたが、未だに欠片も安心出来ないんだよなぁ。ああ、くそ、前世の奴の組織に追い詰められた時の事を思い出す。あの時は食事もろくに出来なかったなぁ。

 

「秋瀬く……じゃなかった、直也君、柚葉ちゃん、御飯出来たよー」

「あいあい、今行くわぁ」

「あいよー」

 

 なのはに呼ばれ、オレ達は意気揚々と高町家の食卓に案内される。

 この香ばしい良い匂い、今日の晩御飯はカレーだな! 匂いからして美味そうだ、今から涎が出るぜ……!

 ……それにしても、此処はある意味、海鳴市屈指の魔境だよなぁ。まさか高町家の食卓に招待されるとは――つくづく人生というものは解らないものだ。

 食卓に辿り着くと、高町家の面々は既に座っており、おお、今日の晩飯はカツカレーだ!

 高町なのは、高町桃子、高町士郎、高町恭也、高町美由希、豊海柚葉、オレ、計七人が椅子に座り、『いただきます』と合唱する。

 スプーンにカレーと一切のカツを掬い、しゃりっと揚げたてのカツの歯応えが口の中に広がり、カレーの濃厚な旨みが広がる。

 ああ、これだけで生きていて良かったと思える……!

 

「秋瀬君、怪我は大丈夫かね?」

「ええ、軽い方です」

「え? 軽い……?」

 

 士郎さんに尋ねられ、オレは受け答えするが、美由希さんは驚いた眼で此方を向く。

 

「一日に二人も『スタンド使い』と戦ったにしては比較的軽傷です。千切れるとか日常茶飯事ですし」

「千切れるって――え?」

 

 足首とか手首とかです。食事中なので敢えて単語を言わないでおく。

 本当にスタンド使いとの戦闘は原作並に手酷い負傷をする。治療系のスタンド使いがいれば何とかなるが、居なければ常に大惨事である。

 第三部の空条承太郎一行には回復役が居なかったが、どうやって切り抜けたのか、非常に気になる。一週間後には全部傷が無かったような感じになっていたが……。

 

「それにしてもスタンド使いか。こうまで見事に嵌められたのは初めてだよ」

「スタンドは常識の天敵みたいなものですからね。今回のはスタンドの像が見えるタイプでしたけど、基本的に一般人には見えません」

 

 第七部のスティール・ボール・ランのジャイロという例外を除いて、スタンド使いでない者がスタンド使いに勝つなどまず在り得ない。

 だが、ジャイロの鉄球は『技術』だから、在り得ないとは言い切れないのか。人間の可能性って偉大だなぁ。

 

「――秋瀬君。君も『スタンド使い』だったね? 食事の後に少し良いかな?」

 

 ……え? あれ? 一体何処でフラグを踏み間違えた?

 何で二次小説で良くある戦闘民族、高町家との対戦がこっちの意見や意志無視で成立してんの……!? オレ、一応怪我人ですよォ――!?

 

 

 

 

 ドナドナと売られる子羊の如く高町家の道場に連れて行かれる――ハッ、さっきのカツカレーは生きの良い獲物を作る為の餌だったのかァ!?

 ……いや、まぁ、今後『スタンド使い』に対抗する為の手段を模索するという名目です、はい。

 先程、卓越した『技術』で『スタンド』に対抗出来るのかなぁ、と思ってしまった次第、この提案を拒否する事は出来なんだ……。

 

「豊海君だったかな? 君は何か武道を嗜んでいるのかい?」

「……え?」

 

 士郎さんからの何気無い質問に意表を突かれたのか、柚葉の眼が真ん丸になる。

 え? 何これ。達人は達人を知るって奴? というか、ただでさえ腹黒の女狐なのに武術にも通じているの……?

 

「普段の足取りに姿勢といい、呼吸といい、ただならぬものを感じたが――」

「気のせいじゃないでしょうか? 私はもっぱら頭脳専門ですし。おほほほほ」

 

 露骨に誤魔化しやがったぞ、コイツ。

 ふと、此処で魔が差した。オレ本来の目的はコイツの手の内を探る事だし、一発ぐらい誤射になるよな……? 日本の軍事上。

 予告無しでスタンドを繰り出し、寸止めのつもりで彼女の頬に拳を叩き込もうとし――気づいたらオレの身体が宙に舞っていた。

 

(スタンドの腕を捕まれ、合気の要領で投げ飛ばされた……!?)

