転生者の魔都『海鳴市』   作:咲夜泪

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Fate/stay night編
07/■■■■■■■


 

 

 

 ――『当たり前』のように生まれた。

 

 生まれた家には古からの厳格な仕来りがあり、色々戸惑って苦労する面が多かったが、それでも人並みに幸せな家庭だったと思う。

 

 ――『当たり前』のように君を愛した。

 

 祖父が独断で決めた縁談なれども、一目見た瞬間から君に恋した。

 君の事をもっと知りたい。もっと自分の事を知って欲しい。それはまるで夢のような日々であり、いつも君に夢中だった。

 

 ――『当たり前』のように惨殺された。

 

 結婚前夜だった。彼女の腹には我が子も居た。

 何故、彼女らが殺されなければならぬ。何故、我が妻子を奪った罪人は裁かれない。

 答えは簡単だ、我が仇敵は時の権力者であり、何をしても許される身分だったからだ。一介の市民など息を吸うように踏み潰せる暴君だったからだ。

 

 ――自分は『当たり前』を捨てる。

 

 それが許されざる行動だと誰よりも自覚している。

 それが致命的な破滅を齎す行為だとも。自分だけではない。多くの人々を巻き添えにする。

 だから、どうしたのだ。罪人は裁かれないのならば、自らの手で裁くしかない。

 権力など手に入れる余地は無い。階級社会に置いて最下層が這い上がる事は万が一にも在り得ない。

 そんな複雑な力は必要無い。もっと単純で純粋な力が必要だった。

 例えそれが我が身を破滅させ、罪深き咎を背負わされるものであっても、今は些細な問題だった。

 

 ――そして国は亡者どもの地獄と化す。

 

 誰も彼もが殺し合い、誰も彼もが死に果てた。

 見渡す三千世界が屍山血河、『善』も『悪』も『敵』も『味方』も平等に転がっている。

 一体誰が仇敵だったのか、今となっては良く思い出せない。復讐を果たし終えたのか、それさえ思い出すのも億劫だ。

 けれども、今の自分が数多の人々の仇敵となったのは確かな事実である。

 

 ――『当たり前』のように殺し続ける。

 

 悪鬼羅刹と罵られながら、一人殺す毎に感情が一つ亡くなって逝った。

 生きながら死んでいく感覚。狂いながら壊れていく感覚。そして、狂い切れずに藻掻き苦しむ感覚。

 いつしか自分は死の救済を求めていた。惨たらしく死ぬべきだ。相応の報いを受けて殺されるべきだ。苦しみ悶えた末に無意味に果てるべきだ。

 

 ――そして『当たり前』のように同じ結末となる。

 

 因果応報、悪には報いがあったのだと安心して眠れる。

 けれども、ふと思う。自分は殺されて当然の悪行を積んだが、我が妻子は何故殺されなければならなかったのだろうか――?

 

 ――それは『当たり前』のように、『悪』に報いはあれども『善』に報いは無い。

 

 

 

 

 目覚まし時計が鳴る前に携帯が鳴り響く。

 眠気半分、不機嫌全開で着信ボタンを押す。相手が冬川雪緒でなければそのまま眠っている処である。

 

「――ふぁあ、朝っぱらから何だよ? 何かあったのかぁ……?」

『昨晩未明に『ジュエルシード』が『海鳴市』に落ちた』

「……おぉ、やっと原作始まるのか」

 

 確かに重大な事だ。魔女殲滅戦を行なってから二日後の出来事である。

 昨日落ちたという事は今頃『ユーノ』が『ジュエルシード』のモンスターにぶちのめされて今日の放課後に『高町なのは』に拾われる予定という事だ。

 眠気で微睡んでいる思考に活を入れて真面目に聞こうとする。

 

『ただし、一人に三個ずつだ』

「……え? ちょっと待ってくれ。それどういう事だ? ちょーっと、いや、まるで意味解らないんだけど?」

 

 余りにも唐突な文脈に思考が追い付かない。

 三個? それが『ジュエルシード』の数ならば、一人にとは一体何の事だ? まるで特定の人物に三個ずつ配布されたかのような言い方である。意味不明である。

 

『……『ジュエルシード』は七名の『マスター』の腕に三画の聖痕として刻まれた。……此処まで言えば解るだろう? 『令呪』としてだ』

「……はぁ!? おいおいおいおい、一体何が始まるんだよ!?」

 

 何で『ジュエルシード』から、全く違う物語の単語に派生するんだ!?

