無職転生- 異世界行ったら神様に会った -   作:月猿

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城塞都市ロア

 

 ガラガラと地面を走る車輪の音が鳴っている。

 俺は今、小さな荷馬車の荷台部分に座っていた。

 二頭立ての幌なし四輪馬車と言えば良いのか。

 

 御者はパウロがやっている。

 馬車を牽いているのは我が家の愛馬カラヴァッジョに加えて、パウロが借りてきたもう一頭の栗毛の馬だ。

 なんでもブエナ村の共有馬で、普段は村長が管理しているらしい。

 今回はそれを拝借させて貰ったという事だ。

 

 しかし実は両親に加えて子供の俺一人ぐらいならカラヴァッジョで引くこともできるらしい。

 ロキシーと俺ならともかく、かなりがっしりした体格のパウロを含めた三人分。

 しかも馬車付きと考えるとかなり大変そうに思ったが、意外にもそうでもないのだとか。

 車輪の力と言うのは俺が思っていたよりも凄いらしく、馬+直で2人乗りよりも、馬+馬車に3人乗りの方が歩いて進むだけなら馬は楽なんだとか。

 もっとも一頭立てでは歩くだけが限界で、走らせることは流石にできないらしい。

 ロキシーの説得が上手く行けば、帰りには乗員が一人増えるであろうことも考慮し、今回は二頭立てにしたとのことだ。

 

 ブエナ村から城塞都市ロアまでは急がなくても半日程度とのことだが、ロキシーを追って更にそこから街道を進む事も考えて、荷台には食料や野営道具なども準備してある。

 おかげでガタガタと揺れる荷馬車だが、尻の下に野営用の分厚い防寒布を強けるので多少は乗り心地も楽だった。

 そういう旅立ちまでの手際の良さを見ると、流石にパウロもゼニスも旅慣れているのだなと実感する。

 

 そう言う旅に必要な知識をあれこれ説明してくれる時に俺が感心の目をむけていたことに、パウロは機嫌がよさそうだった。

 あれか。

 父親らしい頼り甲斐とか威厳を見せれて満足ってやつか。

 確かに俺は中身こそ子供ではなくてもアウトドアに関してはさっぱりどころじゃないので、パウロの余裕そうな様子は頼もしい。

 

 そういえばアメリカには父親が息子に教えるべき3つのこと、みたいな格言があった。

 キャンプと、釣りと、キャッチボールだったっけ?

 確かに家の中では邪魔者になりがちな父親が、息子に良いところを見せるにはぴったりだな。

 パウロも満足そうだ。

 そんな夫の様子を、ゼニスは呆れた目で見ていたが……。

 

 そんなゼニスは今、荷台で俺の横に座っていてあれこれと話しかけてくる。

 俺はロキシーのどういうところが気に入ったのか。

 彼女のどんなところが好きなのか。

 ロキシーの好みはどんな男性だと思うか。

 彼女と恋人関係になったなら、浮気はしてはいけない。

 一途に、そして節度ある付き合いをしなければならない等々。

 

「あの……母さま。

 僕は別に愛の告白をしたりするために先生を追いかけているわけではないんですよ?」

「やーねぇ、ルディ。

 勿論わかってるわ。

 ところでロキシーちゃんはもっとオシャレをしても良いと思うんだけどルディはどう思うかしら?」

 

 全然わかっていない。

 が、別に問題もないので俺はゼニスと会話を続ける。

 

 ロキシーは一見野暮ったく着飾ることに興味はありませんみたいな風体だが、

 実は細部の違う5枚のパンツを履き分けているのを俺は知っている。

 見えない所にこそ気を配る……粋ってやつだ。

 彼女は隠れオシャレさんなのだ。

 

 そうして俺は彼女に似合うであろう服装などをゼニスとあれこれ話し合ったりしていた。

 彼女はとても楽しそうであった。

 

 

 

 

---

 

 

 

 ロアの街に到着した。

 時刻は昼過ぎ。

 朝早くにブエナ村を出て、少し駆け足気味に馬を走らせてこの時刻だ。

 

 門を抜けてすぐの所、パウロが馬車を止める。

 

「よし、予定通りだな。

 この時間なら今日はまだ余裕がある。

 ロキシーの足取りがすぐにつかめればそのまま追う事も考えて行動するぞ」

「はい」

「えぇ」

 

