無職転生- 異世界行ったら神様に会った -   作:月猿

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ボレアス家にて

 館につく。

 執事のような人に応接間のような場所に通されると、二つ並んだソファの片方を示される。

 

「そちらにお座りください」

 

 俺達は三人でそのソファに腰掛ける。

 パウロ、俺、ゼニスと言う並びだ。

 三人並んで座ってもまだ余裕がある、座り心地も良いし、きっとお高いんだろうな。

 

「若旦那様は職務で只今不在であられますので、大旦那様がお出迎えなさるとのことです。

 まもなくおいでになりますので、こちらでお待ち下さい」

 

 執事っぽい人はそう告げた後、高級そうなカップに紅茶っぽいものを注ぎ、入り口脇に控えた。

 湯気を立てるそれを飲む。

 味も紅茶っぽい。

 まぁ俺が飲んでた紅茶なんてほとんどティーバッグとペットボトルだから、微妙な違いなんてわからないし。地球から紅茶好きが来ることがあれば、これは紅茶じゃない! みたいに思うのかもしれないが。

 とりあえずまずくはないし、香りは良い。

 なんとなく飲むと落ち着く気もする。

 

「フィリップは不在か。

 サウロス伯父さんと会うのも久々だ」

「そうね。

 私も結婚の時に少しご挨拶しただけだから、ちょっと緊張しちゃう」

 

 パウロとゼニスがサウロスについて話をはじめたので、俺もちょっと聞いてみる事にした。

 

「その方はどんなお人なのですか?」

「ん? サウロス伯父さんは、そうだな。

 俺の伯父……母様の兄に当たる人だ。

 お前から見ると、大伯父ってことになるな」

「大伯父様ですか」

「俺も小さいころから何かと世話になったな。

 ま、お前からしたら爺ちゃんみたいなものさ、気楽にしていいだろ」

「初対面なのにいきなり気楽にはなれませんよ」

「そうか?

 後はそうだな、ロアや俺達の住んでるブエナ村も含めたフィットア領の領主で、ボレアス・グレイラット家の当主でもある」

「偉い方じゃないですか」

「ま、そうだな。

 でも堅苦しい人じゃないから、あんま気にするな」

「えぇ……?」

 

 無茶を言う。

 親戚と言ったって偉い人相手だ、緊張はする。

 まぁパウロからしたら子供の頃から知っている自分の伯父さんだものな。

 気楽なのも当然か。

 俺からすると大伯父か。

 未来の俺は仕事で来たこともあって、雇い主相手と言う態度を余り崩さなかったようだが、

 俺はパウロが言う通り、自分のお爺さんのような気持ちで接してみても良いのかもしれない。

 

 そんな事を考えていると、部屋の外から大きな足音が聞こえてきた。

 

「ここか!」

 

 乱暴に扉が開かれて、筋骨隆々とした大柄な男性が部屋に入ってくる。

 夢で見たのとほぼかわらない印象。

 サウロスだ。

 

 しかもそれだけではなかった。

 傷だらけの筋肉質で濃い褐色の肌に、露出度の高いレザーの服。

 獣っぽい耳と尻尾、眼帯をつけたいかにも姉御っていう雰囲気の女戦士。

 ギレーヌだ。

 彼女ももうボレアス家に滞在していたのか。

 

「お久しぶりです、伯父さん」

「うむ。

 よく来たなパウロ!

 それにゼニスか!」

「ご無沙汰しております」

 

 パウロとゼニスは立ち上がってサウロスに挨拶をしていた。

 俺も慌てて立ち上がる。

 言葉が途切れ、サウロスの視線が自分に向いたのを感じて、胸に手をあてて軽く頭を下げる。

 

「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」

 

 教わったとおりに挨拶をする。

 うん、特にミスはしていないはずだ。

 

「ルーデウスか、儂はサウロスだ!

 儂の事は知っておるか?」

「えっと、父様の母様のお兄様。

 僕にとっては大伯父様にあたる方だと聞いています」

「その通りだ、よろしい!