 その『令呪』とはとある戦争において特殊な『使い魔』に対する絶対的な命令権であり、一画一画が膨大な魔力の結晶だったりする。

 混乱の極みに達する中、その惨状を予め想定してのか、冬川雪緒は重々しく告げた。

 

『――『海鳴市』で行われる史上初の『聖杯戦争』だろうな。第二次が無い事を祈るのみだ』

 

 

 07/第一次聖杯戦争

 

 

 ――『聖杯戦争』、それは『聖杯』と思われる何かが発見された際に行われる争奪戦全ての総称であり、『聖杯』がとある宗教由来の本物か偽物かは大した問題では無い。

 では『聖杯』とは何か。何処ぞの世界的な宗教の聖遺物の一つであり、何故かは知らないが、良く『万能の願望機』となっている。

 逆説的に言うのならば『万能の願望機』であるならば、それらは全て『聖杯』であると曲解出来る。詳しくは『Fate』を参考にしてくれ。

 

『とりあえず、現状で入手した情報を確認する』

 

 そんなものが欠陥品の願望機である『ジュエルシード』を利用して発生した異常事態の経緯を冬川雪緒は淡々と説明していく。

 

『判明しているマスターは二人。一人は以前に話した『反魔術師同盟』の盟主だった男で『ランサー』を召喚したそうだ』

「へぇ、確か『魔術師』に恨み骨髄なんだろう? サーヴァントを召喚したから調子に乗って『魔術工房』を攻めたりしないのかねぇ?」

『……残念だが、既に侵攻して返り討ちに遭っている』

 

 ――え? 展開早くね? ページを開いたら次の瞬間には首もがれていた奴並の端折っぷりじゃね? 救援を送って助かるかと思ったら後ろから頭部を銃で撃たれた並の虚無感である。

 

「……ごめん、良く聞こえなかった。というか理解出来なかった。もう一回言ってくれる?」

『昨晩未明の内に『魔術工房』に攻め入り、呆気無く敗北して『令呪』を略奪され、『ランサー』は『魔術師』に主替えしたようだ。その際に『令呪』を一画消費している。――まぁ予想となるが『主替えに賛同しろ』と原作通り命じられたんじゃないか?』

「死者に鞭打つようで悪いけどさ、阿呆じゃね?」

 

 呆れて物が言えない。それは冬川雪緒自身も同じようだった。

 

『救いようのない馬鹿なのは確かだな。一度情けで見逃されたとは言え、一度捕虜の身になっているんだ。『暗示』だの『契約(ギアス)』だの、幾らでも仕込めるだろう』

 

 あの『魔術師』の事だ。逆らった瞬間に詰むような極悪な仕掛けを施していたのだろう。具体的には『キャスター』が寺院の人に仕込んだような人為的で後天的な絶対命令権とか。

 

『二人目は言うまでもなく『魔術師』だ。この聖杯戦争の首謀者にして黒幕なのは間違い無いだろう。最悪な事に未だに自分のサーヴァントは召喚していない』

「……うわぁ、最悪じゃんそれ。『ランサー』が倒された時点で自分のを召喚出来るし、魔力消費も最小限で済むんじゃ……」

 

 この時点で『魔術師』が勝利者に限り無く近い位置にいる事は確かだろう。

 原作通りに『ランサー』を斥候に使い潰して本命の『サーヴァント』で潰すという戦法も取れるという訳だ。

 ……しかし、いつも『ランサー』というのはこんな損な役割しか与えられないのだろうか? 運命? それともクラス補正なのか?