 パウロが御者台を降りるのにあわせて、俺とゼニスも荷台から石畳へと足を下ろす。

 ずっと座っていたので足が強張っているし、尻もちょっと痛い。

 俺は立ったまま足を少し動かして、筋肉をほぐしながらパウロに問いかける。

 

「父さま、先生の足取りを追うにはどうするのが良いと思いますか?」

「そうだな……とりあえず二手にわかれるか」

 

 そう言ってパウロは自分の後ろにある建物を顎で指し示した。

 

 

「俺はここの馬屋に馬車を預けて馬を休ませる。

 それから乗合馬車の待合所なんかでロキシーが利用した形跡がないか聞き込みをしておこう」

「なるほど……ロキシーがロアから更に移動する場合それらを使う筈ですもんね」

 

 ロキシーは自前の馬などは持っていなかったし、

 乗合馬車が使える街道をわざわざ徒歩で移動する可能性も低いだろう。

 

「お前はゼニスと一緒に冒険者ギルドに行ってこい。

 ロキシーも冒険者だ。

 ここのギルドで何か仕事を受けるなり、した可能性もあるからな」

「わかりました」

 

 さすがに元冒険者だ。

 こういう捜索も手慣れている。

 俺が頷くと、ゼニスが口を開いた。

 

「ふふ、冒険者ギルドに行くのも久々ね」

「あー、そうだな。

 ゼニスはもう6年近くになるか。

 ひさびさだからってはしゃぐなよ?」

「馬鹿ね、大丈夫よ。

 貴方じゃないんだから」

 

 そう言ってパウロとゼニスが笑い合う。

 

 そうか。

 俺が生まれるから二人は結婚して冒険者を引退したんだものな。

 パウロは騎士の仕事の関係で、今もたまに冒険者ギルドにも行くらしいが、ゼニスは基本的にブエナ村からでないからな。

 出発を決めた時、パウロは家族旅行なんて表現をしたが案外ゼニスもその気で楽しんでいるみたいだ。

 

 道中特に危険があるわけでもなし、ちょっとしたスパイスのある小旅行気分と言うところか。

 二人共俺の頼みを軽く考えていると言うわけではなく、単に余裕があるって事だろう。

 それに、こういう理由でもないと中々家族揃って村の外にでることもないだろうしな。

 

「それじゃ、行きましょルディ。

 街は人が多いから、はぐれないように手を繋いでおきましょう」

「わかりました、母さま」

 

 俺は素直にゼニスの手を取る。

 こういう行動を俺は躊躇しない。

 

 子供というのは大人ぶるものだ。

 だから周りにボクちゃんはママが一緒なんだね、とからかわれたりするのを嫌がる。

 そして恥ずかしさから反発して、お母さんはついてこないで! 等と言ったりするのだ。

 俺は子供の頃、そういう振る舞いをして母を寂しがらせた記憶がある。

 

 だから俺は今その反省を活かすのだ。

 特に、普段なかなか歳相応に振る舞えない分、こういう所で子供っぽさを出していく。

 誰も得しない無意味な反抗はしないのだ。

 大人だからな。

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

 結論から言ってしまうと、ロキシーの足取りは拍子抜けするほどあっさりと掴むことが出来た。

 冒険者ギルドで聞き込みをした所、彼女はロア近隣の別の村から出された依頼で魔物の討伐に向かったそうだ。

 その為何事もなければ近日中にロアの冒険者ギルドに報告にくる筈だった。

 

 ゼニスが冒険者ギルドの受付でロキシーに対して伝言を頼んでくれた。

 これでロキシーが依頼の報告をした時、俺たちが彼女を訪ねてロアに来ていることが伝わるだろう。

 後は、待つだけだ。

 行き違いは避けたいので、こちらから依頼があった村へ行ったりはしない。

 街道は一本道だが、ロキシーが既に街へ戻ってきていて報告前に一旦宿で休んでいるだけと言うケースも考えられる。

 

 だから、このまま数日はロアの街に滞在してロキシーと接触できるのを待つ。

 それ以上掛かるようであれば、冒険者ギルドで再度言伝を頼んでブエナ村へ戻ると言う方針で決定した。

 

 

「それでは父さま、ここで宿を取るのですか?」

 

 俺は内心でボレアス家の事を気にしながら、素知らぬ顔でパウロにそう尋ねる。

 

「いや、ルディには言っていなかったがこの街には親戚がいてな。

 すぐ戻るならともかく、ここに滞在するなら挨拶はせにゃいかん。

 歓迎してくれるかはわからんが、ロアにいる間は泊めて貰うぐらいはしてくれるだろうしな」

「こんな近くに親戚がいたのですか。

 わかりました、失礼のないように気をつけます」

「ああ、それが良い。

 なにしろ相手はこの街の領主、ボレアス・グレイラット家だからな。

 街の中心に壁で囲まれてる所が見えるだろう?