 楽にするが良い」

 

 よくわからないがよろしいらしい。

 とにかく挨拶はちゃんと出来たようだ。

 俺がほっとしている間に、サウロスは視線をパウロに移していた。

 

「パウロよ、お前の息子は幾つだったか?」

「今年で5歳ですね」

「ほう。

 その若さでなかなかしっかりとした様子。

 お前にしてはきちんと教育をしているようだな」

「自慢の息子ですよ」

 

 目の前でそういうことを言われるとむず痒い。

 しかしパウロの口からそう言う言葉が出ると、思ってたより嬉しく感じるな。

 そうか、自慢の息子か。

 

「受け答えだけじゃなく、

 なんとこの歳にして水聖級魔術師ですからね。

 ちょっとした物でしょう?」

「なに?

 それは本当か、パウロ」

「ええ」

「ほう……」

 

 サウロスが感心した様子で顎髭をなでながらこちらを見る。

 魔術に関しては余り苦労して身につけた感じではないので、そこまで誇らしいと言う気分にはなれないのだが。

 

「おじいさま、水聖級魔術師って?」

 

 ん?

 

「おお、エリスよ。

 水聖級魔術師とはな、水魔術が聖級まで扱える魔術師と言うことだ」

「ふぅん……それってどれぐらい凄いのですか?」

「そうだな。

 剣の腕にするとギレーヌより一つ下と言うところだ」

「えっ!? 本当にそんなに凄いの!?

 ちょっとあんた! ほんとにその水聖級魔術師ってやつなの?」

 

 突然こちらに声をかけられる。

 

「え、えぇ……本当ですけど」

 

 いかん、思考がフリーズしていた。

 改めて見ると、サウロスの足元に鮮やかな赤毛の少女がいてこちらを見ている。

 ペロっ……これは、エリス!

 残念ながら実際に舐めて確かめた訳ではないが、間違いないだろう。

 小さい。

 と言うかサウロスとギレーヌがでかいのか。

 その上二人はオーラというかプレッシャーと言うか、存在感も凄い。

 そのせいですぐに目が向かなかった。

 

「伯父さん……その娘は?」

 

 パウロが俺たちを代表して問いかける。

 

「よし、エリス。

 挨拶をしなさい!」

 

 サウロスに促されてエリスが一歩前に進み出る。

 そして腕組みをして俺達の前で小さな胸をはり、宣言した。

 

「エリス・ボレアス・グレイラットよ!」

 

 ばばーんと効果音がつきそうな名乗りだ。

 パウロもゼニスも苦笑している。

 

「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」

 

 俺は折角なので改めて彼女に名乗り返した。

 

「うむ。

 エリスよ、ルーデウスはお前の弟のようなものだ。

 仲良くしてやりなさい!」

「わかったわ、おじいさま!」

 

 どうやら仲良くして貰えるらしい。

 折角なので、その流れに乗ってみよう。

 

「それじゃあ僕の姉様ですね。

 エリス姉様、よろしくおねがいします」

 

 そう言って笑いかけてみと、

 エリスは頬を紅くして、小鼻を膨らませた。

 どうやら満更ではないようだ。

 

「ふん!

 良いわ、私がめんどうをみてあげる!

 こっちに来なさい!」

 

 俺はエリスに腕を引かれてソファからはなされる。

 

「ギレーヌも久々だな!」

「本当よ、元気にしてた?

 パーティが解散した後、貴方はどうなるか心配してたんだから」

「ああ。

 パウロもゼニスも、久々だな。

 あの後は……大変だった。

 が、今はサウロス様に厄介になり、なんとかやっている」

 

 後ろからはそんな会話が聞こえてくる。

 挨拶も終わって歓談タイムに移った感じだ。

 それで子供は子供同士、仲良くさせておこうってとこか。

 

「ルーデウス!

 あんたは魔術師って言うけど、どんなことが出来るの?」

「そうですね……水や火を出したり、風を起こしたり怪我を直したりとかでしょうか」

「へ、へぇ……ちょっとやってみなさいよ」

 

 そう言われたので、ご要望にお応えする事にした。

 右手を持ち上げて魔力を操作し、手のひらの上に小さな水球を生み出した。

 そのまま水流を操作して、ゆったりと水球をうねらせる。

 

「へぇ~~」

 

 エリスは目をキラキラさせて俺が出した水球を見つめている。

 かわいいな。

 思っていたのと違う。

 7歳だとまだそこまで乱暴ではなかったのか、それとも出会ったシチュエーションの差なのか。

 

 そんな彼女を微笑ましい目で見つめていると、

 俺の視線に気付いたエリスは魔術に夢中になっていたのをごまかすようにごほんと咳払いをする。

 

「こ、これだけかしら?」

「いえ、その気になれば何十倍も大きいのを出して打ち出すことも出来ますよ」

「そ、そう……中々凄いじゃない。

 でも、私だってギレーヌに剣術を習ってるんだからね!

