転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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50/それぞれの攻防戦

 50/それぞれの攻防戦

 

 

(――本当に生きてやがったのか。いや、あれは確かに殺した。此処に居るコイツは別個体と考えるのが至極当然だろう。……まさか、本当に残機が『妹達(シスターズ)』の数だけなのか?)

 

 目の前の御坂美琴に似た誰かを眺めながら、『過剰速写』は敵戦力を分析する。

 一度打倒している以上、所詮は御坂美琴以下に過ぎない『異端個体』に敗北する可能性など皆無だが、敵の意図が掴めずに強い警戒心を抱く。

 

(……楽観視になるが、『妹達』を量産出来ているとか考え辛い。もし嘗ての学園都市のように二万体も揃えられる資本と技術があるのならば、殺害された傍から逐次投入されていただろうし――用意出来ている個数には制限があると見た。問題は、その制限ある個体で何故真正面から仕掛けて来たのか)

 

 何らかの勝算、もしくは別の戦略的な目標があると見て間違い無いだろう。

 どの道、教会内で戦闘するのは回避するべきだろう。此処では流れ弾で死ぬかもしれない人間が居る。

 

 ――最初の一発目から殺す気概で懐から『コルトM1911』を取り出し、十倍速で撃ち放つ。

 

「――ッ!?」

 

 諸々の衝撃に耐え切れずに、自動拳銃はただの一発で木っ端微塵に粉砕し、音速の壁を突き抜けて放たれた致死の銃弾は、『異端個体』の生命を吹き飛ばすには至らなかった。

 

(着弾の瞬間に妙な反発力が生じて致命傷を回避した……? あの一瞬で銃弾と己に磁力による斥力を生じさせたのか? 器用な真似をする)

 

 ダメージのほどは未知数だが、『異端個体』を教会の外に吹き飛ばす事は成功した。

 外には十数名ぐらいの敵対存在を認識出来るが、構うまいと『過剰速写』は外に踊り出る。

 

「――撃てッ、撃てェッ!」

 

 ――外には迷彩服にマスクを装着した武装部隊がアサルトライフルを構えて待ち構えており、一斉に射撃され――『過剰速写』に着弾する一メートル寸前で全ての銃弾はぴたりと『停止』する。

 

「な、何やってやがるッ! 『キャパシティダウン』だッ! 早くしろォッ!」

「またまた懐かしいものを引っ張りだして来たな」

 

 『過剰速写』は特定周波の音波を自身まで届かないように『停止』させながら、徐ろに懐から投擲用のナイフを取り出し、一番近くに居た武装兵の頭部に投げる。

 当然、能力の加速を用いて飛翔したナイフは無常にも彼の脳天を穿ち抜いて殺害し――その手から零れ落ちたアサルトライフルを『過剰速写』は現地調達し、オートからセミオートに切り替えて、一発一発、敵対者の頭部にぶち込んで鴨打ちしていく。

 

「――っ!? な、何故効かない!? あれは能力者である限り――」

「生憎とソレは対策済みだ」

 

 武装部隊から撃っても全ての銃弾は『過剰速写』の一メートル付近で停止し、一人一人順々に仕留め――残らず撃ち殺した後に駄目出しに、能力者の能力行使を阻害する音波を出す音響兵器『キャパシティダウン』を限界まで加速させて自壊させる。

 

(雑魚は片付いたが、ミサカは――?)

「ひゅーひゅー、良い殺しっぷりだねぇ『過剰速写』! ミサカ感動しちゃうよ!」

 

 ――五十メートルは距離を離して『異端個体』が構えている重火器は、明らかに今までの代物とは異質の形状、既存のコンセプトとは別の試みが加えられたもの――そして彼女は、必殺の『超電磁砲』を撃つ時並に、猛々しく高電圧に帯電していた。

 

(――『ガトリングレールガン』……!? 駆動鎧ではなく、第三位の『超電磁砲』によって運用する事が前提の限定軍用モデル!? こんな場所でぶっ放す気か……!)

 

 『過剰速写』の脳裏にとある研究内容を思い浮かばせる。

 ファイブオーバー、純粋な工学技術によって超能力を超える事を想定した『駆動鎧(パワードスーツ)』であり、そのモデルケースの一つに第三位のレールガンがあった。

 彼のオリジナルが生きていた時には構想の段階で実現していなかったが――。

 

 

「――本物の『レールガン』ってヤツを、いっちょお見舞いしてやんよ……!」

 

 

 これが一対一の勝負ならば、全てを回避する事など『過剰速写』にとって容易だった。

 停滞及び停止を総動員して弾速を落として回避すれば良い。だが、此処で問題となるのは『過剰速写』の背後に教会がある事だ。

 その貫通力、連射力、破壊力から一発足りとも背後に通す訳には行かない。撃たれる全てのレールガンを叩き落として『異端個体』を殺さなければならない。

 

(……っ、出来るのか――いや、やるしかねぇ……!)

