月曜日を好きな人は多分存在しないと思う。
速水奏もその一人だ。奏自身、月曜日はそんなに好きじゃない。夜更かしした土日のせいで、眠たい目をこすりながら一階に降りて10分ほどぼーっとしているのがいつもの奏なのだが、今日は違った。
いつもより20分も早く起きて鏡の前に立っていた。
既に制服に着替え終えており、今は新しい髪型をいじっていた。
伸ばし続けた髪をバッサリと切り落とし、ショートヘアとなった奏。ワックスを掌に伸ばして、髪に馴染ませていき、外ハネを作っていく。最後にセンター分けを作って完成。
ジト目で鏡に写る髪の毛を凝視する奏。
似合っていない気がする。今までこんなに短くした事なんてないから、これで良いのか少し不安になる。
頬を引っ張って笑顔を作る。
新しい自分。
新しい髪型。
ここまで変えたら嫌でも気づくだろう。
鞄を持って奏は部屋を出た。
ーーーーー
変わらず、俺は速水奏にからかわれる。
ーーーーー
二階から降りてきた奏は歯磨きをしつつ、スマートフォンをぼんやりと眺めていた。昨日届いたLINEの返信。話を合わせる為に野球ニュースの確認。最後に適当にニュースを読んで歯磨きを終える。
水を飲みながら、お母さんが作ってくれた朝ご飯を小さく「いただきます」と呟いてから食べ始める。
「あ」
炊飯器の中を見たお母さんが変な声を出した。
「どうしたの?」
その声を聞いて奏は食パンを食べながら訪ねた。
「ごめん、昨日ご飯炊くの忘れてたからお弁当作れないわ」
あぁ、そんな事か。と心の中で呟き、食事を再開する奏。
「しょうがないわね。今細かいの無いから今日はこれ持って行って」
そう言って出された千円札を受け取り財布の中に入れる。
「全部使っちゃダメよ。五百円までね?」
「わかったわ」
朝ご飯を食べ終えて、登校時間までゆっくりして、奏は家を出た。
家を出る直前に、お母さんから「奏、新しい髪型可愛いわよ」と言われて嬉しかったのは内緒。
六月ももうすぐ終わる。
七月には夏休みが始まる。奏達にとってはこれが実質最後の夏休みだ。翔平を巻き込んで、たくさん思い出を作ろうと奏は考えている。夏休みが終われば体育祭がある。体育祭が終われば、文化祭がある。こう見れば冬休みまで結構イベントがあるなと奏は思う。
鞄を背負って歩き慣れた道を歩く。
眩しい太陽の光をおでこに手を当てて遮る。
信号待ちの先で見慣れた背中が見えた。
口元に笑みがこぼれる。
赤から青に変わるのをじっと待つ。
青に変わり、小走りで彼の背中へ向かう。
パァンっと背中を叩く。
「おはよう、翔平」
変化に気づいた翔平は目を丸くして奏の髪の毛を見つめる。金曜日の時点では長かった髪の毛がいきなり短くなったら誰でも驚くだろう。まして奏は一年以上も髪の毛を伸ばしていた。その変化には当然すぐに気づく。
「お、おう。……おはよう」
鞄を後ろに回し、背筋を伸ばし、首を傾げた奏は翔平に挑発的な笑みを浮かべる。
「おはよう、の前に言うことがあるんじゃない?」
「えっと、宿題ありがとう?」
ガッと翔平の足を踏んだ。
「そうね。それも受け取るわ。でも今は……そうじゃないの」
そう言って奏は翔平を見つめる。
解っている。
ここまでアピールされなくても嫌でも気づく。
ずっと見てきたのだから。
「……髪の毛、切ったのか?」
そう言われて本当に笑みをこぼす奏。
「えぇ。切ったわよ」
「その、なんだ」
頬をかきながら、翔平は視線を逸らして小さく呟いた。
「似合ってる」
望んでいたセリフを聞いて奏は笑顔を浮かべたまま、
「ありがとう」
と言った。
158センチの奏を173センチの翔平が見下ろす。
顔を赤くして翔平は、
「もう行くか」
と言い、
「そうね」
小さく奏も返す。
二人で並び、他愛ない会話をしながら、学校へ向かった。
♯6 女の子の変化には。
二人が一緒に教室に入ってすぐの奏ファンクラブ公式LINEでは、
康太
『やばい、速水さんめっちゃ可愛い』
山中祐介
『なにあれ、反則だろ』
Daisuke
『結婚したい』
翔一
『黙れ、俺が結婚する』
晋太郎
『お前らじゃ無理だ。ここは大人しく俺に任せろ』
晴人
『お前ら落ち着け。お前らじゃ大河には勝てん。俺に任せろ』
めちゃくちゃ盛り上がっていた。