 

『次に我が陣営の基本方針を説明するが、全力で『魔術師』をサポートする』

「勝ち馬に乗るのは良いんだけどさ、情報収集なんて『魔術師』が自前で出来るんだからオレ達必要無くね?」

『いや、そうでもない。今回は『教会』が全力で妨害している。昨晩未明に『ランサー』のマスターを送り込んだのも彼等であり、信徒を使って街中に居る『魔術師』の簡易使い魔を片っ端から駆除している』

 

 予想を反して全面攻勢なのか。かなり分が悪いと思うが、やはり『聖杯』は『教会』の宗義上にとって無視出来ないものなのか。

 いや、これは『魔術師』の手に『万能の願望機』を与えたらヤバいからなのか?

 『魔術師』の性格は典型的な型月世界の魔術師そのものだ。その悲願は外の領域、根源への到達による『魔法』に至る事である可能性は十二分に考えられる。

 ただでさえ厄介な『魔術師』が『魔法使い』になる。最高に厄介になるが、無駄に『聖杯』を使い潰してくれるならまだマシか。

 ただ問題なのは『魔術師』の願望が外の領域ではなく内の領域、この世界そのものの改変ならば大惨事間違い無しである。『教会』としては何が何でも『魔術師』に『聖杯』は渡せないだろう。

 

「というか、協力したマスターが速攻脱落しているから『教会』側は詰んでね?」

『まだマスターは他に五人いる。『魔術師』に先駆けて擁立すれば当て馬になるだろう。そして其処だ、今回の我々がすべき事は他のマスターを探し当てる事だ』

 

 ……情報収集か。まぁ妥当な処だろう。まさか『サーヴァント』と戦えなんて命令されたら一目散に逃走する処である。

 この『聖杯戦争』における我々『スタンド使い』の役割など斥候ぐらいだ。脇役は脇役らしく、粛々と舞台の片隅で蠢くのが関の山だ。

 

『まさかとは思うが、一応確認しておこう。お前が『マスター』という事は無いだろうな?』

「残念ながら、令呪なんて何処にも無いぜ。一体オレ達が『マスター』だと何を呼べるんかねぇ? 縁あるスタンド使いか?」

 

 一応、自身の両腕を巻くって確かめながら言う。

 そもそも万が一『令呪』があったとしても魔力を生成する手段なんてないんだから、『サーヴァント』を現界させ続ける事が困難なのだが。

 不可能ではない、と断言出来るのは『サーヴァント』自身に魂喰いを強要すれば維持出来る的な意味でもある。『マスター』も『サーヴァント』も余程の外道でない限り実行しないだろうが。

 

『さぁな。面白い話ではあるが、『プッチ』や『DIO』を呼んだ日には令呪の三画目をサーヴァントの自害に使わないといけないな』

 

 『ジョジョの奇妙な冒険』のラスボスらを召喚したら、確実に裏掻かれて最終的に敗北する未来が見える。

 自分の『サーヴァント』が最終的な敵対者なんて笑うに笑えないだろう。

 

『お前のやるべき事は『高町なのは』『アリサ・バニングス』『月村すずか』及び自身のクラスメイト、そして『豊海柚葉』がマスターか否かを確認する事だ』

 

 『アリサ・バニングス』や『月村すずか』はまず無いとしても、『高町なのは』と『豊海柚葉』がマスターか否か次第で状況ががらりと変わるだろう。

 同時に『豊海柚葉』がマスターの場合、オレの危険性は極めて高くなる訳だ。精神的な体調不良で欠席したい処だが、この場合は全て逆効果か。

 冬川雪緒達との信頼が損なわれ、『豊海柚葉』がマスターか否か確認出来ず、逆にオレがマスターであると誤解されかねない。この時期に学校を欠席する理由なんてそれぐらいしかないだろう。

 

『サーヴァントという『決戦戦力』が七騎も投入されたんだ、昼中でも油断するなよ。そして絶対に敵対するな、生命が何個あっても足りないぞ』

「あいよ。全く、ヘヴィな仕事だぜ。『海鳴市』に来てから一度も退屈しないな」

『軽口を叩ける余裕があるなら大丈夫だ』

 

