転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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63/第一次攻防戦(魔)

 

 

 

 

 ――彼女は『スターウォーズ』の世界の、古代共和国時代に生を受けた。

 

 未だ『一人の師匠に一人の弟子』という形式が成り立っていない時代、多くの『シス』が仲間割れから内部崩壊に至る前の混沌の時代だった。

 彼女を産み出すに至ったシスの暗黒卿は、数千年早く、フォースの源である『ミディ=クロリアン』に目を付け、その恐るべき研究を完成させたのだった。

 

 ――永遠の命と、シスとしての完全なる器。

 後の選ばれし者であるアナキン・スカイウォーカーと同じ手順で、『ミディ=クロリアン』から彼女は産まれた。

 

 そのシスの暗黒卿の目論見通り、彼女は歴代最強と称するだけの驚異的な潜在能力を有していた。

 彼女という器を、自分の次の肉体に相応しい器に鍛え上げようと、かのシスの暗黒卿はあらゆる責め苦を与えた。

 苦痛が憎悪を生み、選ばれし者の力を更なる次元に昇華させると彼は信じて疑わなかった。

 

 ――事実、それらは全て彼女の血肉となり、彼の知らぬ間に彼の知識すらも吸収して――遂には下克上される。

 『ミディ=クロリアン』による生命の創生及び転生手段さえも、彼女の手に納まっていた。

 

 斯くして選ばれし者の才覚を持ち、歴代最強級のシスの暗黒卿となった彼女はシス側の盟主として君臨し、ジェダイとの戦争に明け暮れた。

 長い歳月を掛けて互いの存亡を賭けた絶滅戦争は継続し、何代かの転生の果てに彼女は全宇宙からジェダイを駆逐し、銀河を支配する大帝国の皇帝となった。

 彼女にとっては不本意極まる結末だった。皮肉にもジェダイが滅びた事によって宇宙から争乱が消え去り――失意と絶望の内に何代目かの器の寿命が訪れ、惰性で次の器に転生する。

 

 ――此処で不思議な事に、彼女は世界を超えた。

 その世界は第一管理世界『ミッドチルダ』であり、原作開始から六十数年前の出来事である。

 

 前の世界で磨いた政略知識、悪魔のような権謀術数をもって彼女は時空管理局を合法的に且つ秘密裏に乗っ取り、自身の手足へと人知れずに変貌させていく。

 全ての下準備が終わった彼女は最高の観客席に次なる器を用意する。

 

 ――『豊海柚葉』、最早忘れ果てていた一回目の自身の名前が、それである。

 

 

 63/第一次攻防戦(魔)

 

 

「紳士淑女の諸君、作戦を説明するぜぇー」

 

 時空管理局・巡航XV級1番艦『ブリュンヒルデ』、その純白の大型次元航行船の会議室には今作戦に参陣する将官達が雁首揃えて集まっています。

 

(というか『ブリュンヒルデ』ですか。明らかに『銀河英雄伝説』のラインハルト・フォン・ローエングラムの旗艦を意識してますよねぇ~)

 

 まぁ基本的にこの場を取り仕切っている金髪少女の中将閣下ことアリア・クロイツ中将と、リンディ艦長以外はモブなので特に話す事は無いですね。

 ……リンディ艦長の背後に立っているクロノ君とエイミィさんが睨んでいるのは気のせいだと信じたいです。

 

「第一目標、第九十七管理外世界、日本の海鳴市、『魔術師』神咲悠陽の邸宅。任務は第一級指定遺失物(ロストロギア)『聖杯(ヘヴンズ・フィール)』の回収だ。広域且つ大規模の次元改変すら可能の第一級封印指定物であり、一個人に委ねて良い代物じゃない。我々時空管理局が責任を以って管理しなければなるまい」

 

 アリア中将はノリノリで説明し、将官達の手元に資料の数々が置かれています。

 まぁうろ覚えの『聖杯』の知識を纏めた「危険です、管理局の手で管理・封印しなければならないです」という根拠を無駄なほど述べた文章なのですが。

 

