サイキョーお兄さん   作:鈴木遥

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友人達のイロイロ事情

・ 霧島組の若頭を敗ってしまった良人。

もはや、裏社会では連日語り種となっていた。

 

『ダクト・タウン』に行くと知らない人に話しかけられたり、 繁華街に出向くと、チンピラたちは彼の顔を見て青ざめたりと、 控えめに言っても小さな変化とは言えない状態だった。

 

当然、門真木や彼の派閥の有力者にも目をつけられること請け合いではあるが、 彼にはさしたる問題ではなかった。

 

「じゃあ……行ってくるよ、父さん(・・・)!」

 

「おー、気ぃつけな!」

 

新聞紙を片手に、小さな少年を見送る良人。

 

元門真木政権による、人間兵器の一人。"人狼"であった少年に青空(ソラ)と名付け、 周りにあーだこーだと言われながらも家に置いてる。

 

「まさか……本当に連れ込むとはね……。」

 

一番驚いていたのは同居している妹、明敬美だった。

 

彼を家で育てるための手続きは、あまりに簡単に終わってしまった。

門真木としては、 公にバレては困る人間兵器の事実を、 さっさと良人に保護して欲しかったのだろう。

 

「 門真木の野郎、厄介ものを預かってくれて助かったと言ってたぜ。 あのジジイには二度と会わせねーよ」

 

 

「待って!兄貴……門真木に会ったの!?」

 

良人は、何をおかしなことを言っている?という顔をした。

 

「 お前は会った事なかったっけ? ヤクザどもがバーに殴り込む前にじいさんがいたんだが……あれだよ。」

 

途端、彼女に衝撃が走った。

何日か前の買い物帰りに、お茶目が誰かに忘れ物を届けていたのを見た。

 

遠巻きではあったがあの人の良さそうな老人が、兄の宿敵だったとはー。

 

「 まあ、あいつだけじゃねえ(・・・・・・・・・)けどな……。」

 

「何…どゆこと?」

 

「いずれちゃんと話すよ。」

 

我が兄ながら、ミステリーを抱えすぎている彼に、時々うんざりすることがある。

 

これからもそんなやり取りが続いていくのかと、明敬美は重いため息をついた。

 

「 ところでお前、俺に何か隠してるだろ?」

 

「え……?」

 

何を言ってるのか理由がわからない、という顔をする。

精一杯、何かを隠している事を、悟られないように努める。

 

だが、 兄は眼光を鋭くしたままだ。

 

「お前……」

 

兄が次に何を言うのか、と心臓をバクバク言わせながら 身を固め、ただ一点を集中して見続ける。

 

蛇に睨まれた蛙、または、動くことを許されない石像のような状態である。

 

「おっ邪魔~ッス!師匠! 書類整理終わりまし」

 

このとき、間の悪い前川が空気を読まずに入ってきて、

兄にジャーマンスープレックスを食らっていなければ、 彼女が抱えているある『秘密』を暴露せざるを得なかっただろう。

 

彼の尊い犠牲の上に、 妹はその場をしのいだのである。

 

 

 

 

一方その頃、青空は……。

 

「 青葉青空です。よろしくお願いします」

 

旧座小学校。

 

良人が 小学生時代を過ごした母校であり、 彼の昔のとある仕事から特殊な事情があることも理解している。

 

いわゆる訳あり、マイノリティの子供に対して理解の深い学校である。

 

実際のところ青空はすぐに打ち解け、 何やらたった一日でデュエマにはまってしまったようである。

遊戯王にはめようとした父親としては悩みの種だが、友達立ができたことについては安心するだろう。

 

「 とどめ!」

 

「くっそ〜……また負けた〜!」

 

「だはは……ケンちゃんこれで5連敗だぜ!」

 

「俺が青空に教えたのに…… お前強すぎだろ!」

 

「そうかな……?」

 

昼休み、多目的室では特別にカードの持ち込みが許されていた。

真島ケンスケと田端リョウ、 転校の挨拶の後真っ先に話しかけてきた やんちゃ坊主たちである。

 

「 よしもう1回だ!」

 

「 けんちゃん授業始まっちゃうぜ?」

 

「くっそ〜…! 放課後お前ンち行っていいか?」

 

青空は一瞬良人の顔を 思い浮かべる。

 

ルール云々に関してはルーズなところがあるが、 あの父親ならば基本的にそういうところは寛容だろう。

 

「 多分良いって言ってくれるよ。放課後校門の前で待ってて!」

 

周りの大人が誰一人信用できなかった幼い頃。

まして、友達ができることなど初めての経験だった。

 

(楽しいな。オレ、今すげー楽しいや!)

