サイキョーお兄さん   作:鈴木遥

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怪物の宿命

・お茶目バーの前に人だかりができることなど、旧座市では めったにない話だが黒スーツのその集団がおおよそ穏やかな連中ではないことは、 傭兵経験のあるお茶目にはすぐに分かった。

 

「二階堂…… 小僧どもとお嬢ちゃんを上におやり。窓のシャッターを閉め忘れるんじゃないよ。」

 

「 お茶目さん、あの連中!」

 

「 門真木の回し者だろ……? けど妙だねェ。これまで直接うちの店に来たことなんてなかったのに。」

 

「青葉さん達に連絡入れますか?」

 

探偵事務所に連絡を入れようとする二階堂を、お茶目は慌てて制止した。

 

「よしな!良ちゃんは特にね。あいつは、門真木に反旗を翻した筆頭格として顔が知れてる。

この街にいられることすら奇跡なんだから。」

 

「でも……!」

 

「長年危ない商売をしてるとね、目の前の敵に勝てるかどうか、直感でわかるもんさ。 私ら二人じゃ勝てやしないが、なんだろう? 奴らどうも喧嘩しに来たように見えないねェ。少なくとも今日は……。」

 

二階堂の指示通り、上に上がった従業員たち。

 

シャッターは防弾仕様になっており、機関銃で2000発まで、穴の一つ開かないそうだ。

 

店の一階に自分だけが残ったことを確認すると、 相手の出方を伺うことにした。

 

大方予想がついていたが、やはり向こうの方からノックをしてきた。

 

「誰だい。開店前だよ。」

 

出迎えたお茶目は、あくまで冷静なトーンを保ったまま、こちらの焦りに気づかれないよう努める。

 

「自治体のものです。 お忙しいところすいませんが、こちらに指名手配犯がいるとの目撃情報がね……。」

 

「あたしゃ、そんな怪しげなものを雇っちゃいない。」

 

確かに、警察の世話になるようなものを雇った覚えはなかった。

 

「 いえ、おそらく従業員の方ではないかと。こちらに中性的な少女がかくまわれているとか。」

 

さすがのお茶目も顔色が変わった。アイドルタイムに入る少し前、良人からLINEが入った。

 

『 道中怪しい連中につけられてた気がするんだけどたぶん気のせいだから〜!

でも〜万が一? 怖いおじちゃん達が来ちゃったらぁ…

適当にごまかしといてちょんまげ!テヘペロ★』

 

お茶目は全てを確信した。あいつが子供を拾って連れてくるなんて、らしくもないことをすると思ったら、 案の定訳ありだった。

 

目の前にいる敵は門真木の回し者か、 はたまた どこぞの国から来たマフィアの集団か。

 

どちらにしても、ろくなもんじゃない。

 

「それで? そのお嬢ちゃんってのが、もしうちの店にいたとして、どうする気だい?」

 

「 無論、逮捕しますよ。身柄は我々の下で保護し、適切に対処します。未成年といえど容赦はできません。」

 

「あんたら自治体だって?逮捕の権限はちゃんとあるんだろうね。」

 

そもそも警察でもない奴らが犯罪者を逮捕など、聞いたこともない。

 

見たところ彼女は、とても16歳などには見えないので、成人と同等の刑罰が適用されるには早いだろう。

 

そもそもこいつらが入ってきて、すぐに令状も何も提示されていない。

 

公的機関どころか、下手をすれば犯罪組織だろう。

 

「 怪しいねェ。裁判長閣下からの令状は?」

 

「 そちらはですね。まだ手続きの方が……。」

 

「 手続きが終わってないってのにこんな所へ!? あたしの腐れ縁が門真木政権に睨まれてるからって油、断したのかい? あの男だってちゃんと仕事はする。

今通報したら、どちらがしょっぴかれるかね。」

 

 

「そうですか。 ではやむを得ませんね。」

 

一番前で話していた男が、お茶目のすぐ前に進み出た。

 

「 すいませんが、暫く眠って頂きますよ……!!」

 

背広の裏ポケットから何かを取り出そうとする男。

 

その瞬間、強烈な電撃が、 お茶目の胸元を貫いた。

 

その頃、旧座警察署では……。

 

「 なるほどね。 つまり門真木は今、『その兵器』ができちまったおかげで、行き場を失った3人の人間兵器にまるで興味を示さねー……と。」

 