 

 瞬時にスタンドを戻して再展開し、道場の床に背中から大激突する危機を回避する。

 つーか、何気無くて見逃しそうになったけど、スタンドの腕を生身の腕で掴まれたぞ。一体どういう能力の持ち主なんだ……!?

 あれこれ考えていると、柚葉は笑顔で凄んでいた。超怖い。自身の計画性無い行いに全力で後悔する。助けて神様。邪神じゃない方の神様で。

 

「――何のつもりかしら?」

「……あー、いや、好奇心は猫を殺すって本当なんだなぁと。い、一発なら誤射かもしれないって――ホントにごめんなさい」

 

 全力で、一心不乱に土下座する。男のプライド? そんなもん狗に喰わせておけ。

 

(……というか、未来視じみた直感に割かし洒落にならない武術の心得……? 文武両道というか、本当に万能なのか? ますます底が見えねぇな)

 

 本当に、柚葉は一体何処の世界に生まれた転生者なのだろうか――?

 

 

 

 

 とある廃家にて、樹堂清隆は落ち着きのない様子で自身の携帯電話を凝視していた。

 彼とて全面的に豊海柚葉の言い分を信じた訳ではない。安心する為に最も信頼出来る人物に冬川雪緒の調査を依頼した。

 その彼が何一つ変わりないと言うのならば、再度襲撃して全力を持って仕留めに掛かろう。それで自分は何一つ迷う事無く彼の命令を実行出来るというものだ。

 

 ――周囲を警戒しながら、漸く彼の携帯電話は高らかに鳴り響いた。冬川雪緒への連絡役として絶えず彼の下に赴いている人物、三河祐介からである。

 

「――三河、どうだった……?」

『……き、樹堂さん。オ、オレ、最初半信半疑だったけど、本当に今の冬川の旦那はマジで別人かもしれない……!』

 

 普段の砕けた『っす』口調さえ崩れ、三河祐介の声は激しく動揺していた。

 頭を抱える。彼は自分と同じく古株であり、冬川雪緒とは数年に渡る付き合いである。その彼が違和感を覚えたのならば――いや、まだ結論を出すのは早い。

 

「落ち着け。その根拠は……?」

『今の冬川の旦那は、いや、アイツは――葡萄を噛んで食っていたッ! 旦那はいつも噛まずに飲み込んでいたのに……!』

「……なんだって……!?」

 

 冬川雪緒は種無しの小粒の葡萄を好き好み、噛まずに丸呑みする癖がある。何て勿体無い喰い方をするんだと当時は思ったし、奇妙な事に大粒の種ありの葡萄は嫌う始末だ。

 何故そんな食べ方をするのか、聞いてみたら「甘いのは好きなんだが、酸っぱいのは好かん」との訳の解らない理由で、甘さが口に広がる内に丸呑みするそうだ。

 

(クソッ、まさか秋瀬直也の方が正しかったとは……!)

 

 事故に遭ったからと言って、その食べ方を矯正するとは思えない。

 となると、今の冬川雪緒の皮を被っている人物は――ある程度の知識は彼自身から観覧出来るが、彼の常識までは読み解けない能力者と想像出来る。

 

『皆に知らせましょう……! オ、オレは冬川の旦那が死んだとは信じられない。性質の悪いスタンド使いに操られているだけなんだ! 皆で協力すれば――』

「……いや、残念だが無理だ。その食べ方の癖を、全員が知っているとは限らない」

 

 知らない者に言っても、「はぁ?」と無関心そうに片付けられるだけであり、冬川雪緒が他の誰かに摩り替わっていると判明した今、樹堂清隆の安否は豊海柚葉の想像通り、非常に危ういものとなった。

 自分もまたいつスタンド使いの襲撃に遭っても可笑しくない事態であると、冷や汗を流す。

 

「……良くやってくれた。お前は普段通り仕事をして、何か異常に気づいたら連絡してくれ。あと、オレとの通話が繋がらない場合は――!?」

 

 ――足音が聞こえた。隠す気概すら無い、堂々とした足取りが。

 

 自身の携帯を地面に投げつけて破壊し、樹堂清隆は廃家に溜まっていた水分を全て集めて『雨天の涙(レイニー・ウォーター)』を出して身構える。

 雨天時の時のような圧倒的な万能さは無いが、それでも彼のスタンドはこの状態でも十分過ぎるほどの戦力を秘めている。生半可の相手ならば独力で切り抜けられるぐらいに――。

