「どうすりゃ良いんだ……」
俺はベッドの上で頭を抱えた。
何が事情を把握して貰う、だ。
これはそう言うレベルじゃないだろう。
俺は自分の人生、と言うかその可能性の様なものを夢に見た。
ヒトガミの未来視の力だろう。
未来の俺がヒトガミが封印される夢を見させられていたりもしたしな。
まぁそれは良い。
問題なのは夢の内容の方だ。
確かに事情は把握できた。
ヒトガミの事も、オルステッドの事も。
そこに俺の子孫が関わってくることも。
その上で素直に言わせて貰うなら、
関わりたくない。
未来の俺は龍神オルステッドに対して恩義や仲間意識を持っていたようだが
今の俺はそうじゃない。
追体験をした、と言ってもあくまで夢で、
例えるなら凄く臨場感のある映画をみたようなものだ。
登場人物として好感が持てる奴だったり、逆に嫌悪を感じる奴はいたとしても、
自分の家族だとか仲間だという風には思えない。
あくまで未来の俺と今の俺は別人なんだ。
そりゃあオルステッドは良い奴だと思う。
呪いや境遇も不憫だと思う。
ヒトガミもクズ野郎だと思う。
だけど俺はただの情けない男だ。
転生者で、魔術の才能だってあるのかもしれないが、
ついこの間外に出れるようになったばかりの元引きこもりだ。
未来の、歴戦の魔術師だった俺とは違うんだ。
あんなスケールの争いに関わるのは、荷が勝ちすぎている。
将来的に戦えるようになればいい、と言う話ではない。
そもそもそんな風になりたくないのだ。
今生では本気で生きると決めたが、
それは戦士や兵士になるって事じゃあない。
死線を潜らなければ本気で生きていることにならないとは俺は思わない。
真剣に農家をやったり、全力で商人をしたり、
人生をかけて魔術を研究したりとか、そういう生き方だって十分に立派な筈だ。
魔術や剣術の鍛錬はしていたし、自分や周囲を守る程度の実力は欲しいと思っていたが、
自分から荒事に首を突っ込むつもりも無ければ、ましてやそれを生業にするつもりもなかった。
なのによりにもよって世界最大級の争いに巻き込まれている。
運命とやらのせいで。
思わずガリガリと頭をかきむしる。
「ルディ、ごはんよ~」
ゼニスの声が聞こえる。
いつのまにか朝食の時間になっていたようだ。
急いで着替えて居間へと向かうと、リーリャがテーブルにパンやサラダを並べていた。
パウロは既に席についている。
「おはようございます、ルーデウス坊ちゃま」
「おはようございます、リーリャ、父様」
「おう、おはよう。
なんだ酷い顔だな……珍しく起きるのも遅かったし、
夜更かしでもしたのか?」
「ちょっと夢見が悪くて……」
実際にはちょっとどころではないが。
正直今も頭の中は悩みでいっぱいで、会話もおぼつかない気がする。
「そうだ、父様。
剣の稽古なのですが、今日はおやすみしても良いでしょうか?」
「ん……どうした?
体調でもわるいのか?」
「いえ、ちょっと考えたい事がありまして……」
「なんだ、悩み事か?」
「ええ、そんな所です」
「そうか……まぁ構わんが、
体調に問題がないなら体力の訓練だけは一通りやっておけ。
悩んでいる時は、体を動かしたほうが良いこともあるからな」
「……そうですね、わかりました」
たしかに剣の稽古は別にしても、
部屋で悩むよりちょっとランニングでもしたほうが気分が切り替えられそうだ。
「ところでルディ」
「なんでしょうか?」
「その悩みは父さん達には相談できないのか?」
「……えっと、どう相談したらいいか考えがまとめられたら、相談させてください」
「……そうか」
俺の答えに、パウロは全面的に納得がいったわけでな無い様子だったが、
ひとまずは追求せずに居てくれるらしい。
ありがたいことだ。
朝食を済ませた後、午前は基礎体力訓練にあてることにした。
ストレッチ、筋トレ、ランニングをこなしていく。
その後、魔術で温めのお湯を作り出して汗を流し、さっぱりしたところで昼食をとった。
「……ふぅ」
部屋にもどり、椅子に座り込んで腕組みをする。
今日の夜までに、できるだけ考えをまとめておかなくてはならない。
なにはともあれ、
ヒトガミから持ちかけられた話をどうするか、だ。
……正直、断りたい。
だが、そうすると未来の俺のようにヒトガミに命を狙われるのではないだろうか。
最悪の場合、既に闘神バーディガーディとかが村の外で待機していて、
俺が断ったら即座に踏み込まれて惨殺される可能性すらある。
もしそうだったら、抵抗する手段はない。
むしろ、なぜヒトガミはそうしないのだろうか。
態々俺に未来の記憶なんかをあたえて、警戒させる理由がわからない。
あいつは俺に子供をつくられたら困るはずだ。
逆に、俺の子孫さえいなければ、
自分はオルステッドに勝てる、と言っていた筈。
なら、今無力な俺を始末するのが一番なんじゃあないか?
わからないな……。
そういえば、俺は強い運命を持っているから殺しにくい、と言うようなことは言っていた気がする。
もしかして俺が強いとか弱いとか、大人だとか子供だとかは余り関係ないのか?