 

 ガトリングレールガンの猛威から、八神はやてが生き残れる可能性は皆無であり、回避するという選択肢を『過剰速写』は完全破棄する。

 

 『過剰速写』は十倍速で地を駆け抜け――『異端個体』の待つ五十メートル地点まで到達するのに僅か0,6秒、カタログスペックでは分間4000発を誇るガトリングレールガンが十一発から十二発撃たれる間に勝負は決する。

 

「――ッッッ!」

 

 ガトリングレールガンは途方も無い超速度を以って音を置き去りにし――体感時間を十倍速、レールガンの射線上に停滞及び停止を限界まで行使し、それでも捉え切れないレールガンの弾速に慄きながら、未来予知さえ最大限に活用して『第三の腕』で弾き飛ばす……!

 

(……ッッ! クソッ、一発で『第三の腕』の構築がふっ飛ばされた……! 計十回再構築して防ぎ切れるのか――!?)

 

 ――数瞬先に死が見える。演算時間が足りず、五発目で対処出来なくなってレールガンに貫かれて死亡する可能性と、演算速度を限界まで加速させて八発目で限界を超えて自滅する可能性が同時に見え隠れする――。

 

(無理だ――防ぎ切れない……!)

 

 演算速度を更に上乗せしながら、再構築した『第三の腕』で二発目を叩き飛ばし、またもや構築が跡形も無く吹っ飛ぶ。

 この時点で0,1秒の時間が漸く経過する。残り0,5秒――。

 

(――つまり、処理限界を超える五発目に至る前に対処方法を構築し、実行しなければならない)

 

 0,15秒、再び再構築した『第三の腕』で三発目をはたき落とし――修正、一発撃ち落とす毎に自身の走行速度が著しく削り取られ、『異端個体』が射程圏内に入るのは1秒後、更に0,4秒掛かると推測される。

 

 絶望的な試算を打破するべく――刹那を永遠に偽装し、更に思考速度を加速させる。

 血管がブチ切れるような破滅的な感覚を無視し、極限まで0,1秒という時間を引き伸ばして過去の可能性を観覧する。

 

 0,16秒、昨夜の過去視を終え、成果無し。

 0,17秒、二日前の夜に特異な現象を観測する。

 0,18秒、その現象を理解出来なかったが、現状における唯一の希望であると断定する。

 0,19秒、四発目の迎撃準備をすると同時にその特異な現象を一時的に再現するべく演算を開始する。

 

「――ぅぅぅっっっ!」

 

 0,20秒、四発目のレールガンを迎撃する。これ以上は犠牲無くして防御出来ない。

 0,21秒、『第三の腕』の再構築に回した演算能力すら『再現(リプレイ)』の実行に回し、正真正銘、彼の全ての演算能力を総動員する。

 0,22秒、エラー、『再現』しようとしている現象は何一つ解析出来ず、更には超能力の範疇に無い別系統の法則。説明出来ない法則を『再現』する事は出来ない。現工程を破棄し、防御に演算能力を回す事を至高とする。

 0,23秒、却下。分析する必要は無く、現象の理解すら必要無し。ただ再現出来れば問題無い。それのみを再現するのではなく、全環境条件を一斉に再現させれば結果的に完璧な再現になる。

 

 世界を偽装して法則を無視して全行程を省略し――実行、世界を書き換える怪異現象を『再現(リプレイ)』する。

 

 ――温度の無い炎が世界を包み込み、神咲神那の固有結界『忘火楽園』を一時的に顕現させる。

 

「――んなっ!?」

 

 世界が書き換えられ、背後の教会が消え果てた事に『異端個体』は驚嘆し――受ける必要の無くなった『過剰速写』は全力でレールガンの銃弾を躱しながら切迫する。

 

 0,4秒経過。五、六、七、八発目、回避成功。

 ただし、瞬間的にも二十倍速で思考を回した為、負荷の処理の限界が極めて近い。

 0,6秒後の接触で仕留めれなければ、負荷処理で能力を一切使用出来なくなり、逆に仕留められる――。

 またこの世界を塗り替えた現象も、刹那に綻びが生じ――1秒経過するまでに既存の世界に戻ってしまうだろう。

 

(チャンスなんて一度で十分だ――!)