 前に行った学校でだって、私が一番強かったわ!」

「そうなのですか……。

 エリス姉様は強いのですね。

 僕も父様に剣術を教わっているんですけど、まだまだなんです。

 良かったらエリス姉様の剣術を見せてください」

「し、仕方ないわね!

 ギレーヌが良いって言ったら、見せてあげるわ!」

 

 エリスは得意げな様子でそう言う。

 なんだろう。

 家庭教師じゃなく、弟分と言う立場で接したのが良かったのか。

 上には反抗するけど下には面倒見の良い不良みたいな。

 それに、今回俺はエリスの嫌いな勉強をさせにきた人間でもないしな。

 なんにせよ、友好的にファーストコンタクトが出来てほっとした。

 彼女との接触はかなり不安の種だったからな。

 このまま仲良くなれるように頑張ろう。

 

 そう考えていると、パウロに呼ばれる。

 

「なんですか? 父様」

「おお、ルディ。

 エリスちゃんとは仲良くできそうか?」

「はい。

 そうして貰えたら嬉しいと思います」

 

 俺がパウロにそう答えるのを聞いて、エリスは腕組みしながら満足げにしている。

 

「そうか、良かったな。

 それじゃあ父さん達はまだ話をしてるから、エリスちゃんに館を案内して貰ったらどうだ?

 夕食までは自由にしていていいそうだ。

 その時にはフィリップも帰ってくるそうだしな」

「わかりました、父様」

 

 そう答えた所で、エリスが早速俺の腕をつかんだ。

 

「決まりね!

 行くわよルーデウス!」

「わかりましたから、引っ張らないでくださいエリス姉様」

 

 その後、俺は夕方まで時間いっぱい館の中を連れ回された。

 しかし広い。

 本館だけなら大きな館で済むかもしれないが、庭を含めると本当に広い。

 離れがいくつも有り、高い壁に囲まれている。

 その壁も単なる壁ではなく内側にある階段から上に登れるようになっていて、上部は通路上になっている。

 ジグザグの胸壁もついていて、壁というより城壁だ。

 全体でみるとまさにヨーロッパの小城と言う感じで、子供の探検にはもってこいだろう。

 

 本館にある尖塔にも登りたかったが、エリスはあそこには余り近寄らないように言われているからダメだと断られた。

 彼女を口先でそそのかして連れて行ってもらうことも考えたが、やめておいた。

 交渉でも詐術でも、そういう事をするならサウロスやフィリップを相手にするべきだ。

 まだ子供の彼女をそんな風に利用したくはない。

 

 俺を連れ回すエリスは、終始楽しげだった。

 これで良いのだ。

 

 

---

 

 

 夕食の席。

 改めて、エリスの両親であるフィリップやヒルダに挨拶をした。

 

 ヒルダはこちらを見て複雑そうな表情をしていた。

 今回は客人という立場で来ているので、余り邪険にも出来ず心中複雑そうだ。

 事情は知っているけど、どうすることも出来ないからな……あまり刺激しないようにしよう。

 

 フィリップとも少しだけ話をした。

 

「ふむ。

 パウロの言う通り、良い子だね。

 エリスとどうか仲良くしてやってくれ」

「はい。

 こちらこそ、エリス姉様に仲良くして貰えたら嬉しいです」

 

 夢で見た通り腹の底の読めない曲者と言う感じを受ける。

 とりあえず悪く思われてはいないと思いたい。

 

 ギレーヌとも話をした。

 パウロ、ゼニス、エリスも交えて冒険者時代の思い出話なんかを聞かせて貰った。

 その時ギレーヌの冒険者時代の仲間と知ったからか、パウロとゼニスに対してもエリスは一定の敬意を持った様子だった。

 