 ――海鳴市の大結界が効力を失っている今だからこそ、物量で圧倒的に勝る我々に勝機があります。

 『ワルプルギスの夜』、いえ、救済の魔女『クリームヒルト・グレートヒェン』様々ですね。千載一遇の機会を与えてくれるとは、魔女になっても彼女は我々にとって女神だったようです。

 

「第二目標、『武帝』湊斗忠道の邸宅。第一級指定損失物『銀星号』の回収または破壊。次元干渉及び精神汚染を可能とする劔冑だからね、これも我々の専門分野だ」

 

 『銀星号』――二世右衛門尉村正。その驚異的な性能説明は、湊斗光が仕手である事が前提で語られており、明らかに誇大表現だった。

 

(いやまぁ、仕手があの『湊斗光』で、金神の力を得た状態ならば、星すら砕きかねないですけど)

 

 明らかに湊斗忠道は湊斗光以下の存在であり、『善悪相殺』の戒律を徹底しているだけに一般局員を殺せば殺すほど勝手に自滅するので、幾らでも捨て駒を用意出来る自分達にとって、彼等『武帝』の制圧は比較的容易な作業であろう。

 

「第三目標、『教会』クロウ・タイタス。未回収分の『ジュエルシード』二つを差し押さえる。一個人に預けて良い代物じゃないしねぇ」

 

 まぁこれは表側の大義名分であって、本命は『闇の書』なんですけどね。

 八神はやてさえ手に入れれば、教会勢力は自動的に手に入れたも同然なので、ジュエルシードの交渉中に八神はやてを攫う算段です。

 

「――管理外世界の連中に、誰がこの世界の支配者なのか、存分に思い知らせろ!」

 

 ……二年前の光景が脳裏に過ぎる。

 燃え盛る都市、死肉を食らう同僚、吸血鬼に噛まれて『死屍鬼(グール)』と化した友人を撃ち殺す自分――あの時の借りを返す時が、漸く訪れたようです。

 私ことティセ・シュトロハイムは密かに復讐の炎を滾らせる。血の代価は血でのみ支払われる。

 

 ――今宵、魔都の覇権を賭けた侵略戦争が開幕する。

 

 

 

 

「……艦長。我々時空管理局は、一体何なんでしょうね――」

 

 会議室から自分達の船『アースラ』に戻ったクロノは、母であるリンディ艦長に向かって力無く呟いた。

 

「幾ら大義名分を見繕うが、これは明らかな侵略行為だ……! 殺傷設定で、殺す事が前提の任務だなんて――!」

「……クロノ君」

 

 クロノはいつに無く感情的になって、アースラにいる皆の気持ちを代弁する。

 今回の武力行使は、管理外世界への強烈な干渉に他ならない。大義名分こそ第一級指定損失物の回収であるが、その存在の真偽は限り無く不明瞭である。

 

「元次元犯罪者のみで構成された懲罰大隊、Sランク以上の魔導師しか所属していない、アリア・クロイツ中将が指揮する虎の子の精鋭部隊、更にはアルカンシェルの使用許可――過剰殺傷も良い処だッ!」

 

 魔法文明の無い発展途上の管理外世界にこんな法外な戦力を投入すれば、一方的な虐殺にしかならない。

 遣る瀬無い顔で、クロノは叫び、同じ想いをその胸にしながらも、リンディは首を横に振った。

 

「クロノ・ハラオウン執務官、任務の放棄は認められないわ。……私達が居なくなれば、もう誰も歯止めを掛けられないわ」

「……リンディ艦長」

 

 今の彼等に出来る事は、任務を真っ当し、出来る限り犠牲者が出ないように振る舞うのみである。

 ただ、彼等『アースラ』の面々は後詰扱いであり、投入される頃には既に戦線が決した頃だろうが――。

 

「……エイミィ。フェイト・テスタロッサの配置は?」

「特別任務の一点張りで、現状不明のまま。どうもきな臭いわねぇ」

 