 

 更には懸念すべき事項、この正体不明の世界法則について。

 第二位の『未元物質(ダークマター)』と同等か、それ以上の未知なる脅威を感じ取るも、現状ではこの身に与える影響の分析に演算能力を回す余力は無い。

 一切の可能性を考慮外とし、破棄して突撃する。

 

「ぃぃぃぃ――!?」

 

 0,8秒経過。九、十、十一、十二発目の回避に成功し――『異端個体』はガトリングレールガンを破棄し、レールガンの要領で此方に飛ばす……!?

 『第三の腕』――再構築が間に合わず、これに直撃して後退すれば、もう二度と接近出来ない。――左腕を犠牲にする事を提案し、即時実行する。

 

「……ギ、ガアアアアァァァアアアアアアァ――ッッ!?」

 

 飛来する重火器を左腕で受け止め、体内時間を弄った在り得ざる超反応を以って化勁の要領で受け流す。

 ただ、科学の街の申し子である『過剰速写』に中国武術の功夫などある筈も無く、左腕の肉という肉はズタズタに引き裂け、左腕の骨という骨まで砕け散って――されども走破する速度を0,1秒も損ねずに突っ切る。 

 

「シイイィィァアァ――!」

「き、ひ……!」

 

 『過剰速写』は解放後のダメージを度外視し、自らの右手の手刀に『停止』を施して撃ち放ち――『異端個体』は夥しい雷撃を撒き散らしながら、自身の死を前提に自爆手を放つ。

 

 ――斯くして、『過剰速写』の手刀は『異端個体』の心臓を穿ち貫き、彼女の最後の電撃は防御の手段を用意してなかった彼を容赦無く焼いた。

 

(グ、ガァ……ッッッ!?)

 

 限界寸前まで追い込まれ、意識が途絶えそうになった処を『過剰速写』は何とか踏み留まり、にやりと、血を吐き散らしながら笑った『異端個体』は力無く倒れ去った。

 世界がガラスのように崩れ、元の場所に戻る。意識を失わないように必死に堪えながら、『過剰速写』は前のめりに、地に倒れ伏した。

 

(……ッ、クソッ、アイツ一人に此処まで追い込まれるとは……! こりゃ暫く動けない、か。教会の方は……?)

 

 

 

 

「――ちぇ~、やっぱり殺されちゃったか。残念残念」

 

 最後の一体に乗り移った『異端個体』は肩を回しながら背伸びする。

 相当手酷いダメージを与えたので、彼からの邪魔はもう入らないだろう。

 

「……ミサカ隊長、『竜の騎士』と『神父』を足止めした部隊からの通信が今、完全に途絶えました」

「あんまり時間無いね。それじゃ予定通り作戦実行しましょっか。ゴーゴー!」

 

 『異端個体』を乗せた軍用車は急発進し、教会の正面側からではなく、横合いから全速力で突っ込む。

 後方の席の左右の窓から『RPG-7』を構え、二つの弾道を発射して教会の壁を木っ端微塵に粉砕――突破口を無理矢理作って突撃する。

 

(――えーと、お、ラッキー。『全魔法使い』の奴、『RPG-7』の爆破に巻き込まれてやんの、虫の息じゃん。クロウ・タイタスと八神はやては一緒で、『禁書目録』は孤立している。どっちを攫うかは決まりだね)

 

 教会に突入した『異端個体』は即座に内部の現状を把握する。

 急停止する軍用車から飛び降りた『異端個体』は全方面に十億ボルトの電流を撒き散らして一瞬にしてこの場を完全に制圧する。

 

「ぐがぁっ?!」

「え、な……!?」

「はいはい、アンタはこっちよー!」

 

 唯一『歩く教会』で無事だった『禁書目録』の首根っこを掴み、『異端個体』は電撃能力を用いて増強させた異常な怪力で軍用車まで引きずり込んだ。

 ――この間、僅かに三秒である。 

 

「な、なにを――むぐっ!?」

「そうそう、ふん縛ってぇ――何してんの早く出せッ!」

 

 軍用車は急発進し、彼女達は自分達が開けた穴から悠々と脱出していく。

 

「此方は上手く行きましたね。『過剰速写』はどうします?」

「回収したいのは山々だけど、逃げる方が優先だね。ほら、もう怖い人達が来ちゃったしー」

 

