朝、ベッドの中で目が覚める。
俺は夢を見なかった。
ヒトガミは、呼ばなかった。
助けを求めるなら早い方がいい。
それはわかっている。
けれど、数日、数週間ですぐどうなるという物でもない。
決断の先送りかもしれないが、もう少し考えたいと思った。
ただ、あの事件が起きるのは単なる時間経過ではない可能性は考慮する必要がある。
未来の俺は、10歳の誕生日にエリスとベッドで致しそうになった。
ナナホシの仮説に従えば、それがあの事件の最後の引き金になっていたかも知れない。
10歳の誕生日の夜になにがあったか。
未来の俺とエリスは将来の約束をかわした。
俺が成人したら……15歳になったら結ばれようという約束だ。
つまりあの時点で、将来俺とエリスが結婚するのが確定的になったと言える。
エリスは強くなるための才能がある。
元々の気性、戦闘センス、身体能力、どれをとっても抜群だ。
そして彼女がひたむきに剣の修業をしたのは、未来の俺のためだ。
オルステッドの言う元々の歴史では、たしかアスラ王国の騎士になったんだっけか。
強さも聖級止まりだったという。
もし、俺と彼女が結ばれてその子孫が生まれたら、きっとオルステッドの力になるだろう。
実際ヒトガミに見せられた最後の戦いの後っぽい夢のなかでは、成長したエリスによく似た娘が居た。
彼女の誕生の可能性が開けたことが、最後の引き金か。
では転移事件を防ぐためには、エリスと仲良くならなければ良いのか?
少し考えてみたが、それはたぶん違う。
俺とエリスとの関係と言うのはあの事件の発生に影響する要素ではあっても、たぶん決定的な要素ではない。
未来でのヒトガミの敗北。
根本的にはそれがあの事件の引き金だ。
サウロス爺さんはあの珠を俺が5歳ぐらいの時にみつけた、と言っていた。
丁度、今だ。
ヒトガミが俺に接触してきたのも、今。
偶然とは思えない。
俺がロキシーと師弟関係を結んだことで、彼女との縁が生まれた。
俺と彼女と結ばれることが確定に近くなったことで、ヒトガミの敗北の可能性が生まれる。
それによって赤い珠が生まれ、ヒトガミもまた俺に接触を始めた。
今後、俺やオルステッド等が行動することでヒトガミ敗北の可能性はより高まっていくとする。
その可能性がある一定のラインを超えた時に、ナナホシの存在が必要になり転移事件が発生するのではないか。
……辻褄は合う。
という事はエリスと仲良くなる以外にも、結果的にオルステッドにとって将来有利になるような影響を俺が発生させた場合、同じように転移事件のきっかけになりかねない。
そうすると、下手にオルステッドやペルギウスと接触するのは危険かもしれない。
では、俺が何もしなければ?
それも、望み薄だろう。
ヒトガミは自分は負けると言っていた。
だから負けた後の逆転に賭けることにした、と。
それでも遠い未来だからなのか、今この時点ではそれは確定していないのだろう。
ヒトガミとは無関係にオルステッドがラプラスとかにやられてしまう可能性だってあるしな。
でもあいつが既に決戦後の逆転に賭けている以上、時間がたつほどヒトガミ敗北の可能性は収束していく筈だ。
オルステッドは今こうしている間にも、その可能性を高めるために色々と動いているだろうしな。
という事は俺が何もしなくてもいずれ転移事件は発生する可能性は高い。
ヒトガミがオルステッドへの妨害工作を既に止めているとしたら、早まる可能性すらある。
全ては仮説だ。
本当の所はわからない。
ただ、検証することはできる。
まずは赤い珠がボレアス家の館に発生しているのかどうか、確かめるべきだ。
そしてもし赤い珠があったなら、それが俺の行動によって変化するのかどうかも確かめたい。
その為にはどうするか……。
---
俺は家族が揃ったタイミングで、話を切り出した。
「父さま、母さま、相談があります」
「ああ、聞こう」
パウロがこちらを見て頷く。
その横に座っているゼニスも、真剣な表情でこちらを見ていた。
「はい……相談というのはロキシー先生のことです。
色々と考えたのですが、僕はまだ彼女に教えを受けたいと思いました。
つきましては、彼女を再度雇い直すという事は可能でしょうか?」
色々と考えた結果、俺はロキシーを頼ることにした。
まず彼女は自由に動きやすい立場にあること。
また、優れた魔術師であること。
異常な現象に対しても柔軟に物事を考えられる発想や思考力をもっていること。
彼女と俺との関係性が、赤い珠、ひいては転移事件の発生に影響を及ぼす可能性があることなどが理由だ。
彼女はまだブエナ村を旅立っていったばかり。
足取りを探しながら急ぎ旅で追いかければ、追いつける可能性は高い。
それにここからどこへ行くにしても、乗合馬車の中継点であるロアの街を経由している筈。
彼女を追いかければ、その最中にボレアス家の館を確認することも出来る。
おまけに、パックスの家庭教師に収まるのを防げるかもしれないと言うのもある。
「そうか……」
俺の言葉を聞いて、パウロは深く頷いた。
「あなた……」
「あぁ……」
そしてゼニスと見つめ合って、何やら二人で納得しあっている。
どういうことだ?