 各艦橋の情報伝達をスムーズにするべく、各種情報がリアルタイムに共有されているが――フェイト・テスタロッサ及び使い魔のアルフの配置は意図的に検閲されていた。

 

「……どうやら探る時間も無いみたい。リンディ艦長、作戦、間もなく開始されます」

 

 ――果たして、時空管理局の存在意義を失いかねない大暴挙が一体何処に転がるのか、その時の彼等は知る由も無く――現地時間の午前零時をもって同時三面作戦は決行されたのだった。

 

 

 

 

 ――時空管理局という組織は、碌でも無い組織だ。元次元犯罪者の彼は断言する。

 

 十歳に満たぬ魔導師に取っ捕まってから、彼の人生は暗雲続きだった。

 元次元犯罪者を更生させるという大層な大義名分の懲罰大隊に勝手に所属させられ、時空管理局の暗部を担わされた。

 懲罰大隊としての活動は、ほんの一ヶ月で次元犯罪者であった頃の数倍の罪を犯させた。同時期に所属させられた者の大半は任務中に殉職し、血を見ない日は在り得なかった。

 

(この地獄のような懲罰部隊から抜け出すには功績が必要だ。自身の才覚・能力が管理局に違う使い道があると示す、明確な功績が……!)

 

 魔導師としての腕には自信があったが、機会には恵まれなかった。

 今度こそ、その機会を掴み取り、地獄のような捨て駒部隊から抜け出さなければ生命は無い。

 『魔術師』とかいう次元犯罪者の屋敷の第一陣突入班に配置され、自らのデバイスを握る手に力が入る。

 

『作戦開始だ。突撃、突撃――!』

 

 部隊長の号令を以って彼等碌でなしの懲罰大隊の第一陣は屋敷の扉を蹴り破って突入する。

 既に屋敷の住民は寝静まっているのか、光は無く――それぞれの魔力光(サーチライト)を飛ばして視界を確保する。

 

 豪華絢爛な屋敷であり、玄関先の広間には階段が設置されており、少し上がった先には白紙の絵の額縁が飾られていた。

 

(何だありゃ。趣味の悪い絵でも飾っているもんだが、真っ白ってどういう事だよ?)

 

 珍妙さや奇妙さよりも――不審感が先立つ。ミッドチルダ式の魔法の仕掛けは感知出来なかったが、彼の脳裏にはどんな死地よりも嫌な予感が過ぎった。

 事実、それは最悪な事に合っていた。

 

 きぃぃん、と、軋む音を立てて玄関口の扉は独りでに閉められ、かちりと、前の方から奇妙な音が確かに鳴り響いた。

 疑問に思うと同時に屋敷の両脇に設置されていた高級そうな壺が破裂し、数百に渡るベアリングボールが噴射されて前に居た同僚の魔導師三人を瞬く間にミンチにした。

 

『なっ!? わ、罠だッ! ぎゃああああああ――っ!?』

 

 その三人は悲鳴を上げる事無く絶命し、寸前の処で逃れた魔導師は後退りして――床の落下トラップに引っ掛かり、配置されていた無数の槍に串刺しとなる。

 

『迂闊に動くなッ! トラップだらけだぞ!?』

 

 その彼の声は驚愕する自分自身に向けた声であり、今度は何処から来るのか、警戒すると同時に――何故、あの程度のベアリングボールを防御出来なかったのか、落下し切る前に飛翔出来なかったのか、疑問に思う。

 

『……本部、本部ッ、応答してくれッ! 罠だらけだ、畜生、この屋敷はッ! もう四人やられた――おい、本部、聞いてるのか!?』

 

 念話を必死に飛ばすが、応答が返ってくる事は無い。

 遂には屋敷を照らしていた魔力光さえ勝手に掻き消え――この屋敷の中が魔力結合・魔力効果発生を無効化するAAAランクの魔法防御『AMF(アンチマギリングフィールド)』の影響下にあるのでは、という末恐ろしい仮定が浮かび上がる。

 

(そんな馬鹿なッ!? ブリーフィングではミッドチルダ式以外の魔法技術と聞いたぞ……!?)