 

 

 

「 ちょっと男子、いつまでカードやってるの! チャイム鳴っても知らないわよ!」

 

多目的室の入り口から3人を注意したのは、 栗色の髪をツインテールに纏めた少女だった。

 

「げ……花井だ!」

 

「へいへーい、 すぐ行きますよーだ!」

 

「返事は一度! 全く……!」

 

不機嫌そうに立ち去っていく彼女を、青空は不思議そうに見ている。

 

「彼女は?」

 

「学級委員長の花井きらら。ものすごい怖いんだぜ!」

 

「 何かあると先生にすぐ言うしな!」

 

二人の酷評を聞きながらも、 青空は彼女の事を悪くは思わなかった。

妙な話だが、ある種の心配を覚えていた。

 

彼女が、無理やり自分の気を張らせている気がしたからだ。

ああいう生き方が体に堪えることは、青空が一番よく知っている。

 

( 大丈夫かな……。)

 

放課後、校門の前で二人を待っていると、 ごく最近に見たツインテールのシルエットを見かけた。

予想通り、花井きららが立っていた。

何か言われるのではないかとドキッとしたが、 そうなれば、あの二人がいない今、口喧嘩で勝てる自信はない。

 

ところが、その心配は杞憂に終わる。

 

青空の距離が2 M ほどに近づいたが、彼女は全くこちらを見ない。 というより、彼女が何かを心配し過ぎていて視界に入らないらしい。

 

「おい!青空!」

 

茂みの陰から ケンスケの声がした。

 

「あれ……ケンス」

 

「しーっ!」

 

急いで口元に人差し指を当てるケンスケ。

 

そっと彼の元に近寄ると、 青空の手の中に1000円を落とし、きららを指差した。

どうやら彼女に渡してこいということらしい。

 

「え……なん」

 

「いいから!行ってこい!」

 

仕方なく、背後からゆっくりと彼女に近寄る。

 

「 あの……花井さ」

 

「ねぇ青葉くん!お財布持ってない!?」

 

「へ?」

 

「 どうしてもバスに乗りたいんだけど お財布忘れちゃって……。」

 

学校に貴重品を持ってきた場合は、 朝の集会の後職員室に預け放課後返却される形になっている。

 

真面目な彼女はその財布を学校に持ってくることがないと聞いたが……。

 

「 これで……足りる?」

 

ケンスケが自分に渡してきた1000円札を彼女に渡す。

 

「え……これ……」

 

青空はちらりとケンスケの方を見るが、 彼は『言うな』とジェスチャーをしている。

 

「公衆電話の代金、父さんから貰ってたんだけど、今日は必要ないかなと思って……。」

 

「いいの?」

 

「う……うん?」

 

「ありがとう!!助かるわ!!」

 

ケンスケに、『これで良かったのか』と遠くから尋ねるが、 彼はただ頷くばかりである。

 

※※※※※

 

「おかえりなさい!あら、 お友達?」

 

「部屋にあげてもいいですか?明敬美おばさん……。」

 

「あら、 もう友達ができたの! ちょっと待ってね、お茶入れるから……。」

 

父良人は、 まだ探偵事務所に入るようであったが、妹の明敬美が、 実に丁寧に応対してくれた。

 

和室に二人を招くと、早速先刻の話になった。

 

「ねぇケンスケ、 さっき花井さんに貸してたお金……」

 

青空が一言言った瞬間、ケンスケは口からオレンジジュースを吹き出した。

 

「おまっ…ばか!……ソラ!」

 

「え!?なに、何の話!?」

 

リョウは当然興味津々である。いけないことを言ってしまったと、 青空は遅れて後悔した。

 

詫びる様に彼の目を見ると、一つ重いため息をついた。

 

「幼馴染でさ……あいつ。 昔から何かと 絡んでるんだけど、 父ちゃんはなかなか家にいないし母ちゃんは病気だし……今日、職員室で弟が病院に運ばれたって聞いたんだけど、 父ちゃんと連絡がつかなかったらしいんだ。」

 

「ケンちゃん、なんでそれ知ってんの?」

 

「偶然聞いたんだよ。あいつ堅物だから学校に貴重品持ってこねーだろ?」

 

うつむいたまま喋る彼の目は、どこか遠くの、高嶺の花でも眺めているようだ。

 

「要は……好きなんだ!」

 

「ば…ばか!そ、そんなんじゃねーよ!」

 

「やいやーい!好きなんだ〜!」

 

ケンスケが真っ赤になって否定すればするほど、リョウは更に囃し立てる。

 

「好きなんだ〜!」

 

「ソラ!てめーもか〜!」

 

押し入れに入っている枕や、着替えの類が宙を舞う。

小学生男子によくあるノリである。

 

よくある話だが、こういう時は大抵の場合、保護者によってブレーキがかかる。この家の場合は……。

 

バタン!!

