サイキョーお兄さん   作:鈴木遥

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万引きをするんだったら5年間修行しろ

・旧座町の門真木政権における欠陥は 一つではない。

その一つが街の影の部分にあたる、 ホームレスの地下街『廃陣の街(ダクト・タウン)』である。

 

ここに住むホームレスたちは数知れず、文字通りの無法地帯。全国最大クラスのその規模もさることながら、 その独自の統率力も推して知るべしと言える。

 

探偵、青葉良人は、 この地下街にいくつかのコミュニティを築いている。

1日分の酒と食料と引き換えに、仕事に必要な情報を得ている。

無気力な公務員に代わり、ホームレス達に勤め先を紹介したりもしているが、 殆どが手続きを面倒がり、地下から出てこない。

 

 

この日、良人は、 ホームレスの中で最も長い付き合い、

『カミサマ』と呼ばれるまとめ役に会っていた。

 

 

「アーメン。」

 

地の底から響くような彼の声に合わせ、良人はうつろに唱える。

 

「アーメン。 あんたも変わらねえなじーさん。」

 

暖かそうな、しかし汚れたダウンコートの上に、ハロウィンと見まごう王冠をかぶり、 髭はもじゃもじゃ、しかし髪は手入れされている。 ふざけているのか、それとも本当に 貧しいのかよくわからない。

 

「それで? 今日は何の用だ? 今日こそ政権崩壊の吉報と俺の王政復古の吉報くれに来たのか?」

 

「 残念ながらまだ道のりは遠いよ。 弟子を取った、一気に3人だ。」

 

「やっぱお前に弟子入りなんざ、物好きもいるもんだな。」

 

「うるせージジイ、 この3人の人探し、 ちゃんと済ませといてくれよな。」

 

良人からカップ酒を受け取り、満足げに 頭を垂れた。

 

事務所に帰ろうとした時。トンネルの奥から騒いでいる声が聞こえた。

 

「……ん?」

 

ホームレスの下っ端、安村が財布を取られたと叫んでいるらしい。

 

「良さん! そのガキ捕まえてくれ!」

 

「何やってんだ!」

 

良人が 追いかけると 小さな少年が一人、トンネルの出口に向けて 全速力で走っていた。

 

「待てやー!」

 

( 誰が待つかよ…… これだけありゃ、今月余裕で暮らせるぜ……。)

 

「 あ、やっぱ待たなくていいよそのまま進んで。」

 

「!?」

 

一本道を歩いていたはずなのに、気が付くと良人が先回りしていた。

 

「 ハーイ坊ちゃん。 血気盛んな年頃だ。元気なのはいいが、盗みにて染めるにはまだ早えーよ。」

 

良人が言い終わる前に、彼は良人の金玉を蹴り上げた。

 

「ごふぁ!」

 

「誰が坊ちゃんだ!」

 

その場で悶絶して倒れこむ良人。

 

「化け物め! しばらくそこで寝てな!」

 

トンネルから出て市街地に到着した時、よりによって 前方で待っていたのは良人だった。

 

「 化け物はお前さんの方だよ…… オレズボンの中に今週号のジャンプしまってたんだよ?

それを蹴り上げて『痛い』っておかしいだろ。」

 

周りに見えない程度にズボンを下げる良人。

 

確かに今週号のジャンプと、 派手なアロハ柄のパンツが露わになる。

 

と同時に、彼のフードが取れる。

血色は悪く、土埃がついていたりはするが、顔立ちはよく、長髪と瞳は綺麗な純黒をしている。

 

 

バツが悪そうに黙りこくる少年。

 

パァン!!

 

クラッカーのような轟音と共に、彼はゆきひとの右ほほひっぱたいた。

門真木機関開発の肉体改造を受けている彼が、 ひっぱたかれて頬に傷跡を作るなど、めったにないことだ。

 

 

「お前一体……。」

 

「 あんたの勝ちだよ!盗んだ財布は返す。警察に突き出すでも……。」

 

「そうか。それじゃ……。」

 

良人は、なぜかゲスな微笑みを浮かべ、彼女の手を引き始めた。

 

 

 

「……で、何でこうなるわけ?」

 

財布を盗んだ美少女を引き連れ、あろうことか旧座の メダルゲームセンターや、岩盤浴、健康ランドなど、あらゆる娯楽施設に連れ回していた。

 

「 まず体から洗わねえとな。 この温泉は芯から癒えるからよ。」

 

「 意味分かんないんだけど。」

 

「え何?、 混浴の銭湯が良かった? 大胆だね君……ごふぁ!」

 

今度は 首元に思いっきり蹴りを入れた。

 

「何でこんな事すんだって聞いてんの!」

 

「…… 別にいいじゃねえか。怪しい風俗に売り飛ばすわけじゃあるまいし。」

 

「 だからキモいの! おじさんにこんなことされる道理ないし…… それとも何!?オレを助けて あしながおじさん振りたいワケ!?」

 

「違うな。 慈善家ぶって面倒な仕事をサボる相手が欲しいワケよ。」

 

全く弁解になっていないヘボ探偵。

だが彼の警戒はガチであった。

 

これまで、彼女に何か サービスを働こうとする人間は、皆、本心では彼を利用しようとしていたからだ。

「なんなのさ! マジキモい!」

 

「お前……宿ねぇだろ?」

 

「今更?」

 

「名前は?」

 

「今更?……親の顔知らないし。」

 

「 お前に、この街で生きていくためのイロハを伝授してやるよ。この先は、俺がくれてやる情けのすべては出世払い。それなら納得がいくか?」

 

少年は数秒間リアクションしなかった。

 

彼が脱衣所に置いていった、ビニールに入った名刺を見て、何も根拠はないが、彼について行ってみることにした。

 

この地を這うヒルのような暮らしから、1日でも早く抜け出すために……。

 

 

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