 まさか『魔法少女リリカルなのは』で『聖杯戦争』を一般人視点から体験する事になるなど誰が想像しようか。

 溜息ばかりは大きくなるばかりである。

 

 

 

 

「――『魔術師』の内に秘めた欲望が『ジュエルシード』によって歪められた形で叶えられると思ったら『聖杯戦争』が始まっていた。何を言っているか解んないと思うが私も解んねぇー!」

「これは一体何の冗談だっ!? 何故『海鳴市』で聖杯戦争がぁ……!」

 

 此方は『ミッドチルダ』の秘密の会議室、いつも通りのメンツ(今回は『教皇猊下』は欠席のご様子)で黒幕会議が行われていた。

 と言っても、出てくるのは悲鳴ばかりである。予想の斜め上を行く展開が生じ、何が何だか訳が解らないと言った状況である。

 

 ……一応、これまでの経過を正確に分析しましょう。

 

 第一段階の『ジュエルシード』を運ぶ輸送船には予想通り『魔術師』の『使い魔』が侵入し、船と一緒に次元の狭間に沈んで貰おうというダイナミックな計略は、船が撃沈するだけで見事失敗したそうです。

 

 これ自体は皆余り期待していなかったらしく、平然とスルーしていたのが印象的です。

 

 そして第二段階の『ジュエルシード』を現地でばら撒こう作戦は大方の予想通り、配達人が『魔術師』に強襲され、二十一個の『ジュエルシード』は一時的に『魔術師』の手に委ねられた。

 しかし、その二十一個の『ジュエルシード』は全部封印処置が施されていないという超危険な状態。あの『魔術師』の内に秘めた願望を歪んだ形で叶えてしまい、あわよくば『魔術師』を葬れた筈――そして蓋を開けたら『聖杯戦争』勃発である。

 

(うーん、完全に『魔術師』にしてやられたような感じですね。最初から『ジュエルシード』の用途を定めていたのかな?)

 

 しかし、全てが『魔術師』の掌の上で物事が進んでいるとは流石に考え辛い。今回の『聖杯戦争』は『魔術師』にとっても危険な筈だ。

 神秘という概念が絶対法則である以上、あの『魔術師』は自身の天敵とも呼べる決戦戦力を六騎も敵に回す結果となっている。

 

 ……まさかと思うが、これはしてやられたのではなく、この『聖杯戦争』そのものが『魔術師』の願望を曲解して叶えた結果なのでは無いだろうか?

 

「つーか、不味くね? 『アースラ』とか差し込んだら全滅するんじゃね? クロ助とかサーヴァント同士の戦いに真っ先に突っ込んで真っ先に死ぬっしょ」

「それを回避するだけの把握能力はあると信じたいがのう……」

 

 金髪少女の中将閣下は真面目に心配し、大将閣下は半信半疑と言ったご様子。

 ただでさえ今の『海鳴市』は異常であり、原作通りの『アースラ』の戦力では心配極まるのに今回の一件である。

 いつぞやの魔導師部隊と同じように全滅する可能性が濃厚すぎて泣ける勢いである。

 

「という訳で、今回は『最高戦力』を『アースラ』に派遣しようと思うんだけど問題無い?」

「……業腹だが、今回は貴様の言う通りだ」

「生半可な戦力では生還すら出来ないだろう。許可する」

 

 金髪少女の中将閣下が提案し、不承不承といった具合だけど太っちょの中将閣下が珍しく彼女の意見に賛同し、大将閣下が採決を下す。

 ちなみにこの多数決に私の票は当然の如く無いです。

 私は使いっ走りの新参者ですから当然です。むしろ意見を重宝された方が何か裏があるんじゃないかと猛烈に疑わざるを得ません。

 

「……『最高戦力』ですか? そんな切り札的な存在がうちに居たんですか?」

 

 おお、新参者には秘匿されている『隠し札』って奴ですね!