「冒険者として稼ぐんなら、北方か南方だな。

 魔物や盗賊が多くて討伐や護衛の依頼が多い」

「東部も仕事は多いけど、あそこは紛争地帯で内容も冒険者と言うよりは傭兵の仕事ばっかりね」

「ああ、んで西部。

 俺たちのいるこのアスラ王国だが……ここはダメだ。

 国がしっかり治安を守ってるせいで、逆に冒険者の仕事は碌なもんがない」

「そうだな……アタシはパーティーが解散したあと、中央大陸を転々として最後にアスラにきたが、そのせいで行き倒れる羽目になった」

「行き倒れって……いくらなんでもそこまで酷くはならないはずだぞ、何をやったんだ」

「王都で仕事を探したが、討伐依頼がまったくなかった。

 アタシは戦う事しかできないから、他の細々した依頼はできないしな。

 そのくせ物価が高かったせいで、蓄えはすぐに尽きた」

「よりにもよって王都に行ったの……まだこっちみたいな辺境領ならそれなりに討伐依頼もあったのに……」

「あの時アタシはそこまで頭が回らなかった。

 失敗だったな」

 

 Sランク冒険者で、剣王でも行き倒れか……世知辛い。

 しかしなるほどな。

 国がしっかりしてるほど、冒険者の仕事はへるのか。

 まぁそりゃそうか。

 しかしそうなると冒険者としてやっていくには必然的に治安の悪い国をメインに活動しなきゃならないのか。

 それは嫌だな。

 そう俺が溢すと、パウロが他の選択肢をあげてくれる。

 

「ギルドで依頼を受けるだけじゃなく、迷宮の探索をメインにするって手もある。

 俺らもパーティーを組んでた時はこっちがメインだったしな」

「そうだな。

 アタシも最初一人で迷宮探索を続けようと思っていたが、食料やアイテムの管理がどうしても出来なくて諦めた」

「ギレーヌ、貴方そんな危ないことをしようとしてたの?

 いくら貴方が強くても、一人で迷宮探索なんて無謀よ。

 罠の対処に、マッピング、怪我や毒の治療なんかはどうするつもりだったの」

「やってみれば、なんとかなるだろうと思っていた……」

「はぁ……断念してくれてよかったわ。

 そうじゃなきゃ再会できなかったかも知れないもの」

「そうだな」

 

 ゼニスがギレーヌを窘めている。

 ギレーヌも静かにそれを受け入れていた。

 

「まぁ、ゼニスが言うように迷宮探索は色々とやらなきゃならんことが多い。

 だから滅多にソロでやるやつはいない」

「もしやるなら、前衛が出来る戦士や剣士、魔術師と治療術師、これは兼任でも良いけど。

 あとは罠の発見や解除なんかが出来る人が必要よ」

「それって、シーフとかですか?」

「そうだが、専業のシーフって呼ばれるようなのを加えるのはあまり勧められねえな」

「何故です?

 そういう人がいたほうが便利そうに思いますが」

「そうだが、結局は腕っ節稼業だからな。

 なるべく戦える奴をいれたほうがいい」

「なるほど……」

「北神流の剣士なんかは、罠や探索に強いやつもいるからな。

 仲間にするならそういうのがおすすめだ」

「そうは言っても結局は相性よ。

 腕だけあっても寄せ集めじゃ碌なことにならないわ。

 ルディも冒険者をするなら、気の合う仲間と一緒にやりなさいね」

「そうですね。

 冒険者をする時は、そう言う仲間を探します」

 

 俺がそう言うと、エリスが腕組みをして胸をそらした。

 

「私が剣士で、ルーデウスが魔術師だから丁度いいわね!」

 

 冒険譚に聞き入って、エリスはすっかりその気になっているようだ。

 

「そうですね。

 将来冒険者になった時は、よろしくお願いします」

「ふふん。

 仕方ないわね、その時はパーティーに入れてあげる!