それほど無理なお願いはしていない……と思う。
そもそもロキシーが旅立つ時、パウロもゼニスも彼女のことを引き止めていた。
だから再度彼女を雇い直すことになっても、さほど問題は無い筈だ。
「なぁルディ」
パウロが真剣な目で俺を見てくる。
「はい、父さま」
「お前……そこまでロキシーのことが好きなのか?」
……なんだって?
「ロキシーちゃんが出ていってから、ルディはずっとふさぎ込んで居たものね……」
ゼニスは俺を気遣うように声をかけてくる。
これは……。
---パウロ視点---
息子が深刻な表情で俺たちに相談があると言うので、話をすることにする。
生まれた時からめったに動揺を見せなかった息子だ。
年齢に不相応……どころか、下手な大人顔負けのこの子が、豹変したように暗く思い悩んでいた。
こんなルディは始めて見た。
余り頼られる事のない父親として、なんとか力になってやりたい。
だがルディの悩みには想像がついている。
十中八九、つい先日まで家庭教師としてルディに付けていたロキシーのことだろう。
何しろ、彼女が旅立って行った次の日からルディは突然悩みはじめた。
そうとしか考えられない。
ゼニスにも相談したが、彼女も俺と同意見だった。
ゼニスと二人でルディの言葉を待つ。
そしてその口から出てきたのは、やはりロキシーの事であった。
俺はゼニスを見て、二人で頷きあった。
ルディは5歳。
性の目覚めと言うには早いが、初恋と言うことであれば珍しくもない年齢だ。
若い乳母、世話を焼いてくれるメイド、厳しくも優しい家庭教師や幼年学校の先生。
男の初恋は大抵そういう親身になってくれる年上の女性と相場が決まっている。
ルディにとって、ロキシーはその条件に完全に当てはまっている。
リーリャと比べれば容姿はちょっと子供っぽすぎるが、逆にそれがルディにとって手の届く相手に感じさせたのかもしれない。
それにロキシーは魔族だ。
勿論魔族と言っても色々らしいが、今あの見た目ってことは人族よりずっと老化が遅い種族なのは間違いない。
だとすると、たとえば10年後。
ルディが15歳で成人した時、隣にロキシーが立てば十分釣り合うだろう。
聡い息子だ。
そういう可能性にも頭が回ってもおかしくはない。
そんなルディが、ロキシーを呼び戻し、雇い直して欲しいと頼んできた。
この頼みはゼニスと相談し、予想していたうちの一つだった。
だがルディがこういう事を言ってきた時にどうするかと言う事に関しては、俺とゼニスの意見は異なってしまった。
俺は、ルディがこれを頼んできた場合断るべきだと思った。
こういう初恋と言うのは実るものではない。
年齢の壁というのは厚いものだ。
10年後なら釣り合うかもしれないと言ったって、ロキシーにルディを10年間待たなきゃいけない理由なんて無い。
俺にも覚えがある。
まだガキだった俺を甲斐甲斐しく世話してくれた一人のメイド。
彼女は美人だった。
当時うちにいたメイドの中ではたぶん若手で、今にして思えば結構新人だったのかもしれない。
俺はそんな彼女のことが大好きだった。
しかし彼女は程なくして結婚し、うちのメイドを退職することになった。
俺は荒れた。
別れの挨拶に来た彼女に、なんで辞めるんだ、自分とその結婚相手とどっちが好きなんだとつめよったりもした。
馬鹿なクソガキだった。
しかし男のガキなんてそんなものだ。
俺みたいに喚くかどうかは別にしても、身の丈に合わない恋をして、何も知らない間に失恋している。
年上への初恋ってのはそういうもんだ。
男はそうやって成長していくんだ。
ここでロキシーを呼び戻したとしても、それは初恋の終わりを先送りにするだけだ。
良いことだとは思えない。
だがゼニスは、息子の恋を応援してやりたいらしい。
なにしろ、ルディは天才だ。
とても5歳とは思えないほど大人びているし、魔術の腕はなんとこの歳にして水聖級だ。