 一体どんな化物なんでしょう? この『ミッドチルダ』に『魔術師』達に対抗出来る戦力があるなんて初耳です。

 

「え? 何言ってんの?」

「はい?」

 

 あれ? 金髪少女の中将閣下がさも不思議そうな眼で此方を見ている。

 助けを求めるように周囲を見渡せば、太っちょの中将閣下もお髭がダンディーな大将閣下も同様の眼で私を見ている? 何ででしょう?

 

「アンタでしょ?」

「お前だろうが?」

「卿以外、誰が居る?」

 

 ――さも当然のように、お三方は揃って何か訳の分からない事をのたまったのだった。

 

「え? えええぇぇぇぇ――!?」

 

 秘密の会議室に私の絶叫が響き渡る。

 いや、だって仕方ないでしょう? 私が此処にいるのは雑用係を担当しているからであって、いつの間に『戦術核』みたいな扱いになっていたのならば驚くしかないです。

 

「い、いつから私は王立国教騎士団HELLSINGでいう処の『アーカード』に、十三課でいう『アンデルセン』的な存在になったのですか!?」

 

 これは皆様が態々示し合わせた一種の冗談に違いないです。

 驚いたなぁ、エイプリルフールはもう過ぎてますよー?

 

「管理局が誇る唯一のSSSランク様じゃん」

「うむ、まさか『僕の考えた格好良い主人公』みたいなランクが本当に実在するとは正直信じられなかったぞ」

「此処に招く前から『最高戦力』として認知されているのだがのう」

 

 ……初耳である。いや、確か何かのテストで魔導師ランクが『SSS』とか認定されちゃってますけど、魔力の大きさと実際の強さは余り関係しませんし、他の『転生者』ならまだまだ上がいるんだろうなぁと勝手に思ってましたし!

 というか、雑用係じゃなかったのですか!? 大将閣下殿!?

 

「む、無理です。サーヴァントとか絶対無理ですって! 現地の『転生者』とも激突したら呆気無く死んじゃいます!」

「大丈夫だって。アンタは自分が思っている以上に『異常』だからさ。これだから天然物は嫌なんだよねぇ、嫉妬しちゃうぜ」

 

 金髪少女の中将閣下殿ははにかむように微笑んで見せる。

 いえいえ、私はこの中では最も格下ですよ!? 四天王とかそういう集まりでも「ククク、アイツはこの中でも最弱ッ! 奴等如きに倒されるとは我等の面汚しよ!」とか言われるポジションですよ!?

 

「最低でも『高町なのは』と『フェイト・テスタロッサ』は原作通り進めて管理局入りのルートを確定させてねー。邪魔するならどんな勢力も叩き潰して良いから」

「『アースラ』での自由行動出来る権限は我等の計らいで取り付けてやろう。お前の思うように介入するのだぁ!」

 

 金髪少女の中将閣下からは無理難題を押し付けられ、太っちょの中将閣下からは頼んでもいないのに余計な計らいをさっくり差し込んでおられる。

 これって『アースラ』の中で完全孤立するフラグびんびんじゃないですかぁ……!?

 

 ……ああ、神よ。私が一体何をしたんですか!?

 

 最後の望みを託して、涙目で大将閣下に助けを求めるように視線を送る。

 すると大将閣下は以心伝心といった具合で威厳を持って堂々と語って下さった……! 思いが通じるこの瞬間に勝るものは無いと確信したのです!

 

「お土産は翠屋のシュークリームを頼むぞ。ああ、勿論『猊下』の分もだ」

「おっ、さっすが大将閣下っ。解っていらっしゃるねぇ」

「これはすっかり失念していた。流石は大将閣下、同じ男として尊敬に値するぞ!」

 

 ――神は死んだ……!