 背後から低空を飛翔して追ってくる『竜の騎士』と、遅れてマギウス・ウィンドで空を舞うクロウ・タイタスの追跡が始まり、まだ気が抜けないと『異端個体』は溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

(――今、この未知のスタンド使いについて解っている事は一つ。それは指鳴り音だ)

 

 先程の爆発で人々が居なくなった無人の街中に立ちながら、オレは周囲を万遍無く警戒する。

 堂々と姿を晒している理由は一つ、此処でなら奇襲される心配が無いからだ。

 

(これは大胆な推測に過ぎないが、鳴らさないと発動出来ない類の能力だと見た。そして鳴ったのが聞こえる位置という事から、奴の射程距離はそんなに長くはない。精々十メートル~十五メートルぐらいだと見た)

 

 よって、遮蔽物があって敵の存在を見過ごす可能性があるような建物内ではなく、見晴らしの良い街中こそ、このスタンド使いを仕留めるのに一番適した場所だ。

 

 ――程無くして、青髪で赤いスーツを着こなした女が、目の前に堂々と現れた。射程距離云々の推測は恐らく当たっていたのだろう。

 まずは最も至難だと思われた第一関門を突破した。

 

「一応聞いておくけど、何故裏切ったのかしら? 私の知る限り、貴方は二度冬川さんに生命を助けられているけど?」

 

 彼女の背後には不死鳥を象ったような鳥型のスタンドが出現しており、右手は指を鳴らす準備を整えている。

 

(あの指鳴らしがキラークイーンみたいな爆破のスイッチなのは疑うまでも無いが――鳥型のスタンド?)

 

 DIOの屋敷の番鳥『ペット・ショップ』の如く襲ってくるのか――いや、考えてみれば、吉良吉影の『キラークイーン』みたいな爆破を空間指定でやってのけるんだ。能力一点特化型なのかもしれない。スタンドの像は飾りの類の――。

 

「――裏切ってなどいない。オレが今、此処で生きているのは冬川雪緒の御蔭だしな。いきなり裏切り者扱いされて、こっちが青天の霹靂だよ」

 

 一歩、無作為に近寄ってみる。距離は目測で十八メートル、此処はまだ安全圏内のようだが、この極限の緊張感は精神的な消耗を強いられる。

 なのはのシールドの内側から爆破した空間指定の精密精度を見る限り、射程距離に入ったら容赦無く体内で爆破とかされかねない。

 

「……ふむ? まるで冬川さんの方がおかしくなった、と言わんばかりの言葉ね。樹堂清隆と同じく、貴方も豊海柚葉に洗脳された口かしら?」

「――樹堂清隆はどうした? まさか……」

「始末したわ。最期まで貴方達の情報を口にしなかったわ。大した洗脳能力だわ。でも、冬川さんが別のスタンド使いに操られているなんて、笑い話ですね」

 

 コイツ、自分の仲間を……!?

 また一歩近寄る。十七メートル、十六メートル。十五メートル――まだ大丈夫なのか。此処からが本番だと、本当に肝が冷えていくが……。

 

「――本当に、樹堂が洗脳されていたと勘違いしているのか?」

 

 自然と近寄っていくが、どんどんあの女の目付きが細くなっていく。

 十四メートル、十三メートル――オレにとって最高なのは、奴の射程距離が九メートル以下である事。それならば、この間合詰めで一方的に打ち勝てる。

 

「嫌だね、自覚出来ない類の洗脳は本当に厄介だわ。――殺すしかないじゃない」

 

 十二メートル、十一メートルの地点で一旦止まる。

 あの女は身構えたまま、動く素振りを見せない。やはり、オレのスタンドの射程距離である十メートルが生と死のボーダーラインになるだろう――。

 

「……そうか。お前は、殺さない」

「? 随分と余裕だね。君は今此処で私に殺されるのに」

 

 それ故に、奴に勝つには――この死のボーダーラインを踏み越える必要がある。逆に言えば、踏み越えた先にしか勝利は無い。

 

 

 

 

(近寄らない……? あと一歩だというのに、今の何気無い挙動で此方の射程距離を完全に計られた……!?)

 

 赤星有耶の想像以上に、この目の前の九歳児はスタンド使いとの戦闘に慣れていた。

 彼女の『炎天下の暴君(フレイム・タイラント)』の射程距離は十メートル、致死圏内に入るには、あと一歩足りない。

 

(……どうする? 今の十一メートルの距離でも、最大火力で爆破すれば十メートル地点に居てもそれなりのダメージが――いや、駄目だ。完全に此方の射程距離を教える事になる)

 

 殺すからには一撃で仕留めるのが鉄則であり、自分から踏み込んで仕掛けるか、彼女は思案する。

 此処まで正確に間合いを見切られたのは初めての経験だった。

 唯一回、指鳴りで能力が発動するという事のみしか知り得ない筈なのに、それだけで此方の射程距離を見定められるなど――秋瀬直也は見た目以上に侮れなかったスタンド使いだった。

 

(それだけの戦闘経験を持ちながら、何故冬川さんを裏切った……!)