剣術だって、筋は悪くない。
頭で考えすぎている部分はあるが、鍛錬はとても真面目だ。
このまま鍛錬を続けて、闘気さえ纏えるようになれば一端の剣士にはなれるだろう。
こんな優良物件はそうはいない。
それにロキシーの寿命は長い。
長寿の種族の連中は自分達より短命な種族が相手でも、その相手が成人していれば年齢差を気にしないで対等に振る舞うことが多い。
昔の仲間に耳長族がいたが、そいつは夜の相手に年齢なんかお構いなしだった。
だからロキシーがルディの成長を待っても良い、と考える可能性もゼロではない。
しかしルディは俺の息子……すなわち、ノトス・グレイラットの血筋だ。
俺はもうノトスの家名は捨てたが、その血が流れていることまで否定はできない。
すなわち好色にして巨乳好きの血だ。
俺は胸が小さいのはそれはそれでイケるが、結局最後に選んだのはゼニスだった。
しかもそれまでどれだけいろんな女の間をフラフラしたかわからない。
ロキシーの胸は残念ながら平坦だ。
と言うか今のルディから見れば彼女は綺麗なお姉さんかもしれないが、成人した人族から見れば彼女の容姿は幼い。
ルディが成長に伴って彼女への興味を失うということは十分に考えられる。
何年もまたされたあげく、もういいですと捨てられる。
それではロキシーに対して余りに不義理だ。
逆にロキシーにその気がないのにただ家庭教師として雇い直したとしよう。
何年も側に居てもらって思いをつのらせた挙句に、結局仕事を終えて彼女が旅立つのであれば、ルディのとってはただ残酷なだけだ。
ルディのお願いは跳ね除けるべきだと俺は思った。
だがゼニスは、ロキシーは見た目がどうあれ一人の大人なのだからそれは彼女が自分で判断することだという。
たしかにそれはその通りだ。
彼女が見た目通りの子供であれば俺達が気にかけてやるべきだが、そうではない。
ルディを将来の見込みが大きい先物物件だとして、待つことにするもしないも。
それで成功するも失敗するも彼女の判断であって、自己責任だ。
しかしルディの方はそうじゃないと俺が言うと、ゼニスはそもそもルディの思いがどんなものかはまだ分からないという。
今は思い悩んでいるみたいだが、そのままロキシーへの思いは胸に秘めてその初恋を静かに終わらせる可能性もある。
そうせずに俺達に何かを願い出たとしても、それがどのぐらい強い思いなのかは聞いてみなければわからない。
お気に入りの先生と離れたくなくて、ただなんとなくもっと一緒にいたいという程度のものなのか。
異性としてはっきり意識していて、彼女を求めるものなのか。
将来のことまで考えた真剣なものなのか。
俺としては、本人がどれだけ真剣なつもりだったとしても、あくまで子供の考えだ。
ここは俺達が厳しくしなければならないと言ったのだが、
ゼニスはルディの思いが真剣なものであれば、自分たちが頭ごなしにその思いを否定するのは良くないと言った。
初恋が実らないとしてもせめて告白ぐらいはさせてあげるべきで、自分たちは応援する立場であるべきだという意見だ。
なので、俺たちはまずはルディの気持ちを確かめるということで同意した。
「お前……そこまでロキシーのことが好きなのか?」
俺が問いかけると、ルディはキョトンとした表情に変わった。
こちらの言葉が予想外という反応だ。
たぶん、自分の思いに気付かれていないと思っていたんだろう。
傍から見たらバレバレなんだが、こういうところは子供らしいんだなと思った。
「えっと、好きかと言われれば勿論好きですが」
「そうか……それはどのぐらいだ?」
「どのぐらいと言われましても……」
「一緒にて仲良くしたいだけか? それとも彼女をみてキスしたいと思うか? それとも彼女とベッドで痛っ!?」
ゼニスに殴られた。
「あ~……えっと、それとも、彼女と将来結婚したいとか思っているか?」
俺はそう言って息子の反応を伺う。