 

 こうして私は『地球』への『片道切符』を手に、出荷される豚のようにドナドナと運ばれて逝ったのでした……。

 

 

 

 

「やぁやぁ、面白い事になったね」

 

 いつも通り登校して鞄などを自身の机に置いた直後、廊下に遭いたくない人影が見えたので覚悟を決めて赴いた。

 豊海柚葉の機嫌は傍から見る限り最高潮といった具合、一応両手の甲を確認してみるが、露骨なほど解り易い包帯などは巻かれていない。

 

「ん? 私はマスターじゃないわよ。ほら、両腕」

 

 わざわざ制服の袖を巻くって豊海柚葉はくすみのない腕を見せつける。

 握ったらそれだけで折れてしまいそうな細い腕に令呪らしき痕は見受けられなかった。一応彼女がマスターでないらしいが、全くもって油断ならない。

 全く未知の方法で隠匿している可能性もあるし、もしかしたら腕ではなく、別の部位に刻まれているのかもしれない。

 

「あら、疑い深いのね。私の肢体を余す処無く見ていく? 此処で脱ぐのは流石に恥ずかしいなぁ」

「なな、何言ってやがるんだっ! や、やめろぉっ!」

「あら、思った以上に純情ねぇ」

 

 からかわれた事に気づいて、顔が真っ赤になる。

 ぐぬぬ、といった此方の表情を肴に、ご馳走様と言わんばかりの良い笑顔を浮かべられる。凄い屈辱である。

 

「三人目のマスターは『高町なのは』みたいだけど、これはどう転ぶかな?」

 

 ……豊海柚葉の言う通り、『高町なのは』はほぼ間違い無くマスターの一人であろう。

 その小さな右手には包帯が巻かれており、事情を軽く聞いた処、朝になって急に痣になっていたそうだ。十中八九『令呪』であるが、既に『サーヴァント』が召喚されているか否かは不明である。

 

「どうって?」

「この聖杯戦争の令呪は『ジュエルシード』で代用しているようだし。つまり、彼女が『レイジングハート』を入手すれば原作通り封印して摘出出来るのよ」

 

 なるほど、この聖杯戦争の特質の一つに『令呪』が『ジュエルシード』という事があり、封印して摘出する事が出来る『高町なのは』は良い意味でも悪い意味でもキーパーソンに成り得る存在という事か。

 

「この調子だと『サーヴァント』を召喚せず、自分の『令呪』を封印して摘出しちゃって、マスターが二人消えちゃうかもね。本来の聖杯戦争の方式ならば儀式が破綻する処だけど」

 

 ……なるほど。冬木の聖杯戦争と違う点は、『令呪』の再配布が不可能という点か? あれ、『令呪』を使った後は『ジュエルシード』はどうなるんだ? そういえば冬川雪緒に聞いてなかったな。

 

「ちょっと待ってくれ。『令呪』を使えば『ジュエルシード』はどうなるんだ? 消費した状態のままなのか? それとも『ジュエルシード』として排出されるのか?」

「情報が遅れているねぇ。その後者よ。ほぼ完全に魔力を失った状態で摘出されるから、再び『令呪』として移植するのは不可能かな? というより、そもそも『ジュエルシード』を『令呪』として移植するなんて『魔術師』でも不可能でしょうね」

 

 ……何か引っ掛かる物言いである。豊海柚葉はこの『聖杯戦争』を『偶然の産物』だと完全に断定している?

 一体何の根拠を持って……いや、コイツは他との情報量が違う。そう確信に至る何を既に掴んでいるのか?

 

(まともに聞いた処で答える性格はしていないだろう。今、此処で認識しておく必要があるのは『令呪』の再配布は在り得ないという事。『ジュエルシード』に一旦戻れば『令呪』に変換する事は不可能だが、『令呪』から『令呪』を略奪する事は可能か)

 

 となれば、本当に『サーヴァント』が七騎出揃わないという珍事があるかもしれない、か。

 だが、冬木式の聖杯戦争ではその時点で破綻する。

 何故ならばあの魔術儀式は『中身が空の聖杯』を英霊七騎の魂で満たすというものであるからだ。

 

「これって『聖杯』が『ジュエルシード』21個なんじゃないのか? 勝ち残れば必然的に全部入手する訳だし」

「もしそうなら此度の茶番は興醒めね。欠陥品の願望機なんて誰が欲しがるのやら」

 

