サイキョーお兄さん   作:鈴木遥

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ハーゴンの城が見えても気は抜けない

・旧座市の自堕落探偵、青葉良人の妹、明美は、亭主と兄、そしてたまに帰ってくる弟と飼い猫の四人と一匹暮らしである。

 

この日彼女は、兄と亭主、そして珍しくインドから帰ってくる弟と4人で食べるためのカレーの材料を揃え、先ほどようやく帰宅したところだった。

 

 

兄は新座で私立探偵をしているが 彼女が10歳になった頃家を出たきり2年前まで会っていなかった。

 

両親が亡くなり、譲り受けた一戸建ての家で亭主と暮らしていたが、 ある日突然傷だらけで転がり込んできたのだ。

 

自分はもちろん亭主のさつきも快く受け入れ それ以来なかば三人に近い四人と一匹暮らしをしているが 考えてみれば彼女は 彼の人生のうち、まる十年のことを全く知らないのだ。

 

傷だらけで帰ってきた日も、少しやんちゃをしたとしか教えてくれず、何があったのか全くわからなかった。

 

(最も……この街は安全なようで危ないわね。何があってもおかしくないか……。)

 

門真木政権下に牛耳られてから、この街は少し無機質になった。

 

便利にはなった設備も整った、交通の便も増えた。

 

ところが、それに比例してより一層、人間の闇のようなものが色濃くなった気がする。

見えなくなっていた人の悲しみと、影に追いやられた人たちの嘆きが 際立っているような気がする。

ここ数年はびこるようになったホームレスやストリートチルドレンがそれだ。

役所は本当に対応しているのだろうか。

それが怪しく思えるほどに、この街は今不自然だった。

 

そう思っているそばから、自宅の前を徘徊する若者の影を見た。

 

なんだかこう、後ろめたいことでもあるみたいに見えて、自然に距離をとってしまうが、そのまま放置するわけにもいかない。なるべく警戒を悟られないように、優しげな声で3人の若者に話しかけた。

 

「 失礼だけど、家に何か御用?」

 

三人は、飛び上がる様に驚いて、 三者三様に目を泳がせている。どうやら、誰かが先に口を開くのを待っているようだ。

 

どことなくカタギではない雰囲気を覚え、もしかして、明美の方から切り出した。

 

「もしかして、兄に御用?」

 

カメラを下げた青年が、ゆっくりと頷いた。

 

最近の若者は無作法だと、年寄りが口々に言っていたが、彼らなりに気を使って、あわよくば自分に叱られることも覚悟しているのだと悟ったあけみは、明るい笑顔で言った。

 

「とりあえず、上がったら? お茶なら出すから、ゆっくり話しましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界一族』のセミナーに乗り込んだ良人と長巫。

だが、 ミッションは、しょっぱなから彼女の予想外だった。

 

「すいません、探偵二人組なんですけど、会員登録お願いできますかィ?」

 

!??

 

びっくり仰天した長巫。彼と一緒に探偵を始めて2年近くなるが、未だに彼の行動は全く読めない。

 

「すいません!ちょっと失礼します!」

 

急いで行動の読めない上司を受付から引き剥がし、訝しげな顔の受付嬢に愛想笑いをし、柱の裏で急いで耳打ちした。

 

(ちょっと所長! 何考えてるんですか!受付から堂々と会員登録だなんて!)

 

ジャンプのツッコミ役ばりの冴えたツッコミをかますが、当の上司はこれといって表情を変えない。

 

「バカヤローお前…… いくら家に帰ってねーからつって 少年たちは自分らなりの正義を見つけてこの教団に浸水してんだよ?

それお前、実態を確かめもせずに頭から否定するなんざずいぶんな筋違いじゃねえか……。」

 

「確かに……そこまで考えてたんですね。」

 

「そ。それに……受付嬢は美人だしなぁ。」

 

「そっちがメインですね。」

 

感心して損した長巫。 とその時。

白衣を着た受付嬢が話しかけてきた。

 

「会員登録ですね。どうぞこちらへ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、 3人とも、名前から教えてくれるかな?」

 

航平、タケル、健人の三人は、名前と 学生であることを話した 3人とも良人に関係のある、三者三様の用事があったのだ。

 

「幼馴染で恋人の緑川朝日です 数年前 週刊誌の編集者になってから、門真木政権の重役を追っかけていたんですが、行方が分からなくなって……。」

 

「それで健人くんは、恋人を兄貴に探してもらおうとして、腕試しのつもりがちょっとやりすぎちゃったと……。」

 

「すいません……。」

 

「 いいのいいの。あの馬鹿兄貴、少しはお灸を据えてあげないと……。」

 

 

 

続いてタケルは、 腰に差していた 巻物を、机の上に広げた。

広げると、中には暗殺道具が大量にしまわれてある。

 

「要は、これを作った職人さんを探してるわけね。」

 

「お兄ィさんが、かなり情報屋さんのお知り合いが多いとか。 話を聞こうかと思ったんですが申し訳ねェです。俺もその場の流れで。」

 

「 合点承知!二人とも 依頼については兄貴に話しておくからね。それで君は?前川クン……。」

 

 

「僕は……。」

 

気弱そうな前川が必死に口を開こうとしたとき。

玄関の扉が乱暴に開き、血まみれの良人が長巫に肩を担がれて帰ってきた。

 

 

 

「ちょっと兄貴!どうしたのよ……。」

 

「所長!しっかり!」

 

「おぉ明美か…… ちょっとハーゴンの城まで行こうかと思ったら ロンダルキア地下洞窟で 魔女と裏切り小僧に出くわしてメガンテとザラキーマくらいまくりで……。」

 

「うんもうトドメ刺そうかこの人。」

 

「明美さん!落ち着いて!」

 

死に際にまでくだらない冗談をこぼす兄に愛想を尽かし、 長巫がとめだてしなければ、本気で実の兄をなます切りにしそうな勢いだった。

 

「こンの馬鹿兄貴! そういうネタは世代によってわかる人とそうじゃない人がいるから、気をつけろっていつも言ってるのに!」

 

 

なんとか明美を留め、自分の傷も構わず、上司を介抱する長巫。

 

(天使のような人だ……。)

 

「大丈夫、健人……?」

 

「な!何でもない!」

 

ひとまず怒りの沸点が治まった明美は、その場にいた1同にありあわせで作ったカレーを振る舞った。

 

「明美、 なんか俺だけ玉ねぎ多いんだけど……。」

 

「 文句あるなら飢え死にすれば?…… それで一体何があったの話を聞いてると、『世界一族』にちょっかい出したみたいだけど。」

 

 

 

 

彼は その場の全員の顔を見回し、 まるで数百年前の昔話のように語り出した。

 

「 俺らの失態は、そもそもが数時間前セミナーに乗り込んじまったことなのかもな……。」

 

 

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