 

 その力がどれほど彼に役立てるのか、考えるだけで腹が立つ。やはり、此処で彼を殺さなければならないと改めて決断する。

 

(……最初に仕留めるべきは、高町なのはではなく、コイツだったのか……? 私が見誤ったというの……? っ、何を弱気な……! 違う、追い詰めているのは私の方だッ!)

 

 自分から仕掛けるか、待つか、迷った刹那――自分から左斜め五メートル地点に大きな足音が生じた。

 ステルスで隠したスタンドを事前に配置していた――その地点目掛けて、彼女は迷わず指を鳴らして最大火力で爆破する。

 

「……っ!?」

 

 盛大に爆発するが、手応えらしい手応えは一切無なかった。

 秋瀬直也はそれと同時に此方に向かって走り――ボーダーラインの十メートルを呆気無く踏み越えた。

 

(まずい、初撃を外した以上、奴のスタンドは此方の近くにいる――構うものか、本体を殺せばスタンドなど……!)

 

 此方に走ってくる本体目掛けて爆破を繰り出そうとして、彼女は瞬時に指を鳴らそうとし――ぐぎり、と、軋みを上げて今鳴らそうとした右手を握り潰された。

 

「……あ、がァッ!?」

 

 彼女の細い手先を折り潰しているのは透明な何か――秋瀬直也のスタンドであり、眼の前に居ながら察知出来ない隠匿性に彼女は驚愕し、形振り構わず眼の前に居るであろうスタンドを左手で指を鳴らして爆破しようとしる。

 

「ギ――!?」

 

 待ってましたと言わんばかりに手を掴まれて反対側に逸らされ、限界を超えて折り曲げられ――乾いたような鈍い音を立てて、彼女の細い手先は呆気無く砕けた。

 

「ガァ――ッッ!?」

「おいおい、女なのに凄い悲鳴だな、まだ両手両指が砕けただけだぜ? ――吉良吉影の『キラークイーン』よりヤバいと思ったが、どうやら過大評価だったな」

 

 此処まで本体を好き勝手しておいて、攻撃らしい攻撃を繰り出さない彼女の鳥のスタンドを見ながら、秋瀬直也は自身の分析が大方当たっていた事に安堵する。

 

「その鳥型のスタンド、第七部のスタンドのような飾りなんだろう? スタンドの像を出して置かなければ能力を発動出来ない類のデメリットか? 『キラークイーン』相手じゃオレのスタンドが真正面からこんな真似をするなんて不可能だしな」

 

 砕いた両手を掴んだまま、彼女の顎が蹴り上げられ、強大無比なスタンド能力を持っていた彼女はされども予想以上に呆気無く気絶し、敗北した。

 

「強大なスタンド能力過ぎて、小手先の技術や駆け引きが必要無かった弊害かねぇ? 羨ましい限りだ」

 

 偶然、相性が良かっただけなのか、偶々運が良かっただけなのかはさて置き、此処から早足で立ち去りながら、秋瀬直也は携帯を掛ける。

 この相手とは射程距離さえ負けてなければ大丈夫だと目測を付けていた。逆に近距離パワー型の『キラークイーン』だったら、接近戦でパワー負けして返り討ちになっていたが――。

 

「オレだ。こっちは片付けた。なのはは?」

『命に別状は無いけど、今日中の復帰は不可能ね。どうやら彼女不在で『ボス』を仕留めなければならないようね』

「……完璧な作戦にならないものだな。何処で合流する?」

 

 

 

 




A-超スゴイ B-スゴイ C-人間並 D-ニガテ E-超ニガテ

『炎天下の暴君(フレイム・タイラント)』 本体:赤星有耶
 破壊力-A スピード-E 射程距離-B(10m)
 持続力-E 精密動作性-A 成長性-E(完成)

 スタンドの像を出している事が条件で、十メートル圏内の好きな場所を爆破出来る。
 指パッチンがスイッチであり、当然ながら両手が砕かれたら爆破すら出来なくなる。
 能力の破壊力は抜群だが、スタンドそのものに戦闘能力は皆無である。

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