 二十一個揃っても欠陥品は欠陥品に過ぎない、か。

 ならば、この『聖杯戦争』の『聖杯』は別の何かなのだろうか? 推理材料が致命的に足りない。答えに至るピースが完全に不足しているから一旦思考を放棄しよう。

 

「……普通に聞き流していたが、なのはもマスターならフェイトもマスター候補になるか」

「私としては、よりによって今日欠席した『月村すずか』が疑わしいのだけどねぇ」

 

 豊海柚葉の言う通り、よりによって、である。

 高町なのはとアリサ・バニングスから事情を聞いたが、体調不良らしい。この日に対象不良に陥った理由を考えれば、その筆頭となるのは『サーヴァント』を召喚して維持する分の魔力を吸われて動けない、が一番妥当だろう。

 

「彼女は『夜の一族』だっけ? 吸血鬼もどきなんでしょ? それなら吸血鬼に縁があるんじゃないかなぁ?」

「もし彼女が『マスター』で『サーヴァント』を召喚してもあの性格じゃ何も問題無いだろう」

「へぇ、転校生の君の眼からはそう見えたんだ」

 

 そして彼女は優越感からなる邪悪な微笑みを浮かべる。

 ……何か見落としていたのか、一瞬不安に陥る。月村すずかは良く言えば心優しい少女、悪く言えば引っ込み思案な性格だ。高町なのはと違って争いの出来る性格ではない。

 

「しかし、これって本当に『魔術師』の仕業なのか?」

「というと?」

「この聖杯戦争は『魔術師』にとって危険がありすぎると思うんだよ。自身の手元にサーヴァントを一騎確保出来る事が確定していたとしても、六騎全員が連合して敵に回れば確実に脱落するだろう? そんな危険な賭けをやるような性格には見えないんだが」

 

 一応、先程の事について探りを入れておこう。

 彼女の反応一つさえ見逃さないように集中する。

 

「逆じゃないかな? そんな危険を犯してまで実行するに足る理由が『魔術師』にはあったんじゃない?」

「別の目的? とは言っても『聖杯戦争』なんて敵対勢力に過剰戦力を無料配布するようなもんだろう……過剰戦力?」

 

 先程に『偶然の産物』である事を強調する素振りを見せながら、今度は『魔術師』の意図有りだと強調する?

 何かおかしい。彼女とは致命的なまでに視点の違いがあるような気がする。

 

「サーヴァント級の戦力が幾つも必要だったのか?」

「面白い考え方ね。これが冬木式の聖杯を完成させる目的ならば単純明快なんだけど、残念ながら『ジュエルシード』で令呪の代用は出来ても、今の『海鳴市』に聖杯の器が無い」

 

 そう、朝から引っ掛かっていた。

 この『聖杯戦争』において一番の問題は『聖杯』の不在にある。何を『聖杯』と定義し、奪い合うのか。其処が限り無く不明瞭なのだ。

 

「あれを鍛造出来るのは『アインツベルン』の一族のみよ。一介の魔術師程度では数代費やしても届かない御業だもの」

 

 あの『魔術師』が『アインツベルン』の一族出でない限り、個人が調達する事は不可能という事である。

 鶏が先か卵が先かという問題だが、『サーヴァント』を招くには『聖杯』という餌の存在が必要不可欠である。

 事前に完成品が用意されているか、戦争後に完成するか、何方の方法にしろ『聖杯』は必ず必要なのだ。

 

「『ジュエルシード』21個で代用した令呪、恐らく五騎のサーヴァント、サーヴァントの魂を納める聖杯の器は不在、か。『聖杯』を降臨させる魔術儀式としては大失敗間違い無しだな」

 

 それが欠けている要素だ。それらを一切合切解決出来る方程式が必ず何処かに隠れ潜んでおり、白日の下に暴く必要性がある。

 自身の思考に没頭している中、キーンコーンカーンコーンと気の抜けた予鈴が鳴り響く。

 

「あら、予鈴が鳴ったわ。それじゃまた後で逢いましょう」

「――お前はこの状況でどんな手を打つんだ?」

 