 

 またいい加減な説明を受けたのか、と彼は憤慨し、同時に恐怖する。此処は想像以上の死地であると全身全霊で恐れて――。

 魔法が使えない事は即座に全隊員に周知の事実として知れ渡り、部隊は恐慌状態に陥る。

 

『く、クソッ、アイツら俺等を見捨てやがったんだッ! やってられっか、こんな処で死んでたまるかッ!』

『お、俺もだ! 嫌だ、こんな処で死ぬのは――!』

『待て、敵前逃亡は――!』

 

 ニ人、隊員の中で新入りだった者が恐慌に駆られ、出口に向かって逃走し――玄関の扉を開いた先にあったのは、まともな空間では無かった。

 何もかも歪んでいて、次元断層によって引き起こされた虚数空間のような印象を抱かせた。

 

『ギ、ギャアアアアアアアアァ――!? な、何で、どう、なって……?!』

『――!?』

 

 逃走した局員の悲鳴は背後から生じ、その方向に見上げてみれば、彼の身体の半分は白紙の絵画の中に埋まっており――出口に逃走する者は空間転移の罠によって絵画に埋まる事を悟り、続いて後に逃げた彼が転移し――前に居た者と重なってぐちゃぐちゃになって即死する。

 

『……な、何だこれは、この屋敷は何なんだよぉぉぉ!?』

 

 その直後、白紙の絵画から生じた無数の牙に噛み砕かれ、逃走した隊員は絵画に咀嚼されて、元の真っ白の絵画に戻る。

 

 ――この地獄のような屋敷から抜け出すには、この屋敷の主を倒すしか無い。

 頼りの魔法が完全に封じられている今、生き残っている彼は早くも絶望した。

 

 

 

 

「『魔術師』の邸宅に突入した第一陣、通信が途絶えました……!」

「……サーチャーや念話が妨害されている? 第二陣、第三陣、突入開始。状況を解明せよ。第四陣と第五陣は第一種戦闘態勢で待機」

 

 アリア・クロイツ中将は首を傾げながら、それでも適切な命令を下す。

 作戦開始から早くも異常事態の発生に、私達は困惑する。

 

『はい? 幾ら何でも早すぎじゃないですか? 幾ら元次元犯罪者の塵屑共でも、魔力の貯蓄の無い『魔術工房』の攻略ぐらい楽勝でしょうに』

 

 そう、私達の想定では殺されるにしても、『魔術師』、不死の使い魔、ランサーが出現してからだと推測していた。

 生きている価値すら無い塵屑共をぶつけて消耗させて、本命を叩き込もうというのが今回の物量戦である。

 

『まだ最低限の妨害機能が生きていたのかねぇ? まぁ第二陣と第三陣には連絡を直接帰還して寄越すように別命出したから、屋敷の状況は程無く判明するっしょ』

 

 アリア中将からは余裕の声が帰って来て、私も落ち着きを取り戻す。

 しかし、五分毎に一人派遣する予定の連絡員の帰還は無く、第二陣と第三陣が突入してから十五分の時間が無為に経った。

 

 ――明らかに何か異常事態が発生している。アリア中将も同じ結論に至ったのか、私の方に振り向いた。

 

「ティセちゃん、『魔術師』の邸宅にいっちょ次元跳躍魔法をぶち込んでみて。殺傷設定で」

「はいはーい」

 

 デバイスを杖状態にし、カートリッジを六発装填し、空になったカートリッジを捨ててお代わりを再装填し、憎き『魔術師』の屋敷に照準を合わせる。 

 

『ちょっと待って下さいっ! アリア・クロイツ中将、まだ突入した武装局員が……!』

 

 リンディ提督から緊急の念話が飛んでくるも、アリア中将は予想通りと言わんばかりに対応する。

 

「もう既に死んでるっしょ。それに私の推測が正しければ――」

 

 屋敷諸共欠片も残さない気概で次元跳躍魔法を撃ち放ち――コジマ色の緑光は、屋敷とは別の、全く別方向の何もない空中に炸裂した。

 

