変わらず、俺は速水奏にからかわれる。   作:花道

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♯2 お昼時。

 

 

 

 

 

 色々あって昼休み。

 数学の先生に言われた通り職員室へ向かう。正直行きたくはないが、行かずにめちゃくちゃ怒られるくらいなら、行って軽く怒られて宿題や教室の掃除を受けた方がまだましだ。

 今頃購買は賑やかな戦場と化してるんだろうな。

 

 

 職員室で10分程の説教を受けて宿題を渡され、急いで購買へ走る。もともと弁当を忘れた人達への救済処置として設置された購買だが、ここはいつも人で溢れかえっている。弁当を持ってきてる奴らも当然この購買を利用する。だから人気の弁当や飲み物なんかは本当に一番早く教室を出て行かないとすぐに売り切れるし、売れ残りの商品は、「あぁ……、売れ残るなコレ」といった感じの商品しかない。飲み物はまだ良い。問題は食い物だ。せめて食べれるパンでも余ってればいいんだけど。この時間帯だと期待するだけ馬鹿らしい。スマートフォン(校則違反)をズボンのポケットに突っ込み、一直線に購買へ走る。

 

 

 戦場跡地と化した購買には予想通りまともな商品は置いてなかった。なんだよコレ、納豆パンとか誰が買うんだよ。レーズンパンも俺食えねえし、昼飯我慢するか? 水だけで良いかな。……あ、珍しくコーラ残ってる。もうこれだけで良いかな。炭酸だからそれなりに腹も膨らむと思うけど……でもそれだと練習持たねえだろうし……どうしよ。

 購買の前で腕を組んで悩んでいると、背中に平手が急襲してきた。

 

「って!」

 

 紅葉ができるほど痛くはなかったが、それでも結構な威力だったので変な声を出してしまった。背中を抑えながら振り返ると、速水奏が笑顔で焼きそばパンを持っていた。こいつ、大人気商品の焼きそばパンを手に入れるとは一体どんな手を使ったんだ。

 

「お疲れ。どうだった? 怒られた?」

 

「怒られた。宿題出されたし」

 

「あら、残念ね」

 

「半分くらいお前のせいだからな」

 

「そんな言い方しなくてもいいじゃない。せっかく翔平のために焼きそばパン買っといてあげたのに」

 

「え、マジで?」

 

「マジよ」

 

 そう言って笑いながら焼きそばパンを俺の前でヒラヒラさせる速水。

 

「流石神様仏様速水様だわ」

 

「すごい切り替えの早さね。まあ本当にあげるつもりだったから良いけど」

 

「いやーやっぱり持つべきものは友達だなー」

 

「こんなので友達扱いされても嬉しくないわね。はい」

 

「マジでサンキューな。昼飯どうするか本気で悩んでたんだよ」

 

 焼きそばパンを速水から受け取る。小さな見た目なのに重量は結構ある。素晴らしい。

 ついでだから珍しく売れ残っていたコーラも買った。

 

「どこで食べるの?」

 

「教室かな」

 

 購買のおばちゃんからコーラを受け取りながら俺は答える。

 

「じゃあ一緒に食べましょ。わたしもお昼まだだから」

 

 言いながら速水は今まで後ろに隠していた左手を俺に見せる。指の先には青系の布に包まれた小さなお弁当が握られてきた。

 

「別に良いけど」

 

 そう言うと速水はニコッと笑い、一歩踏み出した。

 

「早く教室に戻ろ」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 変わらず、俺は速水奏にからかわれる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 昼飯を速水と食う事になった。焼きそばパンと買ったばかりのコーラ片手に速水の後について行く。速水の手には青系の布に包まれた手作りのお弁当が握られていた。

 教室に入ると大半の奴らが昼飯を食べ終え、スマートフォンや携帯ゲーム機で遊んでいた。バレたら連帯責任で宿題増やされるのに勇気あるなこいつら。

 窓際最後尾の自分の席に戻り、速水と机をくっつける。

 指を弾き、タブを開け、コーラを一口飲む。速水は水筒からお茶を飲む。小さな弁当を開けて、速水は手を合わせ、卵焼きをつまみ上げた。俺は焼きそばパンを一口頬張る。

 うん、安定と安心の美味さだ。

 速水が友達で良かった。

 男ならすぐに食べ終える程度の大きさだから、五分とかからず食べ終えた。別に速水が食べ終えるまで待つ必要はないけど、暇なのでコーラを飲みながら速水を眺めていたら、ふと速水と眼があった。俺は慌てて視線を外す。

 

「別に視線逸らす必要ないわよ」

 

 そう言い、笑いながら速水はご飯を食べる。

 

「また変態とか言われそうだからいい」

 

「言わないわよ」

 

「嘘だ。絶対言う」

 

 ため息をこぼし、速水は身を乗り出して俺の顎に手を当てて無理矢理視線を合わせる。

 

「ほら、なにも言わないでしょ?」

 

 ニッ、と微笑みを浮かべる速水。

 

「分かったから離して」

 

「ふふ、本当に分かったの? ()()()()()()()が?」

 

「分かった分かった」

 

 そう言うと手は離れていき、速水は食事を再開させる。顎に手を当て、視線を外す。

 

「外れてるわよ視線が」

 

「見て欲しいのかお前は?」

 

「そうね。翔平だったらいいかもしれないわね」

 

 挑発的な笑みを浮かべる速水。そう言う発言は誤解を招くので、人がいないところで言って欲しい。あと勘違いしそうになるから控えてほしい。……なに言ってんだろ俺。

 コーラを一気に飲み干して、言われた通り速水を見る。長い黒髪。長い睫毛に縁取られた大きな瞳。彫刻みたいに整った顔立ちは見ているだけでなんか恥ずかしくなってくる。速水は顔色ひとつ変えずに、食事を続ける。こいつの精神力はどこで鍛えたんだ? 食べ方だけ見ても綺麗だし、容姿だって俺が今まで出逢ってきた女子達の中じゃダントツで美人だし、本当なんでこいつは俺にちょっかいかけてくるんだろう。

 開けられた窓の外では何かスポーツでもやっているのか歓声と熱狂が聞こえる。

 空では雲が退屈そうに浮遊している。

 太陽は変わらず俺達を照らしている。

 野球をするには絶好の日だ。

 早く放課後にならないかな。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「わたしがこんな事言うのはーーー、」

 

 机から身を乗り出して速水は俺の耳元でただ、一言だけ呟く。

 

 

「ーーー君だけだよ」

 

 

 と。

 

 

 その台詞を聞いて、俺は椅子を転がして立ち上がり、教室から一目散に逃げた。

 

 

 

 

 ♯2 お昼時。

 

 

 

 




速水奏のウワサ①
「高校生に間違われたらしい」
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