 最後に、答えなんて期待してないが、一応聞いてみる事にする。

 

「今の処は動かないわ。手元に『サーヴァント』がある訳じゃないし、今回の一幕では私も君も単なる脇役だしね」

 

 非常に疑わしい解答である。駒が手に入ったら、この油断ならぬ少女は間違い無く行動するだろう。

 内心の中で豊海柚葉から警戒を解くなと深く刻み込み、学生たる自分はその責務を全うすべく自身の席に戻って行った――。

 

 

 

 

「ふあぁっ、寝ぇみぃ……」

「あ、クロウ兄ちゃんおはよう。もう『こんにちは』の時間だけどなぁ。夜遊びしすぎちゃう?」

「遊んでねぇっつーの。昨日も急な仕事が入って来てなぁ。ふあぁ~」

 

 大きく欠伸をしながら、鉛のように重くなった全身を伸ばす。

 此処最近は『教会』から『魔女』狩りの仕事を大量に寄越され、三日前から昼夜が逆転している極めて宜しくない状態である。

 『教会』の信徒達も猛烈に協力してくれたし、結構荒稼ぎ出来たから幸いだ。

 しかし、こんな調子が続けば、車椅子で不貞腐れている少女『八神はやて』の世話もろくに出来ない始末である。

 

「……何か危ない事、してるんちゃう? クロウ兄ちゃん、危なっかしいし、少し心配よ……」

「してねぇよ。ほら、今日も無駄に元気だぜ?」

 

 無駄に痛む体を動かしながらアピールし、それでも心配そうに顔を沈ませるはやての頭を撫でて誤魔化してみる。

 はやては擽ったそうな顔をした後、眼が真ん丸になる。はて、一体何かおかしな点でもあったのだろうか?

 

「? クロウ兄ちゃん、その右腕の甲、どうしたん?」

「あん? 右腕なんて何も――!?」

 

 そう言って見る直前だった。その右手の甲に急に燃えるような痛みが生じたのは。

 それは赤い模様だった。獅子を模した三角の痣は赤く光り輝き――爆発的に光を発した。

 

「わ、わわっ……!?」

 

 何なんだこれは? 同時に世界が根本から歪み狂う感覚に吐き気が生じる。この不可解な感触には覚えがある。

 馬鹿げた魔力をもった何者かが世界の摂理を食い破り、此方に空間転移して来ようとしている!?

 

 ――でも、何故かは知らないが、この魔力の気配をオレは知っている……!?

 

 莫大な光と共に衝撃波が解放され、家中を無慈悲に蹂躙する。

 咄嗟にはやてを庇い、色々ぶち当たった気がする。背中が痛いが泣き言は言ってられない。

 

 やがて光は収まり、この世界に対する不法侵入者は堂々と姿を現した。

 体中に巻き付いた赤いリボンを靡かせながら、紫髪翆眼の少女は傲岸不遜に、初めて出遭った時と同じように仁王立ちしていた。

 

「――問おう。汝が我がマスターか?」

 

 その声を、覚えている。その顔を、未だに忘れてはいない。

 一時的に契約をし、共に戦い、次の者に託した少女の事を――。

 

「……アル・アジフ――!?」

 

 彼女の名前は『アル・アジフ』、世界最高の魔導書『ネクロノミコン』原本に宿る精霊であり、間違っても此処に居てはいけない古本娘であった――。

 

 

 

 

 





 クラス ライダー
 マスター クロウ・タイタス
 真名 アル・アジフ
 性別 女性
 属性 秩序・善
 筋力■□□□□ E 魔力■■■■■ A+
 敏捷■■■□□ C 幸運■■■■■ A
 耐久■□□□□ E 宝具■■■■■ EX

 クラス別能力 騎乗:A+ 
 機神召喚:EX 彼女が本来持つ強大無比の鬼械神『アイオーン』を召喚する。
 神性:ー(A+) 最も新しき旧神。理由は不明だが、記憶と共に欠如している。
 魔術:A++ 最高位の魔導書『ネクロノミコン』原本に宿る精霊。

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