「……あ、あれ?」

「ああ、もう、やっぱり……! あんの野郎、ハメやがってッッ!」

 

 まさかの失敗に唖然とし、アリア中将は最悪の予感が的中していたと、それに気づかなかった自分自身に憤慨する。

 

「……くそ、やられたッッ! 海鳴市の大結界は既に復元してやがる……!」

「え、えぇ!? そんな、『ワルプルギスの夜』から『魔術師』は海鳴市の大結界の復旧作業を一切行ってないですよっ!?」

「それだよ、それッ! ああもう、最初から行う必要が無かったんだよッッ! あれは万全な状態で待ち構えていやがった……!」

 

 

 

 

「――壊されると解っていて対策練っていない訳が無いだろうに」

 

 屋敷の中で熱々のコーヒーを啜りながら、『魔術師』は有象無象の魔導師が織り成す阿鼻叫喚の地獄をほくそ笑んでいた。

 

「日本は世界有数の地震国家だぞ? 地震の一つや二つで地脈の流れが変わる事ぐらい日常茶飯事さ。独自に地脈の流れを探知して修復する自己再生機能など元から付随している」

 

 救済の魔女によって地脈を掻き回されて海鳴市の大結界が形無しとなったが、地脈の流れが定まった三日目の段階で既に復旧の目処が立っていたのだ。

 

「……うぅ、そんな機能が付いているなら教えて欲しかったです……」

「敵を騙すのは味方からと言うだろう? コーヒーお代わり」

「はぁ~い」

 

 時空管理局側の襲撃と同時に海鳴市の大結界を一瞬にして再建させ、『魔術師』の『魔術工房』はその真価を存分に発揮していた。

 

「……まぁ薄々感じていたけどよぉ。頼みの綱の大結界が喪失したのに、一向に復旧作業しなかったしな」

 

 待機中のランサーはソファに寝転がりながら、不貞腐れたような顔をする。その理屈は解るが、エルヴィと同様に少し不満な様子だった。

 

「私としては『切り札』であり、最大の『隠し玉』だったしな。万全な状態で待ち構えていたら、攻め込んで来ないだろう?」

 

 一秒一秒過ぎる毎に霊脈から捻出された魔力が『魔術工房』に蓄積され、『魔術師』自身の魔力を充填させる。

 久々に魔力に満ちる感触を得ながら、管理局側の無策に『魔術師』は嘲笑う。

 

「やはり指揮系統は委任しているようだな、豊海柚葉。それに、まだ合流していないと見える」

 

 秋瀬直也と破局してから三日、簡易の使い魔などを総動員して捜索に当たったが発見出来ず終いだが、もう問題無いと悟る。

 

 ――既に海鳴市の大結界には一つ、とある仕掛けを付随させた。

 

 策略家として、千里の未来を見通す『シスの暗黒卿』の本領を発揮されれば『魔術師』に勝ち目は無いが、新たな海鳴市の大結界は空間そのものに著しく作用し、透き通るように見通せた未来視を阻害するだろう。

 

「其方はどうかな? 湖の騎士」

「はい、順調に蒐集出来ています」

 

 そして、『魔術師』の前には守護騎士の一人、シャマルが『闇の書』をその手に持っており、急速にページが埋まっていく。

 『魔術工房』に施した新たな細工の一つであり、此処で始末した者のリンカーコアを自動的に且つ効率良く蒐集出来るようになっている。

 邪魔者を排除出来て『闇の書』の頁の蒐集も行える。一石二鳥の手だった。

 

「――愉しい愉しい戦争の時間だ。今日は『海鳴市の大結界』の復活祝いという事で無礼講だ、盛大に歓迎しようじゃないか。我が『魔術工房』の凄惨さ、篤と味わうが良い」

 

 『魔術師』は玉座にて魔王の如く嘲笑いながら、魔術的な仕掛けを次々と作動させていく。

 彼の全身全霊を費やした『魔術工房』に足を踏み入れた無謀な侵入者の処刑は、絶え間無く、恙無く行われ続けたー。

 

 

 

 


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