変わらず、俺は速水奏にからかわれる。   作:花道

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プロローグが終わりました。


♯13 「奏」。

 

 

 

 

 

 結局試合は5対2でジャイアンツが勝利した。まさか初回から満塁ホームランを打たれて、3回持たずに岩波が降板するなんてな。いやー、ほんとなにが起こるかわからないな野球って。

 なんて現実逃避しても、ジャイアンツが勝利したという結果が変わる事はない。俺は賭けに負けた。負けたという事はこれから俺は速水の事を奏と呼ばないと駄目だという事だ。

 正直恥ずかしいから呼びたくないけど、負けてしまったから、なんの言い訳も出来ない。出逢って約1年と7ヶ月。仲良くなって約9ヶ月。色々あったが、確かに良い機会かもしれない。

 でもな……。やっぱり男としては恥ずかしいんだよ。女の子のことを名前で呼ぶのって。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

  変わらず、俺は速水奏にからかわれる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 翌日。

 まだ寝ぼけてる頭に手を当てながら、通学路を歩いていた。

 もうすぐ夏休みだ。期末テストを乗り切れば、全国大会の予選もすぐに始まる。やれる事は全部やったつもりだけど、少し不安だった。

 夏の日差しに照らさせながら歩いていく。

 目の前に見慣れた背中を見つける。

 少し駆け足で追いかける。

 追いついて、奏に声をかける。

 

「おはよ」

 

 俺の声を聞いて、奏は立ち止まり、首を傾げて笑う。

 

「おはよう。珍しく遅いじゃない。寝坊でもした?」

 

 言いながら笑う奏。

 

「あぁ、誰かさんのせいでな」

 

 そう言って俺は歩くのを再開させる。

 俺の隣を歩く奏に速度を合わせる。

 

「あら、心外ね。約束通り勉強を見てあげているのに」

 

「奏さ、どっちが賭けに負けたかちゃんと覚える?」

 

「もちろん覚えてるわよ。翔平でしょ?」

 

「そうだな。それで俺がお前のことを奏って呼ぶ事になった。ここまでは良いか?」

 

「えぇ」

 

「じゃあなんで勉強見てくれんの?」

 

 賭けの勝負には俺が負けた。これは紛れもない事実だ。だからこれから奏と呼ぶ事にも納得がいく。だが、奏が勉強を見てくれようとしているのは賭けに負けた身としては、なんか違う気がする。

 昨日家に帰ったらいきなりLINEで『これ明日までにやって来なさい』って送られてきた数学の問題集には驚かされた。お陰で全然眠れなかった。

 

「そうね」

 

 歩きながら奏は考える。

 視線の先にはよく晴れた青空がある。

 

 

「わたしがやりたいから……かしらね」

 

 

 俺の方へ振り向き、笑いながら言う奏。

 

「……」

 

 奏は意外と頑固なところがある。多分、やめろと言ってもやめないだろう。

 

「はぁ、まぁ良いか」

 

 そう言って自分を納得させる。

 不意に、奏は俺の手を握り、前へ駆け出した。

 

「ほら、急がないと遅刻するわよ!」

 

 笑顔を浮かべる奏に手を引かれる。

 引かれながら、考える。

 まさかこのまま学校まで行く気じゃないよな? と。

 

「ちょっ、奏ストップ! 自分で歩けるから! 取り敢えず止まって!!」

 

「なに恥ずかしがってるのよ。ここまま行くわよ!」

 

 

 手を離すどころか逆にスピードを上げた奏。

 結局学校まで手を引かれたままだった。

 恥ずかしくて死にたい。

 

 

 

 

 一限目を終えての休み時間。

 俺と奏は昨日LINEで送られてきた数学の答え合わせをしていた。

 

「なぁ、この問題なんだけど」

 

 わからなかった問題を奏に見せるも反応がない。それどころか視線すらこっちに向けない。

 

「なぁ、聞いてる?」

 

 再度呼びかけるも反応はない。

 

「……」

 

 隣に座ってる奏の机にスマートフォンを置いて、昨日のLINEを見せるも反応はない。どうやら学校でも奏と呼ばないと応答してくれないらしい。正直学校ではなんとか誤魔化しながら奏に話しかけようと思っていたのにな。

 

「……はぁ」

 

 しょうがないよな。約束だし。賭けに負けた俺が悪いんだからな。

 

 

「奏」

 

 

『!?』

 

 約束通り、速水の事を奏と呼ぶと、クラスの連中がほぼ一斉に俺達の方へ視線を向けた。お前らどんだけ耳良いんだよ。その視線やめろ。付き合ってないって何度も言ってんだろ。

 

「なに?」

 

 奏は笑いながら俺の方に振り向いた。

 狙ってやってるんだったら大した奴だよお前は。

 

 

 

 

 

  ♯13 「奏」。

 

 

 

  プロローグ 夏の始まり  終

 

 

  次章

 

 

  第一章  夏休み 始

 

 

 

 

 

 二人が教室に入って大河が名前を呼んだ後の奏ファンクラブ公式LINEでは、

 

 

 

 

 康太

 『大河がついに速水さんの事を名前で呼び始めた事について』

 

 晋太郎

 『まさか付き合ったのか?』

 

 安田

 『そういえば朝も手を繋いで学校に来てたよなあの二人。大河の奴思いっきり腕引っ張られたけど。』

 

 Daisuke

 『嘘だろ…』

 

 晴人

 『あの野郎、野球しか興味ないと思ってたのに…』

 

 亮平

 『うろたえるな小僧ども!! 俺が確認してくる!!』

 

 翔平

 『おぉ!! 勇者がいたぞ!!』

 

 Daisuke

 『任せたぞ。もうお前しか頼れる奴はいねぇ!』

 

 

 

 その後、大河と奏が付き合ってない事を知った彼らは歓喜に沸き、大いに盛り上がったらしい。

 

 

 

 






 Profile最新。

 名前/大河翔平
 誕生日/5月5日
 年齢/14歳
 身長/176センチ ←4月の健康診断より4センチ伸びてる。
 体重/62キロ 4月の健康診断より2キロ増えてる。
 血液型/A型
 利き手/左利き
 ポジション/ピッチャー
 尊敬している野球選手/ダルシュ有。

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