変わらず、俺は速水奏にからかわれる。   作:花道

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♯5 自宅 大河翔平①

 

 

 

 

 

 5年前、好きだった野球選手がメジャー挑戦を表明した。個人的にこの選手は日本球界最高のピッチャーだと思っている。俺の目標であり、一番好きな選手だ。

 一昨年、その選手が靭帯を損傷していると発表した。それは俺にとって衝撃過ぎて、どうなってしまうのかハラハラしてニュースを追っていたのを覚えている。その選手は「今年一年を捨てて手術を受けしっかりリハビリして必ず復帰する」とテレビで言った時は泣きそうになった。

 そして昨日、6月26日。

 ついにその選手が約1年に復帰登板を果たした。自己最速159キロを記録し、自己最多の18奪三振で勝利し、完全復活を果たした。

 嬉しすぎて泣いた。泣きすぎて姉にひかれた。

 

 

 その興奮もつかの間だった。

 

 

 俺の目の前には数学の宿題が広がっていた。

 そう。速水奏のせいで与えられた宿題だ。

 俺は頭を抱えていた。

 数学なんて解んねえよ。こちとら数学なんて小学校の時に習ったやつで止まってんだよ。自慢出来ねえけど。

 シャーペンを投げ捨てて、ベッドに倒れる。

 スマートフォンでYouTubeを開いてその野球選手の動画を再生する。昨日の試合の奪三振集だ。全ての球種が勝負球になるなんて凄いけど、実際はどうなんだろう。この選手でもよくホームランは打たれてるし、バットにさえ当てられたら全部意味無いのかな。

 左手で野球ボールを天井に向けて投げる。

 スマートフォンを置いて、白球を見る。

 来年から高校受験が始まるのに、こんな問題も解けないんじゃ絶対あいつと一緒のところなんていけないよな。

 俺とあいつの間には絶対に変えられない学力の壁がある。

 あいつは頭が良い。この前の中間テストで学年7位とかにいたし。

 

「はぁ」

 

 ため息がこぼれる。

 野球ボールを左手で強く握る。

 あいつとは多分高校は別になる。

 まだ家族と話し合ってる段階だが、もしかしたら俺は東京以外の高校に進学するかもしれない。大阪、広島、岩手の高校からスカウトだって来てる。甲子園を目指すならやっぱり強いところに行くのが一番良い。でもそれをするとあいつと……速水と離れる事になる。それは少し嫌だ。せっかく友達になれたのに、これでバイバイなんて俺は嫌だと思っている。あいつがどう思っているかは知らないけど。

 LINEも知ってる。電話番号も知ってる。でも、それだけじゃあ足りない気がする。

 あいつの隣に立ちたい。立っていたい。

 相応しい男にくらいなりたい。

 前にも言った通り、別に俺はあいつの彼氏でもなんでもない。ただの友達だ。それでも抑えられない感情くらい抱く時だってある。

 今から勉強して間に合うのか。

 あいつが行く高校が弱かったら?

 甲子園に行けなかったら?

 プロに入れなかったら?

 

 

 ……。

 

 

 スマートフォンを操作して、一枚の写真を見る。

 その写真には速水と俺が写っている。速水が悪戯で俺のスマートフォンで撮った写真だ。速水が笑顔なのに、俺は間抜けた面をしている。試合後で疲れていたので、消し忘れてて今まで残っていた。消すつもりは今のところ無い。

 腕を下ろす。

 

 

 なんで俺はこんな真剣に悩んでんだろ。

 

 

 俺はベッドから立ち上がって机に向かい、数学のプリントをもう一度見る。やっぱり解らん。そこには不可解な数字が並んでいるだけだ。教科書を開いても全く解らない。

 この手はあまり使いたくなかった。

 スマートフォンからLINEを起動して、速水に助けを求める。

 

 

 翔平

 『お願い助けて』

 

 

 と。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 変わらず、俺は速水奏にからかわれる。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 ーーー♪

 

 何度かのやり取りの後に返ってきたLINE。

 

 

 

 奏

 『キスしてくれたらね』

 

 

 

 何送って来てんだこいつ……。

 そんなに勘違いさせたいのかお前は。

 

 

 




ダリュシュ=優

高校時代は三回甲子園に出場。ノーヒットノーランを達成するなどその名を全国に轟かせた。
その後ドラフトで北海道セイコーハムファイターズに単独一位指名され、日本球界最高の投手と呼ばれるまでに成長。
5年前、ポスティングシステムを行使してメジャーリーグ挑戦を表明。
約5280万4411ドルの落札金額でテキサス・ダイヤモンドドッグスに移籍。
2年連続200奪三振以上、15勝を記録するなどその実力をメジャーでも発揮し、メジャーにも通用すると証明した。
三年目の7月には右肘内側側副靱帯の損傷と発表し、トミー・ジョン手術を受ける
約一年のリハビリ期間を経て、無事に完全復活をはたした。


NPB7年の通算成績は以下の通り。
防御率1.98
96勝36敗
1320奪三振
MLB5年の通算成績は以下の通り
防御率3.16
43勝27敗
743奪三振

5280万4411ドル。
日本円で約58億円。
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