俺の元々の生存率が100%だとしたら、ヒトガミが干渉することで死亡率50%の強制イベントを起こせると言うような……。
言ってみてなんだけど、やっぱりおかしい気がするな。
弱いんだから、その分簡単に倒せそうな物だ。
でも、強さで言うならそれこそロキシーは未来の俺よりずっと弱かった。
ヒトガミが動いていたのが転移事件の時からだとすると、時間の猶予もたっぷりあった筈だ。
さっさとロキシーに闘神をぶつければ簡単に殺せそうなものなのに、ヒトガミはそれができなかった。
ヒトガミはロキシーも運命が強くて、思い通りにならないと言っていたが……。
……運命か。
運命が強いとか弱いとか、よくわからない概念だ。
仮に生死や勝敗がそれで決まってるんなら、剣術や魔術を鍛える意味ってないのか?
じゃあ運命を鍛えるとか?
それこそ雲をつかむ様な話だ。
ロキシー……。
ヒトガミによると、俺とロキシーはどうやっても結ばれる運命にあるらしい。
おかしな話だ。
ロキシーみたいな美少女と赤い糸で結ばれている、みたいな軽い話なら大歓迎だが、
自分の未来が最初から決まっていると思うと理不尽な気分になる。
そりゃあ、わけもわからずロキシーには近づくなとか、
彼女と結婚したら殺すぞとか脅されただけなら、従わなかったかもしれない。
けれど今の俺は事情を知っている。
俺が彼女と結ばれれば、ヒトガミが敵に回る。
あの未来から来たらしい……ややこしいな、老人の俺の話によればロキシーはそれで一度は殺されている。
そして未来の俺の人生でもヒトガミの使徒と何度も争っていて、どこで負けていてもおかしくなかった。
既に俺とロキシーが恋人同士だったら、
二人の仲を引き裂こうとするやつには全力で立ち向かうかもしれない。
でも今はただの師匠と弟子の関係だ。
確かに俺は彼女を敬愛してる。
異性としてもとても魅力的だと思う。
でもそれだけだ。
何が何でも彼女と結婚しなきゃいけない理由はない。
と言うか俺と一緒になると確実に命を狙われることになるのがわかってて、
付き合ってくださいとか言えないだろう、普通。
ロキシーとは結婚しない。
彼女のことは可能な限り避ける、
というのはどうだろうか。
俺の子孫は全員オルステッドの呪いがきかないみたいだったけれど、
たぶんそれはそこまで大きい問題じゃあない。
未来の俺は別れの時になるまで気付いていなかったみたいだが、
客観視してみれば、ララって娘の特異性はあきらかだ。
彼女が時折口にしていた不思議な話は、ヒトガミとの戦いに関してのものだろう。
オルステッドがヒトガミを倒す為に仲間が必要だというのなら、
たぶん彼女がキーパーソンだ。
ヒトガミも、ロキシーを特別視した言動をしていた。
だから、俺が彼女さえ避けると決めたならば、
ヒトガミもそれで手を引いてくれるのではないだろうか。
なんならシルフィやエリスだって避けても良い。
彼女たちとは俺はまだ出会っていない。
俺にとって彼女たちは、あくまで間接的に知っていて好感が持てる人物であると言うだけの相手だ。
不幸になって欲しくはないと思うが、自分の結婚相手として執着するほどではない。
オルステッドには……申し訳ないとも思うが、
元々、彼とヒトガミとの争いなのだ。
俺がどちらかに助力しなければいけない理由はない。
彼が独力でヒトガミに勝てないのであれば、それはしょうがないことだろう。
とにかく、
ロキシー他指定される一部女性とは結ばれないようにするから、
自分とは関わらないでくれるよう頼む、と言うのを第一案としよう。
流石にロキシーだけに関わらず、生涯誰とも結婚するなとか言われたら嫌だが、
最悪それで済むなら良しとすべきかもしれない。
それでもだめなら……ヒトガミに従わざるを得ないかもしれない。
何しろ、俺にはアイツに対する対抗手段がない。
従わなければ俺も家族も殺すぞと言われたら、それで終わりだ。
オルステッドに保護を求めるとしても、今どこで何をしているのか情報が全くないし、
ヒトガミだって当然その手段は想定しているだろうから、危険すぎる。
もしそうなったら俺はあいつの鉄砲玉になるために、
ひたすら自分を鍛えて、いつかオルステッドに向かって発射されるために生きる事になるのか。
……憂鬱だ。
そんなことにならないことを祈ろう。
……いや、余り後ろ向きになるな。
もしそうなったとしても、ヒトガミは将来俺が強くなったらと言っていた。
今すぐじゃないんだ。
全力で自分を鍛える、と言うのは元々するつもりだったことだ。
それにちょっと目標が加わるだけだ。
ちょっと相手が世界一強くて負けると死ぬ可能性が高いだけで……。
まぁ自分の人生設計としちゃ好みじゃないが、世界最強を目指すと言えば浪漫はある。
その時までに誰とも結婚していなければ、
負けた後にヒトガミに家族になにかされると言うこともないだろう。
どうせ一度は死んだ身だ。
もしそうせざるを得なかったとしても、前向きでありたい。
……けどやっぱり、もっと他に選択肢が無いかは考えておこう。