……小次郎口調に出来ていれば良いなぁ……。
side コタロウ
少年に見つからぬ様に追跡を始めてから40分近く経ち、ようやく村に辿り着いた。
モンスターの入って来れないらしい安全圏に入る事が出来て、ようやく一安心と言った所か。
この村の名前は《ホルンカ》というらしい。
村に着いて休むのかと思われた少年は、しかし村の狭い広場に面した建物……武器屋に入ったかと思うとハーフコートに着替えて、更に道具屋に寄ってから民家に入り込んでしまった。
部屋でも借りるのか?
とりあえず自分も武器屋に寄ってみたが、この村で売っている武器はどれもはじまりの街で売られているものよりも、攻撃力は高いが耐久度が低い様で、結局防御力を上げるために少年と同じハーフコートを購入した。
私は武器が無ければ攻撃を捌く事も出来ないからなぁ。
更に道具屋で回復ポーションをいくつか購入し、ちらりと少年の入った民家の方を見てみれば、丁度少年が民家から飛び出して来たところだ。
部屋は借りないのか?
直後、広場中央にある小さな
時間を確かめてみれば時刻は[19:00]となっていた。
まだ早いが明日に備えてそろそろ休もうか……そういえば宿屋に泊まらずに民家で部屋を借りたりする事は出来るのだろうか。
ちらりと少年が出て来た民家に目をやる。
NPCとはいえ人の家なのだから出来ないのかもしれないが『百聞は一見にしかず』と言うし、何より上手く行ったら宿代が浮くかもしれないし、試してみようか。
そうして少年が出た民家にお邪魔してみる。
「邪魔をさせてもらうぞ」
そう言いながら扉を開けて入る。
奥の台所で鍋をかき回していた女性……のNPCが振り向き、こちらを見て言った。
「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何も無いの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」
おお、こんな不法侵入者の様な自分に水を出してくれるとは。
そういえば長時間走り続けていたからか、喉が渇いている……ナーブギアはこんな感覚まで再現出来るのか。
それでは遠慮なく。
「それで良い、頂こう」
女性は古びたカップに水差しから水を注ぐと、私の前にあるテーブルに置いた。
私が椅子に座り、水を一息に飲み干すと、女性はほんの少し笑ってから再び鍋に向き直った。
「…………む?」
そういえば、女性は先程「食事は出せない」と言っていたが、目の前では何かがコトコトと煮えている。
何を作っているのだろうか、と疑問が湧いた時。
隣の部屋に続く扉の向こうから、こんこん、と子供が咳き込む様な声がした。
それを聞いた女性が、哀しそうに肩を落とす。
どうやら身体の悪い子供がいるらしい、と考えた直後。
「ッ!?……なんだ?」
女性の頭上に"金色の疑問符"が点灯した……いきなり出てきた為かなり驚いた。
これは……確か、猪の相手をしながら読んでいたチュートリアルでは、クエスト発生の証だったか。
「何か困っている事でもあるのか?」
とりあえずいくつかあるらしい《NPCクエスト受諾フレーズ》というやつを言ってみる。
すると、頭上の《?》を点滅させながら、女性がゆっくりとこちらに振り向いた。
「旅の剣士さん、実は私の娘が……」
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
スパッと要約すると、『娘の病気を治すために、森にいる危険な捕食植物たちの内の、花を咲かせている個体から胚珠を取ってきて欲しい。取ってきてくれれば、お礼に先祖伝来の長剣を差し上げます』という話を、娘さんの空咳と共に聞いたのであった。
刀で無いなら長剣はいらないが、NPCとは言え子供は助けたいと思い、「それならば、私に任せて貰おうか」と言って民家を出たのであった。
おそらくは、少年もこのクエストを受けたのであろう。
村で休むという予定を変更し、少年を追う様に村を出る。
ふと、『現実では今どうなっているのだろうか』と考えた。
……案外、自分の家族や実家のご近所さんなんかは『小太郎なら大丈夫だろう』といった感じで、当然の様に帰ってくるのを待っているのかも知れない。
「ならば、その期待に応えてやらねばな」
自らを鼓舞する様に、危険な夜の森に足を踏み入れた。
今更ですが人物の名前は基本、"現実では漢字、ゲーム内ではプレイヤーネーム"になります。
しばらくは第1層ですかね。