変わらず、俺は速水奏にからかわれる。   作:花道

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あまり文字数増えないです。
自分はこの文字数が書きやすいみたいです。
少しずつ増やしていきます。


♯12 デート②

 

 

 

 

 

 17時30分。

 試合開始の時間が近づいてきた。

 俺たちは焼きそばとお茶を購入して、自分達の指定席を目指す。

 いきなり始まった速水との賭けだが、勝てば問題は無い。

 そうだ。勝ってしまえば良いだけだ。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  変わらず、俺は速水奏にからかわれる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 東京ドームの座席はかなり埋まってきた。ビール片手に来てるおじさん。またはカップルで来てる人達。家族で来てる人達。友達同士で来てる人達。ちなみに俺たちは友達同士のグループに入る。

 グラウンドでは選手達が守備の練習をしている。

 俺たちの手には焼きそばがある。それを食べながら試合開始まで暇を潰す。

 

「今日の先発は誰なの?」

 

 焼きそばを食べながら、速水は俺に尋ねて来た。もう少ししたら先発の発表があるけど、別に隠すことじゃないから教える。

 

「多分タイガースは岩波、ジャイアンツは(すき)(さか)だと思うけど」

 

 何か問題……怪我とか寝違えとかがあって変えられてなかったら、多分この二人が先発だと思う。

 岩波はドラ1のゴールデンルーキーで背番号は19番。杉坂はFAでジャイアンツに移籍してきた選手で18番というエース番号を背負ってる。実力的には長くやってる杉坂の方が上だと思う。でも野球の勝敗はそれだけじゃ分からない。試合の展開によっては岩波が勝つ可能性も十分ある。

 

「ふーん、翔平はどっちに賭けるの?」

 

「タイガース」

 

「どうして?」

 

「個人的に岩波が好きだから」

 

 桐英の卒業生だし、甲子園春夏連覇してたし、ドラ1だし。

 

「じゃあわたしはジャイアンツね」

 

 言いながら、焼きそばを小さな口で頬張る速水。

 どっちが勝つかなんて正直言って俺にも分からない。杉坂が打たれて5回持たずに交代する可能性だって十分あるし、その逆も十分ありえる。勝敗に関しては本当に分からない。最後の最後で逆転ホームラン打たれたりもあるからな。あれはマジで辛い。一週間くらい立ち直れなかった。

 

 

 スタメンの発表も終わり、後20分程で試合が始まる。

 試合を観に行くのは久し振りだった。野球は球場まで観に行かなくても、テレビで放送してくれるから、あまり観に行く機会がない。

 食べ終えた焼きそばをコンビニ袋に捨てて、ペットボトルのお茶を出して飲む。

 

「そういえば翔平っていつから野球やってたの?」

 

 そろそろ終わる練習を眺めながら、速水がそんな事を聞いてきた。

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

「うん」

 

「……小二の時に友達に誘われて始めた」

 

「へー、自分からじゃないのね」

 

「まぁ、あの時はそんなに野球が好きじゃなかったし」

 

 初めから野球が大好きで始めたわけじゃなかった。両親が特別野球好きというわけでもなかった。仲の良い友達に誘われて、流されるまま野球を始めた。今じゃ大好きだけど、あの時は嫌々やってたな、うん。

 

「なんで好きじゃなかったの?」

 

「ピッチャーしかやらしてくれなかったから」

 

 そう言うと速水は少し笑った。

 

「エースなのにピッチャー嫌だったの?」

 

「あぁ」

 

「どうして?」

 

「負けたらほぼ全部自分の責任になるじゃん」

 

「……そんな理由で?」

 

 黙って俺は頷く。

 そんな理由っていうが、当時の俺はすごいプレッシャーだったんだぞ。打たれないようにしても打たれる時は打たれるし、何回も途中も降ろされてめちゃくちゃ嫌だったし、何より悔しかった。

 

「じゃあやりたいポジションはどこだったの?」

 

「ショート」

 

 左利きが原因で無理だったけどな。なんで左利きで生まれて来たんだろう。左で出来る他のポジションもファーストと外野くらいしかないし、右に比べて選択肢少なすぎだろ。

 

「意外」

 

「なんでだよ。かっこいいじゃん」

 

「かっこいい……かな」

 

 ショートって言ったら運動神経が良い奴がやってるイメージが強い。後守備が上手い奴。

 

「かっこいいよ。ショートで好きなプロ野球もたくさん居るし」

 

「へー、たとえば?」

 

「ジャイアンツの(さか)(がみ)とかイーグルスの(まつ)()とか」

 

「2人しかいないじゃん」

 

 笑いながら速水は言う。

 

「他の好きなショート引退したし」

 

 ドラゴンズの(いな)()も引退したしな。WBCは熱くなったぜ。姉にうるさいって蹴られたけど。

 

「そう」

 

 興味なさそうに焼きそばを食べる速水。

 

「じゃあさ、いつから野球好きになったの?」

 

 今日はやけに聞いて来るな。

 

「いつから? いつからだろうな」

 

「……」

 

「日本代表に選ばれて……」

 

「え!? 日本代表だったの?」

 

 隣で驚く速水。

 

「おう。小6の時な」

 

「……すごいじゃん」

 

「いや、全然ダメだったよ。結局優勝出来なかったし。試合にもほとんど出してもらえなかった」

 

 日本代表に選ばれたのも、周りより身長があって、左でそれなりに速いボールを投げてたからだ。実力で選ばれてたわけじゃない。

 

「俺ってさコントロール悪いんだよ」

 

「……そう?」

 

 首を傾げる速水。たまに試合を観に来る速水はあんまり信じてない様子だった。

 

「うん。すげー悪い。調子いい時はスピードと球威でなんとか抑えられてるけど、高校に行ってそれが通用するとは思ってないし、俺より速いボール投げる奴なんかゴロゴロいるしな」

 

 俺は天井を見上げながら続ける。

 

「日本代表になった時もさ、全然使ってもらえなくてめちゃくちゃ悔しくてさ、なんで使わないのに選んだんだよって思ってた」

 

「……」

 

「そっからかな。本気で野球やろうって思ったのって。それから高校のスカウトとかも来るようになってさ、もっと練習しようって思えたし、あの経験があったから今の俺があるって思う」

 

 ずっと言うことはないと思っていた言葉が溢れてくる。

 弱いところは見せたくない。そんな思いで速水の前ではずっと頑張ってきた。

 

「来年さ、また世界大会があるから、もしまた選ばれたらその時には絶対先発で使わせてやるって思ってずっと練習してきた。後キャプテンにもチームを託されたしな」

 

 俺は笑いながら速水に言う。

 

「そっか」

 

 速水も静かに笑う。

 

「じゃあカッコいいところ期待してるわ」

 

 

 

 

 

  ♯12 デート②

 

 

 

 

 試合が始まる。

 熱狂が東京ドームを包む。

 岩波の第一球はーーー。

 

 

 

 


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