 あれが丸々ボレアスの館だ」

「それは驚きました。

 うちにそんなに凄い親戚がいたんですね」

 

 俺は自分でも白々しく思ったが、驚いた振りをする。

 

「あんまり驚いたようには見えないが、ルディはそう言うの顔に出ない性質なのかな……」

 

 パウロが言葉をこぼす。

 演技が下手ですまん。

 ヒトガミに変な夢を見せられなければ、ここで盛大に驚いてやれたんだろうが……。

 

「まぁいいや。

 そういうわけで礼儀正しくするにこしたことはない。 

 ああ、年頃の近いお嬢様もいるって話だから、うまくすりゃ仲良くなれるかもしれないぞ?」

「そうなのですか。

 では、仲良くなれるよう頑張ります」

 

 未来の夢での俺とエリスの関係は抜きにしても、

 彼女はかわいい親戚の女の子だ。

 険悪な関係にはなりたくはない。

 

「ちょっとパウロ!

 純粋なルディに浮気を勧めないで頂戴」

「おいおい。

 別にルディはロキシーと付き合ってるわけじゃないんだから、まだ浮気とは言えねえだろ」

 

 まだ浮気とは言えない。

 つまり誰かと正式に付き合う前は何をやってもおっけー。

 そんなパウロの考えが透けて見える。

 案の定ゼニスの目が釣り上がる。

 パウロよ、何故そんな迂闊な発言をしてしまうのだ……。

 俺はフォローにまわることにした。

 

「えっと、母さま。

 僕はその子と仲良くなってはいけないのですか?」

「あら、そんなことはないのよルディ。

 でもね、女の子とは節度を保った関係を心がけなきゃだめよ?

 こういう事は父さまの言うことは聞いちゃいけないからね」

 

 異性関係に関しては、ゼニスはパウロの教育に全く信用を置いていないようだった。

 今のゼニスに逆らうのはまずい。

 

「わかりました、母さま」

「おいおい酷いな……」

 

 パウロが顔を引きつらせる。

 

「まぁでもボレアスのお嬢様は相当な乱暴者だって話だからな。

 ルディがその気でも仲良くなるのは難しいかもしれん」

「あらそんなことないわ。

 ルディならきっと仲良くなれるわよ」

「ゼニス……お前はルディとお嬢様に仲良くなって欲しいのか? なって欲しくないのか?」

「貴方の言う様な意味で仲良くじゃなければ、勿論仲良くなって欲しいわよ」

「あのな、俺だって5歳の息子にそんな意味で―――」

「そんな意味で言ってなかったかしら?」

「…………」

 

 おいパウロ。

 そこで言葉に詰まっちゃダメだろう。

 ゼニスの目が冷たい。

 

 しかしゼニスは俺なら彼女と仲良くなれると自信満々だが、それは親の贔屓目ってものだ。

 エリスと言う子は夢で見た限り、最初ジャイアンが可愛くなるレベルの物凄い乱暴者だった。

 暴力ヒロインと言うジャンルはあるが、流石に俺もリアルで相手をする女の子にそういうものは求めていない。

 彼女に根気よく付き合っていた未来の自分は凄いと思う。

 出会ってすぐの誘拐事件のせいで、関係が改善したのも良かったのだろう。

 そういう物が期待できない自分が、同じように彼女と仲良くなれるかは正直自信がない。

 

 だけど彼女は可愛い女の子だ。

 欠点がいっぱいあっても、一途で格好良くて、良い所もいっぱいある。

 未来の俺と同じである必要はない。

 俺は俺で、これから出会う彼女と仲良くなれたら良いな。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 馬屋から馬車を引き取って、街の中心へと向かっていく。

 進んでいくと、一定区間毎に建物の雰囲気が変わっていく。

 奥へ行くほど建物も大きく綺麗になっていく。

 

