あ、1層はプログレッシブ1巻の前半(アニメで言うなら第2話)までは書きたいと思っています。
side キリト
自己紹介の後、俺とコタロウはしばらく、ひたすらネペントを狩り続けた。
しかしコタロウの戦闘を見ていると、どうしても気になる点が出てきてしまった。
コタロウがネペントを倒したのを確認してから、それを指摘する為に声をかけた。
「なあコタロウ」
「どうした?キリト」
「さっきから気になっていたんだが、コタロウは《ソードスキル》を使わないのか?」
俺のその言葉を聞いたコタロウは、
「……そーど、すきる?」
それはそれは見事な片言で、そう返してきた。
「……えっと、もしかしてソードスキル、知らなかったのか……?」
「うむ……そういえば、SAOの事は碌に調べられなかったからなぁ……」
「ソードスキルを知らないって、よっぽどだな……」
「
「それは、こういうものだ……よッ!」
言いながら素早く構え、単独でうろついていたネペントの、その弱点に目掛けて剣を振り上げる。
そうして発動させた《ホリゾンタル》が、ネペントの茎を断ち切り、HPをゼロにした後ガラス片に変えた。
「……
「なんだ、知ってはいたのか。それぞれの技に決められた構えをすると始動して、後は体が勝手に動いて攻撃してくれるんだ。さらに、普通に武器を振るよりも大きなダメージが与えられるんだ」
「……体が勝手に動く、とは?」
「ああ、発動した後はシステムが体を操縦してくれるんだよ。だから発動したら、自分が何もしなくても技が終わるまで動いてくれるんだ」
「…………なるほど……」
「ただ弱点もあって、ソードスキルが終了すると強制的に《技後硬直》が起きて、全く体を動かせない時間が生まれてしまうんだ。ソードスキルを無理矢理止めようとしても硬直しちゃうんだけど……」
「…………………………………………」
俺の説明を聞いたコタロウは、顎に手をやって長考している。
……なんとなく、良く似合っていると思った。
そうしてしばらく考えていたコタロウの口から、俺からすればかなり衝撃的な言葉が飛び出してきた。
「……うむ、
「………………は?」
思わずそんな声が出てきた。
「必要無いって……使わないって事か!?」
「そうだとも。勝手に体を動かされるのも、勝手に体を止められるのも嫌でな……まぁ私の内では長所に比べて短所が大きすぎたという事よ」
「……でもそれだと後になってから辛いと思うぞ?」
「なぁに、その時はその時に考えるし、案外そうでも無いかもしれんぞ?」
「……はぁ……ま、コタロウがそれで良いなら
「すまんな、教えてもらったというのに」
「いやいや、コタロウはコタロウのやりたい様にやれば良いよ」
それに、そうやって進んで行ったコタロウがどうなるのか、結構気になったりするし。
コタロウの言う通り、案外どうにかなったりしてな。
「それじゃあスキルは?それも付けないのか?」
「いいや、とりあえず鍛治スキルと、この森で使えるのではと《
「鍛治屋になるつもりなのか?」
「店を出すつもりは無いが、自分の武具を自分で修理したり、自分で作ったりしたいと思ってな」
「なるほどなぁ……あ、でも、隠蔽スキルはこの森ではあんまり役に立たないと思うぞ?」
「?……そうなのか?」
「ああ。隠蔽スキルの効果は簡単に言ってしまうと"相手から自分が見えなくなる"ものなんだけど、ネペントみたいな
「なるほど、確かにあの植物には目が無いのだし、恐らくは聴覚や嗅覚、地面から伝わってきた振動などで相手を感知しているのかもしれんな」
「そういえば、コタロウは『女の子を助けたい』って理由でこのクエストを受けたんだよな?報酬の事はどう思っているんだ?」
「"先祖伝来の長剣"……と聞いたが、キリトはそれが何か知っているのか?」
「ああ、《アニールブレード》っていう片手剣だけど……」
「予想はしていたが、やはり刀では無いか……」
「コタロウは"カタナ"が使いたかったのか?」
「ああ、現実で使い慣れていてな……いつになれば刀を振るえるのだろうなぁ……」
「……いや、もしかしたらすぐにゲット出来るかもしれないぞ?」
「本当か!?」
「おっおう……えっと、鍛治屋に武器を持って行けば、その武器を《インゴット》っていう武具を作る為の金属に変える事が出来る……らしいんだ。だから何かしらの武器をインゴットに変えてから……」
「刀として作り直す事が出来れば、という事だな!」
「いやでも、ベータテストの時には誰も入手出来なかったからか、《モンスター専用カテゴリ》って呼ばれていた物を入手出来るか分からないし、出来たとしてもまず現時点でその《インゴット化(仮称)》が出来るかは分からないし……」
「だが私にとっては、その可能性があるだけでも十分に希望足り得るものだとも。この
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そんな風にいろいろな話をしながらネペントを狩り続けて。
どうにか二人分の胚珠を入手できたのは、二人合わせて二百体以上のネペントを倒した後だった。
時刻は[21:30]、壊れかけの剣でどうにか帰ってきたホルンカの村には、数名のプレイヤーの姿があった。
彼らも元ベータテスターだろう……そういえば。
「なあ、結局コタロウが付いて行ったのって誰だったんだ?」
「私の左隣にいる男だな」
コタロウはそう即答した。
「………………俺かよ!!」
「そんな事よりも、まだあの女性は起きているであろうし、早く胚珠を渡しに行ってやろうではないか」
「お前なぁ………もう面倒だからいいや……。俺は道具屋でポーション補充してくるから、コタロウが先に行ってろよ」
「では、遠慮なくそうさせてもらおうか」
そう言ったコタロウは、クエストを受けた民家に向かおうとして、こちらに向き直り、何やら腕を動かし始めた。
数秒後、俺の視界に"コタロウのフレンド申請"のウインドウが現れた。
「これは……」
「これで互いに連絡を取り合う事が出来るらしい。……キリトには、本当に世話になったからな。私などが其方に対して出来る事など、そう多くは無いだろうが……この恩は、いつか必ず返させてもらおう」
コタロウのその目には、強い意志が込められているのを感じた。
俺はその目を見つめ返しながら、
「ま、コタロウが忘れてなかったらありがたく受け取るよ……よろしく頼むぜ」
コタロウのフレンド申請の、OKを押す。
それを見たコタロウは、フッと笑った。
「……さて、私はこのクエストを終わらせたら一晩休んでから鍛治屋のある《はじまりの街》に戻るが、キリトはどうする?」
「俺は少し休んでから、貰ったアニールブレードでレベル上げをしに行くよ」
「そうか……ではここで解散だな。無理はせずに、死なない程度には休めよ」
「ああ、分かってるさ」
「生きてまた会おう、キリト」
「ああ、必ずまた会おう、コタロウ」
今度こそコタロウは、こちらに振り返る事無く民家に歩いて行った。
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次の日の昼。
【差出人:コタロウ
鍛治屋で刀を作れたぞ!感謝するぞキリト!】
というメッセージの内容に驚き、食べてる最中だった黒パンが気管に入って思わず咳き込む俺なのであった。
原作死亡キャラの生存
《コペル》……『はじまりの日(原作小説8巻)』にて、モンスターを使ったプレイヤー・キルによってキリトを殺して胚珠を入手しようしたが、誘き寄せたネペントたちによって殺された。
この小説の世界ではキリトに出会わず、堅実にネペントを倒し続けて胚珠を入手した。
この小説での今後の出番は多分無い。