無職転生- 異世界行ったら神様に会った -   作:月猿

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プロローグ

第一話

 

 

 

 

 あの小さな少女を、尊敬しよう。

 

 

 そう心に誓い、俺はロキシーの背中が見えなくなるまで見送った。

 

 手元には、ロキシーにもらった杖とペンダント。

 そして数々の知識だけが残った。

 

 

 

 

 

 そうして旅立っていくロキシーを見送った日の夜、

 俺は返し忘れてしまったロキシーのパンツを握りしめ、

 彼女に思いを馳せながらベッドの中で眠りについた。

 

 

 

 ふと、まどろみのなかで意識が浮上する。

 目を開けてみると、真っ白い空間に俺は居た。

 何もない空間だ。

 すぐに夢だとわかった。

 時々ある、夢の中でそれを自覚するやつだ。

 明晰夢、と言うのだったか。

 

 

 

 それにしても体が重い。

 

「…………え?」

 

 

 俺はふと自分の身体を見下ろし、驚愕で目を見開いた。

 34年間見慣れた、あの姿だった。

 

 それと同時に、前世の記憶が蘇ってくる。

 後悔、葛藤、卑しさ、甘えた考え。

 この10年間が夢のように思え、俺の中に落胆がこみ上げてきた。

 

 戻った。

 と、直感的に悟った。

 そして、その現実を俺は簡単に受け止めた。

 やはり夢だったのだ。

 

 長い夢だと思ったが、俺にとっては幸せすぎた。

 

 温かい家庭に生まれ、溢れる才能に恵まれ、可愛い師匠と出会い……

 夢なのだとしたら、もっと楽しみたかったが。

 

 そうか。

 終わりか……。

 

 

 夢なんて、覚めてみるとあっけないものだ。

 

 何を期待していたのだか……。

 あんな幸せで順調な人生、俺に送れるはずがないのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気づくと、変なやつがいた。

 

 

 

 のっぺりとした白い顔で、こちらをじっと見ている。

 特徴は無い。

 こういう顔の部位だと認識すると、

 すぐに記憶から抜けていった。

 覚えることが出来ないのだ。

 

 そのせいか、まるで彼全体にモザイクが掛かっているような印象を請ける。

 ただ、どこか憔悴したような陰鬱な空気を纏っていると感じた。

 

 

 

「やあ、初めまして。こんにちは。ルーデウス君」

 

 落胆に暮れていると、

 卑猥なモザイク野郎が話しかけてきた。

 中性的な声だ。男か女かわからない。

 モザイクかかってるし、女だと考えたほうがエロくていいかもな。

 

「…………」

 

 そいつは挨拶を発した後、黙ってこちらを見ている。

 返事を待っているのかもしれない。

 ちょっとよくわからん唐突な状況だが、相手から挨拶されたんだ。

 こちらも挨拶を返した方が良いだろう。

 

 こんにちは。

 

「うん、こんにちは」

 

 声は出なかった。

 だが、相手には通じたらしい。

 ならこのまま会話することにしよう。

 

 貴方は誰ですか?

 

「うん、ボクは神様だよ。ヒトガミと呼ばれている」

 

 ヒトガミ……。

 

「そうだよ、信じられないかい?」

 

 信じられるかどうかといえば、そりゃあ鵜呑みには出来ません。

 けれどこういう真っ白な夢の中みたいな空間で自称神様と出会うのは定番とも言える。

 しかし、それならちょっと遅くないですか?

 普通は転生する直前とかに現れるものなんじゃ。

 

「普通はって、君の世界ではそんなに頻繁に転生したり神様がでてきたりするものなのかい?」

 

 ……いえ、そんなことはないです。

 創作上の話の定番みたいなものですから、気にしないでください。

 

「そうかい、わかったよ」

 

 まぁ貴方が神様だと言うのは鵜呑みにはできませんが、

 過剰に疑ってもしょうがないと思うので、半信半疑と言うことで良いでしょうか。

 

「うん、それでいいよ」

 

 それで、そのヒトガミ様が僕に何か御用ですか?

 

「……実は、君にお願いしたいことがあるんだ」

 

 お願い……なんですかね?