 俺は荷台の上から変化していく町並みを眺めていた。

 ゼニスが俺の目が向いたものに対してあれこれ解説してくれる。

 実にファンタジックな光景だ。

 特に武器屋、防具屋と言った店や、道を歩く冒険者や街の兵士らしき武器を持った人達がその印象を強くしている。

 ゼニスに連れられて冒険者ギルドに行った時もそうだったが、

 俺はこのロアに来て初めて異世界情緒とでも言うべき感覚を味わっていた。

 

 思えば俺はずっと家からでなかったし、

 窓から見える風景もヨーロッパの田舎の農村とそれほど大差はない。

 転生した後も庭でパウロが剣を振ってたり、それに驚いて転んだ俺にゼニスが治癒魔術を使うまで、単に外国のど田舎に生まれたのかと思っていたぐらいだしな。

 ロキシーに連れられて村の外へ出た時も、特別それっぽい光景には合わなかったし。

 

 しかしこのロアの大通りで見る光景は完全に異世界だ。

 勿論頭ではわかっていた。

 夢で見た知識を加えればパウロやゼニス以上にこの世界のことを知っているとも言える。

 しかし知識はあくまで知識、夢はあくまで夢でしかない。

 俺自身の体験とは違う。

 

 こういう光景を見せられると、流石に年甲斐もなくワクワクしてくるな。

 よーし、オラ冒険者になっぞ! とか言いたくなる。

 危険は嫌だという考えはかわっていないが、確かに浪漫を感じる光景だ。

 

 

 俺が異世界情緒に浸っている間にも、馬車はどんどん進んでいた。

 少しずつ、ボレアスの館を囲む壁の門が近付いてくる。

 

 俺は思わずその向こうの上空を見上げた。

 そこには青空が広がるばかりだった。

 不自然な物は何も見つからない。

 

 ……ここからでは遠すぎるのか。

 それともあの赤い球は、ないのか?

 もしかして、この世界では転移事件は起きないのだろうか。

 そうだとしたらすごく気が楽になるのだが。

 いや、楽観すべきではない。

 少なくともあの塔に登って、近くから見て確かめるまでは安易に考えてはだめだ。

 

 

 俺が表情を固くしていると、ゼニスが声をかけてくれた。

 

「ルディ、緊張しているの?

 安心していいのよ。

 ボレアス様も5歳のあなたにそんなに厳しい礼儀作法を要求したりはしないわ」

「あ、いえ……そういうわけでは……」

「挨拶さえしっかりできればそれで大丈夫。

 それだってとっても簡単だから。

 いい、こうするの」

 

 そう言ってゼニスは右手を胸にあてて、わずかに頭を下げる。

 

「初めまして、ルーデウス・グレイラットです……ってね」

 

 ゼニスが顔を上げてこちらに微笑んだ。

 

「えっと、こうですか?」

 

 俺も見よう見まねで、同じように挨拶をしてみる。

 

「うん、とってもいい挨拶だわ。

 それができれば、あとはいつものルディで平気だからね」

「はい。

 わかりました母さま」

 

 そんな俺達を見て、御者台のパウロが慌ててこちらを振り返る。

 

「お、おぉ。

 うちも一応貴族の端くれだからな。

 貴族同士の挨拶ってのはそうやるんだ。

 覚えておくといいぞ」

「なぁにその反応。

 覚えておくといいぞ、じゃないわよ。

 まさかルディに何も言わずにこのまま館に入るつもりだったの?」

「ま、まさか……そんなわけないだろ?

 挨拶ぐらいちゃんと教えるつもりだったさ……」

 

 

 ……そう言えば、余りに細かいことなんで忘れていたが、

 未来の夢の中の俺はここに来た時挨拶の仕方で怒られていたな。

 

 俺はゼニスと一緒にパウロを白々しい目で見つめる。

 

「さ、さぁもう館に着くぞ。

 先に人を雇って訪問することは伝えて貰ってあるから、門は素通りのはずだ。

 な、段取りがいいだろ?」

 

 ははは、とパウロの乾いた笑いが響く。

 俺は思わずため息をついた。

 まるで城の様な作りのボレアスの館を見上げる。

 

 

 初めての親戚付き合い。

 エリス。

 ロキシー。

 そして赤い珠。

 

 

 ……頑張ろう。

 

 

 

 

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