ルディはもごもごと口をうごかして答え辛そうにしていたが、やがて観念したのか口を開いた。
「……そうですね。
今父さまに聞かれたような事は全部思ってはいますが……」
やはりか……。
「そうか……だがな、ルディ。
お前はとても聡いがまだまだ子供で、ロキシーは見た目は小さくても立派な大人だ。
その溝はお前が思うよりもずっと大きく深いものだ。
それでもお前は彼女に側にいて欲しいと―――」
「いや、ちょっと待って下さい父さま」
俺の言葉をルディが慌てた様子で遮り言う。
「ロキシー先生の事は確かに好きですが。今はそういう意図で彼女を雇い直すようにお願いしているわけではありません」
「なんだと!?」
では何だと言うのだろうか。
「今回のお願いは純粋に魔術の弟子としてのものです。
確かに僕は水聖級の魔術を使えるようになりました。
魔力量や無詠唱の事も考えれば、覚えた魔術を使うだけならロキシー以上かもしれません」
ルディの言葉通りだ。
そんなわずか5歳の子供に追い抜かされて、ロキシーは持っていた自負をかなり傷つけられてしまった様子だった。
我が息子ながら空恐ろしい才能だが、そんなルディが好意以外にどんな理由でロキシーを必要とするのか。
「ですが言ってしまえばそれだけです。
ロキシー先生がいなくなってわかったのですが、僕はここからどうしたら更に魔術を勉強できるのか全然わかりません。
それに覚えた魔術もただ発動できると言うだけなんです。
どんな時に使うべきなのか、どうすればうまく使えるのか、そういうこともさっぱりです」
「なるほど……」
息子の言葉には確かに頷かされるものがある。
俺も冒険者時代に覚えがあるものだ。
魔力量やら、使える魔術の位階だとか、そんなものばかり自慢する魔術師がどれだけ役に立たないか。
逆に使える魔術は少なくとも、必要な時に必要な援護をしてくれる魔術師がどれだけありがたいか。
ルディは本当によく考えている。
この歳で水聖級魔術師になっておきながら、有頂天になるどころかその力の正しい活用法についても考えられるとは……。
「だ、だがなルディ。
それなら何も必ずしもロキシーである必要はないだろう?
誰かまた別の家庭教師を探しても良いんじゃ……」
「そうですけど、ロキシー先生はとてもいい師匠でしたよ?
代わりに来てくれる人が王級以上の魔術師だったり、
先生以上に教師として素晴らしい人でないなら、別の人にする意味がわかりません」
「まぁ、そりゃそうか……」
俺は魔術の事はわからないが、ロキシーが熱心にルディに教えていてくれたのは知っている。
家庭教師と言ってもその質は当たりハズレが大きい。
ロキシーは門外漢の俺の目から見ても、良い家庭教師であったというのはわかる。
それにゼニスとも仲が良かったし、住み込みだとそういう人間関係も大事だ。
そして王級以上の魔術師となると、これはもう輪を掛けて無理な話だ。
聖級ですら個人の家庭教師としては破格なのだ。
王級にもなると、もう一国の宮廷魔術師とかそういうレベルだ。
とても個人が家庭教師に雇えるような相手ではない。
ルディの話には淀みがなく、とても嘘をついているようには思えない。
純粋に魔術の教師として、と言う話なら断る理由は全然ないのだが……。
「じゃあルディ。
今回の話には本当にロキシーへの好意とは関係がないんだな?」
「はい。
もちろん先生とまた一緒にいられたら嬉しいですけど、そのために引き止めるわけではありません。
もう一度家庭教師をして貰ったとしても、教わるべきことを教わった後でなら、改めて先生が出ていくのを止めようとはしないつもりです」
「そうか……わかった。
しかしロキシーはもうお前を卒業させたつもりで出ていったんだ。
改めて名指しで募集をかけても来てくれるかどうかはわからないぞ?」
「それなのですが、先生はまだ旅立ったばかりですし今から急いで足取りを追えば追いつけないでしょうか?