 

「僕には敵がいる。

 そして、僕はそいつに勝てない。

 負けて、しかし殺されもされずに永遠に封印されることになる」

 

 永遠の封印か……よくある話だが、実際にされるとなると想像するだけで辛そうだ。

 

「ああ、そんなのことになるのは絶対にゴメンだ。

 だから君に、僕を助けて欲しいんだ」

 

 ……いや、チョット待って欲しい。

 そもそもなんで神様なのに敵がいて封印されたりするんですかね。

 相手は世界征服を狙う魔王か何か?

 

「そういうわけじゃないよ。

 アイツが僕を狙うのは、僕が仇だからだ。

 親、一族、世界の、仇だからだ」

 

 仇……仇討ちか。

 

 

 ……ん?

 今、一族とか世界とかって言いました?

 

「言ったよ」

 

 え、それってつまり、

 一つの一族を皆殺しにしたりとか、

 あまつさえ世界を滅ぼしたりとかしたってことか?

 

「ああ、やったよ。

 過去にね」

 

 邪神じゃねーか!

 それじゃ封印されて当然だろ!

 

「言い訳するつもりはないけど、

 今の人族の感覚で僕を責めるのは止めて欲しいな。

 あれは君たちからしたら、神話の出来事だよ。

 幾つもの世界があって、何人もの神がいた。

 僕は他の神と世界を殺して、今のこの世界を生み出した」

 

 ……創世神話みたいなものか。

 そう言われると、確かにそれっぽく聞こえる。

 じゃあその敵って言うのは敵だった神々の末裔ってことか?

 

「そうだね」

 

 ……けど、そんなスケールの戦いで俺が力になれると思えない。

 

 第一、神話の出来事だとは言っても、

 それじゃ恨まれて当然だと思うし、俺が味方する理由も感じられない。

 

「だろうね。でも僕だって黙ってそんな未来を受け入れる訳にはいかない。

 それに、見返りは用意するとも」

 

 ……それでか。

 

「ん、何がだい?」

 

 それで、あんな焦がれるような夢を見せたのか。

 自分に協力すればあの世界に転生させてやるぞって寸法か?

 

「いやいや、勘違いしないでくれよ。

 君が転生したのは夢じゃなくて現実だし、僕は関与していないよ」

 

 ……俺は転生している?

 じゃあこの姿は?

 

「君の精神体だよ。ここには肉体は持ち込まれないからね」

 

 精神体。

 

「もちろん、肉体は無事だ」

 

 なら、これはただの夢?

 目が覚めても、このクソみたいな身体に戻るわけじゃ……ない?

 

「ただの、ではないけれど夢なのは間違いない。

 目が覚めれば、君の身体は元通りだ。

 安心したかい?」

 

 安心した。

 そうか、夢か……。

 

「正確に言えば、夢を介して僕が君の精神に直接語りかけているんだ。

 君の精神と肉体にそんなに違いがあると言うのは僕も驚いてる」

 

 精神に直接ね。

 最初にそれを説明してほしかったけど、まぁそれは良いや。

 それで、見返りがあるって話だったっけ?

 

「そうだよ」

 

 じゃあ聞こう。

 俺があんたを助けるとして、どんな見返りが貰えるんだ?

 

「そうだね……三つ、君の願いを叶えよう」

 

 ほう!

 それは凄い、願いを叶えると来たか。

 しかも三つ、三つの願いか。

 まるでランプの魔人だな。

 

「ランプの魔人?」

 

 俺の世界のお伽噺さ。

 魔法のランプに住む魔人が、

 持ち主の願いをどんなものでも三つだけ叶えてくれるんだ。

 

「へぇ、面白そうな話だね。

 でも僕のほうは残念ながらどんなものでもとは行かないかな」

 

 そりゃそうか。

 しかしそれだと何が願えるのかよくわからないぞ。

 

「正確に言うと叶えるというよりは導く、助力するって感じかな。

 僕には強い未来視の力があるんだ。

 何かの目的に対して、どう行動すればそれを達成できるかを探ることができる。

 この力を君の為に三度、使おう」

 

 なるほど……それで三つの願いか。

 確かにそれは凄そうだ。

 でもそういう力って人の手に余るとかそんな感じで、

 結局身を滅ぼしたりするのがお約束だよな。

 

「だろうね。

 何、アフターフォローサービス付きさ。

 その願いが叶えた後に何か問題が発生するようなものであれば

 僕が事前に警告してあげよう」

 

 事前なのにアフターなのか?