 

 

「――まさか貴方ともあろう人があの女に篭絡されるとはね。あの『魔術師』が手を出さない訳です」

 

 

 やはり、冬川雪緒の皮を被った人物は、彼の知識を好きなだけ観覧して此方を弄んでいるようだと樹堂清隆は内心舌打ちする。

 その黒味がかった青髪の姫様カットに切り揃えた赤い情熱的なスーツの女のスタンド能力を、樹堂清隆は知らない。

 知っている事と言えば、彼女が『魔女の卵』を最も集めたスタンド使いであり、極めて破壊的な能力の持ち主である事ぐらいである。

 

「――ッ!」

 

 そんな危険極まるスタンド能力者に先手を取らせる訳にはいかない。

 敵との距離は七メートルあるが――樹堂清隆は己がスタンドを疾駆させて先制攻撃を仕掛ける。

 

 ――即座に彼女は自らのスタンドを繰り出す。彼女の背後に出現したのは、不死鳥を象った鳥型のスタンドであり――彼女は小気味良く指先を鳴らした。

 

「――ッッガアァ?!」

 

 ただそれだけの動作で『雨天の涙』の右足部分が爆発し、本体の右足が千切れ取れる。

 

 ――物理的な攻撃には無敵を誇るが、焼き切られれば本体にもダメージが通ってしまうという、水なのに炎が弱点という皮肉が顕となった。

 

 地に倒れ転がった樹堂清隆は堪らずスタンドを解除してしまい、それを冷然と眺めていた彼女はもう一回指先を鳴らして廃家の瓦礫諸共、落ちた水を一滴残らず盛大に爆破した。

 これで樹堂清隆はスタンドを展開する事すら出来なくなった。

 

(――なん、だと……!? 空間指定の爆破だと!? 何という強大な破壊力に、無慈悲な命中性能……! こんな巫山戯た能力があるとは……!)

 

 吹き飛んだ自分の足を鬼気迫る表情で凝視し、即座に彼女の方に視線を向ける。

 彼女は近寄る素振りさえ見せず、指先を鳴らす直前で構えていた。其処には絶対的な強者特有の、油断も慢心も在り得なかった。

 

「――内通者は誰です? 秋瀬直也のスタンド能力は? 豊海柚葉で何か解った事は? 全部洗い浚い話すのならば、同僚の好です。生命だけは助けて差し上げますよ?」

 

 ぴくりとも表情を動かさず、彼女は死刑宣告に似た脅迫をする。

 当然だが、裏切り者を生かしておく訳が無い。女なのに凄みを感じさせる眼は、無言でそう告げている。

 過激なまでの破壊力を秘めたスタンド能力とは裏腹に、冷酷無比で機械的なまでに無感情――ああ、死んだな、と樹堂清隆は諦めた。

 

「……今の冬川さんは、冬川さんじゃない。別のスタンド使いに操られている……! その正体不明のスタンド使いは、冬川さんの知識さえ自由に観覧出来るようだ……!」

「――ふぅむ、此処まで洗脳能力が強いのですか。これは厄介ですね」

 

 ぱちんと、その音は無情に廃家に響き渡り――樹堂清隆の心臓部分が爆破され、風穴が空いた彼は遺言さえ吐けずに倒れ伏し、絶命する。

 その死体に一瞥すらせず、お釈迦になった彼の携帯電話を回収する。例え中身が壊れていても、通信履歴から誰に電話していたのか、程無く遡れる。

 

 ――尤も、内通者の始末は彼女の役割ではないが。

 

「秋瀬直也、豊海柚葉は私が仕留めます。赤星有耶(アカボシアリヤ)の『炎天下の暴君(フレイム・タイラント)』がね――」

 

 

 

 

「――樹堂さん? 樹堂さん!?」

 

 砕けるような異音の後に途絶えた電話に、三河祐介は否応無しに打ち震える。

 ――樹堂清隆に刺客が送られたのだ。同じ川田組のスタンド使いが。この事実は彼等の頭である冬川雪緒が本当に別人である事を何よりも示した事である。

 

(……まずい。どうするどうする……!?)

 

 つまりは、彼自身の身にも危険が迫っている事に他ならない。

 間近に迫った死の恐怖に涙さえ滲み出る。どうしてこんな事態になったのか、まるで訳が解らない。

 

(オレが助けた時には、もう別人だったって事か……!? クソッ、これはオレが齎した事なのか……!)