 

勢いよく扉が開くと、明敬美が仁王立ちしている。

 

「坊や達…… 元気なのは結構だけれど…… 運動なら外でしていらっしゃい!!」

 

彼女は表情こそ笑っているが、 壁に突き立てた指がめり込んで穴を作っており、とても穏やかな態度ではない。

 

「すい……ませ〜ん。」

 

「(ΦωΦ)フフフ…いいのよ〜……。くれぐれも!!ケガに気をつけるのよ……。」

 

「は〜い……。」

 

 

その夜は、青空が寝た後の晩酌に長巫が同席していた。

 

「へぇ、 もうダチ公連れてきたのか。」

 

「 すごいコミュニケーション力ですね〜!」

 

「そうなのよ!子は親の背中を見て育つって言うけど、本当なのね!」

 

部下と妹の注目を浴び、 箸を一回口から離す良人。

 

「え、オレ!!?」

 

「昔から兄貴ってコミュ力の怪物じゃない。 言葉喋れないくせに外国人と仲良くなったり、 旅行先で知り合った人と その夜には一緒にお酒飲んでたり……。」

 

「わかります! 仕事でも余すとこなく発揮されてます!私も圧倒されてて……。」

 

「 そんなこともあったなー。 年賀状の数がすげえよ、今じゃ。」

 

「その連れてきた彼がさぁ、また話聞いてるとかっこいいのよ! バス代女の子に貸してあげるのに、 自分は前に出ないってんだから!花井きららちゃんて子に……。」

 

話をしている最中に、突然良人が箸をおいた。

 

「明敬美、今なんつった!?」

 

「だからね、連れてきた彼がバス代を……」

 

「誰に貸したって?」

 

「花井きららちゃんって……クラスの子じゃない?」

 

「そうか……。」

 

良人はそこで黙った。明敬美には、その意味がまるで分からない。

長巫だけが、もしかして……とでも言うように彼の顔を覗き込んでいる。

 

「 お母ちゃん、病気だって言ってなかったか?」

 

「 ちょっと待って、なんで知ってんのよ?」

 

この流れからしておそらく仕事の話と絡んでいるのだろうが、 その場合大概がいい話ではない。

 

発作的に嫌な予感を覚えた。

 

「実はな……。」

 

明らかに不吉な出だしから、良人が話し始めた。

 

彼女の家は母親が病弱で、時々医師が家まで診察に来たりなどしているのだが、 さらにその手伝いに来ているのが その母親の姉、彼女の伯母である。

 

その伯母が、 数日前探偵事務所を訪れたのである。

 

「 姉の家に手伝いに行ったら、ストーカーの影が垣間見えたってな。」

 

「ちょっと……それ……。」

 

数日間前川を張らせたところ、 物陰から見張っているような 気配はしなかったそうだが、ある男が訪ねた時に、なぜだか前川をじっと見ていたらしい。

 

「そいつは特に変な客でもねー。母親の学生時代の親友らしいんだが…… えらい周りを警戒してたらしくてな。 気のせいかもしれねーが、何もねーとは思えねーんだよ。」

 

今夜は前川が事情があって張れないらしく、 何かがあれば良人、長巫のどちらかの携帯に連絡が入るようになっていたのだ。

 

「 杞憂に終わればそれが一番……なんだかな。」

 

重たい気分で仰いだ缶ビールは、 不安の味がした。

 

 

※※※※※

 

その頃一方、旧座市の外れにある小さな一軒家の前に、 怪しげな人影が佇んでいたことに、まだ誰も気づいていなかった……。

窓からその人影に気づいたのは、ついさっきのこと。

 

どうするべきか、ときららは迷った……。

 

伯母はたまたま 祖母の家からの連絡で 早く帰ってしまったし、 母親も寝込んでいる。

日射病で倒れた弟が大事に至らなかったと思ったら、 今度は怪しげな男が家の前にいる。

 

あの男には見覚えがあった。

 

昼間家を訪ねてきた、何人かの男がいたらしい。

その中の誰かなのだろうか?

だとしてもきららは姿を見ていないから、判別のしようがない。

 

弟は疲れているから起こすのも…… どうする?

といろいろ考えを張り巡らせていた時。電話台にメモ書きが貼ってあったのを思い出した。

 

確か、伯母がここ最近家の前にいる妙な男について相談していた探偵だっただろうか。

 

放置しておいたら何をされるか分からない。

 

ひとまずこちらにかけることにした。

 

※※※※※

 

翌朝。

 

「じゃー、 行ってきます。」

 

いつものように、青空が登校する。

 

「おう、気ぃつけな。」

 

友達もできたらしく、毎日充実しているらしい。

そんな彼とは対照的に、父親の仕事は少々行き詰まっているように見えた。

 

「昨日不在着信が2件あるんだが…… ちと心配だな。」

 

「 誰も出ないってこと?」

 

「出たよ…… 娘がな。」

 

それは妙な話なのである。依頼をしてきたのは伯母であって、娘ではない。

 

「伯母さんはどうしたって?」

 

「 実家が忙しくて出れねえんだと。 妙だよなァ……。

本当だとして、も本人の携帯から一通ぐらい連絡がありそうなもんだが…… おっといけねー。こっからは守秘義務だったな。」

 

「 私に位いいじゃない。」

 

「そうもいかねーんだよ。こりゃ俺の探偵としてのポリシーだ。」

 

頬をぷくっと膨らませる妹をよそに、 スーツを着込んだ良人は そそくさと出勤していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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