 

「そこは言葉の綾さ」

 

 例えば王様になりたい、とかだったら?

 

「そうだね。

 王権を得た後に隣国と戦争が起こるとか、

 国があれて反乱が起きるとか、

 そういう問題が起きるようなら願いを叶えようとする前に警告してあげよう」

 

 それは助かるな。

 でもそういう問題が起きないように王様になる方法とかは教えてくれないのか?

 

「あれば教えるよ。

 でも僕の力だって全能って訳じゃないんだ。

 なんでもかんでもは無理だよ」

 

 そりゃそうか。

 じゃあ大金持ちになりたいけど商売とか身分とかそう言うしがらみは嫌だ、とかだったら?

 

「社会の中で生きるなら、しがらみはなくせないんじゃないかい?

 まぁ、でもそうだね、

 誰にも知られていないけど簡単に掘り出せる埋もれた財宝の場所とかなら

 すぐに教えられるよ」

 

 なるほど、そういう手もあったか。

 徳川埋蔵金だな。

 

 ……報酬が大きいのはわかった。

 けど別に金に困っているわけじゃないし、

 大それた野望があるわけでもないから、

 あまり魅力を感じないな……。

 

「今はそうかもね。

 でもこの対価はいつでも使うことができる。

 生きていれば何か難しい望みを持ったり、

 困難に見舞われて解決法を望む事もあるんじゃないかな?」

 

 確かに……。

 平和に生きたとしても、災害みたいな避けようのない困難はあるもんな。

 そういう時にどうしたら良いか教えて貰えるのは助かるか……。

 

 それじゃあそのお願いの内容の方を詳しく教えてくれ。

 敵に負けて封印されるって話だけど、俺に具体的に何をして欲しいんだ?

 まさかそいつを俺に倒して欲しいとかじゃないよな。

 

「いや、お願いしたいのはそれだよ。

 僕の敵を、君に殺して欲しい」

 

 マジかよ。

 パウロにすら勝てないって言うのに。

 

「それは今の話でしょ?

 これから強くなってくれれば良いんだよ」

 

 そうか。

 そう言えば未来視があるって話だったな。

 じゃあ敵に負けて封印されるって言うのは将来の話なのか。

 

「そういう事さ」

 

 なるほど……。

 でもなぁ。

 

「まぁ待ちなよ」

 

 ……ん?

 

「今早急に決断はしないでいいんだ。

 そもそも今の話だけじゃ、君は僕の頼みは引き受けられないでしょ?」

 

 そうだな。

 断るって言うよりは受けられないって表現がしっくりくる。

 いくら報酬が大きくても、事情もよくわからない争いに首を突っ込みたくはない。

 仮に実害とかなかったとしても、恨まれたりするのは嫌だしな。

 

「でもね、そもそも僕とアイツの争いに君は無関係じゃないんだよ」

 

 ……どういうことだ?

 

「それも含めて、君には事情を一度把握して貰いたい。

 そうじゃないと受けるか断るのかの判断もできないでしょ?」

 

 それは良いけど、どうも長い話になりそうだな。

 

「そうでもないよ、一晩で済む話さ。

 それじゃあまた明日の夢で会おう」

 

 なんだって?

 

 

 疑問を頭に浮かべるが、ヒトガミと名乗ったモザイク神はそれに応えずに薄れて消えていく。

 いや、消えているのは自分の意識の方か。

 夢の中なのに変な話だが、俺は猛烈な眠気に襲われて、意識を失った。

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 ルーデウス・グレイラットと言う男の夢。

 その生涯を、追体験するように見る夢だ。

 

 本当に自分か?

 そう思うような決断もたくさんあったが、

 ああ、確かにこれは自分だ。

 そう思うような行動もたくさんしていた。

 なんでそこでそんなことをするんだ。

 そんな風にやきもきするような判断もたくさんあった。

 

 けれど、全力で人生を生き抜いて、

 最後はたくさんの家族に囲まれて、

 大団円の中で往生する。

 それを俺は、素直に羨ましいと思った。

 

 長い長い夢だった。

 ハッピーエンドの夢だった。

 

 けれど、目覚めた俺の気分はちっとも良くなかった。

 

 

「どうすりゃ良いんだ……」

 

 

 

 

 

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