先生にあえたなら、説得は僕自身でするつもりです」
「なんだって!?
お前、ロキシーを追いかけていくつもりなのか!?」
「はい」
なんてことだ。
つい先日始めて家の敷地を出たばかり、と言うルディがそこまでの覚悟を既に固めているとは……。
本当にロキシーへの好意は関係ないのだろうか?
「そうか……お前の思いはわかった。
だが当然だが一人で行かせるわけにはいかない」
「もちろんです。
なので父さま、僕を連れて先生を追いかけて貰えないでしょうか?」
「それは……」
息子の初めてのわがままだ。
叶えてやりたいという思いはある。
だが俺はこの村付きの下級騎士で、あまり村を離れるのは良いこととは言えない。
特に、フィリップに頼み込んで貰った立場だからな。
俺が離れている間に村になにかあっては申し訳がたたない。
しかし、村を離れるのが完全に禁止されているというわけでもない。
緊急時でもなければ、ある程度の外出はできる。
ただ、今日急いで準備をして明日出たとしてもロキシーとの時間差は3日だ。
こちらが急いだとしても、追いつくのにどれだけかかるのかはちょっとわからない事を考えると安請け合いはできない。
「うーん……」
俺が唸っていると、横から袖を引かれる。
「ねぇパウロ……私がルディを連れていくんじゃだめかしら?」
と、ゼニスがこんなことを言い出した。
反射的にだめだ、と言いそうになるのをなんとか堪える。
ゼニスは考えなしにこんなことを言い出したりはしない。
ゼニスとて元は高ランク冒険者だ。
旅慣れているし、荒事の経験だってある。
だがパーティでの役目は治癒術師であり、彼女自信の単独の戦闘能力は決して高くない。
しかも、若く美しい。
そんな彼女が足手まといの小さな子どもを連れて旅をすれば……いや、待て。
よく考えればルディは水聖級魔術師だ。
実戦経験こそないが、ただの無力な子供では決して無い。
それを考えれば大丈夫だと言う気もするが、しかし実力に関わらず子供連れの若い女と言うだけで悪人の目を引き寄せやすい。
悩む俺を、ルディとゼニスが見ている。
……決めた。
こんな時に父親の頼り甲斐を見せてやらなくてどうする。
「よし、わかった。
なんとか仕事の都合はつける。
家の事はリーリャに頼もう。
ゼニス、ルディ……俺も一緒に、始めての家族旅行といくか!」
「あなた!」
「父さま!」
二人が笑顔になる。
この笑顔のためなら、俺が頑張る価値はあると感じる。
ふふ……俺、今かなり頼れる良い父親してるよな?
---ルーデウス視点---
まさかロキシーへの恋煩いで悩んでいたと思われるとは。
なんとか説明したが、パウロもゼニスも完全に納得した感じではなかったな。
まぁロキシーのことは好きだと正直に言ってしまったからしょうがないが。
しかし、俺は両親に嘘は付きたくなかった。
ロキシーからまだ学びたいことがあるというのも本当のことだ。
未来の俺もこの後すぐに伸び悩んでいたし、魔法大学には行けるとしてもかなり先の話だろうしな。
転生のこと、ヒトガミのこと、未来のこと。
今話せないことはたくさんある。
でもそれは今話しても、二人を混乱させるだけだと思うからだ。
自分の都合で、二人を騙して利用するのでは無いと思いたい。
だからいつかは話すつもりだし、それ以外の事でもなるべく嘘は付きたくなかった。
パウロはいい父親だ。
ゼニスもいい母親だ。
そりゃあ聖人君子ってわけじゃない。
問題は色々ある。
それでも良い両親だ。
俺は転生者だが、それでもこの二人を自分の両親だと思っている。
未来の俺の夢をみてから、その思いは以前より強くなった。
だからこそ、あんな風にはなって欲しくない。
転移事件をなんとかしよう。
そのために、まずはロキシーに会いに行こう。