 私はそれまでに強くなるから、ルーデウスもしっかり魔術を勉強しておくのよ!」

「ええ、任せてください」

 

 そんな俺達のやりとりを聞いて、大人組は笑みを零した。

 

「あら、良いわね。

 ルディは治癒魔術も使えるし魔力量も大きいから、そうなったら二人でもパーティーが成り立つぐらいになるかもだわ」

「エリスお嬢様には天稟がある。

 もしそれを望んで厳しい鍛錬をしたなら、アタシ以上の使い手になるかもしれない」

「なに、そりゃまじか。

 ギレーヌ以上って相当なもんだぞ……。

 おいルディ、魔術もいいけど剣術も負けないように鍛えろよ?」

「ん……ルーデウスは剣術もやっているのか?」

「はい。

 まだほとんど基礎だけですけど、父様に見て貰っています」

「その歳で既に水聖級魔術師だと言うのに、剣術にも力を入れていくつもりなのか?」

「はい。

 どれだけ身につけられるかはわかりませんが、

 もし魔術師として身を立てることになっても剣の修業は無駄にはならないと思っています。

 父様にもその時は剣神流の斬撃をしのげるような魔術師になれ、と言われました」

「なるほどな……確かに間合いを詰められても魔術師がある程度自分の身を守れるなら、前衛にとってもありがたい。

 そういう事なら、ここにいる間は私がルーデウスの剣を見てやろう」

「……父様?」

「おぉ、見てもらえ見てもらえ。

 剣王に指導して貰えるなんてなかなか無い機会だ。

 俺も、剣神流はギレーヌに折を見て教わりながら冒険者をやっていたしな」

「そうなのですか……それではギレーヌさん、よろしくお願いします」

 

 俺は彼女に頭を下げた。

 

「ギレーヌで良い。

 では明朝、庭でお嬢様と鍛錬をするからそこに混じると良い」

「……ねぇギレーヌ、ルーデウスも貴方の弟子になるの?」

「まぁ、一時的にな。

 エリスお嬢様にとっては弟弟子と言うことになるか」

「へぇ、弟弟子!

 剣術でもルーデウスは私の弟なのね。

 いいわ、私も面倒を見てあげる!」

「ありがとうございます」

 

 エリスのテンションは更にあがったようだ。

 その後も、夜が更けるまでエリスと一緒に三人の冒険者時代の話を聞いてその日はすごした。

 彼女は目を輝かせ、興味深そうにギレーヌ達の話を聞いていた。

 

 

 

 その後は、滞在中に宿泊する客室に案内されて就寝する。

 そのベッドもフカフカで寝心地がよく、高そうだ。

 俺はすぐに寝ることにする。

 

 そして次の日の朝。

 まだ皆が寝静まっている早朝を狙って俺はベッドから起き出した。

 まだ寝ている両親に、トイレに行くと告げて部屋を抜け出す。

 もちろんトイレと言うのはカモフラージュで、真の目的はあの塔に登って赤い珠の有無を確認することだ。

 

 外はまだ薄暗らかったが、使用人は既に仕事を始めているものが居るらしく、時折メイドさんとすれ違ったり物音が聞こえてきたりする。

 朝から大変なことだ。

 貴族の使用人も楽じゃないな……頭が下がる。

 

 大まかな場所はわかっているので、俺はどんどんと例の塔がある方向へと歩いていく。

 特に警戒はしていない。

 別に扉の閉まっている誰かの私室や執務室などに忍び込むわけではないし、あの塔はサウロスがヤリ部屋にしているからあまり近寄らないようにと言われているだけで、立入禁止と言うわけではない。

 エリスに館を案内してもらった時にダメだと言われたので、気になったから探検していた。

 もし誰かに見咎められたら、そう言い訳すれば大丈夫だろう。

 

 

 実際、特に誰かに注意されることもなく塔の根本部分までたどり着いた。

 扉もないので、そのまま中に入り階段を上がっていく。

 何事もなく最上階にたどり着いた。

 誰もいない。

 

 俺は一度深呼吸をした。

 そして最上階の小さな小部屋にある出窓から、外を見る。

 

「…………あった」

 

 俺は目をつむり、息を吐いた。

 目を開けてもう一度窓の外を見る。

 ある。

 見間違いではない。

 そこには確かに、小さな赤い珠が空中に浮いているのが見えた。

 

 

 転移事件は起こる。

 残念なことに、それは間違いないようだった。

 

 

 

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