 

 現在位置は冬川雪緒が入院している病院の屋上、とりあえず、此処から脱出する事から始めなければならない。

 その後、秋瀬直也と連絡を取って協力し――ばたんと、金属特有の錆じみた軋み音を鳴らしながら屋上の扉が開かれ、白い雪模様のパジャマの上に黒のちゃんちゃんこを羽織った冬川雪緒が幽然と現れた。

 

 

「――今後の参考の為に聞くが、あの短いやり取りで『オレ』を贋物だと思った理由は何かね? 三河祐介」

 

 

 ――普段の彼よりも、一段階低い音色で、冬川雪緒の皮を被った誰かが問う。

 

 怯え、竦み、涙さえ浮かべていた三河祐介は目元を拭い取り、激しい怒りと闘争心をもって冬川雪緒を睨み返した。

 

「ほう、一瞬前まで小便チビリそうなぐらい怯えていた敗者の顔が、猛々しい戦士のそれに早変わりだ。なるほど、お前の事を少し見縊っていたようだ」

 

 屋上の扉を叩き付けてスタンドで瞬く間に凍結させて――退路を断つ。冬川雪緒は極悪なまでに嘲笑っていた。

 こんな醜悪な表情は、普段の冬川雪緒からは考えられないものであり――大切なものを穢されたやり場の無い怒りがふつふつと沸き出し、握り拳を怒りで震わせる。

 

「この冬川雪緒は、驚くほど慕われていたようだな。尤も今はこの『オレ』の為に役立っているが」

 

 処々に六華の模様が特徴的な純白の人型のスタンド『氷天の夜(ホーリー・ナイト)』はそのまま――それは、貴様が使って良いスタンドではないと三河祐介はブチ切れた。

 

「――冬川の旦那の顔で卑しく笑うなッ! そのスタンドは冬川の旦那のだ。この寄生虫野郎がァ……!」

 

 下品な笑みが止まり、冬川雪緒の皮を被った誰かは不愉快極まる表情に豹変する。その寄生虫という言葉が何よりも気に食わなかった様子である。

 

「……認めよう。今のこの『オレ』は下っ端のカスにも罵られるような下劣な能力だと。この身体を間借りしなければ行動一つすら取れない最下層の蚤だと。だがな、必ず『オレ』は再び頂点に返り咲くッ! 秋瀬直也の持つ『矢』によってな――!」

 

 それは純然までの『邪悪』であり、負の情熱は彼の眼に際限無く燃え滾る。

 並ならぬ妄執こそ、中に居る邪悪の権化の原動力であり、抜け殻の死体と化した冬川雪緒を突き動かす全てだった。

 

「どうだ? 三河祐介。この『オレ』に服従する気は無いか? 『オレ』の部下になるのならば、貴様を人一倍優遇すると約束しよう。何せこの世界で初めての『オレ』の部下だからな――此処で戦えば、お前は確実に死ぬ。悪い話では無いだろう?」

 

 まるで魔王の如く「世界の半分をお前にやろう、私の部下になれ!」と誘惑してくる彼に、三河祐介は声を出して大笑いした。

 腹が痛くて堪らず、これが意図した精神攻撃ならば大したものだと感心する。

 

「……ふむ、何が可笑しい?」

「いいや、まさかこの台詞を言う時が本当に来たとはなァって感心してたんっすよ」

 

 全力で笑いながら、いつもの調子を取り戻した三河祐介は自信を持って断言する。

 

「――だが、断る! テメェをぶちのめして冬川の旦那を取り戻すッ!」

 

 此処で奴を打ち倒して寄生虫を取り除けば一切合切解決だと、彼は絶体絶命の逆境を糧に飛び立つ。

 

 

『これさえあれば救助の可能性が発生し、殺されれば何度でもやり直せるお前なら確実に救援を引き当てるだろう――だが断る』

 

 

 彼の脳裏にあの屈辱的な台詞が鮮やかに蘇る。

 その前世でも今際の時に宣言された台詞を、見下していた者の口から吐かれ、冬川雪緒の中にいる彼は血管が浮き出るほどの憎悪と怒りを顕にする。

 

「やはり貴様も秋瀬直也と同じか……! あの時と同じように、糞みたいなカスの台詞を吐きやがってェ……! 良いだろう、必ず後悔させてやる――!」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。