「 もちろん門真木おじ様も 表立ってそんなことはおっしゃいませんけれど、 この前ニュースに流れた防衛省の『アレ』に頭がいっぱいですの。」

 

「『防衛軍備』の名のもとにやつが開発した『それ』のおかげで 他国の攻撃から守るより強力な盾ができた。

賛否両論あれどやつはヒーロー。確かにそんな中極秘に非道な人体実験をしてたとバレりゃ……奴の政治家生命は 消えてなくなる。」

 

「ですから、わたくし達はこれを門真木おじさま失脚のチャンスと捉えておりますの。ね?新見さん。」

 

「国民に存在の知れていない『人間兵器』を、白日のもとにさらす。首相も奴を見限りざるを得なくなるぞ。」

 

「 勝率は……?」

 

「 多めに見積もっても12%程度ですわ♡」

 

「お前…… そんな屈託のねー笑顔で……。」

 

「 だがこの機を逃せば、次いつ奴の腐った政治に綻びが出てくれるかわからない。俺たちゃ、もう後に引けねーんだよ。」

 

新見の眼光がいつになく鋭かったこと、 裏町の、『門真木に逆らった敗者たち』の姿が脳裏をよぎったことなどもあり、少し間を置いてから、良人は首を縦に振った。

 

「 決まりですわね、つきましては良様! 今夜ホテルで2人きりでゆっくりと……。」

 

またもや抱きつこうとしたその時。良人のポケットの携帯が鳴った。

 

「はいもしもし……おう二階堂、どうしたィ?え!?おう……マジかよ!分かった!すぐ行くから待ってな!」

 

「トラブルか?」

 

「あぁ……わりぃユミ、今夜はオレパスな!」

 

「つれない良様……でもそれも素敵……♡」

 

何があったのか告げることもなく、走り去っていく彼の背中を、二人は不安げに眺めていた。

 

お茶目バーには、武器を持った黒服たちが流れ込んでいた 目的は休息でも食事でもなく、無論、雇い主に殺害するよう頼まれた標的だった。

 

彼らにとって最大の誤算は、 突撃の際の要となるお茶目へのスタンガンが 効かなかったことだろう。

 

「甘いね青二才共ォ!アタシゃ、ちっとも靡かない!」

 

左右の拳で、まるで赤子の手をひねるように黒服達をねじ伏せるお茶目。

 

 

「クソ……! かなりの電流を流し込んだはずだ! なぜ立ってられる!?」

 

「アハハハ!もっと楽しませとくれよォ……。」

 

防弾チョッキを着用し、 全員スタンガンまたは拳銃を持っているが、まるで相手にならない。

 

それだけパワフルかつスピーディーな戦術を、彼らは知らなかった。

 

「 こんなの……司令にあった『人間兵器』とやらよりよっぽど強ぇじゃねえか!」

 

「怯むな!撃てぇ!」

 

「アンタ……誰に命令してんだい!」

 

「え……」

 

お茶目の呆れたような冷笑。

 

嫌な予感がして振り返ると、 周りに立っていた自分以外の黒スーツは、全員気絶していた。

 

「 まったく今日は飛んだ日だよ。どっかのバカはガキを一匹預けにくるし、その上団体のお客は、マナーが悪いしねェ……。」

 

「ヒィ……!!オイ上にいる奴ら!何をしてる!早くガキを……」

 

「すいませんがお客さん……。」

 

上からタケルの声が響いたかと思えば、気絶している黒スーツの男が階段から降ってきた。

 

「 店長が言ったでしょ?残りのお客さんは、あんただけですよ。」

 

ようやく圧倒的に絶対絶命な状況が飲み込めたのか、 意識を留めている黒スーツはガタガタと震え始めた。

 

「タケル、二階堂! アンタ等失礼したんじゃないだろうねェ。」

 

「ご安心を、かろうじて生きてるんで。」

 

「さてそれじゃあ、楽しいアンケートと行こうか。」

 

「!?」

 

「アンタの選択肢は2つ……。

この襲撃の目的と指示したやつを暴露するか、

はたまた……。」

 

指をボキボキと鳴らしながら、お茶目が一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「さっきよりず〜〜っと楽しい目に合うか……!!」

 

そのお茶女の態度からして、半殺しでは済まないことが目に見えている。

 

「分かった……言う……言うよ!!」

 

 

その時、2階のロフトから少女が消えていることに、店の中の誰一人気づかなかった……。

 

 

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